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Interview

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揺れるTPP交渉 「自民党を信じている」掲載号:2014年3月

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飛田稔章 JA北海道中央会長

  現在進行中のTPP交渉は、農業に多大な影響を与えるといわれている。昨年末には減反政策を廃止する方針が打ち出されたほか、農協改革論も再び政府内で浮上している。農業に激変の予感が漂っているのだ。

消費者に向き合い改革をする

――政府の規制改革会議で農協改革が議題にされています。小泉政権時代と同様に、金融事業の分離などがいわれています。
飛田 農協が金融事業をやる必要がない、と主張する人がいるのは承知しています。例えばアメリカでは、日本のような総合型の農協はありません。
――たしかアメリカは作物ごとの農協ですよね。
飛田 ええ、それに加えて販売、購買に特化した農協があり、資金面は主に銀行が受け持っています。
しかし、日本では昔、農家は、銀行の融資先としては相手にされていませんでした。自然が相手の営みですから、工場のように決まったペースで決まった量を生産できません。思うような収量にならない場合もあるわけです。そのため、農業は銀行から脆弱な商売のように見なされ、融資先としては敬遠されてきたと思います。
農業者の互助組織である農協が、金融事業も担う必要性があったわけです。豊作で余裕が出たとき組合員は貯金をし、資金が足りないときは農協から融資を受ける。われわれの金融事業はあくまで農家を育て、守っていくためです。
――農協自体、金融事業を分離してしまうと立ちゆかなくなる、といった見方もある。
飛田 その議論は正しくはないでしょう。そもそも農協には農業者を守り、ひいては国の食料生産をしっかり維持するという使命があります。
しかし、日本の農業は現実として、オーストラリアのような農業輸出国と比較すると、規模では到底、勝ち目はありません。
そういう難しい状況の中でも、農家を守るためにどうするか、という全体的な視点で見なければいけないと思います。農協には、生産資材を提供する購買があり、営農指導をする部門があり、保険を担当する共済部門があり、そういった一連の仕組みの中に金融事業もあるわけです。
――道内では北海道銀行が農業融資に積極的に取り組んでいるといわれています。どのように評価されていますか。
飛田 個別の銀行について申し上げる立場にありませんが、農業に着目している銀行があることはもちろん知っています。どの金融機関もそうでしょうが、融資先を確保するために常に、いろいろな方策を打ち出しています。新たな融資分野として農業が注目されているのかもしれません。安全安心を軸にした日本農業を応援するという狙いもあるのでしょう。
i2――農協改革論の中には、「農業者の正組合員よりもそうではない准組合員のほうが多い」「都市近郊の組合員は作物ではなく、不動産で儲けている」といった意見があります。
飛田 農協は加入や脱退が自由です。貯金をしたい、あるいは生活物資を買いたいという理由で准組合員にならせてくれ、という人を拒絶はできません。実際、JA系のスーパーは組合員でない人も、たくさん利用をしています。
しかし、正組合員が農協の根幹であるという基本路線は今後も、堅持していかなければならない。特に北海道の場合、専業農家が大きな割合を占めています。
――JA全中の万歳章会長は、こうした農協改革論に対し、記者会見で「われわれは民間事業体であり、自ら改革するのが基本だ」と述べています。
飛田 私も、既存の方法や制度がすべてベターだという認識ではありません。変えるべき部分は変えていく。改革は常に考えていなければいけない。
――環境や状況の変化に合わせて。
飛田 ええ、私は46年間、農家をやっていますが、昔は収穫した作物を農協に出荷すればいい、という雰囲気でした。しかし、このごろは組合員自らが地元農協と一緒になって、消費者ニーズを意識して工夫をしている時代です。農協も変化しています。
北海道の場合は先ほど話したように主業農家が7割以上を占めます。ですから作物の生産性をどう高めるか。そして消費者にどう向き合っていくか。この2つのテーマを基本に、改革を重ねていくべきだと思います。
――農協改革論が再び浮上してくる背景には、改革が不十分だというイメージがあるのでは。
飛田 消費者、国民の声をしっかり受け止めていかなければならない。ただ、例えば北海道で言えば「ゆめぴりか」は今、おかげさまで非常に高い評価をいただいています。私は、これも改革への評価だと思いますよ。農業や食料生産の将来像といった根幹の議論をせずに、言葉だけの「改革」が独り歩きするようなことは、望ましくはありません。

