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Interview

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“読書教育”と“世界視点”で出版界復活!掲載号:2019年4月

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高井昌史 紀伊國屋書店会長兼社長

出版不況と言われて久しいが、書店業界最大手の紀伊國屋書店(東京都目黒区)の高井昌史会長兼社長は、復活に向けて前を見据える。本、読書への思いから、出版業界の未来まで。高井氏が90分にわたり語り尽くした。

公立図書館の設立に奔走した20代

高井昌史氏は1947年、東京都生まれ。成蹊大学政治経済学部に入学。学部改組により、70年に法学部政治学科第1回生として卒業した。71年紀伊國屋書店に入社。75年、宇都宮営業所長、87年情報製作部長などを務め、99年に常務取締役。2004年専務取締役、06年副社長を経て08年に社長に就任。15年からは会長も兼任する。現在、紀伊國屋書店は北海道から鹿児島まで国内72店を展開。海外は9カ国に30店を出店している。18年8月期の連結売上高は、1221億9700万円だった。以下、高井氏との一問一答。

   ◇    ◇   

――紀伊國屋書店に入社した理由を教えてください。

高井 私が入社した1971年は、まさに高度経済成長期でした。東京都内には、ビルがどんどん建設されていました。マクドナルドの日本1号店ができたのもこの年ですね。

私は東京生まれなので、当社の新宿本店によく通っていました。本を売るだけでなく、出版もある。紀伊國屋ホールもあって、お芝居も嫌いじゃなかった。そうした多岐にわたる事業に魅力を感じました。

――入社後は外商、営業畑を歩んで来られました。

高井 会社に入る前、外商という部門があることはわかりませんでした。どこかの店で店員でもやるのかなと、思っていたんです。
すると、法人外商を業務とする営業部に配属され、驚きました。

――慶應義塾大学の外商担当でした。

高井 大学の先生方の元に出向き、注文をいただくという仕事です。当社は戦後、洋書に力を入れていました。学術書といった専門書は、先生方のほうがお詳しい。大学の助手などは、お金がないので“ツケ”になります。出世払いで書籍を買ってくれた方々とは、いまでも親しくさせていただいています。

――75年に宇都宮営業所長になり、公立図書館の設立に奔走しました。

高井 日光市、小山市、宇都宮市などの公立図書館の選書、納品を担当しました。先日、日光に旅行で行きました。そういえば、日光の市立図書館は、開館時に自分が全部本を入れたんだと。当時のことを思い出し、立ち寄って、館内を見て歩きました。

当時のまま、児童書の定番や田中正造の全集などが並べられていました。懐かしく感じましたね。本は大事に扱うと、50年も持つ。しっかりとした本は読まれ続けるということを再認識しました。

図書館づくりは真剣勝負でしたね。図書館職員とかんかんがくがく議論をして、選書しました。宇都宮は10万冊入れました。2年がかりです。苦楽をともにした市の職員たちは、中央図書館長として活躍されたりしています。

雪と光、札幌本店は幻想的な書店

――紀伊國屋書店と北海道の関わりを教えてください。

高井 札幌に営業所ができたのは57年です。東京以外では、大阪に次いで2番目の速さです。戦後、店舗より先に旧七帝大の所在地を中心に、営業網を構築しました。学内図書館を充実させる目的で、本をたくさん買っていただきました。

69年に大阪に梅田本店をオープン。関西の一等地に進出したことを皮切りに、全国各地に店舗をつくっていきました。札幌本店がオープンしたのは71年です。

――売り場づくりのコンセプトはありますか。

高井 書店は「展示産業」です。書店では紙の手触りや重みを感じながら、気に入ったら買っていただく。本を買う最大の楽しみであり、ネット書店や電子書籍では決して味わうことができない至福です。そのために、お客さまがワクワクする空間づくりが不可欠です。

出版不況と言われながらも、本の出版点数は年間8万点を超えています。数はそんなに減っていません。

紀伊國屋書店の大型店舗では、文芸書、児童書、実用書、コミック・雑誌など、多様なニーズに応えるため、たくさんの本を並べ、自由に手に取れる形にする。すぐに売れるわけではありませんが、陳列する大きなスペースが必要です。書店は、多くの在庫を抱える非効率的な商売と言えるんです。

