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Interview

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“選挙の鬼”が語った
奇跡の当選、TPP、若手議員…
掲載号:2016年9月

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鉢呂吉雄 参議院議員

7月の参院選北海道選挙区で、次点候補とわずか8441票差の激戦を制した鉢呂吉雄氏。野党共闘も業界団体の支援もない中で議席をもぎ取った“選挙の鬼”が、自らの“3カ月戦争”と秋の臨時国会への意欲を大いに語った。

今年1月の段階で立起を決めていた

――2014年12月の衆院選北海道4区で落選後、政界を引退するのではと言われていました。

鉢呂 私自身は、これまで一度も引退表明をしたことはありません。14年衆院選で落選後、衆院での再挑戦をしないと決めたのは、2回(12年12月・14年12月)連続して負けたから。これは私が民主党(当時)本部の選挙対策委員長だった時に、2回連続で負けたら、次の選挙は公認しないというルールを自分でつくったからです。それに反するようなことはできません。だから出ないことを明確にしました。

――そこからもう一度、国政を目指そうと考えたのはなぜですか。

鉢呂 私が12年の衆院選で負ける大きな原因になったのが、TPP(環太平洋パートナーシップ)問題です。当時、私は政権を担う与党の中で検討会の座長を務めていました。

私にとって、この自由貿易の時代にTPPをはじめ海外との貿易交渉について、最初から話し合いのテーブルに乗らないという選択肢はなかった。交渉の中で、日本の農業や国益に反するのであれば、交渉から離脱あるいは国会批准の段階で各議員がその意思を示すべきという考えでした。でもマスコミからは「鉢呂の考えはわかりにくい」と。逆に自民党候補者は明確にTPP交渉参加阻止を訴えました。その状態で選挙戦に臨み、農業票を失って負けたんです。

しかし、その後誕生した安倍政権は、結局TPPへの参加を決めた。現在の与党の方針は、12年12月当時の選挙公約に明確に違反しています。

今年秋の臨時国会では、TPPが議論されます。つまり今回の参院選が、道民のみなさんにTPPについて改めて問うことができる、最大のチャンスだと考えたんです。

――昨年12月末に党北海道代表の佐々木隆博氏から出馬の打診を受けました。

鉢呂 その時、内心ではすでに立起するハラは固まっていました。

それに、忘れもしない今年1月7日の朝9時ごろ、新党大地代表の鈴木宗男さんから電話がありました。「鉢呂さんは2人目の候補者として出るべきだ」と。

「いま政治家として経験のある人が減っている。このままだと政治に責任を持てる人がいなくなる」という話もされました。

鈴木さんと私は同世代ですが、鈴木さんは来年4月に公民権停止が明けたら国政復帰を目指すと断言していた。そういったことも、私の背中を押すきっかけになりました。

――そこから4月7日の立起表明までには時間がかかりました。

鉢呂 道選挙区の議席が2から3に増えた中で、民進党は政権を担う政党ですから、多数を制する必要がある。3議席あるなら、2つを取らなければならない。でも2人立てても、当選させるために党がどうするのかはわかりませんでした。だから2人とも当選させるための戦略、戦術を示してほしい、と要望してきましたが、党や連合北海道、北海道農民連盟は、それを明確に示さなかったんです。立起表明の段階では、正直なところ見切り発車でした。

当選は自分でも奇跡的だと思う

――選挙中は毎晩ススキノで辻立ちするなど、独自の選挙戦術が注目を集めました。

鉢呂 党や業界団体の組織割りや地域割りは結局できず、私に対する大きな業界団体からの支援はゼロ。道民一人ひとりに訴えて、応援団、運動員になってもらう。そういう形でやるより、しかたがありませんでした。

ススキノで辻立ちしたのも、外が暗くなってから街宣車に乗ってもよくわからないという判断から。公示前からずっと立っていて、選挙期間中も18日間の半分は立ちました。夜6時半くらいから夜9時過ぎくらいまでが一番反応がよくて、私を見かけると話しかけてきてくれる人もいた。ほろ酔い気分だと、腹を割って話した気になるのかもしれません(笑)。こちらも慣れてきて、話しかけたら応えてくれる人が見分けられるようになりました。客引きのスキルを身につけたというか(笑)

――そうした積み重ねが当選に結びついた。

鉢呂 わずか8441票差での当選。私自身、奇跡的だと思っています。でもこういう選挙ではダメ。〝選挙の鬼〟と言われてきたけど、本当に選挙がうまければ、こういうやりかたはしない。一歩間違えば、いや間違わなくても普通は落選ですから。

