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Interview

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石井吉春(北大公共政策大学院教授)が語る
自治体を直撃する高齢化・人口減少
“甘すぎる道内市町村の危機意識”
掲載号:2013年11月

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石井吉春 北大公共政策大学院教授

 「本州の自治体は厳しい試練にいやおうなく直面している。その点、北海道の中小自治体は意識も遅れているし甘すぎる」――北大公共政策大学院の石井吉春教授はそう断じている。道内市町村の問題点をその石井教授に聞いてみた。

平成の大合併で全国の自治体が半減

――北海道の人口はいま約545万人で、2035年にはざっと100万人も減って、約441万人になると予測されています。急速に進む高齢化・人口減少社会の中での道内の自治体の問題点を。
石井 自治体の問題でいうと、将来の人口減少を見すえて総務省が何をやったかというと、ひたすらアメをしゃぶらせて平成の大合併をやりました。
ただアメに見えるんだけれど、アメの下に実は爆弾がかくれていた合併促進だったと思います。
――爆弾というと。
石井 小さい自治体は、大部分の財源を地方交付税でまかなっています。
交付税というのは、貧しいところの財源調整という役割だけでなくて、歴史的な経緯の中で、財源保障というような枠組みの制度になっているんです。まさに必要な財源を満たすためのものになっている。
だから小さい自治体ほど1人当たりの交付税が多く措置されている。
大都市はほとんど交付税をもらっていません。一方、人口5000人以下の町村では、1人当たり100万円以上の交付税をもらっている。
例えば、人口10万人の自治体と5000人の自治体がもらえる1人当たりの交付税の額を比較すると3倍は違うと思います。
小さい自治体というのは、いわば都会の人たちや法人の税金で、自分たちの財政を当然のこととして成り立たせている。
90年以降、財政が膨張する中で、財源保障ということを無理やりやっていく過程で、そのことが特に顕著になっている。小さい自治体だから実額は小さいのだけれど、ある種のモラルハザードという側面が非常に強く起きていた。
平成の大合併で、そういう小規模自治体がどんどんくっついたり、大きい市に吸収されたりして、全国で約3300あった自治体が約1800にと、ほぼ半分に減りました。
合併特例債や、10年間は交付税を合併前の水準で交付するといった優遇措置がアメとして出されたんです。
合併前のレベルで保障された交付税は、10年たったあと5年間で、合併後の人口規模の自治体の水準に戻る段階に入る。要するに交付税が黙っていても減るということです。
これがアメの下に爆弾がかくされていたということです。10年たったら交付税も減るのだから、行政施設をばさばさ切らなくちゃ駄目だとか、統廃合しなくちゃ駄目だといったリストラクチャリングをしなければいけない状況に追い込まれています。
平成の大合併は2000年から始まっているので、10年すぎた合併自治体が次々と出てきているが、合併した後、頑張ってリストラをやってきたけれど、合併効果はまだ十分には出ていないのではないか、とされるところが多いという状況です。だから、これからけっこう大変な局面になってくるんです。
道外の自治体は基本的にそういう洗礼を受けているのに、道内はほとんどそういう洗礼を受けていないというのが現状です。

市町村合併が進まなかった北海道

――道内が洗礼を受けていないのはなぜですか。
石井 北海道は、面積が広くて合併が進まなかったんです。  全国の自治体が半減した中で、北海道は212市町村が179に減っただけだった。おそらく合併が一番進まなかった地域の1つだと思います。
それで、全国の自治体が財政的なリストラクチャリングを厳しく迫られているのに、北海道だけ全く迫られていないというのが今の状況です。
もちろん道内の自治体も、人の削減とか努力はしていますけれど、例えば公共施設、なかでも公営住宅は人口1人当たりでみると全国の2倍から3倍ありますし、広いから道路延長も1・5倍くらいで行政コストがかかる。
それと、やっぱり公共事業に恵まれていたというところも大きいんです。
だから、まさに財政だのみで、合併の洗礼も受けていませんから、小泉改革で1回びっくりして、どうしようかということになったんです。
しかし、その後の揺り戻しで、むしろ以前より悪くなるぐらいの借金依存の中で、交付税がちゃんと出ていますから、事なきを得て安閑としているところがあります。
本州の自治体が現実の厳しい試練にいやおうなく直面していることからすると、道内の自治体は意識も遅れているし、将来に対する対応も、まだまだどうかなと思います。皆さん、そう思ってはいないようですが、北海道の自治体は圧倒的に甘い面がある。全国を俯瞰すると、そういう印象です。

交付税の枠組みが成り立たなくなる

――そこへ今後急激な人口減少が直撃する。
石井 道内の人口減少の速度はかなり早いから、そのインパクトは非常に大きいでしょう。
これからの人口減少社会で、一番大きな問題は団塊世代です。団塊の世代って東京、大阪、名古屋といった大都市圏や、札幌、仙台、広島、福岡といった都市部に圧倒的に住んでいます。
その人たちが、まさにいま第一の局面で、仕事をリタイアして、税金を払う人から税金を払わない人になっている。
それが第一の経済社会的な転換期で、65歳になると年金をもらうから完全に税金を食いつぶす人になる。
75歳以上になると医療・介護需要世代になるので、本格的に一番お金のかかる年代に突入するんです。
十数年後にはそういうことが起きるんです。
成長期には、都会から田舎へのトランスファーというのは誰も文句をいわない当たり前のことだった。
しかし、これからはもうよそに分けてる場合じゃないという議論が必ず起きてきます。要するに交付税が枠組みとして成り立たなくなる。地方はかわいそうという時代から、大都市がみじめな時代に入っていくでしょう。
交付税をもらっていない東京や、ほとんどもらっていない大都市が交付税をもらうようになって、小さな自治体がかわいそうだからトランスファーしてあげるという国民的なコンセンサスはなくなると思います。

