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Interview

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強みの農林水産業と観光業をさらに伸ばそう!掲載号:2019年8月

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川村隆 東京電力ホールディングス会長 北海道倶楽部会長

「北海道倶楽部」は、首都圏在住の北海道を支援する人たちで組織される公益社団法人。今年4月、川村隆東京電力ホールディングス会長が同倶楽部会長に就任した。川村氏は函館生まれの札幌育ち。日本を代表する財界人が故郷への思いを明かした上で、道内経営者を叱咤激励する。

道内出身者は郷土への思いが強い

川村隆氏は1939年、函館市生まれ。北海道学芸大学(現・北海道教育大学)附属札幌小、同附属札幌中、札幌西高を経て、東京大学に進学。同大工学部電気工学科を卒業後、62年に日立製作所に入社。日立工場長、電力事業本部長、副社長などを務めた。

その後、日立マクセル会長などを経て2009年、日立製作所の執行役会長兼執行役社長に就任した。業績が悪化していた同社の経営を再建し、業績のV字回復を成し遂げた。

17年6月からは東京電力ホールディングス取締役会長となった。元経団連副会長。元ニトリホールディングス社外取締役。現・日立製作所名誉会長。著書には「ザ・ラストマン」(角川書店刊)などがある。以下、川村氏との一問一答。

   ◇    ◇   

――2019年4月1日付で、北海道倶楽部の会長に就任しました。トップの交代は18年ぶりとなります。まずは、北海道倶楽部の歴史を教えてください。

川村 北海道倶楽部は1927年(昭和2年)の創立です。すでに創立から92年たつ歴史ある会です。主とした創立者は、新渡戸稲造先生です。新渡戸先生は「武士道」の著者で大変有名な方です。札幌農学校にも通っていました。

北海道倶楽部は、本道に縁のある首都圏在住の北海道を支援する人たちが集まった組織で、当初は任意団体でした。66年の社団法人化、14年に公益社団法人に移行しました。

――どのような活動をおこなっているのでしょうか。

川村 端的に申し上げれば、首都圏から大好きな北海道を支援、盛り上げていこうという活動です。「北方領土返還」「地域活性化とふるさと納税等の推進」「北海道新幹線早期実現」を3大運動と位置づけ、活動してきました。

北海道新幹線の札幌延伸は、2030年度末の開業に向けて工事が進められている段階まで来ました。最後に残っている大きな課題は、北方領土問題です。大阪のG20サミット後におこなわれた日ロ首脳会談をみても、大変難しい情勢です。元島民を中心とした地元の方々は悔しい思いをされています。解決できるべく、われわれも取り組んでいきます。

――北海道倶楽部の会員数はどのくらいですか。

川村 約400人ですが、東京には姉妹のような友好団体があります。1つは「道生会」です。その名の通り北海道で生まれた人たちが集まる会です。会長は積水化学工業元社長(現・名誉顧問)の大久保尚武さん(岩見沢市出身)が務めています。大久保さんは大学の同期で、北海道倶楽部の副会長もお願いしております。

もう1つが「北海道ふるさと会連合会」です。「東京○○会」と呼ばれており、東京やその近郊に連絡事務所を構えています。同連合会はそうしたふるさと会で構成されており、その数は道内80余りの市町村になります。

毎年、秋口には東京の代々木公園で、「北海道産直フェア」を開催しています。大変なにぎわいをみせており、北海道倶楽部もイベントを後援し、ブースを展開しています。

北海道は距離的に遠いですし、九州の人たちも同様ですが、こうした郷土を思う集いを大切にします。道生会やふるさと会連合会とも連携しながら、北海道を盛り立てていきたいと考えています。

道の「応援団会議」をバックアップ

――今年4月、鈴木直道氏が新知事になりました。「ほっかいどう応援団会議」を創設して、北海道と縁のある在住経済人らから資金を集めるとしています。

川村 私は1年間だけ、ニトリホールディングスの社外取締役を務めました。その時、夕張市長だった鈴木直道知事が会社に来ていたので、時々、お会いしていました。

鈴木知事ははっきりモノを言うし、批判を承知の上で決断もできます。市長時代、JR北海道の「夕張支線」を廃止にしましたよね。

経営者の立場からすれば、本当に偉いなと。私も何度も経験しましたが、組織や企業を再生する時、痛みを伴うような難しい場面もあります。実は何を削減し、たたむのかを決めることが、大変な作業です。これがラストマン(最終責任者)の大きな役割でもあります。

