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Interview

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北方領土2島返還なら
結ぶべきは“中間条約”だ
掲載号:2016年11月

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志位和夫 日本共産党委員長

昨年9月の安保法制採決後、野党勢力の中心にあったのは、明らかに日本共産党だった。同党を率いて16年目の志位和夫氏は、秋の臨時国会でも舌鋒鋭く政府を追及。野党共闘でも陰に日向に存在感を発揮している。

個人の尊厳を守るための市民運動だ

――野党勢力を結集する「国民連合政府」を提唱してから1年が過ぎました。

志位 昨年9月19日の安保法制成立後、その日の午後に日本共産党として中央委員会総会を開き「国民連合政府」を提唱しました。立憲主義を破壊する暴挙である安保法制、すなわち戦争法廃止のための呼びかけをおこないました。

この1年間を振り返ると、日本の政治で画期的な変化が起こっていると感じます。7月の参議院選挙では32の1人区のすべてで野党統一候補が実現しました。そしてそのうち28の選挙区で共闘効果がはっきり確認できて、11の選挙区では自民・公明の候補に勝利しました。野党プラス市民の候補が勝ったんです。共闘効果というのは、共闘した4党の比例票の合計よりも多くの票が入っている。無党派層なども含めて、一定の票を得た結果です。運動の第一歩としては、大きな成果が上がったと言っていいと考えています。ぜひ次のステップにつなげていきたいと考えています。

――SEALDsのような新しいスタイルの活動についてはどう評価しますか。

志位 「安保関連法に反対するママの会」、「安全保障関連法に反対する学者の会」のみなさんなど、市民の運動は今も広がっています。こうした運動がこれまでと違うのは、個人を単位としているところです。「今の日本の政治はおかしい、声を上げなくてはいけない」と、自分の頭で考えて行動している。そういう〝うねり〟が起こっている。戦後かつてない市民運動だと思います。

――それらの運動が広がった一方、主張の内容自体は従来と変わらなかったという声もあります。

志位 今回の運動は戦争法廃止、立憲主義を取り戻すという非常に明確な目標があります。その上で、どういう社会を構想するか。キーワードは「個人の尊厳」です。日本国憲法13条に「すべて国民は、個人として尊重される」とあります。

これが立憲主義の究極目標。つまり、国家権力が勝手に個人の尊厳を侵害するようなことを絶対にさせてはならないということなんです。

――個人の尊厳が脅かされようとしていると。

志位 戦争法廃止とセットで「立憲主義を取り戻そう」と訴えてきましたが、国民の「個人の尊厳が守られる社会をつくろう」という軸がそこから生まれました。人間らしく働ける雇用のルールをつくる。安心して子どもを預けられる認可保育所を増設する。保育士さんの給与の引き上げもやる。大学生に重い奨学金返済の負担を背負わせないよう給付制の奨学金制度をつくる。そうした政策につながった。今回の運動はそうした特徴は従来にない、新しいものだと考えています。

憲法に合わせ社会を変えるのが対案

――臨時国会が始まりました。北海道ではTPPについての関心が高い。

志位 私たちはTPP協定批准断固阻止で頑張ります。コメ、ムギ、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖という農産物の重要5項目は聖域にするという国会決議は全面的に破られています。

とくにコメについては、政府はこれまで輸入米はSBSと呼ばれる制度で国産米と同水準の販売価格で流通しているので、輸入米が増えても影響はないとしていました。でも実際は輸入米の価格が偽装され、60キロで最大3600円も安く流通していた問題があります。

先の国会質疑で取り上げ、徹底究明とTPPによる影響の試算を撤回することを求めましたが、政府は撤回しないという。こんな無責任な話はありません。

――アメリカ大統領選挙の真っ最中ですが、2人の候補ともTPPの現協定案には反対です。

志位 アメリカはTPP参加国のGDPの6割を占めていますから、アメリカが参加しないとそもそも発効しない。どういう見通しなのかと代表質問で聞きましたが、まともな回答は得られませんでした。

アメリカの民主、共和両党の立場は、現協定だと国益は守れないというもの。TPP自体から撤退を求めているわけではない。そこはよく見る必要がありますが、根底にはTPPが多国籍企業の儲けのために、各国の経済や各国の雇用、国民生活、これを犠牲にするという問題があります。民主党候補を争ったバーニー・サンダースさんは、まさにそれを言っていた。TPPと各国の国民の利益との矛盾がある。アメリカでもそうなのに、日本が急いで批准してどうするのかという話です。

――安倍晋三首相は憲法9条を含む改正について、憲法審査会での議論を各党に求めています。

志位 夏の参院選後に安倍首相は「いかにわが党の案をベースにしながら3分の2を形成するか。それが政治の技術だ」と言いました。「わが党の案」というのは自民党改憲草案です。この案は、憲法9条2項を全面削除して海外での武力の行使を無制限に可能にするものです。さらに「公益及び公の秩序」の名の下に、基本的人権の制約ができるというものです。立憲主義を全面否定するもので、憲法を憲法ではなくしてしまう、恐るべき代物です。