当社の大型店の中で、いまの札幌本店(中央区北5西5)は、私が非常に好きな店舗です。年に数回、足を運びます。

1階、2階はガラス張りでキレイ。冬になると外は北海道らしく雪が若干積もっていて、店内の明かりがつき、たくさん並んだ本が浮き上がる。外から、店内を見ると幻想的ですよね。

新宿本店も外から本が見えるわけではありませんし、大坂の梅田本店もいわば駅ナカです。当社の店舗の中で、国内外どこを探してもないですね。

私は「どこの店がいいですか」と聞かれれば、いつも「それは札幌本店だよ」と答えています。雪が積もる時期に外からちゃんと見てから、店内に入ってくださいと。

雑誌売り場も、あんな贅沢な陳列はないです。大きなスペースをとり、面陳でズラリと並んでいる。あの景色は爽快です。

札幌本店の1階には、「インナーガーデン」と呼んでいるスペースがあります。サイエンスカフェやトークイベントなどをおこなっていて、人気です。

――17年には「厚別店」(厚別区厚別中央2条5 サンピアザ3階)が移転、拡張オープンしました。

高井 店舗面積は、従来の1・6倍の規模になりました。児童書に力を入れており、キッズスペースも設けています。

いま出版業界の中で、書籍のジャンル別にみると、児童書の売り上げが伸びています。かわいい孫におじいちゃん、おばあちゃんが買ってあげるというニーズが高まっています。ご家族連れで楽しめる売り場になっていますので、ご来店いただければ幸いです。

現在、紀伊國屋書店は道内で5店を展開しています。地域に密着し、地域に愛される本屋にならなければならない。“地域とともに歩む”です。当社のお店を訪れたら、活字、読書離れなんてあるのかなと感じてしまう。お客さんでにぎわっていて、みな本を買って読んでるんじゃないかと。そう思えるような店づくりを、北から南までの店舗で進めていきたいです。

日本人の読書好きは筋金入りだが…

――高井会長兼社長は「本はその国の文化の土台」とおっしゃっていますね。

高井 紀伊國屋書店の創業者・田辺茂一は、文化の発信に一途な情熱を傾けていました。

建築家の前川國夫さんが設計した新宿の紀伊國屋ビル内にホールをつくり、画廊も設けました。この本屋の中の劇場は「新劇の甲子園」といわれ、若い演劇人のあこがれの場所にもなりました。つかこうへいさん、野田秀樹さん、鴻上尚史さんらを、送り出しています。

この斬新なビルが文化の殿堂となり、紀伊國屋書店の発展に寄与してきました。当社は本を売る単なる書店ではない。田辺の紀伊國屋ビルに込めた「文化への愛着」というDNAを継承、発信していくことも、われわれの使命です。

本は世の中のすべてのもとになります。映画や演劇を考えても、本に帰結します。

出版界はこの20年で売り上げを下げ、読書、活字離れが進んでいます。日本でこれほど、「本」のあり方が問われた時代は、なかったのかもしれません。この難局を乗り越えて、出版界を復権させていきたい。

――大切なことはすべて本の中にあるということでしょうか。

高井 読書は心のもとにもなるし、糧にもなります。いま、デジタル化、スマホの時代ですよね。情報をつかむにも、しっかりとした文章を読む。これが欠けてしまうと、情緒にも影響すると言われています。

日本人はもともと、本好き、読書好きなんです。日本に漢字が伝来し、かなをつくった。『源氏物語』『土佐日記』など、1000年以上も前から日本文学というものがありました。

江戸時代に出版は飛躍的な伸びを示しました。初等教育の寺子屋が4万もあり、識字率は90%もあったそうです。日本人の本、読書好きというのは、筋金入りなんです。それは世界に自慢できることです。

