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Interview

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浜は元気だ!北海道漁業は負けない掲載号:2009年8月

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桜庭 武弘 北海道漁業協同組合連合会 代表理事会長

世界的な経済危機は漁業にも影響を及ぼしている。国内外の景気の低迷と魚価安が響き、道漁連の2008年度の取扱高は2918億円、前年度比5%減だった。しかし、浜は負けない。桜庭武弘会長に北海道漁業の展望を聞く。

円高で打撃を受けた輸出水産物

――会長に就任して丸2年が経過しました。
桜庭 無我夢中の2年でした。とくに昨年は激動と激変の1年といっても過言ではありませんでした。昨 年初めは中国ギョウザ問題があって国産志向が高まり多少追い風だったんですが、春以降、それまでも上昇傾向にあった燃油価格が急激に値上がりしました。そ の異常ともいえる高騰は、各浜の漁業経営を直撃しました。
――各地で燃油高騰対策を求める抗議行動が起こりました。
桜庭 7月15日には史上初めて全国一斉休漁に踏み切りました。まさに歴史的出来事です。さらに東京 の日比谷野外音楽堂には全国から4000人近い漁民が集まり、国に対し、高騰を続ける燃油価格に対する緊急対策を強く要望する決起大会を開催しました。そ の結果、従来の水産業燃油高騰緊急対策基金事業102億円に加え、総額745億円規模の燃油高騰水産緊急対策が打ち出されました。
――ほっとしたのもつかの間、秋には「100年に一度」とも言われた経済危機が全世界を覆いました。漁業への影響は。
桜庭 もちろんありました。世界同時不況の様相で、為替相場も急激な円高となり、その結果、近年の魚価回復を牽引してきた秋サケやホタテなどの輸出に大きな影響が出ました。
――不況はいまも続いています。
桜庭 国内外の経済情勢は依然、先行きが不透明です。やはり景気が悪いと、ものは売れません。勢い低価格競争になってくる。この間、水産物も魚価安で推移している状況です。
i6 ――減収減益になった道漁連の2008年度決算がそうした背景を物語っていますね。
桜庭 生産額は07年度と比較すると5%減の2918億円でした。1990年前後は4000億円を超えていましたが、その後、03年ごろまで減少傾向。ここ4年は上昇できていたんですが……。
――生産量のほうはどうなんですか。
桜庭 沿岸漁業を主体に毎年150万トン前後で安定しています。魚種でいうと秋サケ、ホタテ、コンブ で生産量全体の50%を占めています。昨年、秋サケの水揚げが11万6000トンと大幅な減産になりました。一昨年が15万8000トンでしたから27% の減産です。しかし、単価的にはキロ当たり430円。一昨年の340円を90円上回りました。
また、ホタテは天然30万8000トン、養殖12万6000トンと回復傾向にありますが、コンブは過去最低の07年よりは回復したものの、1万9766トンと依然として2万トンを割り込むレベルにあります。

60歳以上が4割を占める漁業就労者

――今年度の見通しは。
桜庭 昨年度は燃油高騰対策でしたが、今年度、道漁連として取り組まなければならないのは、魚価・流通対策だと認識しています。
本道の漁業は輸出の拡大によって魚価の安定を図ってきました。しかし、世界的な経済危機の中で、円高による輸出の停滞が長期化した場合、国内市場におけ る需給バランスが崩れることも予想されます。そもそも国内市場は、景気の深刻な悪化から需要の低迷と量販店や外食産業による低価格志向はますます拡大する 傾向にあり、魚価が生産コストを大きく割り込むことも懸念されている状況。こうしたことから国産水産物の安定供給と産地販売の強化を図り、漁業者の手取り を確保することが重要です。
漁業経営の安定を図るためには、流通環境の激変に対する緩和措置として、国の抜本的かつ総合的な魚価・流通対策が不可欠です。国に対する支援要請とあわ せ、国内外の需給動向を十分に勘案した中で状況変化に相応し、浜と一体となって進めてきた各種流通対策をさらに拡充強化していきます。
――国への支援要請は行われているんですか。
桜庭 6月18日の全道の組合長会議で流通対策についての特別決議を採択しました。7月1日には本道選出の自民党代議士のみなさんに、その日の朝、自民党の本部で代議士会を開いていただき、漁協の代表者ら約20人でその決議を実行していただけるようお願いに行ってきました。
その足で農林水産省に向かい、事務次官をはじめ水産庁長官、各課の課長などにも集まっていただいて、そこでも強く要請してきたところです。
i7?  ――手応えはどうでした。
桜庭 一堂に会してくれて話を聞いてくれたという姿勢は、それなりに重く受け止めてくれたと感じています。いずれにせよ、お金のかかること。水産庁にしても、財務省をいかに説得するかというところがあるのではないでしょうか。
国にはもう一点、強くお願いしてきたことがあります。それは経営安定対策。収入が安定しないと後継者も育たない。漁業就労者は過去20年間で1万人減少 し、現在の組合員数は2万人を切っています。漁協の合併も進み、20年前は136あった漁協が、いまでは機船3漁協を含む74漁協とほぼ半減しました。し かも組合員の4割は60歳以上。まさに日本社会の縮図といってもいい状況です。しかし、漁業収入が安定すれば、おのずから後継者は集まってくると思いま す。
――まったく漁業と関係なかった人が漁師になりたいといっても、それはむずかしいのでは。
桜庭 その人の取り組む姿勢だと思いますよ。どんな職業でも一生懸命やれば道は開けます。後継者の足りない漁協では人を募集しているところもある。しかし、なかなか定着しない。やはり収入が安定しないというのは要因の1つにあげられるのだろうと思います。
かつて漁業は「3K」とか「5K」とか言われていましたが、いまはそんなことありません。漁業環境はずいぶんと変わりました。以前なら朝の3時、4時から漁に出ましたが、いまは船が速い。朝6時くらいのスタートです。機械化されて重いものを持つこともありませんよ。

