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Interview

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道民は、豊かな暮らしを世界に見せつけろ掲載号:2013年1月

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成毛眞 インスパイア取締役ファウンダー

 札幌市出身で元・米マイクロソフト日本法人社長、投資コンサルティング会社「インスパイア」のファウンダー(創業者)にして、現在の本業は著述業という成毛眞氏。近著「このムダな努力をやめなさい」も好調だ。そんな成毛氏が故郷・北海道に喝を入れる。

東京に吸い寄せられ二度と戻らない

――札幌は帰られますか。
成毛 あまり帰りません。頻度としては4、5年に1度。親も兄弟も札幌にいますが、東京が自宅ですから。愛着があるのは札幌よりも住み慣れた杉並区。こちらのほうが本質的に故郷です。
――よほどのことがないと北海道には来ない。
成毛 何の魅力もないですからね。マイクロソフト時代、いまから20年くらい前、ウインドウズ95売り出しのときです。当時、札幌に「そうご電器」という店がありました。各地の電器店に「一緒にキャンペーンしましょう」という提案を、とりあえず社長同士話をしに行くと、ほとんどのところは「やりましょう」ということになる。ただ、そうご電器だけは「売れるものしか売れないから、そんなことをやってもムダだね」とまったくの他人事。やっぱり北海道の人はダメだと思いましたね。
結局、官公庁から降ってくる金で食っているから努力をしない。一緒に協力して売ろうという感じがまったくない。
やはり海を渡ってくる人というのはビジネス的には信用できますが、北海道の中だけでやっている人は結構厳しい。一緒に何かやろうという気にはならない。
――北海道に可能性はありませんか。
成毛 ないです。僕は昔から言っているんです。北海道に可能性はないって。あるのは幻想だけ。大自然も観光立国も幻想なんです。
堀達也さんが知事時代、パネルディスカッションに呼ばれて出席したことがあります。そこで観光コンサルタントみたいな人が一生懸命しゃべっているわけですよ。「北海道には大自然があるから観光業が云々」と。でも、北海道に大自然なんかないんです。どう考えたってカナダとかニュージーランドとかに比べたら〝小自然〟はあるけど〝大自然〟なんかない。大雪山が大自然だと思っているんだったら、もっとチマチマやればいいのに、なにか勘違いしている。
――人を呼び込む魅力はつくれませんか。
成毛 つくれないです。つくれた地域がない。日本の中でUターンなりIターンで活況を呈した地域なんてどこにもありません。世界も同じ。ニューヨークに出て成功した人が、アイダホに戻るなんてことは起こらないんです。
北海道を出て戻らない人は多いですよ。ほとんど一方通行。過去150年、ずっとそうなんです。明治維新以降、能力のある人たちは全部東京に吸い寄せられて二度と戻らない。明治の元勲で戻った人は西郷隆盛しかいません。あとは全員東京。軍人も、企業家も。松下幸之助が大阪にいるというんだけど、彼は和歌山の人。和歌山から大阪に行って、やはり和歌山には戻らないんです。
i2――吸い寄せられて終わりですか。
成毛 いまやメガロポリス的な、いわゆるマルチナショナルなシティーとそれ以外という構造なんです。その意味では北海道も九州も一緒で、一方通行の人材を輩出するだけのセンターになっている。
中央政府からすると、いい人材を地方から吸い上げているわけですから、その分のお金を戻さなければならない。でも残っている人たちができることとなると難しい仕事はムリ。土木工事をやらせるための公共事業が関の山です。本当はもっと戻してもいいくらいですが、国は公共投資を絞めちゃった。そうなるとみじめなものです。
人がなぜ戻らないか。魅力がないからです。それは北海道だけの問題ではありません。あらゆる国の、あらゆる地方で起こっている。そうだと思って生きていくしかない。でも、北海道はまだ札幌があるからいいほうです。九州も福岡、博多がある。でも東北は大変です。青森なんか、ただただ取られるだけ。
――人材の搾取は地方の自立を妨げている。
成毛 もっとも搾取されたのは、東北であり四国だと思います。流出はとどまらない。すべからく。全部取られてしまう。ビジネスと同じです。ヒト・モノ・カネ。この順番に取られる。カネは借りてこられるけど、ヒトは借りてこられない。
――取られないようにすることは。
成毛 ムリです。北海道が人を取られないようになったとしたら〝世界の奇跡〟といわれて、その秘密を探りに世界中から人が来ますよ。「人類史上初、人を取られない田舎が現れた!」と、時の北海道知事はニューズウィークにも、ウォールストリートジャーナルにも載りますよ。でも、そんなことは起こらない。

