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Interview

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百貨店の真価は売り場の“編集力”掲載号:2013年7月

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竹内徹 札幌丸井三越社長

 札幌丸井三越の新社長・竹内徹氏は「伊勢丹メンズ」の旗手だ。紳士服畑が長く、百貨店業界で「革命」と評された、伊勢丹新宿本店メンズ館の2003年リモデルにかかわった。新しいトップの手によって、丸井今井と札幌三越はどう変貌を遂げるのか。

マレーシア勤務で学んだ人事の教訓

――4月1日付で札幌丸井三越社長に就任されました。北海道との縁は。
竹内 東京生まれの東京育ちです。早稲田大学を卒業し、1983年に伊勢丹に入社しました。最初の勤務地は新宿本店です。
――新人時代の担当は。
竹内 紳士服の特選品の担当です。輸入品バイヤーが仕入れてきたブランド品の販売とストック整理の日々でした。よく百貨店は委託商売と言われますが、買い取り品が多いセクションだったので、売れないとストック整理の仕事が減らない。ところが、最初はなかなか思ったようには売れません。心の中で「なぜバイヤーは売れない品を仕入れるんだ」とつぶやいていましたね。後に私もバイヤーになったのですが(笑)。
ただ、85年のプラザ合意以降ぐらいから、売れ行きもよくなりました。振り返ってみると、下積み時代にいい時と悪い時の両方を経験できたことは、貴重だったと思います。
――その後は。
竹内 90年2月にマレーシアの首都・クアラルンプールに赴任しました。その年の10月に、伊勢丹はマレーシア第1号店をオープンさせました。
――立ち上げメンバーですね。いろいろと苦労したのでは。
竹内 日本人社員は10人いるかいないか。実際に店頭で接客するのは現地スタッフです。彼らのレベルアップが重要でした。開店1年前にオープンしていた〝アンテナショップ〟で、現地の幹部候補生たちを指導しました。  そこでは挨拶やお辞儀の仕方、商品の渡し方など、文字通り、一から接客と販売を教えました。伊勢丹流の接客を身につけた現地の幹部候補生たちが、下の現地スタッフに伝えていきました。ミドルマネジメントの活用です。
i2――現地の商習慣や文化に戸惑いは。気をつけた点はなんでしょうか。
竹内 マレーシアは多民族国家で主にマレー系、華人系、インド系の3民族が共存している国です。イギリスの植民地時代に移民を積極的に受け入れてきたことが背景にあります。移民は自宅では出身国の言葉を使い、学校ではマレーシア語と英語を習う。ビジネスシーンでは英語がよく使われています。
――みんなバイリンガル以上ということですか。
竹内 そうです。多様な文化が折り重なっている国です。そこで教訓として学んだのが、人事・給与評価の客観性についてです。言語や宗教、民俗が異なるマレーシアでは目標と成果を可視化、明確化した上で人事や昇給を決めなければ、あらぬ誤解を生んでしまいます。まだ日本では、そうした人事・給与評価が定着していないころでしたから、とても新鮮でした。

何を買うかより誰から買うか

――日本に戻ってきたのはいつですか。
竹内 クアラルンプールに4年おり、その後、シンガポールの伊勢丹に3年間、勤務しました。東京に戻ってきたのは97年です。紳士服のバイヤー、商品部長などを経て2003年の新宿本店のメンズ館のリモデルにたずさわりました。
――百貨店の紳士服販売に革命を起こしたと言われているリモデルですね。
竹内 商品仕入れの部分でかかわりました。プロジェクトの中核メンバーは5人おり、その1人が、今の三越伊勢丹ホールディングス社長、大西洋氏です。
――キャリアを聞いていると、ずっと紳士服ですね。
竹内 そうですね。紳士服畑です。ですから05年に婦人服部門の仕入れ責任者を命じられたときは、社内のみんなが驚く人事でした。その後、10年に伊勢丹の全商品の仕入れ責任者を任され、11年に会社統合した三越伊勢丹で同様のポジションに就きました。今年3月、伊勢丹新宿本店の婦人フロアのリモデルを手がけ、こちらに来ました。
――着任後、社員にどのような話をされたのですか。
竹内 今、お客さまの買い物の仕方が変わってきていると。
――どういう意味ですか。
竹内 従来は、何を買うかという要素が、購買行動を大きく左右していました。しかし、今は、服をすでに何着も持っているお客さまに、もう1着ご購入いただく時代です。何を買うかも大事な要素ですが、誰から購入するかという部分のウエートが高くなってきている。お客さまとの関係性がますます重要になってきているのです。
業界を俯瞰すると、各百貨店間の競争もありますが、ショッピングセンターといった他業態との競争も激しい。そうした中、優位性を保つには、お客さまとの結びつきがとても大切です。
――「お客さまとの関係性」「結びつき」というのを具体的に言うと。
竹内 例えば、丸井のAさんなら自分に合う服を見つけてくれるとか、三越のBさんに今年の流行を聞いてみてからバッグを買おうとか、個々の社員とお客さまとの深い信頼関係です。
――社員一人ひとりが高いレベルの接客、商品に関する知識を求められます。とても大変ですね。
竹内 確かにそうかもしれませんが、時代がそうなってきているのです。

