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Interview

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北海道教育大学新学長・蛇穴治夫にズバリ聞く〝新しい教員養成大学の姿〟掲載号:2015年11月

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蛇穴治夫 北海道教育大学学長

国のもとで、国立大学法人が改革の歩みを進める中、北海道教育大学は教員養成系大学としての存在意義を〝再定義〟するよう求められてきた。新学長に就任した蛇穴治夫氏に、北海道教育大学の今後のあり方を直撃した。

旭山動物園の教材活用に取り組む

蛇穴治夫氏は1956年、青森県弘前市生まれ。弘前高校から北海道大学理類に進み、86年大学院理学研究科博士後期課程修了。84年に北海道教育大学旭川分校(当時)へ教員として採用され、2005年に教育学部教授へ昇任。07年8月から同大学理事を8年間務め、今年6月の学長選考会議を経て、10月1日、学長に就任した。

――北海道大学では生物学、特にイトミミズの研究をされていました。
蛇穴 大学1年か2年のころに、動物発生学の講義を受けたのがきっかけでした。受精卵という1つの細胞が分裂して、多様な細胞を持つ個体ができ上がるという仕組みが興味深かった。修士課程でヤツメウナギなどの円口類、博士課程でイトミミズなどの環形動物の生殖細胞の分化を先生からテーマとして与えられて研究していました。
――北海道教育大学に採用後、旭川校で旭山動物園の教材活用に取り組んだ。
蛇穴 旭山動物園は、94年にエキノコックス症で動物が死ぬという事件があり、風評被害などを受けて来客がどん底まで落ち込んでいました。それを打開するための検討を重ねていて、その一環で動物園を活用した教育に力を入れようとしていたんです。当時の小菅正夫園長をはじめ園側と話し合い、小中学校の教材という視点から動物を見た時に、どう活用できるかを考えました。
――具体的には。
蛇穴 「旭山動物園教育研究会」を立ち上げて、会員の教員に動物園の活用についての具体例を紹介していきました。動物の足であれば、たとえばキリンは見かけ上、後ろ足のヒザが逆に曲がっているように見えます。でも実は、キリンにとってその部分はヒザじゃなくてカカト。要するに、カカトを浮かせて、指の先だけで立っていることになります。
学校教育の生物分野にはキーワードが2つあって、1つは共通性、もう1つは多様性を生んだ進化。脊椎動物は、カエルだろうがワニだろうが、すべて関節の曲がる向きは一緒です。そういう共通性を持ったまま、進化の段階で骨の長さなどの割合が変わっていきました。足の骨の形を見るだけで、1つの教材になるという例ですが、言われて初めて気づく教員のほうが、実は多いんです。
――それはなぜ。
蛇穴 そもそも理科が苦手な教員が多いんです。以前、小学校の教員に対してアンケートを取った際、生物系を含めて理科全般が苦手で、教えることに不安がある人の割合が7割くらいありました。中学校理科の先生も、大学では物理、化学、生物、地学と4つの分野があって、どれか1つしか専攻していないことが普通です。こうした取り組みの中で、教材を活用し、附属学校での研究授業を通じて学校教員に提案していくのも、教員養成大学の役割です。

