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Interview

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札医大、ニプロが再生医療で
日本初の「再生医療等製品」
掲載号:2017年2月

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塚本泰司 札幌医科大学学長・理事長

札幌医科大学とニプロが共同開発を進めてきた「再生医療等製品」が、再生医療の世界で大きな話題になっている。ニプロの研究開発センターもオープンした。札幌医科大学の学長に就任して8カ月余、塚本泰司氏にご登場願った。

10年後、20年後に花咲く研究の種を

塚本泰司氏、1949年2月生まれ。旭川市出身、札幌医科大学医学部卒。

医学博士であり、また経営学修士でもあるというちょっと変わった経歴の持ち主である。

2013年3月、定年1年前に札幌医科大学教授(泌尿器科学講座)を退職した後、慶應義塾大学大学院経営管理研究科へ入学、2年間の修士課程を終えているからだ。

16年4月1日、母校の札幌医科大学学長兼理事長に就任した。

◇    ◇

――定年前に教授を辞めて、畑違いの慶應大学の大学院に行ったのは。

塚本 これまで長い間やってきたので、違うことをやるのもいいんじゃないかなと。新しい開業の形をつくってみるのも面白いかもしれないということも、頭の片隅にありました。

たとえば、今だったら診療所を構えて患者さんが来るのを待っていますが、それも一つですが、北海道の地域医療を多少考えると役に立つのなら、こちらから出向くというのも一つの手だなと思いました。

札幌で診療所を構えていて、何人かで外来もやって、残りの医者1人は、交代交代で地方へ行って、戻ってくる。そういうことも可能かなと。

――それが母校の学長になられた。

塚本 学長はまったく想定外のことでした。人生って考えた通りにいかないという典型です。

――学長に就任して間もなく1年になります。2年目に向けての抱負を。

塚本 2年目はやはり、基礎研究や臨床研究をどう発展させていくかということに関して、体制固めをしようと思っています。組織や人員配置など、具体的に検討しているところです。

基礎研究、臨床研究というのは大学の使命です。

願わくば10年後、20年後に花が咲くような研究の種を今のうちに撒くことができればと考えていて、研究がやりやすい環境を整えていきたい。

患者自身の幹細胞を培養して本人に戻す

――研究といえば、札幌医大ではニプロと特許ライセンス契約を結んで「再生医療等製品」の事業化を進めてきました。再生医療の分野では国内初ということで、非常に注目されています。脳梗塞や脊髄損傷などの患者さんを救うものだそうですが、再生医療等製品ということをわかりやすくご説明ください。

塚本 これは、脳梗塞や脊髄損傷の患者さん自身の骨髄から細胞を取り出して、それを体外で培養して本人に戻すというものです。

骨髄の中にはいろんな能力を発揮できる細胞があります。その中の間葉系という系統の細胞で、神経や血管などに分化する能力を持った細胞があって、それを幹細胞と言います。

その骨髄間葉系幹細胞を取り出して、培養して神経を再生させるような能力を持った細胞をつくって、それを静脈から点滴で本人に戻します。

いまは脊髄損傷の人の治験(臨床試験)をおこなっていますが、有効性が高く、安全性も確認されていることで、16年2月に、厚生労働省から「先駆け審査指定制度」の対象に指定していただきました。

――先駆け審査というのは……

塚本 普通は、治験薬が医薬品として認可されるまでには、治験の第Ⅰ相で安全性を確認し、第Ⅱ相で安全性と効果を確認して、第Ⅲ相でたくさんの患者さんで効果を確認することになっています。

それが、有効性が高いということで、薬としての承認に関する審査期間が大幅に短縮されるという、審査で優先的な取り扱いの対象となったということです。

“脊髄損傷・寝たきりゼロ”を目指す

――ニプロと組むことになったいきさつは。

塚本 この研究は神経再生医療学部門の本望修教授が、20年ぐらいかけて基礎研究から長い間やってきたものです。

そこで条件に合うような培養器材をつくってもらうなど、ニプロにはいろいろな面で協力をいただいてきました。そして、4年前から本格的に共同で開発するということになりました。

14年には札幌医大が保有する特許についてニプロと特許ライセンス契約を締結し、ニプロが札幌医大の隣接地に8階建ての「再生医療研究開発センター」を建設することになり、それがいよいよオープンの運びとなったわけです。

文部科学省、厚生労働省はもとより、北海道と札幌市からも協力・支援をいただきました。産・学・官の協力が非常にうまくいった例だと思っています。

――本格的な治療が始まるのはいつ頃ですか。

塚本 まず、ニプロによる薬事承認申請、製造業許可申請などが必要になります。薬品ですから普通の薬品の申請と同じです。

製造業としてのレギュレーションを全部クリアしなくてはならない。クリアすれば治療薬ができるということですが、すぐには保険診療にはならないので、まだ一般の患者さんには使えないということです。

