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Interview

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釧路市出身2人が異色対談
カルーセル麻紀「第2の原田康子誕生がうれしい」
桜木紫乃「生きていてくれて、ありがとうございます」
掲載号:2015年12月

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カルーセル麻紀タレント
桜木紫乃直木賞作家 

カルーセル麻紀さんと桜木紫乃さんは釧路市の出身。本誌で連載中の麻紀さんは11月に当社から自叙伝を発刊する。桜木さんは、自身の小説が初めて映画化され、11月7日から公開中だ。そんな2人が「故郷」「小説」「女」について語り合った。

釧路湿原はアフリカのサバンナ

麻紀 はじめまして。「ホテルローヤル」(集英社刊)で直木賞を受賞したとき、桜木さんが釧路市の生まれっていうから、すぐに買って読みました。原田康子さん以来、釧路から直木賞作家が誕生してうれしかったわ。
桜木 ありがとうございます。今、お目にかかっていることが信じられなくて。私、釧路出身と言っておきながら、何かモグリみたいな感がありました(笑)。
中学の社会科の先生が、麻紀さんと同じクラスだったことを自慢にしていたのだけは覚えているんです。当時から麻紀さんは釧路のスターでした。
麻紀 昔なんて、釧路の〝恥〟だと言われてましたけど。
10代の頃、オカマという言葉やホモ、ゲイということもわからなくて。なぜか三島由紀夫さんの「禁色」を読んでしまったの。こういう世界があるんだと知りました。そして美輪明宏さんを見て、「進むのはこの道しかない」と決意したんです。今は、誰でも彼でもすぐオネエになっちゃうからね。
桜木 お目にかかる機会があれば、ぜひお伝えしたいことがありました。1992年に太地喜和子さんが亡くなられた直後、麻紀さんの鬼気迫る舞台の映像がワイドショーで流れて、それが忘れられないんです。
麻紀 そう、喜和子が亡くなった直後、私は舞台に立っていました。普通だったら仕掛けの帯がスッと解けるんだけど、このときはギュ~っと締まって着物が脱げなかったの。私はそれで「喜和子ぉ~」と絶叫しながら号泣してしまったんです。
楽屋での喜和子は、いつも裸であぐらをかいてショートホープを吸っていた。舞台ではあんなに色っぽいのにね。
桜木 麻紀さんが釧路にいらした頃、まちの様子はどうでしたか。
麻紀 繁華街の栄町をウロウロしていると、紙くずがいっぱい落ちていたの。それは全部おカネなんです。酔っぱらった漁師の腹巻きからこぼれてしまうんです。だから栄町公園に行ったら上を見ないで、下を見ながら歩く。たまに、なぜかイヤリングなどの宝石類まで落ちていたこともありました。漁師たちは、長靴を履いて、鱗がついたまま繁華街に繰り出し、すごく華やかな雰囲気でした。
桜木 なんか、ワクワクしてきますよね。私はその時代を知らないのですが、どれほどにぎやかだったことかと。
麻紀 桜木さんが釧路で好きな場所、風景はありますか?
桜木 私は釧路市立図書館や幤舞橋から見る夏の夕日が好きです。日中、ずっと曇っているのに日が沈む直前、雲と海の境目に、あかね色の帯が映えるのです。あんな景色は釧路にしかないと思いますね。
麻紀 日本の美しい夕日で何番目かに入っているんでしょう。
桜木 世界三大夕日の1つに数えられているようです。昔から釧路湿原もどこかの景色に似ていると思っていました。もしかしてアフリカのサバンナって、こんな感じじゃないかって。行ったことはありませんが……。
麻紀 私もそう思っていたの。昔、11PM(イレブンピーエム)で世界各国をめぐるリポーターをやっていたことがあって。アフリカに行ったとき釧路湿原のような気がしたんです。お互い、感性が合いますね。

「霧」は根室舞台の宋家の三姉妹

麻紀 桜木さんの小説を読んでいると、釧路のさまざまな場所が登場してきて楽しいんです。時々、北海道弁も出てきますよね。
桜木 私は36歳まで釧路にいましたが、浜弁がひどいと思います(笑)。まったく抜けなくて……。
麻紀 私はサラリーマンの家庭だったので、漁師言葉は話さなかったの。だから銭湯に行ったりすると、近所の漁師の人たちが「坊やは内地から来たのかい?」とよく聞かれたわ。
桜木 勤め人の子どもたちは、言葉がきれいなんですよね。
麻紀 そう、浜弁とまるっきり違うの。釧路と函館を比べても、函館は津軽弁が入りますから。
桜木 何なんでしょう、大雪山、日高山脈を挟むと何となく人柄も異なるようですし、内陸と海岸沿いでも違うと思います。季節感ですかね。来年も土から何か採らなきゃならない人たちと、食い物なくなったら海さ獲りに行く人の。釧路も私の周りは「海さえ行けば何か獲れるべや」という感じでした。本当に面白いです。
麻紀 桜木さんの最新刊「霧(ウラル)」(小学館刊)を拝読しました。ところで、「ウラル」ってロシア語なんですか?
桜木 アイヌ語です。
麻紀 ウラルは長編だから大変だったでしょう。短編ははっきり言って苦手なの。「上・中・下」巻を一気に買ってくるくらい、長編作品が好きなんです。
桜木 いま、ドキドキしています。本を好きな方に読んでいただける、読むことに耐えられるような小説を出せているかどうか……。
麻紀 ウラルはとてもおもしろかったし、アッという間に読み切りました。私は中国の「宋家の三姉妹」が好きで、映画を何度も見ました。ウラルは根室を舞台にした宋家のようなストーリーですよね。小説のように根室に花街があったんですか?
桜木 あったらしいんです……。花街というか、もうだいぶん寂れている1960年くらいのイメージで書いています。実際に見たことはないですが。
麻紀 私、実は根室にもいたことがあったの。雇われママとして、お店を任されていたこともあったんですよ。
だけど、オーナーと大喧嘩して、店をやめちゃいました。確かそこのオーナーは、根室で映画館をたくさん経営していたと思います。その当時、根室にオカマが来たって大騒ぎになってたわ。
桜木 何年ぐらい根室にいらしたのですか?
麻紀 ほんのちょっとです。2カ月とか3カ月くらいでしょうか。

