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Interview

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札幌に研修会、北海道の将棋界を盛り上げる掲載号:2020年2月

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佐藤康光 日本将棋連盟会長

日本将棋連盟は目下、札幌に研修会を設立するべく動いている。発足すれば東京より東側では初。福岡に次いで5番目となる。来札した佐藤康光会長に研修会設立の狙いのほか、近年の将棋ブームについて話を聞いた。

将棋を通じてお子さんの成長に貢献

――北海道との縁は。

佐藤 北海道に初めて来たのは30年前、20歳の時だと思います。王位戦7番勝負の第2局で登別温泉の滝乃家さんで谷川浩司王位と対局をおこないました。

その後もいくつかのタイトル戦を北海道で指しています。長い歴史のある「さっぽろ東急将棋まつり」にも何度かお邪魔させていただいていますから、来道回数はかなりあると思います。

――北海道の食べ物で好きなものはありますか。

佐藤 お寿司、ジンギスカンなど何でもおいしいですよね。基本的に私は食の好き嫌いがありません。昔はナスが苦手でしたが、弟子入りした後、師匠から「苦手をつくってはいけない」と言われて食べるようになり、自然と苦手意識もなくなりました。

――さて日本将棋連盟は現在、札幌に研修会を設立することを計画しています。まず研修会について教えてください。

佐藤 プロ棋士を目指す養成機関として奨励会があります。研修会には棋士を志すお子さんもいますし、女流棋士の資格を得る仕組みとしての機能も果たしています。ただ、奨励会の下部組織というわけではありません。

将棋を通じた、お子さんの精神修養や健全育成の貢献を目指しています。

――将棋は「負けました」と自ら認めなければならない競技です。人生の中で負ける機会は何度もあります。ある意味、訓練に。

佐藤 負けを認めなければならない競技は珍しいと思います。そもそも将棋は偶然が入る余地の非常に少ないゲームで、負けの原因は自分自身にあるケースがほとんどです。

どんなに強いプロ棋士であってもずっと勝ち続けることはありません。必ず負けがやって来ます。最初は負けを受け入れることが難しいお子さんもいらっしゃいますが、次第に自分を律するようになっていきます。

そうした経験を積み、将棋が上達していく。と同時に、将棋以外の部分でも成長を促すきっかけになると考えています。

――東京、大阪以外では名古屋、福岡に研修会があり、新しく発足した福岡からは、すでに女流棋士も誕生しました。いつ頃から札幌の話があったのですか。

佐藤 東京より東に研修会がなく、以前から構想として浮上したことがあったと聞いています。

北海道出身の現役棋士も数多くおりますし、その中には屋敷伸之さんや広瀬章人さんのようなトップ棋士もいます。

――広瀬先生の竜王防衛がならなかったのは、残念でした。

佐藤 広瀬さんはタイトル戦の常連になっており、直近では藤井聡太さんに勝って挑戦者になった王将戦を控えています。

――研修会は月2回ペースで開かれ、プロ棋士が指導されると聞きました。

佐藤 道内出身の複数の棋士にご協力をお願いしており、前向きなご回答をいただいています。

――研修会が発足すればプロ棋士の来道機会が増え、自然と道内の将棋ファンと接する機会も増えるのでは。

佐藤 北海道に在住している女流棋士がおり、現在も各種のイベントでプロ棋士と接する機会はありますが、多くなっていくとは思います。

そもそも北海道は古くは福井資明先生が全道で普及に尽くされ、もともと将棋が盛んな地域です。研修会の設立を機に、さらに将棋への関心が広がればありがたいですね。

――準備状況は。

佐藤 北海道支部連合会を始め、地元の方々と相談をしながら準備を進めています。今年10月のスタートを予定しているところです。

――福岡の研修会では地元企業が会場を提供するなど、支援をしていると聞きました。

佐藤 ご存じのように将棋の歴史は古く、日本の伝統文化の側面もあります。また、取った駒を使えるというルールは、世界的に見ても特徴あるゲームです。

近年はプロ棋士への注目度がとても高まっており、さまざまなメディアで取り上げられています。ぜひ、北海道の企業のみなさまと一緒に将棋界を盛り上げていきたいですし、ご協力をお願いしたい。

ブームの背景にネットとメディアの発達

――近年の将棋ブームをどう見ていますか。

佐藤 背景にはメディアの発達があると思います。また、記録の面でも羽生善治さんの永世7冠、藤井聡太さんの29連勝記録など、話題が多かったですからね。

――最近では木村一基先生の最年長初タイトル記録も話題になりました。

佐藤 そうですね。北海道新聞さまなどで主催する王位戦で初のタイトルを取られました。46歳3カ月でした。これまでの最年長記録は有吉道夫九段の37歳6カ月でしたので大幅な更新です。木村さんは何度もタイトルに挑戦されており、あと1勝で手に届くという時もありました。

