「情報を先取り、タブーに挑戦」を編集方針とし、生活者・企業経営者に
最新かつ有益な情報価値をご提供する、北海道の地域政治・経済誌

ロゴ

トップページ > インタビュー

Interview

このエントリーをはてなブックマークに追加

創業の志で変革期を乗り越える掲載号:2018年7月

photo

石井純二 北海道経済同友会代表幹事

北海道経済同友会の代表幹事に石井純二北洋銀行会長が就いた。道内経済の将来に警鐘を鳴らしてきた前任の横内龍三氏同様、石井氏も強い危機感を抱く。急速な人口減少という構造的な課題にどう立ち向かうか。話を聞いた。

前任代表幹事の指針を受け継ぐ

――今回、北海道経済同友会の代表幹事に就任されました。率直なご感想を。

石井 北海道経済同友会が来年7月に70周年を迎える節目に、代表幹事という重責を仰せつかりました。北海道は現在、多くの困難な課題を抱えており、責任の重さを痛感しているところです。

――就任前は、経済同友会についてどのようなイメージを持っていましたか。

石井 横内龍三さん(北洋銀行の前会長、現顧問)が前任の代表幹事として仕事をされており、私もそばでよく経済同友会のお話を聞いていました。ですからイメージギャップのようなものはありませんでしたし、スムーズに中に入れたかなと思っています。

横内さんは「発言し、行動する同友会」という指針を出され、精力的に活動をされていました。その指針を受け継いでいきます。

――ホームページに掲載されていた経済同友会設立趣意書(1945年4月30日)を読みました。「互いに鞭ち脳漿をしぼって我が国経済の再建に総力を傾注すべき秋ではあるまいか」という激烈な表現が印象的でした。

石井 先人たちの戦後の復興に対する強い意志が言葉に表れています。半世紀以上も昔に書かれた設立趣意書ですが、今の私たちにも通じると感じました。私たち道内企業の経営者は危機感を持って、北海道の将来のために汗をかくことが責務だと思います。

繰り返しますが、北海道は課題が山積しています。他府県よりも10年早いスピードで進む人口減少。あるいは空港民営化や鉄道路線の見直しといった交通体系の課題。そして、さまざまな分野で深刻化している働き手不足。

こういった状況を念頭に置いた上で、道内経済は生産性向上にしっかり取り組んでいく必要があると私は考えています。

頭取時代、銀行の生産性向上に力を注いできました。これからはステージを変え、経済団体の中で本道の未来に向けて、積極的に活動をしていきたい。

――北洋銀行では生産性向上として、どのような取り組みをされたのですか。

石井 例えば、3年前から営業店の後方業務を集約化し、人員を営業分野などにシフトしました。本部についても改革を行い、総務部はもうありません。営業店の後方業務も含めてアウトソーシングをおこない、効率化を図りました。

銀行業界はITやAI、場合によってはロボットも活用し、業務の効率化をさらに推進していくことになるでしょう。

――アウトプットされるモノの価値を高めていく視点も、生産性向上にはあると思います。そちらの側面については。

石井 銀行業務の中で申し上げると、北洋銀行ではより付加価値の高いサービスをご提供しています。その1つが相談業務です。個人のお客さまなら資産運用、法人のお客さまなら事業性評価やビジネスマッチングなど。近年は、事業承継の相談業務のニーズがとても増えています。

昨年11月には日本人材機構と「北海道共創パートナーズ」を設立し、ファイナンス分野だけではなく、経営戦略や組織制度の設計など、経営全般についても支援をしております。中小企業のトップの片腕・番頭になる人材も派遣し、その企業の持続的発展を支えていく仕組みです。

――当時、記者会見で「伴走型支援」とおっしゃっていましたね。

石井 以前から、お取引先の事業性評価をおこなってきましたが、この仕組みでは経営課題の抽出から始まり、解決策の検討と実行、そしてフォローアップもしていきます。

危機意識と新たな発想が不可欠だ

――生産性向上は日本経済全体が抱える課題です。日本の生産性は先進国の中では極めて低く、生産性を上げれば、人口減少が進んでも日本は成長していけるという話を聞いたことあります。人口減少が他府県より早く進む北海道は、ある意味、課題を先取りしているとも言えます。

