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Interview

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教育は人、世界からいい人材を集める掲載号:2013年5月

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森本正夫 北海学園理事長

 大学2校、高校2校を擁する〝道内私学の雄〟「北海学園」。そのトップを37年にわたって務めてきたのが森本正夫理事長だ。少子化、大学全入時代に入り、なぜ北海学園は成功したのか。森本理事長にズバリ聞いた。

15万人以上いる先輩たちに負けるな

――春は卒業、入学のシーズンです。お立場上、挨拶されることが多いと思います。学生にどんな言葉をかけられるのですか。
森本 当学校法人は、北海学園大学と北海商科大学の2つの大学、それに北海高校と北海学園札幌高校という2つの高校、計4つの学校を設置しています。それぞれの学校に学長や校長がいますので、若い人たちにメッセージを送ってくれます。私が挨拶するのは、私自身が学長を務める北海商科大学くらいなものです。
――4月3日が北海商科大学の入学式でしたね。
森本 その際、私は次のようなことを話しました。  1つは、大学は教育と同時に研究をするところであり、義務教育ではない。自分自身で自立的に勉強して研究もする。それが将来の力になる。いまやヒト・モノ・カネが国境を超えるグローバル社会。卒業後は「開拓者精神の涵養」という建学の精神にしたがって世界で活躍できる人材になってほしいということ。
もう1つは、日本の社会がかつてのような右肩上がりの経済構造にはなっておらず、さまざまな変化に対応するためには生涯学ぶ姿勢を忘れてはいけないということ。
そして最後に、いま日本が問われているのは教育の質、社会は質の高い能力を持った人材を求めている。北海学園の先輩たちは15万人以上いる。日本のみならず、世界でも活躍している。そんな先輩たちに負けないように頑張れと。
i2――森本さんは1976年から北海学園の理事長を務められています。実に37年です。教育にかける情熱がなければ、なかなか続かないのでは。
森本 私は37歳のとき北海学園大学の経済学部教授になりました。70年です。そのとき大学は財政的に大変な状況でした。行政からの補助も何もない時代です。高校2つは赤字、大学の規模は小さい。学園側は授業料を値上げしようとしたのですが、そのたびに大学紛争の火が燃え盛りました。
研究どころではありません。私は当時、評議員だったことから、学園側から学生との交渉に当たる専務理事に指名されました。もちろん、教壇に立ちながらです。学園側は学外の経済人や道庁OBなどに救援を求めていたようですが、すべて断られた。私の専務理事就任は、その末に回ってきた〝お鉢〟だと認識しています。私は柔道をしていて体格もよかったし、蹴っとばされても何されても大丈夫だからということだったと思います(笑)。
深刻な財政難で3カ月先の給料は払えないと言われ、財政基盤の立て直しは急務でした。いまでこそ当法人は200億円を超える財政規模になりましたが、当時、年間の収入が6億7000万円しかなかったのを記憶しています。なのに借金は12億円。経済人がこなかったのがわかります。
――森本さんとしては研究者でいたかった。
森本 そりゃあそうですよ。でも母体となる法人がつぶれてしまってはどうしようもない。私は戦争中に旧制中学に入って、終戦後、北海学園大学に入りました。私は農家の次男。兵隊に行けば帰ってこない前提です。それが終戦で生きてきた。そういう中で育っているから、勉強だけはしなければならない。そう思っていましたからね。
私自身、いい先生に恵まれたこともあったと思います。それで一生を大学で過ごすことになりました。
――43歳で理事長職に就く人はそうそういない。
森本 世襲制の私学以外ないと思います。
――いつまで教壇に立たれたのですか。
森本 大学院で72歳まで。本当は70歳で辞めたかったのですが、海外から留学生が来ていて、やはり学位を取らせて帰らせたい。そんなことで、途中で指導をやめるわけにもいかず72歳まで教えていました。
――理事長で教壇に立つというのはめずらしい。
森本 少ないと思います。だいたいは経済界の重鎮などを理事長に招くケースが大半です。私の強みは、教育を知っていることと、研究や視察で世界各地を回り、海外をよく知っていること。伝統的な経営ではなく、新しい教育展開、研究活動もできる体制へとどんどん変えていきましたから、中にいる教職員からするとプラスになったと思います。
――「森本ゼミ」も有名ですよね。
森本 ゼミ生はたくさんいます。なぜか道議会議員とか札幌市議会議員などに多い。別に、政治家になれと教えたことはないのですけど、首長になっている者も結構います。
学生もありきたりの講義より、ちょっと変わったくらいのほうが人気がある。私は教壇よりも学生たちの真ん中にいってしゃべるようなタイプですから、みんな面白がってゲラゲラ笑いながら聞いてくれました。当時、私が受け持ったのは600人くらい。週に2回は大教室でやっていました。
i3――教え子は何人。
森本 私は授業で必ず出席をとっていて、担当した学生数を調べたことがあります。すると2万1000人強。学生時代から北海学園に来て62年。うち教壇に立っていたのは五十数年。半世紀も教えていたらそれくらいの数になるんですね。  ですから悪いことできない。どこを歩いたって卒業生と会う。先般、文部科学省に行ったときのことです。突然「先生!」と言われてびっくりしました。最近は国家公務員になる卒業生も多いのです。
海外だって会いますよ。アメリカ、カナダ、ヨーロッパの田舎町でも。本当にびっくりです。私のような変わった教師は、子どもたちも覚えていてくれる。
彼らが、さまざまな分野で活躍してくれるのは本当にうれしいし、学園の財産です。
――昨年の衆院選では国会議員が2人も生まれた。
森本 船橋利実君と中村裕之君。中村君は経済だから教えています。船橋君は工学部だから直接教えてはいません。でも彼は北見出身。彼が北見市議選に出るとき北海学園北見大学にも挨拶にきた。その頃から応援しています。

