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Interview

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”郵政ファミリー”の権利を復活させてはならない
「かんぽの宿」譲渡白紙撤回、民営化見直し論再燃…
掲載号:2009年5月

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竹中 平蔵 慶応大学教授

民営化から1年半。いま日本郵政をめぐって、さまざまな問題が噴出している。オリックスへの「かんぽの宿」一括売却が白紙撤回され、改革の揺り戻しの動きが強まる中、郵政民営化の担当大臣だった竹中 平蔵慶応大学教授を直撃した。

国際業務に参入しか道ない郵便事業

――「かんぽの宿」など79施設を109億円でオリックス不動産に一括譲渡するという日本郵政の決定が、担当大臣で ある鳩山邦夫総務大臣の反対で白紙撤回されました。取得原価2400億円、固定資産税評価額856億円のものを109億円で売るというのですから国民も何 か変だと感じた。しかも買うのは民営化論議を主導した政府の総合規制改革会議の議長を務めた宮内義彦氏のオリックスグループ。「国民が出来レースと受け取 る可能性がある」という鳩山大臣の指摘もうなずけます。
そんな中で、そもそも民営化に反対だった勢力を中心に、民営化見直しの機運は高まっています。本来、国民の共有財産であった郵政の資産を安く払い下げるために民営化が行われたのではないか、民営化は本当に必要だったのかという人までいます。

竹中  民営化が必要だったのかという議論はないと思います。与党も野党も民営化は必要だと言っているわけで、それをやめろといっている政治グループ、評論家も含めていないと思います。問題は民営化のやり方で、それについていろいろという人はいます。
なぜ民営化が必要だったのかということに関して言うなら、理由はたくさんあります。最大の理由の1つは郵便。郵便の取扱量は年々5%くらいずつ減ってい きます。10年たつと半分になる。その減少分をダイレクトメールなどで補うんですが、それでも3%ぐらい減るから、10年で3分の2になってしまう。これ ではもつわけがない。日本人はあまり気づいていませんが、日本の郵便料金はアメリカのちょうど2倍です。それでこのように量が減ってきたらますます赤字に なって値上げをしなければならなくなる。大変なことになります。だからここは、きちんとした競争の中で効率を上げてもらえるようにガバナンスをつくっても らわないといけない。
――もともと郵便・貯金・簡保の3事業一体でやってきた。郵便単体での経営は無理なのでは。
竹中  国内マーケットは縮小していますが、アジアのマーケットは大拡大している。その中に進出し ていかなければなりません。日本に先駆けて民営化したオランダ、ドイツ、イギリスはまさに国際業務に出て行くために民営化した。国際業務に出て行くとき に、国営で、日の丸を背負っていたら、これは競争が不公正だということに必ずなります。だから民営化しないといけない。これが第1の理由です。
i2 ――第2の理由は。
竹中  金融です。日本はいま貯金で集めて国債で運用しています。こんな変なビジネスモデルが成り立 つのは日本だけです。常識的に考えて、貯金の金利と国債の金利は安全資産なのでほぼ一緒のはずですよね。実際どの国もほぼ一緒になっている。日本だけがい ろいろな歴史的な経緯を反映して国債金利の方が若干高い。だからその利ざやでいまのビジネスが成り立っているわけで、こんな不思議な商売はない。お金さえ 集めれば、国債で運用して、リスクがなくて、利益が出るなんて、ビジネスモデルとしておかしい。こんなことは早晩なくなります。いま貯金額は減ってきてい ますが、お金を集めている限りは、信用リスクビジネスに進出して、そこで運用できるようなノウハウを持ってもらわないと困る。金融機関である以上、国が関 与すると暗黙の政府保証がつきますから、フェアな競争ではない。それで民営化しないといけないということになる。
保険についても同じです。だから民営化というのは歴史の必然なんだと思います。民営化しないと間違いなく第2の国鉄になるということですね。

219社もあった"ファミリー企業"

