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Interview

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日本はチェルノブイリからまったく学んでいない掲載号:2011年11月

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横路孝弘 衆議院議長

 横路孝弘衆院議長は9月上旬、チェルノブイリ原発を視察した。そこには原発事故対応で教訓とすべき事例が数多く存在した。だが、原発安全神話に凝り固まっていた日本は、チェルノブイリから何も学んでこなかったという。

万が一を想定しなければ対応できぬ

i2――9月4日から11日まで、旧ソ連のウクライナを公式訪問した際、チェルノブイリを視察していますね。実際に現地を見て、どのように感じましたか。
横路 チェルノブイリの原発事故の資料をよくみてみると、日本の対応は「あれは技術が違うんだ。ソ連の技術だから、ああいうことが起きた。まあ昔の出来事であって、日本ではああいうことは起きない」という感じでいたわけですね。
だから、事故が起きた後にどうするかということもきちんと考えていなかった。そりゃそうですね、事故を想定していないのだから、事故が起きた後のことも想定していない。
チェルノブイリでは事故発生の次の日に住民を避難させている。福島とチェルノブイリでは事故そのものの形態は違うのだけれども、例えば避難をどうするか、どのくらいの範囲で問題が起きているか、食品の問題、つまり牛乳、牛肉、野菜の汚染をどうするかなど、事故後の対応で参考になる事柄はいっぱいあった。
事故後、しばらくたってウクライナ、隣のベラルーシでは、子どもたちの甲状腺がんが見つかってくるなどの健康問題も発生しています。
また、10年たってチェルノブイリから100キロ離れた地点で汚染度がひどい地域が見つかり、そこを避難地域にしたりしています。
i3こういった経緯経過を、東京電力をはじめ日本の電力会社、あるいは当時は通産省や科学技術庁ですが、そういった役所、そして政府の危機管理室がちゃんと掌握していれば、少なくともその後の対応はもっと的確に迅速にできたと思います。
私が知事になって泊原発が稼働したのですが、そのときに避難訓練をやると言ったら、通産省と科学技術庁から猛烈に反発されました。「安全だと言っているのに、道が避難訓練をやるというのはどういうことなんだ」とね。一方、反対運動をしている人たちからも、「チェルノブイリのような事故が起きたら、避難訓練なんてやっても意味がない」と批判されました。
しかし、避難訓練はやはりやってよかった。保健所にヨードがない、消防に放射線の防護服がない、風向きによっては逃げるところもない、こういうことがわかったんですよ。だから、その対応を取ることができたのです。
こういうこともわかりました。北海道は防寒対策で二重窓になっています。広報車を走らせても、避難指示が聞こえないんです。それで防災無線を設置したのです。
こういった事故想定をおこなう枠組みができていないから、結局、チェルノブイリの教訓、とくに事故後の対応というものが、日本では生かされてこなかった。健康管理と汚染の防除という点で、日本はチェルノブイリに学ぶことがあると思います。
i4――チェルノブイリの現状はどのようなものなのですか。
横路 ウクライナの首都キエフからチェルノブイリは車で2時間くらい(約100キロ)のところにあります。チェルノブイリの周囲30キロ圏内は立ち入り禁止、許可証がなければ入れません。4号機で事故が起きたのは1986年4月26日ですが、2号機は91年、1号機は96年、3号機は2000年11月まで動かしていました。しかし、国際社会から「いろいろとバックアップするから原発はもうやめなさい」と言われて運転を停止しました。