教員養成改革を進めるため立候補

――本間謙二前学長の下で、07年から8年間にわたり大学理事を務めました。
蛇穴 本間前学長と一緒に仕事をしたのは、小中学校等の養成に特化した「教職大学院」を立ち上げるための検討部会が最初です。それをやり遂げたのが、理事として選任されたきっかけだったのかなと、個人的には思います。
――理事の任期は2年。4期にわたって理事に選ばれ続けたのはなぜだと思いますか。
蛇穴 理事は2年の任期が終わるころ、本間前学長に呼ばれて自己評価をします。それから学内の現状と問題について説明を受け、自分の見解を話します。学内の問題解決が遅れている部分をどう挽回するか、具体的な計画はどうか。この4期8年は、そうしたことの繰り返しでした。つまり2年ごとに、理事としての仕事が評価されたということだと思います。
――理事として、とくに注力した課題は。
蛇穴 最初に理事へ就任した際、私が学長から一番期待されていたのは「ゼロ免課程」という、教員免許の取得が必須ではない課程の改革でした。その課程を専攻する学生から、専門性を深めた勉強がしたいという声が多かった。でも当時はそれを学ぶ場所が学内になかったので、大学院の設置を目指したんです。
――でもそれはかなわなかった。
蛇穴 ゼロ免課程はもともと、学校教員の需要が減ってきた時期に、将来的に教員の需要が見込まれる時代が来ることを予測して設置されたもの。大学全体の定員を削らず、一定期間だけ教員免許取得者を減らすため、文部科学省が取った方策でした。でも、私が理事になったころはもうその時期は過ぎていて、18歳人口は今後減り続けていくばかりでした。
――ゼロ免課程自体の存在意義が問われた。
蛇穴 文科省は、ゼロ免課程に大学院をつくるという発想をそもそも持っていなかったんです。それが最終的にわかるまで、2年ほどかかりました。
――その後、函館・岩見沢の2校で新学科を設置しました。
蛇穴 14年度から函館校に「国際地域学科」、岩見沢校に「芸術・スポーツ文化学科」を設けました。正式な新学科を設置することで、将来的に大学院の創設も可能だと考えています。
――新学科の狙いはどこにあったのでしょうか。
蛇穴 たとえば岩見沢校の芸術・スポーツ文化学科に入学してくる学生は、全員が芸術家やアスリートになれるわけではありません。でも、その能力を生かす場所はいくらでもあると思っています。学生たちがそれぞれ大学で芸術やスポーツの技能を高めた上で、その能力をどう活用するかが問われています。
東日本大震災後、歌手や演奏家が被災地で歌や楽器を弾いて、現地の人たちを励ましていました。私たちが岩見沢校の新学科で目指すものは、自分の能力を生かす場所を見つけ、発揮できる人材の育成です。
――そのほか理事として取り組んできたことは。
蛇穴 13年から今年までの2年間は、大学の「ミッションの再定義」を進めました。大学の目指す方向性は、あくまでも教員養成系大学の中核的な存在であり続けること。そのための改革を実行しました。
――どのような改革を。
蛇穴 学校の現場で、子どもたちに身に付けさせなければならない力が、従来と変わってきています。基礎や基本の知識を身に付けさせるだけではなく、国際的な感覚や、身に付けた知識と技能の活用法も教えていく必要に迫られています。われわれはまず本学の学生に対して、知識を生かし、技能を活用する方法を指導する必要が出てきました。
たとえば「アクティブラーニング」という学習形態があります。聞くだけの講義ではなく、学生が自分で課題意識を持って、解決するためにどうしたらいいのかを考えてもらう。文献を調べ、現地調査をして解決させるというものです。大学に在学している学生たちにそうした力を付けさせ、具体的な実践力を磨いてもらいます。
――学長に立候補した理由は。
蛇穴 アクティブラーニング以外にも全部で12のテーマで改革を進めていたところで任期がきてしまいましたが、改革の責任者として、きちんと道筋をつけたかった。無責任に投げ出すことはできないという思いで、立候補を決めました。
――6月の学長選考会議を経て、学長に選任されました。ほかに2人の候補者がいた中で、選ばれた理由をご自身でどう考えますか。
蛇穴 選考会議に提出した調書や追加資料、それを見た大学教職員からの質問と回答、立会演説会や選考会議のメンバー全員による面接。それが学長選考のすべてです。あらかじめ、選考会議で「求められる学長像」というものが指針として決められていましたから、それに照らし合わせて判断されたということ。他の候補者の面接などは見られませんから、当然比較はできません。私自身は、理事としての具体的な実績と経験があって、学長像に照らした大学の今後の方向性、精神論的な部分を基にどうそれを実現するのか、具体策は演説や面接で話しています。それが最終的に評価されたと考えるしかないです。