それが昨今、大学生を対象にした統計では、「1日の読書時間ゼロ」と答えた割合が、半数を超えています。いったい、どうなっているんだろうと。

――日本とは対照的に、アメリカでは本が見直されているそうですね。

高井 スマホでも、本を読めるけど、小さな画面はつらい。それを続けていくと、身体、脳に弊害があると、アメリカで言われ始めています。

実は当社のアメリカの店舗での売り上げは、とても好調です。対前年で10%近く成長しています。紙の本が復権してきた、とアメリカのメディアも報じています。

デジタル、スマホ疲れというのが起きているのかもしれません。まだ日本の電子書籍のシェアは20%にも達していませんが、アメリカでは50%を超えて、そうした事態が起きました。

日本でも、読書離れの揺り戻しが起きると思っています。後世の人たちが「なんで平成の時代はこんなに本を読まなかったのか」と首をかしげるでしょう。そのためにも、いまから業界が一丸になり、対策を講じていかなければなりません。

アラビア語の『キャプテン翼』出版

――紀伊國屋書店は海外に30店舗展開しています。

高井 当社の経営は、店舗部門の「国内」「海外」、そして営業部門の「外商」の3本柱となっており、国内店舗の下がった売り上げを海外でカバーしています。このような時代でも、増益決算を続けています。

初の海外出店は、69年のサンフランシスコ店です。50年前に海外に出て行くというのは、なかなか度胸のいることです。この時の決断が、海外展開の大きなベースになっています。いまでは、アジア、オセアニア、中東まで進出しています。

たとえばシンガポールは、出店してから30年以上経過しています。売り場面積1000坪を超えています。紀伊國屋というのは、現地で発音しにくいんです。シンガポールでは“キノ”と呼ばれています。英語の本はもちろんですが、現地の言語や日本語の書籍もとりそろえています。中東のドバイにも1000坪以上の店を出しました。

海外の店舗には、30数人の日本人社員が出向しています。ドバイ店の従業員の国籍は21カ国にのぼります。シンガポールも同様です。それだけ多国籍の人たちが英語を公用語にして、一緒に仲間として働いています。

また、日本に留学した学生が自分の国に戻り、紀伊國屋書店に入るというケースも増えています。

海外店舗に共通して言えることですが、その国に愛される本屋にしていきたい。国の一番の書店になっているお店もあります。書店を通じて日本文化の宣伝、発信をして、少しは国際貢献しているのかなと。それ以上にその国のお役に立ちたいという思いが強いです。

――出版業界も海外に目を向けることが大切ですね。

高井 国内の出版社も、翻訳してどんどん海外に本を出していこうと。そうした動きも起きています。

コミックなど、ジャパンポップカルチャーには根強い人気があります。ミステリー小説も翻訳されて読まれています。村上春樹さんは世界的に有名ですが、東野圭吾さん、湊かなえさん、桐野夏生さんらもとても人気です。

実は当社がコミックの『キャプテン翼』をアラビア語に翻訳し、出版しました。なぜかといえば、シリアなどの子供たちは戦乱の中で、本など読める状況ではありません。文化にふれあうこともできない。勇気づけられる日本のコミックをアラビア語にして届けたいと。版元である集英社の堀内丸恵社長にも賛同してもらい、著者の高橋陽一さんからも、版権の了承をいただきました。

翻訳は東京外国語大学のシリア人留学生に依頼しました。アラブの世界に合わせて、原作を変更するのはやめようと。そのまま、翻訳してほしい、と頼みました。登場する名前も地域もすべてです。

16年に発売した第1巻は、ユニセフなどを通じてシリアに届けました。ドバイの店舗だけではなく、UAE、カタール、オマーン、サウジなどでブックフェアをやる際、『キャプテン翼』を販売しています。好評を得ており、手応えを感じています。

良書が300冊あれば子どもは育つ

高井 世界に飛び出して、本屋をやる。この流れはとめられません。その場合、基本的には「平和」であることが条件になります。平和になれば国づくりが始まり、教育立国になっていきます。そうなれば、教科書、参考書など、本を読んでいかなければ国づくりは進みません。