減反見直しで農家はどうなる

――昨年12月、政府はいわゆる減反政策を廃止する方針を打ち出しました。長年続いてきた減反政策への評価をうかがいたい。
飛田 まず申し上げておきたいのは、北海道の農業者は、生産調整(減反)をずっと守ってきたということ。生産調整が始まる前は22万
ところが、守っている地域も、そうでないところも一律に削減の議論がされてしまう。北海道の農業者の一人として、そこには違和感を感じています。
ともかく主食米の消費量は年間約8万
――今回の制度変更は、主食米への補助金を減らして最終的にゼロにする一方で、飼料米への支援を厚くするというものですね。
飛田 ですから、水田をやめろという意味ではない。飼料米や加工米への移行を促しつつ、水田そのものは、守っていきましょうということです。
――今回の減反政策の見直しで、主食米の価格がどうなるのでしょうか。
飛田 農家の立場から言えば、あまりに安くなると経営していけないので、最低ラインは確保してほしい。もちろん販売価格だけでコストが補えるのことが望ましいが、それが難しいのなら政府の支援策が必要です。
――減反廃止でもコメ農家は経営が成り立ちますか。
飛田 主食米はとりあえず10アール当たりの支援が1万5000円から7500円になり、その一方で、例えば飼料米は専用品種で11俵以上とれると、最大13万円ぐらい支給されます。飼料米を生産するのか、それとも主食米にするかは、産地や個々の農家の判断になります。一概に農家への影響は言えません。とにかく最も大事なことは、おいしい米をつくり、消費者に提供するということ。この基本は変わりません。
――2018年度をメドに減反部分の補助金を廃止するとなっています。
飛田 そのように新聞、雑誌で報じられていますが、正確には、今後の経過を見ながら判断することになっています。
米は日本人の主食です。農家は食料生産の維持を通じて日本の食、国民の命を守る役割を担っていると言っても過言ではない。単純に経済だけで議論されることには、大きな違和感を感じざるを得ない。
なんでも安ければいい、というわけではないでしょう。安全・安心でおいしい米の生産体制をどう維持していくかが、最も重要なことです。
――政権交代もあったため、農業支援の制度がころころ変わりました。〝猫の目行政〟といっていいほどです。農家に戸惑いがあるのでは。
飛田 時の政権は、それぞれの考えで新たな制度を創設しているのでしょう。農家からすれば戸惑いは当然ありますが、制度が変わっても作物を育てる方法は変わりません。新しい仕組みの中から、利用できるものを賢く選択していくしかない。

TPPの国会決議を守れ

――TPPについてうかがいたい。現時点では2月下旬に閣僚会合が開かれる予定です。どのような現状なのでしょうか。
飛田 わかりませんよ。マスコミのほうが詳しいのではないですか。われわれには情報が入ってこない。
――本当にですか。
飛田 本当に知りません。マレーシア会合のときに日本も守秘義務契約にサインし、政府内のごく一部の人間しか情報を持っていないようです。
しかし、国のかたちを変えるともいわれるTPP交渉なのですから、本来はもっと情報開示をするべきですよ。アメリカでも同様の指摘をされています。交渉参加国で話し合い、情報開示をするよう変えるべきではないでしょうか。
――TPP容認派の中にも情報開示を主張する向きがあります。
飛田 われわれはTPP反対ですが、容認派も情報がないため、本当に国益につながるのか判断がつかないのでは。
いずれにせよ、農畜産物の重要5品目などの関税撤廃は絶対に許しません。この点は国会決議もされている。そもそも多くの国会議員がTPPに反対しているにもかかわらず、交渉を継続しようとすることに疑問を感じます。
――アメリカで実施される今年の中間選挙(11月)までにTPP交渉をまとめるといった話もあります。
飛田 そういった見解がまことしやかに流れること自体に強い不信感を覚えます。アメリカのためにTPP交渉をしているわけではないのですから。
――自民党のTPP対策委員会の西川公也委員長は昨年10月、重要5品目などを含め、関税区分の品目(タリフライン)ごとに、関税を撤廃した場合の影響を精査する方針を明らかにしました。国会決議が破られる心配はないですか。
飛田 西川委員長に聞くと、交渉の最終的な場面に入ったとき、タリフラインごとにどうなっているかを把握しておく必要がある、と説明していました。しかし、私は、国会決議を守る以上、検討をする必要もないと思います。
――率直に、自民党は信じられますか。
飛田 信じます。信じないと。ここまで来た以上は。
昨年11月、JA全中の万歳会長とともに安倍晋三総理に要請をおこないました。私は、200戸を超える道内の酪農家がTPPによる影響を心配し、生産を中止したことを申し上げました。
TPP交渉の行方はわかりませんが、今後も引き続き、道民、国民に対して問題点を訴えていきます。

=ききて/野口晋一=