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Interview

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知的産業化しなければ北海道漁業は生き残れない掲載号:2012年6月

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小松正之 政策研究大学大学客員教授

 衰退の一途をたどる日本の水産業。もちろん北海道も例外ではない。いまどんな手を打たなければならないのか。元水産官僚で、多くの漁業交渉の国際会議でタフネゴシエーターぶりを発揮、世界の水産を知る小松正之政策研究大学院大学客員教授に北海道漁業の未来を聞いた。

「井の中の蛙、大海を知らず」

 小松正之氏は1953年、岩手県陸前高田市生まれ。77年に水産庁入庁。84年に米エール大学経営学大学院を修了し、MBA(経営学修士)を取得。91年から2004年まで一貫して国際捕鯨委員会の日本代表団で交渉を担い、05年の米ニューズウィーク誌「世界が尊敬する日本人100人」で第2位に選ばれる。04年、東京大学農学博士号を取得。資源管理部参事官、漁場資源課長などを経て、05年4月から水産総合研究センター理事(開発調査担当)として出向。07年12月、同庁退職。08年から現職(リーダーシップ・交渉論、海洋政策)。主な著書に「日本人とクジラ」(ごま書房)、「劣勢を逆転する交渉力」(中経出版)、「世界クジラ戦争」(PHP研究所)、「日本の食卓から魚が消える日」(日本経済新聞社)、「海は誰のものか―東日本大震災と日本の水産業新生プラン」(マガジンランド)など多数。

◇ ◇

――小松さんは、これまで多くの著書等で漁業の問題点を指摘してきました。現状の国内水産業をどのようにとらえていますか。
小松 北海道の水産も日本の水産も、状況的には変わりがありません。北海道の漁獲量は日本全体の約4分の1のウエートがあって、他よりは安定しています。  本州は魚種によりますが、漁獲量は3分の1から5分の1に落ちています。北海道の場合、ピークは250万トン、現在は125万トンとほぼ半減していますが、それでも本州のようには減っていません。その理由はサケとホタテがあるからです。  ホタテは養殖、サケは孵化放流事業。ある意味、人工的に生産したものです。その部分がなければ、北海道も本州並みにひどいということです。
――とくに落ち込んでいる魚種はなんですか。
小松 スケトウダラです。日本海の減り方はとくにひどくて、ピークの10分の1。  噴火湾も、あそこは産卵場だから本来であれば厳しい漁獲制限を課すところです。ところが漁業者が要求すると、次の年の枠まで事前にもらうという制度を、水産庁に認めさせるという時代錯誤のことをやっています。
――まさに乱獲ですね。
小松 そうです。各魚種にはABC(生物学的許容漁獲量)というものがあるのですが、日本の場合、役所 が決めたTAC(総漁獲可能量=魚種ごとに漁獲できる総量を定めることにより、資源の維持または回復を図ろうとするもの。この総量はその年の資源量によっ て毎年変更される)が長期間にわたりABCをオーバーしているのです。役所が漁師の要望などを聞いて、科学的に獲っていい数量を超す値を設定する。獲れな くなるのは当たり前です。
また、スケトウダラはすり身用として韓国向けの輸出が多いのですが、以前ほどは伸びない。韓国が輸入枠を減らしているわけではないのですが、アメリカか らのスケトウダラが価格も供給も安定していて、そちらにシフトしているのです。アメリカは資源管理が徹底しています。TAC管理とIQ方式(個別割当方 式=TACを漁業者、漁業団体または漁船ごとに配分し、分与する方式)の発展系であるITQ方式(譲渡可能個別割当方式=IQ方式のうち、分与された該当 量を他の漁業者にも譲渡できるように措置する方式)の管理を徹底しているので、昨年から今年にかけて漁獲量も増えています。そうすると相対的にアメリカの 価格形成力が強くなる。日本は競争力をもち得ないということになります。
日本国内でもピーク時にはすり身を使った100万トンくらいの練り製品の消費がありました。それがいまでは60万トン程度です。こちらも激減です。世界では健康食品として非常に人気があるのに、日本は食べられない。きっとメーカーの宣伝も下手なんでしょう。
韓国への輸出の主導権はアメリカに取られ、国内販売も苦戦している。供給が減って価格も上がらない。ダブルパンチです。だから加工業者も厳しい。放射能 の問題があったとき、北海道産は売れるのかと思いましたが、意外と売れていない。日本全体が輸出を控えさせられている状況です。先行きは暗い。
――日本ではIQ方式もITQ方式も取られていない。
小松 そうです。いまだに〝オリンピック方式〟です。自由競争の中で関係漁業者の漁獲を認め、漁獲量が TACに達した時点で採捕を停止させるという方式です。日本の漁業者は「日本には日本流のやり方がある」と言うけれど、勉強もしないで、外国を見もしない で、試してもみない。「井の中の蛙、大海を知らず」ということですよ。

