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Interview

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野村克也が「弱者の戦法人心掌握術を伝授」
日ハムの強みは自己犠牲だ!
掲載号:2010年4月号

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野村克也 東北楽天イーグルス名誉監督

野村克也東北楽天ゴールデンイーグルス名誉監督は、弱者のヒーローだ。野村監督が率いた弱小球団は常勝チームへと生まれ変わり、地獄を見た選手は“再生工場”で輝きを取り戻す。名指揮官“ぼやき”のノムさんが明かす「小が大に勝つ」戦法、リーダー・管理職の心構えとは――

“気づかせ屋”になることが大切

――野村さんは人生を振り返ったとき、「すべての出発点は常に弱者」と話していますね。
野村 私は1935年(昭和10年)の生まれだからね。41年(昭和16年)に大東亜戦争が始まり、その前が日中戦争。おやじは38年(昭和13年)に戦死した。3歳のときなのでオヤジをまったく知りません。私はそんな激動の時代に生まれ育った。
母子家庭だったので、母親の苦労している姿しか見たことがなかった。子供時代に貧しい、苦しい環境に置かれたら、将来は「金持ちになりたい」「成功した い」と誰だって強く思いますよ。プロ野球の世界は実力勝負の競争社会です。少年時代に野球界を生き抜くハングリーさが身についたと思います。
――ヤクルト、楽天などの弱いチームの監督を引き受け、見事に常勝チームに育てあげました。
i2 野村 人生の基礎づくりは生まれてから成人式までだと思っている。私には「弱者の星の下に生まれた」と いう基礎があるから、弱いチームの監督をやっても耐えることができた。苦しい現状から抜けだすためにはどうしたらいいのかを考えることができる。そういう 面で弱いチームの監督に向いていたのかな。
――野村さんは「監督の最初の仕事は人づくり」とおっしゃっていますね。
野村 人さえつくれば、チームづくり、試合づくりとつながっていく。強い組織をつくるには、人を「見つ ける、育てる、生かす」ことが大切になる。見つけるとは集める、探してくること。すべてはそこから始まる。そして、連れてきた選手の中からそれぞれの素質 を見抜く。役割が違う9つのポジションに選手を適材適所で、はめていく。人づくりが終われば、半分以上強い組織ができあがったようなものだ。
――ちょっとしたアドバイスをすると、選手は変わりますか。
野村 私は“再生工場”などと言われていた。南海の監督時代、よそのチームで1つも勝てない山内(新一)、福士(明夫)、江本(孟紀)といった投手を獲得した。南海に移籍すると、全員2ケタ勝利をあげたので、再生工場という異名をつけられたんです。
私の人づくりの原点は、「思考と行動は、切っても切り離せない関係にある」ということ。だから監督は、考え方のエキスを選手に注入する。つまり、選手の“気づかせ屋”でなければならない。
例えば、楽天で昨年首位打者をとった鉄平は、中日をクビになった選手だった。バッターが強打者と短打者に分けられるとするならば、鉄平は両方をやりた かった。ホームランも打ちたい、ヒットも打ちたいというようにね。だから「捨てる勇気を持ってみれば」と言いました。鉄平はどう見ても強打者ではない。出 塁率を上げ、センターという大事なポジションを守ることで、1億円を稼げる選手になると思った。意識改革をやれば、選手はずい分と変わります。

山本五十六元帥の名言を実践

――具体的にどのように声をかけるのですか。
野村 私は「こうした方がいい」という言い方はしません。「こういう方法、考え方もあるよ」とささやく。「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」という孫子の兵法がありますが、勝負の世界はこれが基本です。
自分のことを知っているようで意外にわかっていない人が多い。あこがれるのは結構だが、遠くに飛ばす能力、投手で言えば速い球を投げてバタバタ三振をと る能力は天性だよ。努力してできることではなく、親から授かったもの。それを理解せずにみんな間違った方向に進んでいく。そうならないように監督・コーチ が気づかせてあげる。
――一般企業でも、リーダーが部下に助言をする場面があると思います。
野村 いろいろ考え方があるでしょうけど、同じ顔の人間なんていない。そうであるならば同じやり方はない。その人に合ったアドバイスをする必要があります。たとえ最終目的が一緒でも、たどり着くプロセスは十人十色でいい。生きた時代や受けてきた教育もすべて違うのだから。
例えば、部下に向かって、「自分の時代はこうだった。なぜできない」と叱るリーダーや管理職がいる。それを言い出したらリーダー敗北だね。わしらの時代はこうだったという価値観を、部下に押しつけるのはよくない。下がついてきませんよ。
――リーダー、管理職の心構えはありますか。
野村 われわれは人の評価の中で生きているが、誰でも本能的にこのチーム、この組織にオレは絶対に重要 なんだと認めてほしいわけです。そのためリーダーになると、アドバイスをしなくてはいけないという義務感にかられてしまう。だから余計にしゃしゃり出てし まう。部下が正しいことをやっているのに出て行く必要はない。ジッと腰を据えることも大切で、特に中小企業の社長は落ち着きがない。お金が逃げちゃうと か、自分はリーダーだからなにかを指導しなくてはいけないと考える。大きな勘違いですよ。
メジャーリーグには「教えないコーチが名コーチ」という言葉もあります。逆に日本のコーチは教え過ぎだ。よくいえば仕事熱心ということなのかもしれないが、選手は自立しないし、依頼心ばかり育ってしまう。
山本五十六元帥の「やって見せ、言って聞かせて、させてみて、誉めてやらねば、人は動かじ」という名言があります。これが管理職の基本中の基本ですよ。そっくりそのまま実践すれば強い組織に生まれ変わる。
――組織に対して不平不満を持つこともありますよね。
野村 不平不満を持てないようじゃだめ。みんな夢や理想を描くわけで、キャッチャーは特にそうだ。理想 主義者で、常に完全試合でないと満足しない。それが習性です。自分の要求するところに球がこない。「ここじゃないよ、ここだよ」と。それを何十年、何万回 と経験する。それが私の“ボヤキ”の原点になっています。

