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Interview

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卒塾生の国会議員は、みんな中退者だ掲載号:2011年11月

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江口克彦 松下政経塾”生みの親”参議院議員

 これまでに53人の卒塾生を国会に送り込んでいる松下政経塾。その〝生みの親〟である江口克彦参議院議員(みんなの党)は怒り心頭だ。野田佳彦総理を始めとする同塾出身者に、政治家としての資質はあるのか。ズバリ聞いた。

野田総理の参議院 での答弁は20点だ

――なった参議院本会議での代表質問は強烈でした。野田佳彦総理も答えに窮していたという印象です。
江口 代表質問をしてほしいという話は4日前にありました。政策論については各政党、あるいは衆議院で渡辺喜美代表が質問しているので、私としては政治家にとって最も重要な政治理念と国家ビジョンについて質そうと思いました。
――野田総理とは浅からぬ因縁がありますね。
江口 彼はご承知の通り松下政経塾の出身です。私は松下電器産業(現パナソニック)に入社後、創業者・松下幸之助の秘書となり、政経塾の創設に深くかかわってきました。
――野田総理は松下政経塾の1期生ですが、江口さんが面接したそうですね。
江口 1期生の応募者は906人いました。そこから面接試験に進んだのは50人。5組10人ずつのグループに分けられ、その10人を2人の面接官で面接します。野田君のいたグループを面接したのが、私とウシオ電機の牛尾治朗会長でした。
i2――当時の野田さんについて、印象に残っていることはありますか。
江口 いかに自分が優秀かということをPRする受験生が多い中、野田君はこちらの質問に対し、かなり落ち着いて筋の通った答えを返してきました。また、こちらが冗談を言ったりすると、ニコッと笑って、かわいらしさもありました。たぶん彼は1軍入りするだろうと、牛尾さんと合格点をつけました。
――確かに1軍でプレーすることにはなりました。
江口 その意味では私たちの判断は間違ってはいなかった。しかし、4番バッターになるかどうかまでは、わかりませんでした。
――でも、4番になってしまった。
江口 私からすると4番はいかがなものかというのが率直な思い。4番にはなったけれど1割8分くらいの成績しか残せないのではないかと危惧しています。
――それにしても江口さんの質問は鋭かった。とくに税金のくだりです。塾主の松下さんは「政治家の使命はいかに税金を低く抑えるかにある」との考えです。それを理解しているなら増税を簡単に口にできないはず。それを口にするのであれば松下政経塾出身といってほしくない、中退というべきだと迫りました。
江口 が松下政経塾を出ていなかったら、松下の言葉を引用するということはありません。たまたま政経塾をつくった私と、政経塾を出た総理ですから、松下幸之助という共通項がある。そこから彼の政治理念、国家ビジョンを確認したいということと、一体どれだけ政経塾で松下の理念なり考え方なり哲学を学び取っているのか。そのあたりを確かめたくて、あのような質問になったのです。
――期待したような答弁はなかった。
江口 初めから期待していません。私の質問に対して、官僚は答えを書くことができない。官僚は松下の考えを知らないわけですから野田君に聞く。しかし、野田君も松下の思想を血肉にしているわけではない。頭で覚えたことは忘れていくから往生する。並大抵の理解では答えられないことばかりですから。
――首相の3つの条件についても聞いていましたね。
江口 松下は「首相たる者の3つの条件」を著書『私の夢・日本の夢 21世紀の日本』の中に記しています。この本は政経塾生の必読の書です。本の最後に「首相の演説」という項目がある。それが頭に入っていればすぐ答えられるのに、答えられなかった。私からすると、2度目の面接試験です。この人はどれだけ松下政経塾で勉強をしたのか。そして、自分自身で首相としてのあり方、哲学というものを考えているのか。
――点数は。
江口 ときの演説には44点をつけました。しかし、この間の参議院での答弁は20点というところです。まったく伸び悩むでしょう。これから自信を持って日本の政治に立ち向かうという力強さは出てくるとは思えません。
雄弁などじょうが無口などじょうになってしまいました。案の定、ぶら下がりにも答えません。彼は、余計なことは言わない、派手なことはしない、出過ぎない、でしゃばらない。もちろん、余計なことは言わなくていい。しかし、必要なことも言わないし、やるべきこともやらない。それがいまの野田君の状態。松下も今ごろ天上で「なにをやっているんだ」という思いでしょう。