いまだにオリンピック方式の日本

――あればあるだけ獲りたいという、昔ながらの漁師気質が抜けきらない。
小松 そうした思考自体が不適切です。乱獲して資源がなければ、そこで休まなきゃならないのに、漁師の考え方は〝もっと獲りたい〟なんですよ。収入が少なくなるから、もっと獲りたいと。そこは絶対にやめさせなければならない。
沿岸漁業者は、外国で学ぶことがありません。自分で自分の首を絞めているのに、それがわからない。なにか困ったことがあると道を通じて国に頼む。政治家がそこで何をしてきたかというと、補助金と税制の優遇措置の獲得です。経営を支援する補助金。年をとった漁師が苦しかったら、その人たちを助けるようなお金を政府が政治家を通じて出す。でもそれは反対です。本来、年をとった経営の苦しい人はやめてもらう補助金にして、そのあとに若い人が入ってくるような仕組みづくりが必要です。でも、年寄りが残るための補助金をばらまく。さらには、冷凍保管施設や荷捌き場といった箱もの予算をつける。そういう一種の都会から地方への富の移転を経ることによって、問題の本質がうやむやにされてきました。
――個別割当方式にするとなにがいいのですか。
小松 自分たちの取り分が決まるわけだから操業が見通せます。生活が安定する。それぞれの取り分が決まっているということは、ほかの人も割り当て以上には獲れないので、自分の枠が侵食されることはありません。これはものすごく効果的で、ムダな操業をしなくていい。
マーケットを見ながら、よく売れるものが漁獲できるわけです。現状は個別の枠がない。ヨーイドンでみんなで行って、マーケットに関係なくゴソッと獲る。だから値崩れを起こす。IQ方式ではそれがないわけです。結果的に単価当たり高いものを獲る傾向になります。すなわち、大きい魚を獲る。そうすると資源の持続性にもいい。
――ほとんど、いいことずくめです。
小松 それをしないのは、先ほどのご指摘通り、人より多く獲りたいという漁師根性のマインドリセット、頭の切り替えができないという問題です。それを水産庁・道庁も道漁連もきちんと指導していない。
欧米でもニュージーランドでもオーストラリアでもIQ方式は大前提の話です。にもかかわらず日本はやっていない。先進国で、いまだにオリンピック方式をやっているのは日本だけです。
――所得の安定もさることながら、資源管理に寄与するのは大きいですね。
小松 資源管理も個別割当にしなければ、その漁業者なり漁船が決められた量を違反していないかどうかチェックのしようがありません。TACで総量を決めても、個別の量が決まっていないと各漁業者は獲り放題です。結果、総量を超過する。だから資源管理ができない。
たとえば、いまサンマとサケの漁獲時期が一緒になっていますが、個別割当で数量をきちんと決めていれば、獲る時期をたがえることができるのです。

頭を使うと面白くなる北海道漁業

――水産庁の資料を見ると、昨年のサンマの資源量は約700万トンなのに、TACは40万トン強でした。
小松 サンマは、機動性のある漁船で魚群を取り巻いて漁網を敏速に張る巻き網で獲ってもいいのに、1963年施行の漁業法第52条第1項指定漁業を定める政令で「北太平洋さんま漁業」は棒受網という集魚灯を使った漁法と決められています。いってみれば原始漁法です。水産行政は、こんなバカなことをやっているわけです。これでは100万トンも獲れません。巻き網船やトロール船で獲らせないとダメなんです。獲れるものは獲らせて、獲れないものは資源がないわけですから、獲らせないようにしたらいいだけです。
――サンマも立派な魚粉になりますよね。
小松 魚粉は食用にも飼料にも有機肥料にもなります。ところが日本の魚粉は3分の2が輸入です。サンマがこれだけ獲れるのですから魚粉に回せば食料自給の向上に寄与します。
――個別割当といい、サンマの漁法といい、どうして変えていこうとしないんでしょうか。
小松 無知としかいいようがありません。役所は本当に行動しない。道庁の職員も、道漁連の職員も、北海道の漁民も、私の言うことなどほとんど知りません。「小松さんの話は夢物語だ」みたいに言われますが、これが世界の常識です。当たり前のことしか言っていない。でも視野が狭くなっている人にとっては、夢物語に聞こえるのでしょう。
――北海道漁業は後継者不足も深刻です。
小松 北海道の後継者率は25%くらいです。日本の漁業者は、60歳以上が約半分。若い人が少ない。ノルウェーなんかは59歳以下で85%を占めています。所得は800万円から900万円。北海道ではホタテとサケ以外は、とてもやっていけません。
北海道漁業は早く近代化し、IT化し、知的産業化をしていかなくてはなりません。自分たちの獲る数量を事前管理する。それにはIQ、ITQの導入が大前提になります。養殖も単に量を謳歌するのではなく、区画の広さも明確にして、そのスペースで何トンまでと科学的に決めていかなければならない。
そして、日本の漁業が諸外国と決定的に違うのは経済分析、マーケット分析をしないことです。実際、この2つが非常に重要な役割をもっていて、とくに中央省庁の役人は率先してやらなければいけない。その上で、漁業者にこのままではダメだということを徹底して言っていく必要がある。
海外では漁業者自身がコンピューターを使い、どこでどれくらいのものが売れているのか、自分たちの漁業も含めて、全部ネットでコントロールしながら、知的産業として大きくしています。言葉は悪いですが、いまの北海道漁業は〝ダサい産業〟なんです。だから若い人も就きたがらない。でも頭も使い、体も使うと、とても面白くなります。

=ききて/鈴木正紀=