25歳~35歳の若手棋士が強いですが、いまの将棋界は各世代が活躍している印象です。

――メディアの発達というお話がありました。「ニコニコ動画」などで対局中継が始まったのはいつ頃からなんでしょうか。

佐藤 正確にはわかりませんが、8年ぐらい前でしょうか。「ニコニコ動画」だけでなく、「AbemaTV」など、さまざまな新しいメディアで対局の中継が増えました。しかもライブで観れなくても、後から好きな時にスマホなどで観ることもできます。

スマホで将棋アプリを楽しむファンも確実に増えています。私自身、電車の中でお見かけする機会がありました。

そういった将棋を指す環境の変化も大きい。昔は近くに相手がいないと指せませんでしたから。インターネットの発展は、近年の将棋熱の高まりに大きな影響を及ばしていると思います。

――佐藤会長ご自身は人気の対局アプリ「将棋ウォーズ」をやったことはありますか。

佐藤 知り合いがやっているのを横で観戦したことはあります。「将棋ウォーズ」だけでなく、「将棋倶楽部24」で腕を磨かれるファンも多い。

――指して将棋を楽しむだけでなく、「観る将」というジャンルも生まれています。

佐藤 棋士が昼食で食べる将棋メシが大変注目されたり、対局中の15時のおやつに関心が寄せられたり、さまざまな切り口で、将棋に興味を持たれる方がいらっしゃいます。

――ちなみに佐藤会長の定番の将棋メシは。

佐藤 最近はカレーですね。カレーの棋士が多いと思いますよ。森内俊之さんが有名ですね。

――15時のおやつは。

佐藤 果物が多いと思います。対局には最近、バナナとみかんを持っていきます。それからお茶2種類と炭酸飲料。荷物の重さでは、私が棋士の中で一番かもしれません(笑)

――小型の空気清浄機を対局室に持ち込む棋士もいるそうですね。

佐藤 棋士は、自分にとって一番いい環境で対局に臨みたいと考えますから。

――インターネットの発展というお話がありました。自身のSNSで情報発信をしている棋士もいます。

佐藤 若手を中心にSNSを活用している棋士が多いと思います。

――将棋系YouTuberの折田翔吾さんが目下、プロ編入試験に挑戦をされていますが、プロ棋士の中にもご自身のチャンネルを開設し、配信をされている方もいます。

佐藤 私自身はおこなっておりませんが、そうした形でも、将棋の普及に取り組むことができる時代になっています。

意外に近い棋士とファンの距離

――SNSの内容は多岐にわたります。対局の予定や将棋イベントの告知だけでなく、日常の様子をアップしている棋士もいます。

佐藤 さまざまな世界にプロは存在しますが、棋士とファンの距離は意外に近い。比較的、身近な存在として感じていただいていると思います。

例えばタイトルの就位式などでは、ファンも気軽に棋士と写真撮影などをおこうなうこともできます。

――2017年に札幌で「将棋の日」が開催された時、前夜祭では佐藤天彦名人(当時)の前に写真撮影を希望する若い女性ファンの列ができていました。

佐藤 若くて強いスター棋士が増えています。タイトルホルダーだけみても、豊島将之さん(竜王・名人)、永瀬拓矢さん(叡王・王座)がいます。

――ところで戦法や戦型の流行の流れが最近、早い印象があります。なぜでしょうか。

佐藤 流行が早くなった明確な理由はきっとあるのでしょうが、わかりません。ただ、AIの影響は大きいでしょうね。

現役プロ棋士の中で、AIを搭載した将棋ソフトを研究に使っていない人はおそらくいないでしょう。どれだけ活用しているかは、それぞれの棋士によって異なるでしょうが……

――佐藤会長は将棋ソフトは。

佐藤 私は割合で表現するなら、5%ぐらいしか使っていません。自分が対局した将棋の中盤以降を分析する程度です。

もともと他の人が言っていた手を指すのは好きではないタイプです。将棋ソフトが見つけた手はなおさら指す気になりません。

――最後にあらためて札幌の研修会についてひと言、お願いします。 

佐藤 さきほど藤井聡太さんの話題が出ましたが、彼の出身地・愛知県は非常に将棋が盛んな地域で、指導員の資格を持つアマチュアの愛好家も全国で1番多い。そうした土壌が、藤井さんというスターを生んだ一因とも考えられます。

札幌の研修会を地元のみなさまと一緒に盛り上げ、北海道から“第2の藤井聡太さん”のような新たなスター棋士の誕生を期待したいと思います。

=ききて/野口晋一=