野田内閣は〝中学校の生徒会内閣〟

――松下政経塾はこれまでに53人の卒塾生を国会に送り込み、現職は38人。人材輩出の機能を果たしていると思いますが、問題は人材の中身です。
江口 私がPHP総合研究所の社長として外から見ているときには、よくやっているなというイメージがありました。しかし、自分自身が国会議員になって内側から彼らを見ると、とても物足りないし、情けない。
なぜかというと、心魂かたむけて教え込んだはずの松下の考え方、哲学、人間観などが、微塵も感じられない言動があったり、あるいは松下が一番嫌っていた汚い金の集め方も平気でやっている。さらには、大企業〝民主党株式会社〟、大企業〝自民党株式会社〟の中で、出世争い、ポスト争いにうつつを抜かす姿を間近に見て、初めは驚き、近ごろは憤りに変わっているというのが偽らざる心境です。
――ひどいものですね。
江口 松下の教えを忘れるということだけではなく、もっと由々しきことは、自分の政治的信条ですら党内事情によって捨てていくということです。
野田君は、靖国神社は参拝すべきだと言っていた。それを参拝はしませんと言い出した。A級戦犯は戦犯でないと言っていたのに、それはそれで考えなければならないとも言った。反対だったはずの永住外国人参政権の問題も、慎重に検討しなければならないという発言に変わる。
外交の問題にしても、北方領土、尖閣列島、竹島と、彼はそれぞれ狡猾な諸外国と太刀打ちして、自分の政治的信念を貫くことができるのかどうか。北朝鮮の拉致を真正面から取り組むことができるのか。そういったことを考えると、野田君には自らの信念を貫くことができない弱さを感じざるを得ません。
私は、彼が一大臣で、総理が靖国に参拝すべきでないと言うのなら、主義を曲げるのもわかります。社長がだめだというのですから、専務である自分は会社の方針に従うのも致し方ないでしょう。しかし、野田君はいま社長です。自分が総理なのだから信念を貫けるじゃないですか。彼の父親は自衛隊です。もう20年も30年も前から、靖国神社は参拝すべきだと言っていた。それがこんな軟弱な政治姿勢なのです。
――そういう傾向は野田さんだけなのでしょうか。
江口 ほかの政経塾出身者も全員がそうですね。みんな中退者です。結局、彼らの中には日本がない。国家がないんですよ。あるのはポストであり、それぞれの党です。だから野田君も民主党代表選のときに「私は民主党が大好きです」なんて、あんなバカなことを言うわけです。代表になるということは総理になることです。あのとき彼が絶叫しなければならなかったのは「私は日本国民が大好きです」「私は日本が大好きです」、そして「民主党が大好きです」のはずです。
党内融和だけしか考えていないから仲よしクラブになってしまって「私は防衛問題には素人です」というような無責任な大臣ばかり選ぶことになる。
――いまの内閣を見ていると官僚内閣というか、財務省内閣にしか見えません。
江口 言ってみれば〝中学校の生徒会内閣〟なんですよ。中学生のような国会議員が国民に、あるいは海外に向かって話をしなければならないということになれば、官僚に頼らざるを得ない。言うなれば大人の官僚に手取り足取り教えてもらわなければならないということです。
こんな時期には減税だと思っていても、官僚に増税すべきですよと言われると、そうかと思ってしまう。官僚にしてみれば、赤子の手をひねるように政府関係者たちを操りきっている状態です。野田内閣などとは言えません。まさに官僚内閣であり霞が関内閣です。中にはパペット(操り人形)ではなく「ぱあ・ペット(まぬけな愛玩動物)内閣」だと言う人もいます。

存廃の岐路にある松下政経塾

――官僚が抵抗するところを、政治主導で克服していく人材をつくるのが松下政経塾なのでは。
江口 残念ながら、彼らは出世争いに明け暮れ、勉強をほとんどしていない。だから官僚を超えるような知識、知恵というものを身につけていません。民主党は脱官僚というが、私は超官僚でなければならないと思います。
――そういった超官僚の人材を輩出するための機能は果たせなかったと。
江口 5年間の政経塾生活で、とくに野田君もそうですが、芯を確立しなければならなかった。松下の理念であり哲学であり人間観を血肉にしていれば、芯ができていたはずです。
ただ彼らは私のように常に松下の近くにいたわけではないので、結局は松下の書いた本から学び取るということが多くなる。松下の本は中学生にもわかるような文章です。口癖が「中学生にもわかる文章を書け」でしたから。
塾生は成績優秀な人ばかりです。難解な経済書のようなものも読みこなす。ひるがえって松下の本は非常に簡単に読めます。だから「なんだ、こんなもんか」と1回読んで、理解したと思い込んでしまっているところがある。
しかし、松下の本は、難しいことを簡単に書いてあるからこそ、本当は行間を読まなければならない。文字の裏側を読まないといけない。でも彼らにはそんな能力はなかったんです。松下の思想、哲学を共有しなかったがゆえに、芯もできず、卒塾生はみんなバラバラになってしまった。
――松下幸之助さんは日本を何とかしなければという思いで政経塾をつくり、卒塾生はその場を与えられているにもかかわらず、なにもできていない。江口さんとしても忸怩たる思いがあるでしょうね。
江口 私からすると23年間、松下と朝昼晩、土日も、夏休みも、年末休みもなく、一緒に濃密な時間を過ごしてきた身です。そして、松下政経塾の準備には13年を費やしてきた。そういうことからすると、本当にこの著しい乖離はなんなのかという思いです。あまりにも松下の思想的レベルと違い過ぎる。
松下政経塾は今年で31年ですが、こんな現状ではやめてしまったほうがいいのかもしれません。いまや松下政経塾は単なるブランドになっていて、実際は政治家養成専門学校に過ぎないのですから。

=ききて/鈴木正紀=