夕張支線ができた頃は、高速道路もなければ車もありませんでした。だから鉄道は地域の足として大切だったんです。

いまは国が支援して、高速道路の整備が進められています。人があまり乗らなくなり、赤字の鉄路を昔と同じように残すというのは、無理筋だと思っています。

鈴木知事は夕張支線廃止と同時に、まちのためになることを、JR北海道に提案しました。なかなかたいした若者だと感じましたよ。

鈴木知事に近々お会いするので、「ほっかいどう応援団会議」の意義、思いについて、しっかりとお聞きしたい。その上で、北海道倶楽部として協力できることがあれば、バックアップしていきます。

日本一、誇れる面をさらに伸ばす

――東京から道内経済をどのように見ていますか。

川村 首都圏ではなく、北海道でなければできないという仕事が、各種産業を見渡しても、なかなか見つからないのが現状です。広大な土地があるということで、どんどん北海道に工場を誘致することは、たやすいことではありません。そうした中でも、農林水産業と観光業は、北海道に可能性が大いにあると考えています。

なんといっても、北海道は食糧自給率は200%です。日本全体の食糧自給率は40%くらいですからね。これほどの強みはありません。たとえば、AIを使った農業は、北海道にはピッタリでしょう。人手不足を解消しながら、大規模農業をおこなえるようになり、コストも下がり海外農産品に対抗できるような、競争力を身につけることが期待できます。

最近の気候も北海道に味方しているのではないでしょうか。北海道のコメだって本当に美味しくなりましたよね。品種改良などの努力だけではなく、気候の恩恵は相当にあると思います。いまや東京でも、「ゆめぴりか」がどんどん売られていて、北海道出身者としてもうれしいです。

水産業についても、栽培や養殖事業にもしっかり取り組む。いま、近畿大学がクロマグロの完全養殖に取り組んでいます。研究拠点としての立地を考えれば、北海道大学の水産学部の方がいいでしょう。津軽海峡を回遊しているマグロをとるだけではもったいない。

自分たちの弱い部分を補うことは大切ですが、それよりも、日本一、誇れる部分をもっともっと伸ばしていく。いま、北海道にはそうした気概が必要ではないでしょうか。自給率200%に満足せず、ぜひ300%を目指し、上乗せする100%分は、海外輸出向けとすることを目標としてもらいたい。

――観光についてはどうですか。

川村 私は専門家ではありませんが、観光はリピーターが必ず来るような方向を考えることが大切です。津軽海峡を渡れば、動物、植物の生態系も違うわけですよ。たとえば、そこに焦点をあてた周遊旅行を企画することもできます。北東北をセットにしたパッケージも考えられます。

企業を“筋肉質化”して成長させる

――最後に道内の経営者に向けて、メッセージをお願いいたします。

川村 日本経済はデフレを脱却しつつあります。とはいえ「温められたぬるい湯船につかっている」という状況です。これは決して好ましいことではありません。もっと厳しい風にさらされなければ、企業の成長は臨めません。私が伝えたいことは、「厳しい視点を折り混ぜていかなければ、企業は強くならない」ということです。

たとえば、資材調達する時、知り合いのところから買おう。ものづくりは仲間同士だけでやろうという考え方が強いと思います。それで未来永劫、一緒に成長できるのなら、こんなにすばらしいことはありませんが、いまの時代、全員顔見知り、仲良し倶楽部だけでは、商売ができない部分が強くなってきました。ときには、地元の付き合いのあるところと縁を切るような、苦渋の決断が必要になります。

そのことに北海道の経営者も気がついていると思います。しかし、人のつながりを意識して、なかなか非情な決断ができません。

多くの人口を抱える東京でも、企業、組織の“筋肉質化”を進めていこうとする流れです。効率化によって浮いた人員で、新事業に取り組む企業がほとんどです。いままでの仕事をきちんと守っていくだけでは、業績は右肩下がりになります。

少子高齢化が著しい地方の経営者には、なおさらそうした視点が必要ではないでしょうか。

――本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

=ききて/前田圭祐=