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Interview

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”農業の10自化”で知恵ある生産者をつくる掲載号:2012年9月

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神内 良一 神内ファーム21代表

「克冬制夏」(冬を克服し夏を制御する)をコンセプトに70歳で「神内ファーム21」(空知管内浦臼町)を設立した神内良一氏。それから15年。今年86歳を迎えてなお、農業に対する思いは揺るがない。挑戦し続ける神内氏に、北海道農業の目指すべき未来を聞いた。

みずから「あか毛和牛協会」を設立

――15年目の夏はどうでしたか。
神内 点数をつければ80点ですかね。昨年と比べると一歩も二歩も前進したと思います。
――具体的には。
神内 マンゴーの栽培は8年目になりますが、昨年に比べ収量、品質、ともに優れたものができました。昨年のさまざまな問題を分析し、何が原因で、どうすべきだったのかということが、今年に生かせたのだと思います。
もう1つ、実際には昨年からスタートしているのですが、私が設立者になって「全日本あか毛和牛協会」をつくりました。全国でキャンペーンをやり、今年も秋から来年1月まで、主な消費地で赤毛和牛の試食キャンペーンをやります。今年はその準備を事務局に任せられる。事務局も成長しました。
赤毛和牛の認知度を上げる取り組みも協会がやっています。BSのテレビコマーシャル、新聞紙上などでPR活動をしてきました。その成果も現れてきている。手応えを感じます。
――赤毛和牛というのは、あまり聞きませんね。
神内 熊本県と高知県で飼育されていた朝鮮牛をベースにした赤牛をシンメンタール種などと交配・改良して誕生した牛です。耐寒・耐暑性に優れているうえ、性格は温和、放牧に適しているという特性を持っています。私も赤毛を知ったのは5年前です。
――おいしいのですか。
神内 脂の含有量が12?15%と少なく赤身が多いので、赤身そのもののうまみと心地よい歯ごたえを堪能できます。脂もしつこくなく、ヘルシーでまろやかな味わいの牛肉として注目されています。
――神内ファームでは、赤毛和牛を何頭飼育されているのですか。
神内 繁殖牛で300頭、肥育元牛で340頭、プラス子牛。ですから、だいたい800頭くらい。
神内ファームでは、生まれた子牛は親子で放牧します。子牛は母乳を飲んで免疫力の強い牛になる。そして、道産の粗飼料を食べ、大自然の中で自由に育つため、タウリンなどの機能成分も豊富です。
――黒毛和牛も飼育されていますよね。
神内 3300頭くらい。
――飼料は?
神内 赤毛については全部、北海道産の飼料です。100ヘクタールくらいの飼料用地があるので、そこでデントコーンやえん麦をつくっています。黒毛は3300頭いますから、全部道産とはいきません。飼料業者を通じて本州から入ったりしています。
――乳牛はいるんですか。
神内 いません。
――牧場は浦臼町の本場のほかにも、洞爺湖町や豊浦町、伊達市、長万部町に計6カ所ありますね。畜産の規模拡大はこれからもありますか。
神内 畜産については、これ以上はないですね。いろんなところで「農業の6次産業化」が言われていますが、もはや農家はつくるだけではダメな時代です。加工もして、自分で販売もする。とくに販路を開拓して自ら売るというのは大変なこと。いま以上に規模を拡大すれば、販売と生産のバランスがとれなくなりますから、これ以上は増やしません。
ただ、私は「6次化」でなく「10自化」です。生産の1次、加工の2次、流通の3次を足して6次化ですが、私の場合、1自分でつくって、2自分で加工して、3自分で値段をつけて、4自分で売る。これを足すと10になる。これが将来的に知恵ある生産者をつくる上で大事なことだと思います。とくに自分で値段をつけるというのが重要です。それをいまマンゴーと赤毛和牛でやっていきます。
――酪農をやる予定はないのですか。
神内 もともと北海道は羊と乳牛が代名詞みたいなもので、歴史でもあるわけです。本当は私もやりたい。ただ、神内ファームをはじめるとき、北海道に渡った先達たちが汗を流し、知恵を絞って特産として確立させた作物には手をつけないと決めていました。それに新規就農者の養成「夢現塾」も考えていましたから、肉牛と乳牛を比べた場合、肉牛ならまだ何とか耐えていけるだろうと。
一方で、乳牛は朝早く、夜も遅く、毎日乳をしぼらなければならない。まったくの素人には過酷です。そういう夢現塾のことも頭にあったので、乳牛はやめました。しかし、これからの農業を考えてみると、いま輸入しているものを国産に替えていくということが農政の基本だと思います。だから私の事業欲としては酪農への参入もあります。
――その担い手づくりですが、夢現塾の卒塾生は現在どうしていますか。
神内 道南で黒毛の繁殖をしているのが3家族。ここ浦臼で赤毛を飼っているのが2家族。マンゴーの生産・販売しているのが2家族。合計で7家族です。
――断念した人も。
神内 これまで20家族を採用したが、そのうち残っているのが7家族。13家族はリタイアしました。やむを得ない家庭の事情で断念した人もいますが、やはり農業の厳しさとか、先が見通せない不安があったということでしょう。しかし、いま残っている7家族は技術をしっかり身につけて、もう大丈夫です。

