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Interview

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高齢化、過疎化に対応する先駆的ビジネスモデルを
つくれ
掲載号:2013年5月

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曽我野秀彦 日本銀行札幌支店長

 昨年12月、日本銀行本店金融市場局審議役兼国際局審議役から札幌支店長となった曽我野秀彦氏。着任から4カ月。精力的に道内各地を回り、地方の現状を自らの目で確かめている。アベノミクス、TPP、エネルギー問題等々、道内経済に与える影響、課題を大いに語った。

自分の手でどう使いこなしていくか

――着任から4カ月ですが、結構、道内を回られているようですね。
曽我野 冬でしたから、そう遠くには行けていません。ニセコ、余市、小樽、苫小牧、室蘭、千歳、旭川、岩見沢、留萌といったところでしょうか。
――支店長の目に地方の現状はどう映りましたか。
曽我野 たとえば小樽。札幌の隣まちで観光地としても有名ですが、シャッターの降りた商店街の風景などを見ると、どうしたらいいのか正直、考えあぐねます。ただ、そうした状況は東京だって例外ではありません。もちろん東京のど真ん中にいれば別ですが、ちょっと郊外に出たら商店街がさびれているのは似たり寄ったりです。人口構造が変わり高齢化、過疎化が進む。ちょっと交通が不便なところは、全国同じような現象がみられます。そういう意味で、北海道だけが特別悪いということではありません。
i2――北海道全体の印象は。
曽我野 よく北海道を語るとき「潜在性はあるが、それを使い切れていないのではないか」という指摘があります。これだけ広大な土地があり、自然は豊かで、食べ物はおいしく、人もいて、水資源もある。ポテンシャリティという意味からすれば、これだけのものがそろっている地域は全国を見回してもそうそうありません。可能性はいくらでもある。問題は自分の手でそれをどうやって使いこなしていくか。まさに〝自分の手で〟というところが重要で、国が何かをしてくれるというのを待っているのではなく、民間なら民間、行政なら行政自らが考えて、何か新しいことに取り組んでいくということがあっていい。
――みなさん、だいたいそう指摘されます。
曽我野 これも北海道だけということではありません。7年ほど前に那覇支店長を務めていましたが、沖縄でも同じことを感じました。南北で非常に類似するところがある。製造業比率が低い分を何で補うかという点です。沖縄は「基地」「観光」「公共工事」で「3K」という言い方をされています。北海道も公共工事の依存度は高い。観光はあるけれど、必ずしも産業の柱にはなりきれていない。沖縄は負担しているものが大きい分、その見返りとして多額の補助金がある。一方、北海道は、開発やインフラ整備がまだ遅れているから、補助金がほしいという主張が目立つのは気になります。
i3――北海道のそうしたメンタリティーこそ何とかしなければならないのですが、なかなか意識改革には至っていません。
曽我野 私もよく講演などで話すのですが、北海道は、さまざまな経済指数が全国最悪だとか、景気の落ち込みは真っ先にくるのに回復は一番最後だとか、どうも〝悪い〟というイメージに凝り固まり、北海道はかわいそうなんだという意識を持ちすぎなのではないでしょうか。景気の波に連動している部分も大きく、北海道だけが特殊だと思う必要はないのです。
――いわゆる「アベノミクス」は北海道にどんな影響を与えると見ていますか。
曽我野 私がこちらに来た昨年12月くらいから、やはりムード的に明るいものが出てきたという感覚はありました。建設業にも期待感はあるでしょう。しかし、昔のような財政支出依存型の構造に戻って公共工事の恩恵に浴するというような甘えた考えを持つ人はいません。とくにこの3年間、非常につらい思いをしてきて、ようやく少し光が差してきたかなというくらいの期待です。でも期待というのは大きな要素であって、物事を前向きに考えられるかどうかというのは景気にとって大事なことです。その意味においては、いい方向に歯車が回りつつあるのかなという感じはあります。

