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Interview

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社内の縦割りを排し”定性的成長”を目指す 「売るのは
物だけではない。ライフスタイルを分析したソフトだ」
掲載号:2009年5月

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中野勘治 菱食社長

(なかの・かんじ)1939年7月7日生まれ。愛知県出身。62年慶應大学商学部卒業。同年日本冷蔵入社。95年ニチレイ専務、2001年ユキワ社長、03年アールワイフードサービス社長、06年菱食副社長を経て、08年3月から現職。

菱食は、国分と双璧をなす、わが国卸業(中間流通業)の巨人だ。08年3月に就任した中野勘治社長は、すぐさま、ドラスチックな社内改革に着手。業界の枠にとらわれない新機軸を次々と打ち出し、注目を集めている。

中間流通業としての新しい役割を創出

――長期経営計画「エボリューション21」について教えてください。
中野 エボリューション21では2010年までに売上高1兆5000億円、経常利益200億円、総資本 1000億円の達成を目標としています。ここで重要なのは単に数字を達成すればいいというわけではありません。私は社長就任と同時に定量的成長から定性的 成長に目指す方向性を変えました。定性的成長とは社員の質、企業の体質、得意先との関係、この3つをどうやって優れたものに変えていくかということです。
――具体的には。
中野 社員の質ではトップガンプロジェクトというのをやり、意識改革を行っています。若手社員15人を 選抜し「10年後、菱食があるか」と質問すると大概、「NO」という答えが返ってきます。そこで「生き残るためにどうするか」ということを考えさせる。そ して出た答えを支社長や部長の前で発表させるのです。これをやると管理職層が慌てて、コミュニケーションを取り始め、これでこれまで培ってきた縦社会とい うカベが崩れる。この取り組みを通じ、社員の質の高さが分かりました。
もう一つ判明したのは女性の優秀さです。15人の中には女性もおり、実に活発に議論する。そういう女性たちだけを集め、幹部候補生として研修をやりまし た。女性の戦力化です。  企業の体質を高めるということでは、1つはユビキタス。富士通と組んで社内情報の共有化を徹底しました。当社のように資産が人的資産しかない会社では、 情報の共有化は必須です。  これまでの問屋の概念は、上にメーカーがあって、下にリテール(小売り)がある。「川上・川下」論です。これがいまは違っているというのが私の意見で す。なぜなら情報はヨコにしか流れない。モノの流れはタテなのですが、情報は常にヨコに流れる。これからのビジネス関係というのは優れた機能と機能の交換 だと思います。
ただし、コーディネートの役割は必要です。私たちは食品をやっていますからフードコーディネート本部という組織をつくりました。こうしてさまざまな企業 とコラボレーションして実現した事業の一例にマグロがあります。マグロは刺し身の部分は回転寿司などに出していますが、これまで頭やしっぽのスジの多い部 分などは、全部捨てていました。それをつくねなどに加工して、居酒屋などで出すのです。もったいないとか、そういう発想を通じ、中間流通業としての新しい 役割を創出する。これがフードコーディネートの考え方です。
売り方についても、小売店舗ごとの特性を分析し、その店にとって最も望ましい方法を提案していく。これもフードコーディネートの仕事です。従来からのリ テール“サポート”ではなく、こちらがリードする形に変えていくんです。  そういうものができた上で、取引先との関係をどうつかんでいくか。そこで取り組んでいるのが「R―WAVE」と言う事業です。これは、リテールサイドに 出す新しいソフトで、対象は“生活者”です。カテゴリーマネジメントという言葉がありますが、これは、ある特定の会社のマーチャンダイジング(MD)がど うあるべきかという全体仕様です。一方、R―WAVEでは、個々の店について、商品と生活者と競合する店の状況の3つを分析、最適のMDを提案していきま す。
外食産業をターゲットとした「RYQUE」という事業もやっています。当社の関連会社にリョーショクリカーという酒の会社があります。この会社の2次卸 は雨が降ろうがやりが降ろうが、お酒を注文先のお店に届けます。末端到達力100%です。そういうお店を対象に酒以外の商品を全部納めるという事業です。
これまで業務用の商品開発なんて、どこもやっていなかった。しかし、RYQUE事業ではそのためのソフトをつくろうとしています。私どもにはメーカーの 商品が、どういうお店にどんな頻度で使われているか、全部わかる。この商品は、こっち向けにこういう企画で出せばいいとか、さまざまな提案もできます。こ のソフトを使えば、メーカーは目的にあった商品開発ができるようになります。このような定性的成長が社内に根付けば、経常利益200億円達成も、決して難 しいことじゃないと思います。

最終的に目指すものは知的資産の形成

――こうした考え方は、従来の卸売業にはなかったと思います。
中野 これまでの問屋の仕事というのは、メーカーから仕入れた商品を小売りに流すという仕事です。その昔ながらの問屋の仕事を続けていたらどうなるか…いまの菱食は存在していなかったかも知れません。
今年は創業30周年なので、それを機に「NEW BORN30」というプロジェクトをスタートさせました。これは次の30年に向けたビジョンをつくろう というものです。その過程で全社員に、いまの菱食をどう思うかWEBによるアンケートをしました。すると6日間で、全社員の99・4%の人が答えてくれ た。答えの中身はどうだっていいんです。わずか6日間の間に、みんなが菱食について大なり小なり考えてくれた。この事実がものすごい財産だと私は思うので す。
変わりゆく流通業界の中で存在感を示せるようにする。その進むべき方向について、世の中に語りかけようじゃないかということが「NEW BORN30」 です。この活動により「Innovation by FCM」というビジョンステートメントができた。「食からつながる笑顔の輪を、日本に。そして世界 に。」がテーマです。
FCMとはフードサイクルマネジメント。このFCMの定義は、時代とともに変えたってかまわないと私は思っています。しかし、われわれが伝えたメッセージの底に流れているものは変わらない。ここがわれわれが目指す革新性なんです。
――つまり、会社の文化をつくっているわけですね。
中野 その通りです。会社に文化がないと、この変化の時代を乗り切れない。だから定量的成長をいったん止めて、定性的成長で1回足踏みして、より確かなものに変えていこうということです。
中間流通業はメーカーにも小売店側にもデータや知識、ノウハウを提供できます。流通全体の流れの中で、頭脳としての役割を担える立場にあります。ただ、 これからは生活者のサイドに立たないとなりません。メーカーや小売サイドからの情報をつないでいるばかりではダメだと思います。
最大のターゲットは「生活者のライフスタイル」です。その上で、われわれが最終的に目指すものは知的資産の形成です。それをどう高めていくか、どうやっ て活用するか、が重要なんです。これからの中間流通業というのはライフスタイルを分析し、お客さまが役立てることができるソフトにして売っていくことが主 流になるでしょう。キザな言い方をすれば「ライフスタイルを翻訳する仕事」。これがこれからの、われわれの仕事なのではないかと思います。

=ききて/坂井=