大都市がみじめな時代に入っていく

――大都市がみじめになると。
石井 欧米ではインナーシティというか、むしろ大都市が劣化、スラム化で、豊かな人の住む場所じゃなくなったというのが標準的な大都市問題なんです。発展途上国も大都市問題というとスラム化です。
日本だけ、そういう意識を持たず、当たり前に大都市は発展しているというイメージでずっときた。本当にそうでしょうかということですね。
発展というのは、不均衡な極というか、ある伸びるところが伸びるのが起爆剤になるというのが、一般的な成長理論です。
日本の場合は長く均衡政策を続けてきて、結果として非常に全体的な平等社会ができた。それを支えたのが補助金と交付税です。
しかし均衡ある発展というのは均衡ある分配であって、経済発展にはつながらない。大都市の集中を一定程度抑える政策が間違っていたとは思いませんが、大都市の活力をある程度押さえ込んだことと、経済的な停滞が出てきたこととの関連性も強いのじゃないかと思います。
均衡政策を支えた補助金と交付税に安住しちゃったけれど、支えるべき財源が誰も出せなくなったというのが、いまの現状です。財政はすでに持続性のない構造に入っている。
大阪市なんか財政が成り立たないくらい生活保護費が大きい。大都市の中で、大阪市に次いで生活保護費の比率の高いのは札幌市です。札幌の場合は国保の赤字でも有名です。
昔は、札幌に産炭地の失業者が流れてきたということはあったけれど、それでも経済発展の中で問題はなかった。しかし、昨今の集中というのは明らかに負の集中です。
田舎の方が人口が減っているけれど、残っている人はちゃんと健全に暮らせる人が圧倒的に多い。
極端に言えば、仕事がなくて食べられない人や、入院するため病人が都市に行っている。
また道内全体でいうと、高校を出て就職するとか大学へ行くという15歳?19歳人口は、一定の割合で道外へどんと流出するが、それ以外の年齢層はずっとほぼ一定だった。それが2000年ぐらいから崩れてきて、中高年層も道外へ流出している。雇用を支える経済がなくなってきたんです。
北海道の人口は自然減だけでなく、そういう社会減が非常に多くなっている。北海道の未来を考える上で、きわめて憂慮すべき人口動向といえます。
――そういう時代の中で、道内の市町村はどう生き残りを図っていったらいいのでしょうか。

人口が減ったら役所と役人が困る

石井 人口減少が進むと3000人、5000人の自治体の役所は困るだろうというのは正しいんですが、役所が困るという側面は、住民が困るということと全然イコールじゃない。
役所と役人が、まさに人口が減ったら困るというのはその通りなだけで、住民はむしろ選択的というか、いやおうなくというか、必要に応じた場所・住居の選択をしていくんです。
どうやって自分たちの町らしさをだしながら、しぶとく生き抜くかということは、それぞれの話なんですが、可能性は十分あると思います。そのためには、このままいくとどうなるかという鋭い意識をもたなければ、何をどう変えていくとどうなるという構想力は浮かばないと思いますね。
先ほども言いましたが、北海道の自治体は財政規律のハードルをくぐっていません。しかし、これからはもう地方がかわいそう、という発想では乗り切れない。
少なくとも、そこは気づかないと現状も乗り切れないし、まして人口が減っていく状況はとても乗り切ることはできないと思います。  頑張っている自治体も少なくありません。
自治体をどうしたらいいかというのは、ものは考えようだと思っています。
地方分権の大御所だった西尾勝先生が、かなり前ですが、分権論議の中で、「基礎自治体はすべての行政を担えなくてもいい」という西尾私案を出して、小規模自治体からぼろくそに言われたことがあります。
人口減少過程で行政をどう担おうかということでいうと、そういうことを一番先に考えなければいけないのは北海道だと、私は思います。
今後、人口減少で危機的状況が予想される行政を持続的にどう担うかといったら、北海道の場合、合併ではなく、効率性を発揮できるものを、広域自治体に移して、基礎自治体は本当にコミュニティーに特化した、それぞれの地域で必要な事務を少人数でやると。  そっちに特化するしかないんじゃないかと考えています。
それはいやだ、全部フルセットでやりますといっても、それで財源が回らなくても知りません、財源手当も全部自分で考えてやってくださいということが起こると思います。やっていけるならどうぞと。
道の支庁改革で支庁が振興局として残りましたが、残す意味はあったと思います。まさに振興局がこうした受け皿になればいい。
公共事業の新規事業や維持管理とか、上下水道だとか医療、教育とかを基礎自治体から切り離して、道の振興局レベルで担うしかなくなるのではないかと考えています。
――ありがとうございました。

=ききて/干場=