北海道産の天然魚は海外で大人気

――食料自給率の問題からしても、国は北海道の水産を重要視していると思うのですが。
桜庭 われわれも強くそこをアピールしています。北海道の漁業生産量は全国の4分の1を占めているん です。世界の人口は増え続け、食料危機が現実化を帯びてきている。食料の安全保障という観点からも、自給率向上が急務となっている中、水産タンパク資源の 供給基地として北海道漁業の果たすべき役割は極めて重要です。
――ただ、日本全体としては魚離れが進んでいるといわれています。
桜庭 総理府の家計調査年報を見ると、おそらくさばく前の魚の消費が少なくなってきているということ だと思います。実際にはヘルシーな食品ということで魚は見直され、刺身とかすしとか総菜とか、加工されたものは健康志向で伸びています。道漁連には魚を加 工する直営工場などのグループ会社を持っていますが、骨なしとか皮なしの商品が売れています。ちょっと食べさせ方を変えるだけで、もっと食べてもらえる。 いかに消費してもらうか。そういう役目もわれわれにはあります。
――円高で厳しいという話でしたが、輸出の現状は。
桜庭 輸出量は過去10年で2倍以上に急増していますが、昨年は前述の通り大きく減少しました。ここにきて少し回復しています。
輸出の割合が高い魚種は、07年度実績ですが、秋サケ36%、ホタテ31%、スケソウ53%。600億円くらいの魚が輸出され、世界が北海道の魚を食べているという時代です。
秋サケは中国に輸出していますが、中国人が食べるのではなく、骨を1本1本抜いて食べやすくして欧米にいっている。逆に日本人は、海外で養殖された輸入のサケを食べているというねじれ現象が起こっている。
――変ですよね。やはり価格の問題でしょうか。
桜庭 安定して入ってくるとか、色がよくて脂が乗っているとか。でもあの色は着色料入りの餌を食べさ せて、日本人の好みに合うようにつくられているようです。養殖は病気との戦い。欧米の天然志向も強く、秋サケは“ワイルドサーモン”として広く食べられて います。北海道の魚は天然のものばかりだから人気があるんです。

日本の漁業は北海道があってこそ

――資源管理の現状は。
桜庭 たとえばサケは毎年同じ数量の稚魚を放流しますが、年によって漁獲量はぜんぜん違います。やは り時々の環境に左右されるんだと思いますが、そういう意味では環境保全もこれからは大きな課題になってきます。道漁連の中にも環境部という部署がありま す。いかに環境に対して敏感に取り組んでいくかが試されています。
――環境への取り組みは。
桜庭 「魚付林」という言葉があるように、やはり植樹です。いまどの川を見ても雨が降るとすぐ土砂が 流れ込む。森林の伐採で山が荒れているのでしょう。川はサケにとっても非常に大切だし、川から流れてくる栄養素というのは貝にもコンブにも重要です。コン ブのいいところは川がいいからだとも言われます。まさに山と川と海は一体です。各漁協の女性部は山も川も海も100年前の姿に戻そうと、ひたむきに植樹を しています。
――本当の意味で水産資源を守るためには漁連だけの取り組みでは限界があります。山や川を守るためにはムダな開発は即刻やめてもらわないといけません。
桜庭 いまは川の工事をするにしても、漁業者も自然保護の人たちも敏感です。なかなか簡単にはできない。いかに環境を壊さないようにやるかというのが、だんだんと行きわたっているんだと思います。
――上川管内下川町に計画されているサンルダムについて、道漁連も当初は建設に反対だったのでは。
桜庭 主体となるのは地元の北るもい漁協です。道漁連はあくまで地元の考えを支援するということ。今回は北るもい漁協が建設に同意した。その意志は道漁連として尊重します。
――本当に将来禍根を残さないか、もっと広い視野で考えないと水産資源は守れないのでは。
桜庭 確かに、部分的なことでは環境問題は解決できるものではないと思う。
――他の水産物の獲れ方はどうですか。獲れなくなったものは。
桜庭 最近というわけではないですが、イワシですね。昔は道東を主体に相当量の水揚げがありました。
――逆に最近獲れだしたのがニシンですね。
桜庭 そうですね。群来も見られたというのですから、久々の明るい話題です。あれも稚魚の放流事業のたまものでしょう。
――流氷の接岸が少なくなっていますが、漁獲量に影響はありますか。
桜庭 私もオホーツクの斜里第一漁協ですから、流氷の接岸が少なくなってきているという実感はある。ただ漁獲量との相関は正直なところわかりません。
――なかなか厳しいお話も多かったように思いますが、浜の状況はどうですか。
桜庭 確かに漁業を取り巻く環境は厳しいところもあるけれど、そんなことには負けない。浜は元気いっぱいでやっています。
大きな船で遠洋に魚を獲りに行くなんて時代はとっくに終わっているんです。沿岸で、あるいは少し沖合で魚を獲って、それを国民に供給する。北海道の漁業 がダメになったら、日本の漁業がダメになる。そういう意味では、国は漁業に対する支援策をきちんとしなければ、今後将来的に魚が食べられなくなります。
われわれは漁業者の所得補償を求めているわけではない。漁業という産業が産業として自立できる応援をしてほしいだけです。基本は生産振興に投資をして資 源を増やしてもらうとか、その結果として漁業者の収入が増えるというのが国民的にも支持されると思う。税金をもらって生計を立てていると言われては威張れ ないもの(笑)。

=ききて/鈴木正紀=