――先の国会代表質問でもその点を問われました。

志位 私は「憲法審査会では自民党改憲案をベースにするのが自民党の方針ですか」と聞きました。安倍首相はそれを否定しなかった。それどころか「ほかの党も案を出して議論しよう」と言いました。事実上、自民党改憲案が憲法審査会でのベースだと認めてしまったわけです。

憲法審査会は、名前こそ穏やかですけど、憲法を一般的に議論するのではなく、憲法改正案を発議するところです。憲法改正委員会なんですよ。そこで自民党改憲案をベースにした議論が始まったら、非常に危険な方向に行ってしまう。自民・公明の数の力で押し切られていく可能性も大いにあります。民進党を含め、4野党で一致して反対していくことが大切です。

――各党それぞれ憲法改正について意見があります。自民党案があったからこそ野党が一致できたのでは。

志位 われわれは現行憲法の全条項を守り、平和的民主的条項の完全実施を目指す、と党の綱領に書いています。これが対案です。つまり憲法という理想に向かって、日本の社会の現実、政治の現実を変えましょうという立場です。民進党はまた違った立場をお持ちかもしれない。そうだとしてもあの自民党改憲案をベースにした議論はできない点で一致しています。

――野党共闘は維持する。

志位 民進党が新体制になってから4野党で党首会談をしましたが、きたる衆議院総選挙でも、できる限り協力していこうと確認しました。今年5月に4野党で合意したものをあらためて確認したものです。具体的な協議を幹事長、書記局長レベルでやりましょうと。

――この1年の野党共闘は、各党が一致できるところを共産党が主体となって探し、調整、妥協に苦心した結果という印象です。

志位 私たちの基本的な考え方はもちろん訴えていきます。野党間で一致していない政策もありますから、それは共産党として訴えつつ、野党間で一致できる筋で協力する。野党共闘のために理想や政策を捨てる訳ではありません。根本目標は明示しつつ、それに向けての一歩にもなるという位置づけでやってきましたから。これに矛盾はないと考えています。

平和的に確定した国境を前提に交渉

――北方領土問題については、経済協力の見返りに歯舞・色丹の2島先行返還という観測があります。

志位 この問題を解決する上で一番重要なのは、歴史的、国際法的に道理のある旗を、日本が掲げて本格交渉しないと一歩も前進しないということです。

日本の戦後の領土は、連合国側で領土不拡大の大方針を明示した、1943年のカイロ宣言を基準にするべきです。45年のポツダム宣言でもその条項を引き継いでいます。つまり日本が侵略戦争で暴力を持って不当に奪った領土は返す必要がある。しかし、平和的な交渉によって決まった領土は連合国側に占有されるいわれはないんです。

日露間で平和的に確定した最後の国境は、1875年の樺太・千島交換条約です。樺太をロシアの領土とし、千島は日本の領土となりました。歯舞・色丹の2島は千島に属していない北海道の一部です。この線で交渉するのが、日本側として唯一道理があります。これを私たちは言い続けてきました。

ただし1945年のヤルタ協定で、ソ連のスターリンが千島の引き渡しを要求し、アメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相はソ連の対日参戦を条件に認めてしまいました。スターリンが、第2次世界大戦の戦後処理の大原則である領土不拡大という原則を破り、不当に覇権主義的な領土拡張をしたのが根本の問題です。これを是正することなく、51年のサンフランシスコ平和条約で千島の放棄を決めてしまった。日本政府は国後・択捉・歯舞・色丹の4島は「千島ではないから返せ」と主張してきましたが、歯舞・色丹はともかく、国後と択捉の2島は歴史上も千島に含まれる。国際的に通用しない議論をしたがために、70年たっても解決しなかった。樺太・千島交換条約まで立ち戻り、全千島は日本の領土だという立場で交渉をすべきです。

私が心配しているのは、そういう原則的な交渉をせず、2島返還でロシアと平和条約を結ぼうという動きがあることです。平和条約は、領土が最終的に確定されてしまうものです。千島返還の根拠を日本側が捨てることになる。2島先行返還はあり得る。でもそこで絶対に平和条約を結んではいけない。

――2島先行返還と平和条約は分けて考える。

志位 先行返還の場合は「中間条約」にすべきです。その後も千島の返還交渉ができますから。

ただ2島を返せ、でも平和条約は結ばず中間条約だと言えば、ロシアは絶対のまないと思います。だからこそ、原則に立ち返り「全千島を返せ」という交渉を正面からすべきです。そこから、国後・択捉を取り戻す道も見えてきます。

=ききて/清水大輔=