――保険がきくようになるのはいつ頃ですか。

塚本 治験のデータをもとに企業が薬事承認申請し、承認を得た後になります。審査にどれぐらいかかるかはわかりませんが、われわれとしてはできるだけ早く患者さんにこの治療を届けたいと思ってはいるのですが。

――日本で初めてというのは。

塚本 再生医療はいろんな分野がありますが、一部の神経疾患に対する機能回復が見られ、有効性があるとされたのは初めてのことです。

いまiPS細胞とかいろいろありますが、まだ全容が明らかになっていない。

そういう意味で、実際に患者さんに投与してみて、これだけのデータを出している。こういう治療の中では、札幌医大が1番進んでいるということです。

――すごいことですね。

塚本 すごいことなのですよ。

この方法の大きなメリットの1つは、本人の細胞を使っているということです。本人から取り出して本人に返すわけですから害がない。

われわれが目標としているのは〝脊損寝たきりゼロ〟ということです。

脊髄損傷の患者さんが、この細胞治療である程度日常生活が可能になり、社会復帰ができるようにと。

――脳梗塞の治療も同じですか。

塚本 同じです。患者さんの幹細胞を培養して、静脈からの点滴注射で戻すと、脊髄損傷の場合は損傷されているところにその細胞が集まる。

脳の場合は脳梗塞のところに細胞が集まるのです。

――がんワクチンでも先駆的な治験が進められているそうですね。

塚本 難治がんの代表例ともいえる進行膵臓がんに対して、鳥越俊彦教授が開発した「サバイビン2B」というがんペプチドワクチンによる治験が始まっています。

膵臓がんは、がんの死亡原因の第5位になっていて、発見から5年以上生存する人は10%未満です。

特有の初期症状といったものがなく、約8割もの症例がステージⅣの進行がんで見つかります。

ですから、化学療法(抗がん剤)も副作用の割には効果が薄く、放射線療法も効果が限られていて、有効な治療法が確立されていません。

ペプチドワクチン療法というのは、体に備わった免疫システムを利用して、がん細胞を排除させようとする治療法です。

すでに東京大学医科学研究所と協力して実施した第I相の治験では、約53%の症例で腫瘍の増大を抑制する効果が確認されました。13年から第Ⅱ相の治験に入っていますが、有効性を示す結果が出れば、製薬企業が引き継いで開発するそうです。

学生に地域医療マインドの醸成を

――地方の医師不足が深刻な問題になっています。札幌医大の取り組みを。

塚本 いろいろ手を打っていますが、1つの対策で全てを解決するのはなかなか難しいところがあります。

その1つは、大学の入学試験の方法の改善です。

現在の札幌医大の入学試験には、推薦入試と一般入試があって、推薦入試の方は「特別枠」と「地域枠」の2つに分かれています。

特別枠というのは、奨学金を貸与する代わりに、卒業後、9年間の地域医療従事が義務となっています。

地域枠は、初期臨床研修後、札幌医大の診療科に所属して、7年間の大学・北海道の地域医療に従事すること、が条件です。

推薦枠はいずれも北海道の高校出身者が対象です。

一方、一般入試枠の方は、従来からの一般枠のほかに、13年入学者から新たに「北海道医療枠」が設けられました。

北海道医療枠というのは、北海道の高校生でなくてもかまわないのですが、初期臨床研修後は、札幌医大の診療科に所属して、7年間の大学・北海道の地域医療に従事する、ということが条件です。

――そろそろ卒業生が出る頃では。

塚本 奨学金を貸与する特別推薦枠の学生が14年3月に卒業し、今年(16年)研修が終わって一般病院で働き出しました。今年は7人だったのですが、来年(17年)は13人です。特別推薦枠は15人定数ですから10年続くと150人出る計算になります。

北海道の高校生の方が、北海道に定着する率が高いということで、入学者に占める道内出身者の比率を上げようというのが、われわれのコンセプトです。

――札幌医大の学生の道内、道外の比率は。

塚本 一番少ないときは一般入試では50 %を割っていた。これはちょっと少なすぎるということで、前述のようなことをやった結果、16年度は入学者に占める北海道出身者の割合が8割ぐらいに増加しました。

――今は北海道公立大学法人ですが、以前は、札幌医大は道立大学なのだから、卒業生は何年かは地方に行かなければならないという〝しばり〟をかけたらいい、という意見がありました。

塚本 そういうことはよく言われました。

しかしそれは職業選択の自由の建前から、できないのです。

大学としては、地域で実習をするなどして、地域医療マインドの醸成を図ることに力を入れています。

今も1学年から3学年まで、根釧地区、留萌地区、利尻地区、黒松内町などでは地域医療実習などをやり、また道南、日高、空知、十勝地方の19カ所では、医学概論・医療総論・実習をやっています。

このような実習を通して、地域で医療をおこなうということはどういうことかを、いろいろ学んでもらい地域に貢献できる人材を育成し、北海道の地域医療を盛り上げていきたいと考えています。

――ありがとうございました。

=ききて/干場一之=