奇策をかけて優位に持ち込む

――捕手出身の監督は多いですよね。それも名指導者ばかりです。
野村 上田利治(阪急、オリックス、日ハム)と森祇晶(西武、横浜)が自分の世代の代表的な捕手出身監 督で、全員が優勝している。キャッチャーだった選手が監督をやるとみんな優勝していたのに、その確率を下げたのが田淵幸一(阪神)と大矢明彦(横浜)だっ た(笑)。私の持論でキャッチャーは監督の分身といえる。守っている時は監督以上のことをやっています。キャッチャーがサインを出して、投手が指示通り投 げる。野球はそこからスタートするわけだから。
――強いチームには名捕手がいる場合が多い。
野村 昔は「優勝チームに名投手あり」だったけど、いまは間違いなく「名捕手あり」になった。捕手なんて打率ゼロでもオッケーだよ。守りさえよければそれでいい。ましてパ・リーグならばDH制だから、打ったらもうけもんですよ。
――弱者が強者に勝つために大切なことはなんでしょうか。
野村 1つは、組織全体に“強者に対する優位感”を持たせること。優位感を持って戦うための材料探しは、監督を含めたリーダーの大事な仕事になる。意思統一や考え方を教え込むために、ミーティングが非常に大切になってきます。
ヤクルトの時にいい例があって、当時の巨人のオーダーを1番からメンバー表に書いていくでしょう。スコアラーがそれを見て、「すごいメンバーだなぁ」と 感心している。その時点で負けですよ(笑)。ちょっと待て、一人ひとりに寸断して見ろと。全体を見るからすごいなと思う。どんな強打者でも弱点は持ってい る。弱点を徹底してついていくことをすれば、必ず活路は開ける。
弱者は正攻法ではなかなか強者に勝てない。強いチームと対抗していこうと思えば、正攻法に奇策を組み込んで、心理的に追い詰める戦法をとるべきです。強者に何をやってくるか分からないと思わせる。
奇策がうまくいったときのムード、目に見えない勢いはものすごい。選手は、「うちの野球はお前らと違うんだ」という優位感を持ち、「うちの監督はやっぱり違う」と、信頼感もアップする。
リーダーは、「こうなったら勝てる」「こうなったら負ける」という面を明快に伝えると、下の人間はやりやすい。部下は自信を持って、自分の得意な形に持っていきやすくなります。

ダルビッシュと稲葉は選手の鑑

――野村さんは昨年まで楽天を率いて、強者といえる日ハムと戦っていました。梨田昌孝監督の采配や日ハムの強さをどのように分析していましたか。
野村 梨田はあまり奇策を使う監督ではなかったね。セオリーに基づいてという感じだった。毎年優勝争い するチームはそれでいいのかな。ヘッドコーチとはシーズン中、「なんで日ハムは強いんだ」と話していた。大した選手がいるわけではない。「監督の違い か~」とか言っていましたよ(笑)。
日ハムの戦力を冷静に考えると、上・中・下と選手のレベルがあれば、上はダルビッシュ(有)くらい。ただ、中の上の選手がゴロゴロいる。一方で試合で使えないどうしようもない下の下の選手はいないので、バランスがとれている。
ほかにあまり目立たないが、金子(誠)と田中(賢介)、外野の森本(稀哲)、糸井(嘉男)の守りが固い。特に金子と田中は本当にうまい。よくチームづくりはセンターラインからと言うが、二遊間、三遊間がしっかりしているからムダな点をやらないことにつながっている。  おそらく梨田の頭にも「攻めて守る」「守って攻める」という考え方があれば「守って攻める」方だと思う。キャッチャーにはそういう習性があって、基本は“1対0”で勝つチームづくりなんですよ。
――ダルビッシュ投手や稲葉篤紀選手の存在も大きいですね。
野村 ダルビッシュは、苦しいときに登板して連敗を止めるじゃないですか。ダルビッシュが投げれば、監督・コーチ、ファンは「今日はウチの勝ち」と確信する。野手では稲葉の存在が非常に大きい。彼は練習態度などすべてが手本のような選手だ。
「中心のない組織は機能しない」という面から見たとき、2人はまさにチームの鑑ですよ。私は中心=鑑だと思っています。おそらく梨田もダルビッシュ、稲葉を「見習え」と選手たちに自信を持って言えると思う。
あと、いつも感心して見ていたのは、選手たちが自主的に自己犠牲を払う。最低でもランナーを進めておこうとかね。ホームランを打つ、ヒットを打つなんて ことは二の次。このカウントでは右方向を狙った方がヒットになる確率が高いなど、野球を細かく知っている選手が多い。この先、一人前のキャッチャーが育っ たら、日ハムはとんでもなく強いチームになりますよ。

=ききて/前田圭祐=