チェルノブイリは死のまちだった

横路 チェルノブイリに行ってみると、30キロ圏内には人が住んでおらず、墓標が立っていて、100ぐらいの町や村の名前が書いてありました。また、4号機から4?500メートル離れたところに、いろいろな説明を受ける場所がありますが、そこの放射線量は6?7マイクロシーベルトでした。
そのときに「歩くのはコンクリートで覆われたところだけで、草むらには絶対に入るな」と言われました。そこから10分くらいのところに、大きなアパートや劇場もあった、5万人が住んでいたプリピャチというまちがありました。事故後25年たって行ってみると、そのまちの広場はご覧の通り(写真)草ボウボウ。100年は住めないそうです。まさにチェルノブイリ一帯は、死のまちです。
ただ、チェルノブイリの近くには作業員のための宿舎があり、働く時間などを制限しながら交代で作業をしています。
また、事故原発を覆った石棺が劣化してきており、新しい覆いが必要になっています。国際社会もおカネを出し合って協力していこうとしています。
大使館で話を聞くと、日本の原発推進派、いわゆる〝原子力村〟の人々は、どうもチェルノブイリには行ってないようですね。キエフまでは行くけれども、チェルノブイリの現場は見ていないようです。原発反対の人たち、学者や医者は行っているようですね。
また、私たちがチェルノブイリを訪れたとき、道路をイノシシが横切りましたが、ここの森は汚染されているのでイノシシも食べられないし、キノコも食べられない。そのかわり、捕獲されることがないので動物天国になっています。
――日本の原発はどうすべきだと考えますか。
横路 問題は日本のエネルギー政策をどうするかです。いま54機の原発のうち、動いているのは11機です。(電気が足りなくなると)あんなに世の中が騒いでいたのに、11機で足りているんですね。そのうえ、東京は自動販売機などの節電を元に戻しました。いままでが電力の使いすぎだったんですよ。オール電化住宅とかね、あれは電気が止まったら機能不全に陥ってしまう、そういうものを電力会社が盛んにPRしていた。電力会社が電力の消費を推進し、そして原子力が必要だと言ってきたのです。
そこで、これから原発をどうするかですが、私の考えでは新規は認めません。現状で全電力に占める原発のウエートは十数%ですよ。
この間、それをどうやってカバーしてきたかといえば、1つは節電です。とくに東京は人々の生活から企業も変わったわけですね。企業は残業をなくし社員を帰す。子どもたちはお父さんと遊ぶことができて喜んでますよ。会話も成り立つしね。平日に休んで土日に働くなど、仕事のシフトも工夫しています。  また、自家発電とか、民間の新規参入の電気事業者がいるわけですね。この人たちの発電は大口事業者にだけ売電が認められています。東京の霞が関の官庁は、経済産業省も含めほとんどが東京電力の電気を使っていません。東電を使っているのは、国会と防衛省だけです。入札すると東電より3割くらい安いんですよ。
これがもっと自由化が進むと北欧諸国のように、自分で電気を選べるようになります。原子力のエネルギー、風力や太陽光などからね。どちらかといえば自然エネルギーのほうが、原子力よりもいまは高めです。でも、需要者が自分はどの電力がいいか選択できるようになれば、いろんな形での電力供給の仕組みが増えてきます。例えば、メガソーラーは北海道でもいくつかの企業が参入しようとしています。
そうすると、ほとんど完成している2機をどうするかという問題はありますが、新規の原発を認めず、40年以上たった古い原発から廃棄していけます。
それから危ない地域にある原発をやめる。地震学会も改めて議論をしてみると、新たに危ない立地の原発がでてきているようですからね。
このようにすれば、約40年かけて原発はなくなり、いまのそういう議論からいえば泊原発3号機が最後の原発となります。

核廃棄物処理に不安抱える原発

――発の何が問題なのですか。
横路 使用済み燃料の処分が決まっていないことです。  アメリカは1950年代から調べてきて、ガラスの固化体という形でステンレスの容器に入れ、1000年もたせる。それを岩盤に投じて1万年間、水に接しさせないという方法を考えた。水に接すると放射性物質が漏れて、人間社会にくる。でも、プルトニウム239の半減期は2万4000年ですよ。アメリカも一度は処分地を1カ所に絞ったのだが、オバマ大統領が白紙に戻して、これから100年間管理し、その間に処分の方法・場所を決めることにしました。
処分地を決めたのはスウェーデンとフィンランドです。古い数億年動いてない地層があるので、そこに500メートルくらい坑道を掘り、廃棄する。しかし、管理はしなければなりません。その期間は約10万年だそうです。「100000万年後の安全」というフィンランドのドキュメンタリー映画をご覧になるといいですよ。
幌延問題でアメリカに行ったときも、向こうの人間が言っていたのは、水に接しない地層がもしあったとしても、後の人がそこに行かないようにするにはどうしたらいいのか。地下に資源のあるところは不可。海や川に近いところもダメ。幌延の地層はダメですよ――というものでした。1万年後、2万年後の人間とは言葉が通じないかも知れない。だから、そのための表示方法の研究までやっていたのです。
結局原発の問題というのは、処分の方法が決まらないままに世界中でドンドン増やしていったら、間違いというものは起こり得るので、本当に人類が滅びてしまう危険性はあるということなのです。そういう危険性があるものでいいのか、それが問われている。だから、いま議論が必要なのです。
原発の運転が安全だとしても、核廃棄物の後始末はどうするのか。「トイレなきマンション」という言葉が前からあったけれども、まさにその問題にいま世界が直面しているのです。これは曖昧にできない問題です。
――エネルギー供給はどうすればいいのですか。
横路 当面は火力発電(ガス発電が望ましい)でつなぎ、そして再生エネルギー中心にしていくしかない。デンマークでは2050年に、原子力も石炭や石油のような化石燃料もすべてやめて、自然エネルギーでやっていくということを決めています。
今度の福島の原発事故で問題なのは、地震の危険性を想定しなかったということです。津波だって2008年に検討をしながら、東電は対応をしなかった。しかも、衆院の特別委員会が福島第1原発の事故時の手順書を資料請求したら東電はほとんど黒塗りで提出してきた。これは本当にけしからんことです。ああいう事故を起こしたのですから、東電には責任があります。もっときちんとした対応をしなければなりませんよ。

=ききて/酒井雅広=