権限が強いからこそ独裁はできない

――学長として取り組む課題は。
蛇穴 教員養成と地域人材養成、2つの柱に注力したいと考えています。個人的な意見ですが、教員養成学部は、理学部や文学部、経済学部などと比べて、どうしても下に見られる傾向があると思っています。別の大学の専門学部出身者が、教員になっているというのがその理由の1つです。中には、いつか自分の出身大学に戻ってバリバリ研究をしたい、という人もいると思うんです。でもそれでは、いつまでたっても教員養成学部がなんの学問をするところなのか、はっきりしない。そこを変えていきたい。
――そのために必要なことは。
蛇穴 教員養成という学問がいったいどんなもので、何を研究をするべきなのかを、学内で大いに話し合って理解し合うことが必要です。教員養成は「計画養成」という言葉があるくらい、国がその方針を握っているものです。でもわれわれも教育者としての常識を働かせて、どういう教員を養成する大学にしていくのかを常に考えていなくてはならない。その上で、地域に求められる人材を養成していきます。岩見沢校での芸術・スポーツ人材育成は、そうした考え方の中からできたものです。
――函館校の「国際地域学科」もその例。
蛇穴 函館には恵まれた観光資源があり、外国人観光客も多い。国際都市にしたいと函館市でも考えています。国際地域学科の「地域協働専攻」は、そうした地域の課題解決のために設置したもの。英語力をつける講義や外国人教師を含めたスタッフをそろえ、函館を含む道南地域で活躍できる人材を養成していきます。
――文科省が進める大学改革実行プランには「ガバナンスの強化」がうたわれており、その指針の下で国立大学の学長が学内に持つ権限は拡大しました。
蛇穴 その言葉に思い描くイメージは、人によって必ずしも一致しないと思いますが、独裁的な印象が強いのかとも思います。でも逆に、ガバナンスの強化をしてしまったがために、役員の責任の重さ、とりわけ学長の責任は格段に増しています。学長が最終的に何でも判断しなければいけなくなりました。もしそれが大学の存続を脅かすような判断であれば、やめなくてはいけないわけです。そういった状況下で、学長が独裁的に何でも決めていくことなんて、実はできません。責任が重いからこそ、いろいろな角度からの意見を取り入れ、すべて見渡した上で判断することが必要です。
――大学教員の意見を聞く場として、教育研究評議会があります。
蛇穴 物事を決める際は、必ずその方針を教育研究評議会に諮って、教員のみなさんと議論していく。これを一番大事にしていかなくてはいけない。私をはじめ、役員も教員経験者ですから、ある程度事情を理解しながら方針を決めています。でも現場ではまた違う事情もあります。役員側の考えに欠けている部分があれば、それを取り入れるつもりです。
――国立大学「法人」のトップとして、経営的な判断も求められます。
蛇穴 われわれが再定義したミッションは、文科省との約束ですから、達成しないと大学に交付される「運営費交付金」がつかなくなります。本学は年間予算の6割以上を交付金が占めていて、残りは学生納付金が3割と補助金。これに加えて、教員のみなさんが科学研究費を獲得した際、大学側に入る間接経費もあります。東京大学や京都大学などは間接経費だけで数十億円ありますが、われわれはそうはいかない。運営費交付金をいかに獲得するかです。
――北大などと違って、ものづくりや起業で稼ぐということも難しい。
蛇穴 通常は寄付に頼るしかありません。でも寄付を受けるためには、地域に貢献する必要があります。5キャンパスそれぞれ、特色を持った教員養成をしてきて、卒業生の多くは地元の教員になっています。それに、教員以外でも地元で就職する率が北大や小樽商科大学などに比べて高い。教員養成という学問を確立しつつ、各地域のために人材を養成する、これは他の大学にない強みになります。その強みを伸ばすことで、地域に〝いい大学だ〟と認めていただく。そうなって初めて「あの大学の学生のためだったら、お金を出して奨学金の足しにしてもらおう」となるはず。目指すところはそこなんです。

=ききて/清水=