ベトナム、カンボジア、ミャンマーなどは、読書を推進するといっても、これからの段階です。それでも、読書が大切と言うことで、子供たちが紀伊國屋書店に来て、本を手にとると、喜び、笑顔があふれます。こうした国がまだまだ世界にたくさんあるということです。

そのような国々と比べ、日本人は恵まれすぎています。日本の小説は素晴らしいし、良質なノンフィクションもたくさんあります。定番の児童文学も目を見張るものがある。なぜそうした環境なのに、本を読まないのかなと。本当にもったない。こうした課題を社会全体で共有していきたい。

――幼少期からの読書習慣が必要になりますね。

高井 胎教からとはいいませんが、子供が物心ついたら、親が読み聞かせてあげる。そうした読書サークルに親も入る。小学校では、朝の読書運動をする。その上で、もう一つ大事なことは学校の図書室を充実させることです。図書室にはきれいな本を置いてあげようと。あわせて、司書教諭をしっかり配置することです。

たとえば、小学生にたくさん本を読みなさいと言います。コミック、絵本はやさしい内容ですが、高学年になるとフィクション関係を読み始めます。そうすると、みんなよくわからないので、読むのをやめてしまいます。その場合、司書教諭が読書方法をしっかり教える。

サッカーや野球の部活でも、勝手に練習しなさいではチームは強くはなりませんよね。読書も部活の指導と同じです。

大学入試センター試験は記述式問題が導入され、読解力が問われることになります。

20年から入試改革がなされるため、東京都内の進学校では、授業で読書を重視しています。これも出版業界にとっては1つの復活のチャンスです。

私はよく言うんですが、「家庭に300冊くらいは良書を置いておきましょう」と。立派な書棚なんかいりません。ミカン箱、7、8箱につめて保管し、子供がそこから取り出して読む。そうした家庭環境ならば、すくすくといい子に育つと思っています。

私は歴史小説、ノンフィクションを好んで読みます。吉川英治の『新書太閤記』や『新・平家物語』は十代のころに読みました。中里介山の『大菩薩峠』もはずせません。歴史の転換期に大きな関心を持っていたので、関ケ原の戦いや幕末、新撰組関連の本は読みあさりました。

最近は官軍、賊軍について気になっています。いまは負けた会津、長岡、庄内 の各藩側について書かれた関連本を読んでいます。明治維新後も活躍した優秀な人材がたくさんいたことがわかります。

地方にコンテンツは埋まっている

――公立図書館のあり方については。

高井 公立図書館は、個人が所有できない高価な百科辞典、郷土の本、全集などの資料を重点的にそろえるべきです。

それが住民に迎合してベストセラーを30冊、50冊と入れてしまう。行政は、わが町の本の貸出率は隣町より高いと胸を張る。コンピューター管理の弊害です。

予算には限りがあります。ベストセラー購入のため、本来必要な資料を買えない。そろえるべきものをそろえたほうがいいと思います。

――地方の書店、出版社は、都市部以上に厳しい側面もあります。

高井 昨年、出張のついでに大谷翔平選手を見ようと思って、アナハイムに行ったんです。ロサンゼルスの店に寄ったら『大谷翔平 挑戦』という本が売っていました。

エンゼルスのユニフォームを着ているので、アメリカはさすが早いなと。でも、よく見ると日本語なんです。出版社を確認したら、岩手日報社でした。さっそく東京にも売っているのかなと、日本に電話をかけると、仕入れ担当者が「知りません」と。

せっかく良書が発売されているのに、東京ではほとんど知られていない。紀伊國屋書店は地方の出版物を大事にしているはずなんですが、まだまだなところもあると痛感しました。

私は岩手日報社に在庫を全部買うからと話して、当社で引き取りました。その後、この本は増刷を繰り返し、とても売れたと聞いています。

そういうすばらしいコンテンツは、地方にも埋もれています。地方の出版社だからこそ、つくれる本もあるのです。

札幌、北海道にもいろいろとあるはずです。出版不況だからといって、諦めてはいけません。アイデアをみなさんで出し合ってください。われわれもバックアップします。出版社と協力しながら、業界を盛り上げていきたいですね。

=ききて/前田圭祐=