ただ、これまで参院選では、比例区だけでなく都道府県選挙区も業界団体に依存した選挙をやってきました。その中で今回、業界団体に頼らない選挙で勝った。逆に言えば、業界団体に頼った選挙の限界を見せることもできました。これは、今後の参院選を考える場合に、1つのモデルになると思います。

――鉢呂モデルですね。

鉢呂 私が23年間政治活動を続けてきた中で感じているのは、与野党を問わず、業界団体に依存して選挙に勝つということは、業界団体の利益を代弁する議員になりかねないということ。日常の政治活動から政策や予算づけまで業界団体の顔色をうかがうことになる。私自身、過去にそういうことが全くなかったとは言いませんが、批判を恐れずに言えば、それが日本の政治を悪くし、財政を悪化させて赤字を背負わせてきたと思うんです。そういった意味で、私が業界団体の支援をほぼ受けずに戦えたというのは、今後の政治活動について、新たな方向性を示すことになったと思います。

町内会活動で票が集まるのではない

――3年半ぶりに国政へ復帰することになりました。何に取り組みますか。

鉢呂 私がいま一番大事だと考えているのは、財政の健全化です。たとえば国債の金利が上がれば、たちまち日本の財政は破綻します。そして金利が今のままであるという保証はどこにもない。若い世代は年金制度がこのまま続くのかなど、将来に不安を持っています。その面からも財政を健全化する必要があります。

ただ経済政策も含めて、そうした面から安倍政権を批判しても、党全体として支持を得られなかった。対案を出せという声に応えてこなかったからです。

アベノミクスを超えるものを提示して、どう支持を集めるか。わが党が政権を担う政党であるなら、なおさらしっかりと応えていく必要がある。選挙中も街頭でお話してきたことです。

私は国民一人ひとりが生活に安心感を得て、個人消費を増やしていくことが必要だと思っています。安倍政権は3年半の間、個人消費を伸ばすことができていません。そこに火を付ける政策を具体的に提示していきたい。秋の国会で補正予算を事業規模で28兆円と言っていますが、従来型の公共事業が主体。これだけのお金を投じるならもっと足元の生活に投資すべきだし、そのほうが雇用や景気の刺激策として波及効果も高いはずです。

――北海道内の課題については。

鉢呂 まずはTPPです。今回の参院選では、北海道で2議席を取り、東北も秋田を除いて野党連合が議席を得ました。やはり農業関係者のみなさんはTPPに納得していないんです。このままでは日本、そして北海道の農業が壊滅的な打撃を受けるのは必至です。秋の臨時国会は、与党すべての道内選出国会議員が、TPPについての見識を問われる場になります。

――農協改革に対する反発の声もあります。

鉢呂 規制改革会議では農協つぶしの議論がなされています。これも道内の与党国会議員はどう考えているのか。地域の中で農協や農業委員会が果たしている役割を考えれば、とうてい受け入れられるものではありません。これに対して、道内の与党議員が態度を不鮮明にしたままでいることはできないはずです。

――そのほか道内で取り組みたい課題は。

鉢呂 JR北海道の経営問題。とくに在来線の廃止について、私は直接留萌や日高に出向いています。しっかり考えていきたい。

漁業関連では、根室や稚内、紋別の海産物資源の枯渇。私は長年北方領土問題をやってきましたから、ロシアとの外交案件として取り組みたい。日本海側の漁業衰退も深刻ですから、カキやホタテ、ニシンなどの栽培漁業も、国直轄の事業として大規模にやる必要があると思っています。

ただ、これらの問題はいずれも国政にかかわるということで取り組むわけです。国会議員が、地域に密着した問題を道議会議員のように解決していくのは、違うと思っています。これまで自分の選挙区内の課題は誰にも負けないくらいやってきました。でもそれは本筋ではない。地元の利害にだけかかわるような、小さくまとまった活動ではいけないんです。

最近、若い議員のフェイスブックを見たら、町内のお祭りや町内会に出席したとか、そういうことばかり報告している。そんなことで票は絶対集まらないですよ。出席することについて否定はしないけど、本筋を誤ってはダメ。単に知名度を上げれば票が集まると考えているように見えるけど、それは違う。国会議員は、命を賭けて、決死の覚悟で国政上の課題に取り組む。その結果として、選挙にも勝てるのだと思いますね。

=ききて/清水大輔=