――郵政事業は独立採算のように言われていた。国のお金は入っていたのか。
竹中  一部の人が国のお金は入っていないと言いましたが、そうではありません。例えば住宅公団にお 金を貸していた。公団には国からの補助金が入っている。その中から金利を、それは財政投融資の金利なんだけれども、支払っていたのだから、間接的ではある けれども税金は入っていた。しかし、今後こういうこともなくなっていきます。政府系金融機関が縮小していくわけだから。結局これまでのシステムが成り立た なくなっていく。お金を出す機関として独立してやっていけるようにしていかなければならない。
――現状はまだ国の金が入っている。
竹中  政府系金融機関はまだあるので入っています。日本の政府系金融機関はヨーロッパの大きいとこ ろと比べても2倍以上の規模がある。われわれは郵政の民営化と同時に政策金融改革もやった。住宅金融公庫の廃止、政策投資銀行の民営化、商工中金の民営 化、さらにほかの機関は日本政策金融公庫に一元化して、必要最小限のものに規模を縮小する。郵政がいままでのように財投の中にお金を入れて、そこから金利 を得るということはもうできません。
――政府系金融機関の民営化もストップがかかりそうです。
竹中  政府系金融機関は民営化しないといけないんだけれども、民営化したくない人たちがこのときと ばかりに、民営化したはずの政策投資銀行に、わざと政策金融をやらせようとしている。これは間違ったやり方です。政策金融が必要なものは日本政策金融公庫 でやればいい。そのために政策金融公庫を残しているわけだから。
――郵政グループには200以上のファミリー企業があったそうですね。
竹中  公的な基準ではわからなかったのですが、民営化されて、民間の基準で実質関連会社の洗い出し をしたら219社ありました。そこに2000人が天下りしていた。これはやはりすごい。この数字を聞いたとき、彼らが本気で民営化に反対していた理由がわ かりました。彼らの利権がなくなるわけですから。ここで改革の手を緩めては彼らの利権が復活するだけです。
――小泉純一郎元総理は「郵政民営化が改革の本丸だ」と言っていました。
竹中  それはそうでしょう。民間でやれるのに国でやっている分野というのはたくさんありますが、そ の中で一番大きい企業が郵政だったんですから。郵政は日本で最大のパブリックオーガニゼーション。預金規模で見ると当時二百数十兆円、世界最大の貯蓄銀行 でした。世界最大の貯蓄銀行が国営で、この資本主義の日本に存在していたこと自体が、私には驚きだった。
――しかし「改革の本丸」というのは、本来、霞が関の解体とか、官僚主導政治の破壊ではないのか。
竹中  それもやりました。まず、なによりも経済政策の決定を経済財政諮問会議でやって、財務省に やらせないようにした。これは政策プロセスの大改革をやったわけです。それまでは予算の決定イコール政策の決定だった。予算が決まるときに自動的に政策も 決まる。なし崩し的に料亭で決まるというやり方だったものを、政策は6月の骨太方針で決めると。予算をつけるプロセスはそれから年の後半でやりますという ようにプロセスを分けた。
それと霞が関の改革はものすごく時間がかかりますが、そのうちの30万人の国家公務員を民間人にするというのは、まさに霞が関の大改革。そこまでで5年 5カ月たったわけです。それで公務員制度のさらなる改革を託して安倍晋三内閣に政権を譲った。安倍さんは公務員制度を高らかに掲げてやろうとしたとたんに 霞が関の猛攻にあってつぶされたということですよね。

経営判断に介入しすぎる鳩山総務相

――かんぽの宿の売却について、竹中さんはどう見ていますか。
竹中  かんぽの宿は売却しないといけないのですよ。かんぽの宿というのは、ものすごい赤字を出して いた。100億円の赤字を毎年出していた。それが縮小して現在40億円くらいになっていますが、それを国民が負担しているんです、毎年。それが郵便料金に 跳ね返っているわけですから。そもそもホテルを持っている保険会社がありますか。ありませんよ。
――売却期限までまだ3年くらいある。売る時期に問題はないですか。
竹中  それは経営者が判断することです。国が決めることではありません。経営判断と政策判断は違 う。どの時点で売るのがいいかというのは経営判断ですよね。よく勘違いされるんですが、いまは不況だから安いと、だから安い時期に売るべきでないと。でも 郵政はその売った代金で、どこかの株に投資したり、別の不動産を購入する。売るお金も安いかもしれないが、買うお金も安い。だから不況だから売ってはいけ ないというのは、まったく機会費用を無視した議論だ。
――鳩山大臣は、かんぽの宿の赤字について「公的施設なので利用料金を低く抑えていたからだ」と言っています。
竹中  料金は上げたんです。上げて100億円の赤字が40億円になった。さらに料金を上げて、地元 の旅館よりも質が悪く料金が高いとなったら、もっと客が来なくなる。それは経営判断です。鳩山大臣はことごとく経営に関与してきていますよ。私は国会で 「制度をつくるのは国、あとは経営者の判断に委ねます」と答弁している。その答弁に鳩山大臣は違反している。
――しかし、株は100%国が持っている。
竹中  株を100%持っていても経営判断には口出しをしない。これが国会答弁です。株を100% 持っているからといって経営判断に口出しをしていいのですか。それは違う。民営化とは「民間の経営に任せる」ことです。いまの内閣は無茶苦茶だから少々の ことをやっても誰も批判しませんが、まともな内閣で鳩山大臣のようなことをやったら大問題だと思いますよ。経営判断に介入しているんですから。
――ただ今回の経緯を見ると出来レースと疑われても仕方ないのでは。
竹中  そこがわからない。なぜ出来レースと思うか。
――しかし、疑念を持たれること自体問題なのでは。
竹中  疑念というようなケチはいくらでもつけられます。ただどんな疑念かというと、よくわからない という疑念ですよね。確かによくわからない。私もよくわからない。ですから、わかるようにしろというのはいい。鳩山大臣は調査権限があるのだから一刻も早 く事実を明らかにするべきです。郵政民営化法には、政府は郵政民営化を実現するために努力しないといけないということが書かれている。それを怪しい怪しい とあおるのはちょっと違うでしょうと思います。

=ききて/酒井雅広=