 

百貨店の優位性と独自性を追求する

――現時点での札幌丸井三越の課題は。どんな取り組みを考えていますか。
竹内 資金をどんどん投下して大きな事業をしようというよりも、むしろ基本的な5つの項目、「商品」「サービス」「環境」「販売促進」「展開」のレベルアップを考えています。
――「展開」というのはどういうことですか。
竹内 三越伊勢丹グループでは売り場を「お買い場」と呼びますが、例えば、オーダーシャツとオーダースーツをオーダーコーナーでまとめて扱うのか。それともシャツ売り場、スーツ売り場のそれぞれにバリエーションとして並べたほうがお客さまにとってお買い上げしやすいのか、マーケティングに基づいて判断します。くくり方の工夫によって同じ商品でも、大きく販売実績が違ってきます。
――率直にうかがいます。今の丸井今井、三越札幌の両店で、この5項目のうちどの部分が十分ではない、あるいは伸ばす余地があると感じていますか。
竹内 すべての項目において、両店はまだまだ伸びしろがあります。それだけ潜在的な力を秘めているという意味です。5項目をどれだけブラッシュアップできるかが、私の当面のミッションでしょう。
――どのようにレベルアップを図るのですか。
竹内 項目によってそれぞれ違いますが、ひと言で表現するなら、オン・ザ・ジョブトレーニングでしょうか。教室に座って学び、理屈でわかったとしても、実際に店頭でお客さまが変化を感じないと意味がないですから。
「商品」について言えば、まだ北海道に未上陸のブランドはたくさんあります。北海道のお客さまのニーズをしっかり受け止めた上で、誘致することも検討していきたい。
また、三越伊勢丹グループ内で会員カード(エムアイカード)は統一されています。北海道のお客さまが、他地域でよくご購入するブランドや商品を把握できます。そうした商品を札幌の店舗に持ってくる取り組みもおこなっていきます。
i4――札幌のマーケットの特長は。
竹内 赴任してまだ日が浅いのですが、ファッションのテイストは東京に似ていると感じています。
――三越伊勢丹グループは各地に店舗があります。札幌の両店の客単価は低いのでは。
竹内 札幌の両店は食品部門が強く、全体の売り上げに占める割合も高いので、必然的に客単価は低くなりがちです。ただ、その影響を除いても、首都圏よりは客単価が低いでしょう。
――食品と言えば、道産食材を集めた「きたキッチン」は開店以来、ずっと好評を博しています。
竹内 「きたキッチン」については、食の分野で〝自主編集〟を続けている点が特にすばらしいと思います。
――〝自主編集〟というのは。
竹内 百貨店側が自分たちでいい商品を見つけ出し、ブランドの枠を超えて集めて、魅力的な売り場をつくりあげるということ。百貨店は主にブランドを誘致していると思われがちですが、そればかりではありません。ブランドの誘致なら、先ほど申し上げたショッピングセンターもやっており、大きな差別化になりません。
百貨店の優位性、独自性の1つは販売サービスですが、もう1つが〝自主編集〟でしょう。それをファッション分野で大々的に実行したのが、伊勢丹新宿本店の03年の紳士、今年3月の婦人のリモデルと言っていい。
〝自主編集〟の売り場は〝種まき〟の役割も担っています。ここで新たなブランドの芽を見つけることもできます。こうした取り組みを持続させていけば、百貨 店には常に最先端の商品があり、なおかつ、ブランドや商品をインキュベートしていく流れがつくれます。ぜひ「きたキッチン」の取り組みを、両店の食以外の 分野でも広げていきたい。

「三越」「丸井」の〝のれん〟を残す

――丸井今井と三越札幌の統合から2年余りが経過しました。統合後の現状についてうかがいたい。
竹内 前任社長が両店の交流をトップ、ミドル、現場の各レベルで積極的に実施しました。その結果、問題意識の共有、共通の仕事の進め方ができあがっています。私は、この精度を高めていけばいい。
――今後、店舗の建て替えや統廃合を実施するとの見方があるが…
竹内 「三越」も「丸井」も残して「1つの会社で2つの〝のれん〟」を続けます。それぞれの建物については、お客さまの利便性を見極めながら、どうしていくのかを検討します。
――ちまたの景気回復への期待感は、百貨店にとって追い風では。
竹内 首都圏の百貨店はデータを見る限り、3?5%ぐらい底上げされている感じはあります。札幌においても宝飾、時計部門については販売が伸びていますが、全体的に見ると、札幌に追い風が吹くまでにはまだ時間がかかるのかな、という印象です。
――最後に2012年度決算と、今期の目標について教えてください。
竹内 12年度決算は売上高約648億円、営業利益約6億3800万円、経常利益6億4800万円、当期純利益3億6900万円となりました。売上高は前期比98・4%と若干、落ちましたが、本業のもうけを示す営業利益は前期比106・1%と伸びました。今期は増収増益を達成したい。

=ききて/野口晋一=