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Interview

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新幹線札幌延伸”北海道のここがダメ”
石井晴夫東洋大学教授に聞く
掲載号:2010年10月号

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石井晴夫 公益事業学会会長(東洋大学教授)

整備新幹線の未着工区間をめぐる動きが活発化しているが、北海道新幹線札幌延伸は北陸に後れをとっているようだ。北海道の運動はどこがダメなのか。交通問題の専門家である石井晴夫氏に忌憚のない意見を聞いた。

南東北・北関東との連携を考慮

--------北海道新幹線の札幌延伸は、建設費等の投資に対して、どのくらいの経済効果が見込めますか。
石井 整備新幹線は5線あり、未着工の区間は、新函館ー札幌(211キロ)、北陸新幹線の金沢ー敦賀 (113キロ)、九州新幹線長崎ルートの諫早ー長崎(21キロ)です。この3区間の整備効果はそれぞれ異なっています。また、地元の試算と国の試算は若干 乖離(かいり)しています。北海道新幹線の札幌までの延伸による効果は、北海道新幹線建設促進期成会によると、1400億円という試算になっています。就 業機会人数は1万2000人程度増加すると予測しています。
北海道新幹線に関する経済計算をまだやっていませんので、具体的な数字を言うわけにはいきませんが、私は運輸調査局の主任研究員を長い間やって大学に 移ってきたので一応、この分野の専門家の1人です。新幹線に関しても地域経済モデルにあわせて、費用便益分析(B/C)や費用対効果(VFM=Value For Money)など、経済計算をわれわれエコノミストがやってきました。そういう目で見ると、北海道新幹線の札幌延伸は、かなりの効果があることは間違いあ りません。
--------航空機との競争に勝てるのですか。
石井 新幹線というのは新たな路線で、原則として高架などによって、平面交差はしないまったく新しい 線路です。したがって、具体的に言ってスピードアップが図れます。北海道新幹線の最高速度は時速360キロ。現在の東北新幹線の最高時速は275キロです が、新函館までも360キロですし、「新青森に行く途中の一部も360キロにしたい」とJR東日本は言っています。
そうすると東京から札幌まで4時間で行きます。これは画期的なことです。
在来線の普通の鉄道のイメージで新幹線を考えてはダメなのです。新幹線は特別な鉄道なのです。そのことを念頭に置いて考えなければなりません。
i6?  新幹線による拠点と拠点との間の移動には、ものすごい効果があります。東京から仙台、盛岡、青森、函館、札幌の間には中核都市がいっぱいあります。例えば、宇都宮、郡山、福島などです。このへんのニーズの掘り起こしを行うポテンシャルが非常に高い。
栃木県や埼玉県の人は、北海道に行くのには羽田空港を利用しますが、羽田に行くまでに2時間前後かかり、空港で1時間待って、1時間35分かけて新千歳 に行き、札幌に着くまでまた1時間かかります。これはロスが大きいですよね。アクセスを考えれば、北関東のお客さんはほとんど新幹線を利用すると思いま す。
よくマスコミは、「北海道新幹線は、仙台以北までは航空機への対抗力がある」と言いますが、私はそうは思わない。栃木以北は北海道新幹線ができれば、新幹線に一挙に客が流れると予測しています。
東海道新幹線の関係もそうなのですが、「4時間を超えるとお客は航空機に転移する」と言われています。距離にすると600キロくらいですね。しかし、北 海道新幹線の場合は距離が非常に長いので、間にある中核市や中小都市の経済力発展の起爆剤にもなります。後背地も非常に広い。経済波及効果がある地域が、 北海道単体ではないのです。北関東や南東北というエリアを北海道との関係で考えていくことが重要です。  そのことを北海道の方々はなかなかお気づきになっていないと思います。
北海道新幹線札幌延伸の経済効果を1400億円と地元では見積もっていますが、私はそれ以上に大きいと思います。