畑作をやらないと一人前じゃない

――施設型農業はお金がかかります。
神内 いまのハウスは灯油を使っています。北海道農業は日本の食料をつくることが使命ですから多少CO2が出たって気にする必要はないと私は思います。そもそも農業全体のCO2の排出は全体の3%に過ぎません。ほとんどが都市の生活、消費、生産というところから出ている。とくに北海道は緑が多い。CO2の吸収もいいので、あまり考えることはないと思います。しかしながら年間、灯油をたくさん使いますのでコストは高い。昨年、ある場所で温泉を使おうと思って1200メートル掘ったんですが、毎分60リットルで42度。使い物になりませんでした。いま本格的に研究に取り組んでいるのがソーラーです。用地はあるので1000キロワットくらい出せるものをつくっていきたい。
――畑作もやっていない。
神内 もともと「克冬制夏」というコンセプトで農業に参入しました。北海道の農業は雪との戦い。寒いだけなら何とかなりますが、何メートルも積もる雪があっては、半年は土地利用型の農業はできない。必然的に施設型の農業になります。施設型農業だから従来、北海道にないものを導入しよう。それが広がっていけば北海道農業の幅が広がると思って、ここまでやってきました。でも、だんだんと欲が出てきまして、やはり畑作をやらないと一人前じゃない。
北海道も昔ほどいろんなものをつくっていません。それは市場原理も働いた結果だと思います。しかし、私が戦前、学徒援農で伊達に来たとき、水田もありましたが、ほとんどが畑作でした。そこでは本当に多様なものをつくっていました。いまでは栽培していないものがたくさんあった。そういうものを復活させると同時に、農家として一人前になるためにも、来年あたりから用地を確保して、畑作をやろうと思っています。
――現状、神内ファームでは循環型の農業はやられているのですか。
神内 牛も4000頭いますから、牛糞は相当ありますが、放牧地もありますから、ほとんど肥料として撒いています。先ほどのソーラーと並行してやってみようと思うのは、堆肥を発酵させてそこからガスを取るシステムの構築。そういう形での循環型農業は考えています。問題はガスを取った残りは肥料として使えるのか。これが肥料として使えなければ、他から肥料が必要になるのでできません。でもその残りカスも肥料として使えることがわかりました。これもぜひやりたいと思っています。

日本は戦後60年アメリカの属国

――現状の北海道農業をどう見ていますか。
神内 私は昔から、北海道は畑作と畜産でいくべきだと思っていました。事実、わずか8カ月の札幌農学校勤務だった、あのウィリアム・スミス・クラーク博士もそれを見抜いて、北海道は畑作と畜産でやりなさいと言って帰りました。北海道の初代開拓使長官の黒田清隆も畑作、酪農に力を入れたいということで中央に建議した。ところが北海道に来たこともない連中が集まって「いや、コメをつくらせろ」となったのです。実際、空知はコメばかりです。なぜコメをつくらせたか。コメしか課税するシステムがなかったからです。
いわゆる商業作物についてはどういうふうに課税したらいいかわからない。明治維新も薩・長・土・肥でした。薩摩は砂糖、土佐は紙、長州は蝋、佐賀はそのころから石炭。こういう非課税のものをつくっていたから財力があった。結局、そういう藩が中心になって倒幕したのです。
北海道は十勝型農業をやらないといけません。そうすることがイコールいま海外から買っているものをつくることになる。そうすれば自給率は上がっていくのです。
――TPP(環太平洋経済連携協定)は道内の農業団体は絶対反対の姿勢です。
神内 賛成か反対かで国論を二分しているようにいわれていますが、もう決まっています。参加せざるを得ない。日本は戦後60年、アメリカの属国ですから。アメリカからすれば「日本は何でも言うことを聞くんだから放っておけ」くらいなものです。
アメリカの狙いは中国です。中国をかつてのソ連のような存在にしたくないということと、中国がアメリカの農産物、食料をどんどん輸入しなければならないような状態に追い込んでいこうということでしょう。
日本もそうですが、昔は自給自足でした。ところがだんだん白人文化に染まってきて、食事も白人の食事になった。今まで食べていたものを食べなくなり、洋風化していく。それにともなって自給率も下がった。中国もそのパターンにしていこうというのがアメリカの目的だと、私は思います。中国も、ハンバーガーやコーラで畳み掛けられると、食は国が統制するわけにはいかないから、そこから変わっていく。それこそ平和的な侵略ですよ。中国が日本と同じような轍を踏むのか踏まないのか。
日本は中国がどう出るかを見極めてから、腹を決めないといけない。それ以前に、参加しますと手を上げてはいけないと思います。

=ききて/鈴木正紀=