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Interview

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北海道活性化のカギは苫東をスパークさせること掲載号:2010年10月号

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寺島実郎 日本総合研究所理事長

 夢の宝島、可能性の大地であるはずの北海道。現状ではあらゆる面で停滞している。自立する北海道へ変貌するためには何が必要なのか。空知管内沼田町出身、日本総合研究所理事長、多摩大学学長、三井物産戦略研究所会長などを務める寺島実郎氏がズバリ答える

どれだけ戦略的な意思を持つか

--------本日は「寺島文庫」におじゃまさせていただき有難うございます。昨年4月の開設時から、どんなところか興味がありました。
寺島 世田谷の書庫にある蔵書を都心に移し、若い人たちの研究会とか勉強会の“磁場”をつくろうと開 設しました。この建物は5階建て。4、5階が寺島文庫で私が所有する3万冊のうち1万7000冊を移動。主に社会科学系の文献が並んでいます。3階は多摩 大学のサテライトキャンパス。2階は事務所。1階には留学生を含む若い人たちの止まり木のようなカフェが10月にオープンする予定です。  --------寺島さんは現在、北海道銀行や北海道ガスの顧問、また(株)苫東の経営諮問委員会の委員長などを務められ、北海道との縁がより深まっていますね。
寺島 そういう意味でも故郷・北海道の活性化に責任意識が高まっています。
--------現状の北海道をどう見ていますか。
寺島 まず強調しておきたいのは、日本は極端なデフレで経済が低迷している感はあるものの、海外に目 を転じるとアジアのダイナミズムが吹き荒れている。このアジアダイナミズムをどう取り込み、どう向き合うか。これが北海道活性化の“いろは”であることだ けは間違いありません。アジアというと中国、韓国との連携がまず視野に入り、その力学をうまく利用しているのが九州。北海道はやはり至近距離にある極東ロ シアとの連携が重要です。
--------ただロシアとの間には先の大戦で拭いきれない不信感があります。
寺島 1945年8月9日のソ連対日参戦や北方領土問題などで、確かにわだかまりは存在しています。 一方でロシア側にも日本に対する不信感はある。たとえばロシア革命の頃にさかのぼる日本のシベリア出兵。日本人は忘却の彼方だけどロシア人は忘れていな い。相互不信はないなどとうつろなことを言うのではなく、それを解消していくためには、やはり両国で力を合わせたほうがいいという具体的な事例を積み上げ るしかありません。
i2--------極東ロシアはいま、天然ガスなどのエネルギーで注目されています。
寺島 ロシアは“エネルギーモノカルチャー”みたいな国で、石油、ガスの価格が高いと経済は発展する という特色を持っています。石油価格が30ドル台まで落ちるなど冷戦後の20年間は非常に苦しんできましたが、いま80ドル台をうかがうところまで上がっ てきて、それがロシア経済の追い風になっています。  いま日本の中東に対する石油の依存度は約9割。北海道にとってよく認識しておかなければならないことは、すでにサハリン開発、シベリアパイプラインなど が動き始めていて、もし予定通りこのプロジェクトが進んだならば、10年以内に中東への依存度は6割台に落ちてくるということ。中東に対する過剰な依存が 日本の不安定の1つのポイントだったけれども、ここにきてエネルギーにおけるロシアの持つ意味というのが急速に高まっています。そういう文脈において、北 東アジアにおけるロシア要素がどういうインパクトを持ってくるのか。北海道はしっかり視野に入れていかなければいけません。
その話からあえて踏み込むなら、ウラジオストクから新潟と富山に週に2便ずつ、ロシアの飛行機が就航しています。北海道も極東ロシアの都市に定期便を確 保する。できれば日本の航空会社で。そういうことを具体的な狙いを持って動いたほうがいい。そこからさまざまなプロジェクトが生まれてくる。私もウラジオ ストクの極東工科大学と室蘭工業大学の提携に動いたことがあります。両大学には相互補完的なところが非常に強い。たとえば室工大で開発した雪氷を使った保 冷・保存の技術などはロシアにとっても非常に重要です。国土が広大なロシアの流通において、物を腐らせない技術はものすごく重要になってきます。
次いでアメリカと、いわゆる大中華圏(中国・香港・シンガポール・台湾)の産業連携ゾーンを結ぶ物流は、鹿児島と上海は緯度がほぼ同じだから鹿児島の南 の太平洋上を船は航行しているだろうと思う人は多いけれども、実は日本海に入って津軽海峡を抜け、苫小牧の沖をアメリカに向かっている。そのほうが2日早 い。
i3--------そうなんですか。
寺島 ええ、北海道にとってはものすごく惜しいことです。つまりこの物流に接点を持ちたいが、それを とらえきれるだけの産業構造が北海道にはない。しかし、頑張りどころはここからで、いろいろな意味においてチャンスはあります。事実、まだ規模は小さいけ れどもバイオマスエタノールの生産など、苫東もいろいろなプロジェクトを努力して積み上げています。
北海道の場合、基盤産業として抱えている農業を、食との関係においてどういう産業にするのか。ここがリアリティーのある話としてものすごく重要になって くる。さらに極東ロシアとの関係、サハリンからのパイプラインをどの経路で引くのかという話も含めて、北海道がどれだけ戦略的な意思を持つかによって、北 海道という島の持つ意味が変わってきます。