大学でも着実に進んでいる国際化

――少子化時代に突入したにもかかわらず、受験生の数が増えるなど、学園の評価は上がっています。
森本 みなさん、そう言ってくださいます。学園が存亡の危機にあったとき、卒業生の名塩良一郎君をはじめ、多くのOBが応援してくれました。また、卒業生もたくさん採用してくれた。そうしたみなさんに助けられて、いまの学園があります。
みなさんからの評価の要因の1つは、就職率がいいということだと思います。道や札幌市など地方公務員の合格率が高い。うちの大学の各学部は、北海道大学の学部とほぼ同じくらいの規模ですが、北大は7割が道外に出てしまいます。逆にわれわれは7割が道内で就職している。地域社会への貢献度は、はるかに高いといえます。
2005年、法科大学院を開設しました。いま1学年15人しか学生はいませんが、一昨年は10人の司法試験合格者を出しました。国公立も含めて出身大学はバラバラで、東京から来ている人もいます。
5教科8科目の偏差値論ではなくて、努力をする人を育て、サポートし、社会に送り出すことが、何よりも重要なのだろうと思います。
――その意味では教える側の力が問われますね。
森本 教育は偶然の要素もあって、いい教員にめぐり合うと、その学生もまたいい指導者になってもらえることがあります。教員の採用に関しては、特定の大学にはこだわっていません。ただ、どうしても北大が中心になりますが、いまは海外からもきてもらっています。国内外を問わず、いい教員がいたら推薦してもらっています。
――外国人教員はどれくらいいるのですか。
森本 時期によって若干違いますが約20人でしょうか。道や札幌市が姉妹提携をしている地域の大学が中心です。カナダ、アメリカ、中国、韓国、モンゴルなどで、学生や教員を送り合う対等交流もやっています。大学も着実に国際化は進んでいます。

人間を人間とする教育をしてほしい

――昔から「企業は人なり」といいますが、やはりいい教育をしようと思えば、いいスタッフを集めなければならないですね。
森本 同じことをやっていても、やはりいい人がいるところのほうが強いと思います。教員が数百人規模の大学ですが、教員の採用には、いい人がいたら必ず本部に連絡をくれと言っています。教育は人ですから、いい人を集めることに努力は惜しみません。
――採用の極意のようなものはありますか。
森本 教員でも事務職員でも、私は全員と面接します。それもガラス張りの外から中が見える部屋を使って。そこで私は「人間を人間とする教育をしてほしい」と言います。みんなきょとんとする。日本は少子高齢化社会。子どもは大事です。その子どもたちが社会に出たとき、日本の人口が半減するような時代でも生き延びられるような、自立心、独立心を身につけさせること。それが人間を人間とするのを教育と思ってほしいということです。
そして、本学は私立だから教育については自由度がある。教科書だけではない。あなたの経験も含めて子どもたちを指導してほしいと伝えています。さらに本学で働きたいと思うなら、ぜひ定年まで勤めてくださいということも言います。そして、最後にこう聞きます。「われわれの仲間になりますか」と。
こうした採用方法が奏功したのか、おかげさまで教員は全国から、また海外からも来てくれるようになりました。入ってから待遇が違うと文句を言ってくる人もいないですし、途中で辞める人もいなくなりました。
とくに給料がいいわけではありません。人事院勧告の金額を準用し、大学は国立大学、高校は道立高校と同じ給与体系ですから。  確かに、子どもたちを育てるには時間がかかります。お金のことだけを考えるなら割に合わない仕事かもしれません。しかし、子どもが伸びていくのは本当にうれしいこと。教育者にとっては、それが誇りです。

=ききて/鈴木正紀=