地方はどうしたって〝下駄の雪〟

――北海道が日本にとどまっている限りムリでしょうね。独立でもしない限り。
成毛 独立してもムリですよ。中国だってどこだって、いい人材は逃げてしまう。いまどきはみんなハーバードにいます。
北海道が独立などしようものなら、もっと人がいなくなるでしょうね。もうダメだと思って。北海道は独立したら終わりですよ。土地を持っていてもなんの意味もありません。工場もなければ、銀行もない。メガバンクは1行だけで300兆円持っている。北洋銀行や北海道銀行が何兆円持っているか知りませんが、大きさ的にいうとメガバンクの1支店くらいしかない。本当に独立したら経済学的には瞬時に終わってしまいます。どうしたって〝下駄の雪〟なんです。「踏まれてもついていきます下駄の雪」。それを自覚して経営するしかないのです。
財務局とか、運輸局とか、経済産業局とか、国の出先機関がたくさんあるじゃないですか。それらはみんな搾取しようとして来ているわけです。あまり信用しないほうがいい。
――東京だけ繁栄してもどうしようもないと思うが。
成毛 東京が繁栄しないと北海道は生きてもいけません。中国と同じです。上海と北京を何とかしないと中国は存在すらしません。東京が衰退したら、日本はおしまいです。
歴史のあるヨーロッパだってそうです。たとえばイタリア。フィレンツェにしろ、ミラノにしろ、もともと1000年近く都市国家でした。それらが統合されるのが1850年くらい。せいぜい150年前ですよ。日本の明治維新のころに都市国家がはじめて統合されるわけです。
イタリアの真ん中はミラノ。ローマはせいぜい観光地。首都なんだけど京都みたいなもので、ミラノが東京です。確かに、日本よりは都市の機能がばらけていますが、それは1000年に及ぶ都市国家の歴史がなせる技で、意図的にやっているわけではありません。
そのイタリアでさえ、人口はミラノのある北イタリアに集中している。南イタリアから北イタリアへの移民はすごい数です。どこの国もヒト・モノ・カネの集中はどうしようもない。

無謀な成功を夢見る必要なんてない

――しかし、ドイツなんかはうまく分散されている。
成毛 ドイツは都市国家がまだ成立しています。でも例外ですよ。
――例外があるということは、そこに希望も。
成毛 そこで頑張りますか。でもコストがかかる。さらに疲弊しますよ。
――いままで頑張ったことがないんだから、ここで頑張るのもいいのでは。
成毛 逆に、いままで頑張ったことがないんだからムリだと思いますよ。だからもうちょっとチマチマとできることだけやったらいいんですよ。そのかわり、きちんとやる。
――そんな北海道ですが、現実にビジネスパーソンはたくさんいます。
成毛 自分に才能があると思ったら、すぐに東京に来るべきですね。それは社長であれ、サラリーマンであれ。ほかに手はない。
ニトリだってそう。北海道の中だけでニトリをやっていてもしょうがない。外に出たから大きくなれた。
ユニクロも同じです。もともとは山口県の会社。山口でやっていたら「柳井商店」で終わっていた。東京のど真ん中に店を出したから〝世界のユニクロ〟になったわけで、とにかく成功したいんだったら東京に来るしか手はない。
ベストはニューヨークかパリかロンドンなんだろうけど、途中に東京に立ち寄るくらいの気概でやらないとダメです。
――それでも、北海道が好きだという人は結構いると思います。
成毛 地方公務員も含めて、北海道から出たくないとか、北海道が好きだという人は、もちろんいるでしょう。朝目が覚めて気分がよければ、すぐ近くでカヌーを漕げる。ゴルフにも、釣りにも行ける。そんな生活は東京ではできません。だったらそこだけにしておきなさいということです。無謀な成功を夢見る必要なんてない。
東京に出てきた人はそういうものを捨ててきたんです。生活か、ある種の金銭的成功か、どちらかを選ぶしかないんです。だったら北海道の人は生活を楽しむほうを取ったらいい。コストをかけないで楽しく生きることを、もっとそれに対して真剣になったほうがいい。いかに充実して家族と楽しい生活を送るか。それを550万道民が真剣にやっていたら、人は来るようになりますよ。そのことこそが、人が戻ってくる動機になるかもしれない。
成熟経済の中で、そうそう産業なんか生まれません。だから遊びとか、充実した家族との生活とか、北海道はそちらをやらないといけない。それを延々とこれから20年蓄えたら、間違いなく勝ち組になっている。それ以外の方法はないと思います。どだいビジネスでは勝てないのですから。
――東京やニューヨークと同じことをやっても、勝てないでしょうね。
成毛 相手はバイリンガルのバリバリの連中。それこそ札幌南高や北高を出た連中が、東京大学や有名私立大学に行って、役所に入って、大企業に入って、半分くらいは英語をペラペラしゃべれて、官僚になり、外資でゴールドマンサックスに行き、そんなやつらがわらわらいる。彼らに「北海道でビジネスをやってください」なんて言ったら、みんなポカーンですよ。なにを言っているんだろうと思われるだけ。
とはいえ、その人たちに60歳になってもそんなことをしていて楽しいのかと。朝からスキーに行って滑って転んで、夜は青春時代に戻ってススキノに行く。それもいいかなと思わせる。それこそが最大の資源。大自然がどうのとか、中国人相手だとか、そんな戦略はまったく違う気がします。

=ききて/鈴木正紀=