全編釧路周辺ロケの「ターミナル」

麻紀 私は本がないとダメな人間です。いま、本を読まない人が増えているから、もう信じられなくて。
桜木 われわれも商売上がったりです(笑)。
麻紀 でも、今年芥川賞をとった又吉直樹さんの「火花」(文藝春秋刊)は、悪いけどまったくおもしろくなかった。
桜木 本屋さんに行ってもらうきっかけとして、話題になってくれるとありがたい。火花を読んだ次の世代が、何を書いてくるかが楽しみです。
麻紀 桜木さんの短篇集「起終点駅 ターミナル」(小学館刊)内の同名の表題作が映画化され、11月7日から公開されますね。ぜひ、映画館に見に行きたいと思います。
桜木 ありがとうございます。ロケは作品の舞台である釧路周辺でおこなわれました。
麻紀 ターミナル内の短編「海鳥の行方」の中で、主人公が堤防で魚を釣る場面がありますよね。私は自分の弟に見えて仕方がないのよ。弟はいま、釣った魚を東京の自宅に送ってくれるんです。
私が子どもの頃は、夜にみんなでバケツ持って、幤舞橋にコマイ釣りに行きました。もう、入れ食い状態ですよ。
桜木 そうそう。コマイは釣ってきて食べる魚なんです。生でスーパーに売ってるなんてビックリです。
麻紀 東京でも北海道フェアなどで売っているんですが、なぜあんなに高くなってしまったの。このあいだ無性に食べたくなって、冷凍していたコマイを解凍したんです。皮を炙って、マヨネーズと唐辛子をつけて、ガリガリかじりながら酒を飲みました。いやぁ、おいしかった。
桜木 いいですね。やっぱり、コマイで一杯ひっかけるのは、釧路の定番ですよね。

憧れる強い女性を小説で書きたい

麻紀 ウラルでもそうですが、桜木さんの作品で描かれる女性は強い人が多いですよね。自分自身と重ね合わせている部分もあるのですか。
桜木 私は弱い、ヘタレ人間ですから(笑)。なんだろう、強い、一人で生きている女性を書く作家は、けっこうヘタレだと思います。どこか憧れているんです。
10代前半のときに見た映画「サンダカン八番娼館望郷」は、思春期の私に大きな影響を与えたと思います。九州からボルネオに渡り、現地の娼館で働いていた女性を描いた作品なのですが、子どもながら「女ってなんなんだろう」と思いました。
麻紀 私もサンダカン八番娼館なら、映画館で人目もはばからず泣きながら見ました。素晴らしい映画ですよね。
桜木 私は、女性が生きるために体を売るということが許されない時代に育ちました。それなのに、どうしてそういう女の人たちの話を書いているのか、どうしてそこに興味があるのか、自分自身もわからなかったんです。
私が幼少期の頃、釧路に「バビアナ」という店がありました。バビアナのママは、生まれて初めて優しくしてくれた大人だったんです。すごくキレイで、色白で、背が高くて。そこはスナック兼連れ込み宿だったようです。
つい最近、たまたま実家に帰ったとき、母にその話をしました。そうしたら「あの女性は売春婦よ」と。その時、何かすべてがつながったような気がしました。
麻紀 私も小学校の時、大晦日の除夜の鐘が鳴ると、家族全員で錦町から米町の厳島神社へ行くの。そうすると、ずっと赤いちょうちんがゆらめく遊郭があって、顔を白く塗った女性が窓から覗いている。すごく覚えてるんですよ。
大人になったらこういう格好したいわと。だって、芸者になりたかったんだから。これは芸者より女郎のほうが良いわと思うくらいに鮮明に覚えています。
桜木 やっぱり、綺麗だったんですよね。
麻紀 そう、格子があって、長襦袢姿で客待ちしてる。だから芸能界に入ってから、映画でそういう役がくると、地でいけるので楽でした。
桜木 私がたまらなく好きな女性は、常に自分の足で立っている人。体を売ろうが何だろうが、自分で稼いでいるから他人に文句は言わせないという人。そういう女性を書きたくなります。
麻紀さんは家出した15歳の時から1人で立って歩いて、自らの手で道を切り開いていらっしゃいました。今日、初めてお目にかかりましたが、こんなに風圧があって、感激するんだなと(涙)。フィクションが及ばない、波瀾万丈なお話をうかがうことができました。苦境の数々、いまは「生きていてくれて、ありがとうございます」という心境です。

◇◇◇◇◇◇

本対談の模様は、当社刊行のカルーセル麻紀さん自叙伝「酔いどれ女の流れ旅」(税抜1500円)にも収録されています。

=ききて/前田=