TPP交渉で北海道は何をとるか

――金融緩和で景気は回復すると思いますか。
曽我野 巷間言われているアベノミクスというのは、金融政策だけではなく、財政政策、成長戦略の3つがワンセットになったものです。これまで日銀だけが頑張ればいいというような風潮がありましたが、これはおかしい。日銀としてやらなければならないことは、これまでも一生懸命やってきました。世界の中央銀行と比較しても、日銀くらい新しいことを次々と考え、実行してきたところはありません。まさに金融政策の新しいテキストブックを書き続けてきたのです。
しかし、それだけですべてが解決するわけではないことは、過去15年で証明しています。加えて日本の場合、国民全体に東日本大震災からの復興が1つの重しとなり、さらに原発事故で経済成長というものに対する一種の忌避感、とくに若い世代は安全のほうが大事で、成長しなくてもいいという風潮が一時期、非常に大きくなりました。日本の経済にとっては、ただでさえ人口は減少する、設備も過剰、人も過剰、お金も余っているという中で、生産性を上げる意識が弱くなっていた状態なのに、成長の意欲までなくなるというのは、ものすごいマイナス要素。そこにようやく「成長戦略」という言葉が出てきて、その言葉を前に出してきても拒否反応がなくなってきた。やはり成長しないとまずいんだと、国民全体が再認識しつつあるという意味においては、やっと少し前向きに戻ってきたのではないでしょうか。
――TPPはどうでしょう。北海道に甚大な影響が出るといわれています。
曽我野 現段階ではあまりにも不確定要素がありすぎて、どれくらいの影響が出るのかまったくわからないというのが正直なところです。反対の人々は、いま出ている試算を論拠の1つにしていますが、その数字はあまりに極端な前提条件に基づいたものです。もう少しバランスをとってみないといけないのではないかと思います。
――同じことは賛成論者にも言えるのではありませんか。あまりにも楽観的すぎるでしょう。
曽我野 おそらく賛成、反対の両方が、極端に両サイドに振れているから、まったくかみ合わない議論になっているのだと思います。

北海道の電力供給体制は危機的状況

――誰も交渉の経過を知らないわけですからね。
曽我野 私は過去十数年、国際金融の場で他国といろいろな交渉をやってきました。その経験からいっても、最後はどこで折り合いをつけるかを見据えながら、ここは譲るけれども、ここは取るとか。それを詰めていくのが交渉です。どちらかが一方的に勝って、どちらかが一方的に負けるなどということはあり得ません。したがって北海道は交渉上「何を勝ちとるか」を明確にしておく必要があると思います。
――エネルギー問題にも言及していただきたい。
曽我野 私はいろんな場で、非常に大きな声で、何度も何度も「危機的状況だ」と申し上げています。いまの電力の問題というのは、もちろん安心・安全なエネルギーがないといけないというのが大前提ですが、そのために中期的にはどうするかという議論はあってしかるべきです。現状、本当に安心・安全な状態にあるのでしょうか。決してそうとは言えません。
なぜかといえば、主たるエネルギー供給源の北海道電力ですが、いまや経営体として見れば健全とは言い難い状態にあります。全国どこでも原子力発電の依存度を高める一方、不測の事態に陥ったときのことを考慮すれば、何らかの手を打つことなしに電力供給が立ちいかなくなるのがわかっていたにもかかわらず、ずっと放っておいてきた。
現状どうかというと、本来24時間稼働できないような火力発電の施設を一生懸命メンテナンスして、何とか壊れることのないように回している。かなりの無理をして電力を供給しています。この冬、たまたま大きな事故がなかったからよかったものの、安心・安全という定義からは、かけ離れた状態だと思っています。
冒頭、北海道の潜在性に言及しましたが、外から見るともう1つ大きな魅力があって、それは安価でかつ供給に問題のない電力です。しかし、この部分がいまや完全に剥落している。現状では大きなマイナス点になっていると思います。
――泊原子力発電所の再稼働は必要だと。
曽我野 もちろん、さまざまな安全性のチェックをした上でという条件つきではありますが、少なくとも代替エネルギーが安定供給できるエネルギー源になるまでの間は、原発を再稼働させていくしか手はないと思います。
――ただ、原発は全国で止まっているわけで、それをもって北海道の魅力が劣るとは思えませんが。
曽我野 しかし、北海道は約4割もの電力を原子力に依存していました。その依存率の高さに加え、北本連系の融通ルートは60万キロワットしかありません。この細さを考えると、やはり怖いと思います。
――北海道に期待したいことは。
曽我野 他の地域ではできないことをやってほしいと思います。
1つは農業の6次産業化。若い人も農業に興味を持ち、しかも十分生活ができる産業として確立してもらいたい。加工も含め、儲かる産業なんだという認識が広がるようにしなければなりません。十勝でいくつかそうした取り組みも出ているので期待しています。
もう1つは、北海道が全国から見ても明らかに進んでいる高齢化、過疎化の中での新しいビジネスモデル。これもぜひつくってもらいたいですね。先駆的なモデルができると、ほかのエリアにも応用できると思います。そういう意味で、私自身、北海道地場のコンビニエンスストアの取り組みにはとても感心しています。あのビジネスモデルは、日本の高齢化に対応した、小売の新しいあり方なんだろうと思います。

=ききて/鈴木正紀=