決定的に欠けている構想力と行動力

--------食の話でいくと、日本の製品はどれくらい海外で売られているのか見当もつきません。
寺島 香港やシンガポールのスーパーマーケットに行くと、北海道の産品が山ほど売られています。それ は全部技術と結びついている。たとえば刺身の素材でも瞬間冷凍のような技術に支えられ、中東のアブダビで北海道産品のすしネタを、ほとんど築地でその日に 買ってきたのと変わらない鮮度で食べられる。いまの食というのは、いい食材ができるということだけではなく、いい鮮度のまま運びきる技術が求められている 部分もあります。
いずれにせよ高級な果物から高級なコメ、高級な魚介類を含めて、年々日本の食材が世界に出ているのは間違いありません。昨年、日本は6兆円、海外から食 べ物を買っています。一方、輸出は5000億円くらい。農業にしても水産業にしても、いつまでも守りの発想ではいけない。競争力イコール価格ばかりではあ りません。日本の食材は高いけれど安全でうまいというのが世界の評価です。だから北海道には大いに可能性がある。食材王国・北海道をアジアダイナミズムに どう結びつけるかということにかかっています。
--------北海道にはポテンシャルはあると言われ続けているのに、それを生かしきれていません。
寺島 何がポイントなのかというと、構想力と行動力。それが欠けています。どうしてそうなってしまっ たのか。中央依存、官依存で開発庁を窓口に中央からお金は回ってくるものだと思っているうちに、明治のころは札幌農学校を持ち出すまでもなく国際化の先頭 を切っていた島だったのに、いつの間にか一番後塵を拝するところになっている。ふるさとを思う気持ちとしては非常に残念です。
--------公共事業という名の麻薬に骨の髄まで毒されている感じです。官も民も。その意識を変えるにはどうしたらいいでしょう。
寺島 何と何をどうしなければいけないのかという構想をきちんと描ききる力が必要です。ものごとを進 めていくと必ず制約とか問題が出てきます。その壁を突き破っていく力というのが問われている。同時に大きな流れにするためには関門を次々と越えていくだけ の粘り強さも必要でしょう。

国境を越えた地域連携と産学の連携

--------これまでも北海道に対し、いろいろな提言、構想がありました。あとはやるだけなんですが、その一歩が踏み出せない。やはり“絶対にやりきるぞ”というリーダーがいないと、なかなか進まないのでは。
寺島 構想力を行動力に変えていくのは、それこそがリーダーシップ。時代がそういう人を呼ぶでしょうとしか言いようがない。
私はシリコンバレーやバルト海都市連合、南フランスからスペインに至るまでの地中海アーチなど、とにかく世界中の元気な地域を見て回っています。元気な 地域には共通項があります。それは2つ。1つは、国境を越えた地域連携。どんな地域でもうずくまっていたのではダメで、人材、カネ、技術などが国境を越 え、地域で連携して取り込んでいくという力がないと元気は出ません。
2つめは、世に言う産学連携です。いま北海道を活性化させようとすると先端的な技術がいる。少なくともこうした技術に関する的確な情報がいる。北海道は 意外なほどユニークな大学がたくさんあり、国公立だけでも北大、小樽商大、室蘭と北見に工業大学、畜産大学を持っているというのも珍しい。そういうアカデ ミズムを生かしきって進むというのが北海道の活路であって、いわゆる国境を越えた地域連携とアカデミズムの連携というキーワードなしには絶対に活力は高ま りません。私が日本中を歩いていて感じるのは地元中小企業経営者の後継者が多く所属するJCと、地場の大学准教授クラスの人たちが連携している地域は元気 だということ。謎を解く鍵はJCと准教授と言えます。
--------いまや日本に残された最大の財産、苫東を北海道の活性化に生かすには。
寺島 空港と港湾があれだけ近接している広大な産業立地地点など他にありません。しかも温暖化でみん な青息吐息で働いている中で、今や北海道は寒い地域でもなんでもない。これまでの話は全部苫東とつながっています。苫小牧の沖を米中物流の主力が通り、新 千歳から極東ロシアに向けていろいろな動きが出てきたなら、人流・物流を取り込む巨大な構想がスパークする。ただ苫東の構想に欠ける点にアメニティーの充 実があります。知的職業に携わる人を満足させるには衣食住、文化、娯楽の集積も必要です。たわいない話に聞こえるかもしれないが、私が言いたいのは苫東全 体の魅力をアメニティーまで含めてスパークさせないといけないということです。
--------北海道はいま道州制、一国二制度、独立というようなキーワードが飛び交っています。そうでもしない限り北海道の特性が生かせないのではないかという議論です。寺島さんはどの方向がいいと思いますか。
寺島 私は逆説的な表現として北海道独立論というのはある意味賛成で、それくらいの気概がないと中央 依存の体質から脱却できないだろうと思います。一方で、現在はネットワークの時代。独立なんて言ってみても極東アジアの中で北海道だけがポツンと繁栄を謳 歌できるわけもありません。
ネットワークということは、しなやかさであり相関するということです。現実のプロジェクトをやってみたら、アジアのさまざまな国との相互関係の中でしか方向性は組み立てられないということに瞬時に気がつくと思います。

=ききて/鈴木 正紀=