着工の優先順位は北陸が上だが…

--------しかし、整備新幹線の未着工区間で、札幌延伸の優先順位は低いのが現状だと思いますが…
石井 北陸新幹線の優先順位は高いと思いますね。なぜかと言いますと、東海道新幹線で東京から大阪に 行くのと、北陸新幹線・北陸線で行くのと、営業距離はほとんど変わらないのです。両線の沿線人口も同じくらいです。経済効果は人口比でよくみますが、それ を当てはめても、北陸新幹線の経済波及効果、プライオリティー(優先順位)が一番高い。
しかし、一方で長崎ルートの諫早ー長崎間の21キロは経済効果が少ない。経済効果は、貨幣評価でどのくらい商工業の出荷額が高くなるのか、就業人口が増 えるのか、時間がどのくらい短縮できるのかなどで測られます。長崎ルートは新幹線をつくっても21分しか短縮できないのです。
ところが、北海道新幹線の札幌延伸は時間短縮効果から見ると圧倒的です。未着工区間は211キロもありますから。優先順位は、人口密度から見ると北陸新幹線になりますが、北海道新幹線の経済効果もなかなかのものです。
--------今後、北海道は何をすべきだとお考えですか。
石井 7月21日の新幹線問題調整会議では東大の井堀利宏教授が、政府の試算を引用して「(北海道新 幹線札幌延伸は)極めて投資効果が低い」とおっしゃっていました。確かにそうなのですが、それは後背地ですとか、誘発効果、転移、そして北海道新幹線が北 関東―南東北に影響を及ぼす可能性があるのか、などをあまり考慮していません。それを勘案すると、北海道新幹線の札幌延伸の経済効果は非常に高いと思いま す。
i7?  ですから、北海道はこういったことをしっかりと計測する必要があります。もっと面を広くした直接効果、間接効果を早く試算して国に要望書を出すことが必要です。いまは道内の沿線の直接効果しか見ていない。極めて限定的です。
旭川ですとか、稚内、北見、帯広、釧路など、道北、道東エリアを見たときに、新幹線効果はもっともっと広がります。東京の役人や政治家は「人なんかいな い原野を走らせて、空気を運んでどうするんだ」と言いますが、極めて認識が誤っています。北海道新幹線に対してもっと現実的な認識を持たなければいけませ ん。
新幹線はいままでの鉄道のイメージでは計り知れないのです。駅勢圏(駅を利用する人が存在する範囲)という言葉があります。通常は駅を中心に半径2キロくらいです。他方、新幹線の場合は10キロから20キロです。そこまで新幹線の効果は大きいのです。
ですから、新幹線を核にした道内づくりを考える必要があります。ただ、道民のみなさんもまだイメージが全然わいてこないと思います。だから議論がまった く見えてこない。ということは、裏付けのある陳情・要望がないということなんですね。新幹線についてはもっと本質的な議論をすべきだと思います。
新幹線ができることによって、影の部分、マイナス効果もあるのです。1番の大きな問題は、並行在来線問題です。また、札幌一極集中がさらに進む可能性が あります。おそらく5年くらいはストロー効果で札幌にさらに集中します。ところが、5年が経過したあとは、周辺の都市もうるおってきます。これはいままで の新幹線の長野、盛岡もそうなんです。ターミナル効果が出て盛岡は、岩手県の中心の大都市になってきています。長野もそうです。今度は青森でしばらくはス トロー効果が発揮されると考えられます。それでも新函館が平成27年に開業するまでです。それまでの間に青森県が新幹線を核にした地域づくりをいかにして 行うかです。
その後は函館に集中します。大変な経済効果が期待できます。並行在来線問題も新函館までならほとんど問題がありません。
--------新函館から函館まではちょっと距離がありますが、それでもお客は函館に来るのですか。
石井 来るんですよ。北海道内の旅行というのは、ほとんどバスです。道内のバス会社は観光バスのノウ ハウをものすごくたくさん持っています。今度、新函館が道内観光のバスの拠点になります。ただし、旧函館市街は衰退します。だから、そうならないためにい かに観光客をまち場に引きつけるかが肝要です。ここが知恵の出しどころです。人はいままでよりもたくさん来るんです。
新幹線はオンタイム、高速、そして安定走行。欠航がない。冬も強い。軌道に消雪機が付くので除雪も必要ありません。50センチくらいの降雪なら全然問題がありません。だからコスト的にもいいんですよ。

早急に北海道全体で議論を

--------沿線人口が少なく、トンネルと橋ばかりの北回りルートというのは、合理的なんでしょうかね。
石井 南回りだと千歳、苫小牧、登別、室蘭、伊達などの主要都市があり、JR北海道の幹線になっています。それを経営分離するわけにはいきませんよ。
また、ほとんどの新幹線の列車は新函館の次は札幌まで止まりません。しかし、その間に1時間に1本でも各駅停車を走らせれば、それはものすごく活用され ます。あとは活用の仕方なんですよ。それは知恵を出してやればいいんですよ。例えば、長野新幹線の佐久は最初、新幹線が止まらなかった。そこで利用客を増 やすために接続する小梅線にハイブリッド列車を走らせ、近隣の清里などの魅力を増し、一方、佐久市は一大ショッピングモールをつくるなど、商業施設の誘致 を積極的にやりました。いまではみんな佐久に止まります。
一方、せっかく駅ができても活用されていない例もいっぱいあります。そういうところは、まちづくりのプロデューサーにいい人がいませんね。
北海道新幹線の札幌延伸については、道内道外から多角的に知恵を出し合って、早急に議論をする必要があります。新函館駅開通は平成27年、5年後なんて すぐですよ。とりあえずはターミナルとなる新函館まで来たお客さんをどうやって上(北)に運ぶかです。そして札幌までの未着工区間の予算をつけてもらうよ うにしなければなりません。そのときには、いま1・1とか1・2とか言われているB/Cを3とか4にしなければならない。経済波及効果があることをしっか り示す必要があります。
--------北海道には知恵がない?
石井 ないのは経験です。まだ北海道には新幹線が走っていないんですから。経験がないからわからない のです。整備新幹線をつくるためには5つの原則があります。1.安定的な財源見通しの確保2.収支採算性3.投資効果が大きいかどうか4.営業主体である JRの同意5.並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意―です。このことについて道内の議論がいまもって欠けているように思います。
いますぐ北海道全体で、札幌延伸に向けた合意形成をしなければなりません。私で良ければいくらでもお手伝いをします。

=ききて/酒井雅広=