石井 まさしくその通りだと思います。日本全体が、そして多くの先進国が悩む人口減少への処方箋を、北海道が国内外に発信していくことができる。

高齢化についても同様です。新しい社会を展望する上で参考になるモデルを、われわれ自身が作り上げていく。そうした意気込みで取り組んでいくべきです。

――現在の道内経済についてどう見ていますか。ご見解をお願いします。

石井 さまざまなデータ、分析などから判断すると、道内経済は緩やかに回復している局面だと考えています。セクター別に見ると、観光関連分野や札幌市内の大型プロジェクトが、かなり後押しをしています。

一方で公共工事、住宅建設が前年と比べると少し陰りが見えています。個人消費については、伸びてはいるものの、残念ながら力強さに欠けているといった表現になるでしょう。

――以前、石井代表幹事から中国の古典「貞観政要」に関する本を頂きました。その古典には「創業と守成いずれか難き」という有名な言葉があります。今年は北海道命名150年。いわば“北海道創業150年”です。課題山積の今の本道は守成の困難に直面しているのでは……

石井 そうきましたか(笑)。ご存じのように「貞観政要」は唐の時代の太宗と側近たちの問答をまとめた書です。古くから日本でも読まれ、現代でもリーダー論という切り口で多くのビジネスマンに親しまれています。

私自身、座右の書として繰り返し読んでいます。道内の若手経営者らが集まる北海道経営未来塾の1期生にも、卒塾式の挨拶の中で「貞観政要」を勧めました。

さて、創業と守成という話ですが、まずは人口減少という構造的かつ避けて通ることのできない、非常に重要な問題について改めて考えてみたいと思います。

本道の人口は2010年で約551万人。ところが、2040年には24%減の約419万人になると試算されています。

さらに深刻なのは生産年齢人口、働く世代の減少です。40年には10年と比べて40%減の約213万人になると言われています。

生産年齢人口の減少は総生産額に大きく影響します。1人当たりの生産性が変わらなければ、2040年の道内総生産額は12兆円まで落ち込むと試算されています。ピーク(1996年)は21兆円でしたから、このまま行けばマーケット自体が相当、縮小するわけです。

――すごい減少です。

石井 これだけ急速な人口と生産年齢人口の減少は歴史上、例がありません。ですから過去の延長上の思想や対応策は、必ずしも有効ではないかもしれません。むしろ新たな発想こそ不可欠です。

未来志向で多角的なイノベーションを起こしていくことが重要でしょう。新たな創業に挑むという意識と志を持ち、人口減少社会に対応していかなければならないと思います。

守成の難しさに直面しているのでは、というお話でしたが、構造的な課題を抱える今の北海道は、守成と創業の両方の困難に直面していると言ってもいいと思います。そして、私たちはこの変革期を乗り越えていかなければならない。

来春までに提言をまとめ、発表する

――新たにスタートした「北海道の未来検討ワーキング」について教えてください。

石井 前任の横内さんがリーダーシップをとり、設置を決めました。会員のみなさまを始めとした多く知見を総動員し、解決の道筋を探るための組織です。

座長は、地域活性化分野の第一人者として知られる小磯修二先生です。

まず本道の現状について各種データを集め、さまざまな角度から分析を加えていきます。5月中旬には第1回目を開催し、課題の抽出作業に着手したところです。来春までに提言をまとめ、発表するスケジュールとなっています。

――経済団体は、若い世代からすると「よく知らない、えらい人の集まり」といった見方をされることがあります。あくまで私見ですが、若い世代と経済団体との間に距離があるのでは……

石井 私たちが取り組んでいる課題は若い世代にも共通する話です。

少子化について言えば、道都である札幌市は、全国の政令市の中で最も出生率が低い。さまざまな要因が考えられますが、他の政令市よりもサービス業の割合が高いという経済的な要素も因子の1つでしょう。

実はサービス業は他産業よりも、いわゆる非正規雇用の割合が高い。つまり経済の現状や特徴と、少子化は関係している可能性があるわけです。

例えばホタテで活気のある猿払村は、全国平均を大きく上回る出生率を維持しています。もちろん、村が各種の環境整備を進めている点も無視はできませんが、やはり経済力がなければそうはならないでしょう。

地方創生とは、まさに各地域が持つ稼ぐ力を底上げしていくことだと私は考えています。 

――稼ぐ力ということですが、道内の強みの1つに観光があります。

石井 ただ、本道の付加価値額は全国の真ん中ぐらいのレベルです。同じく観光立県を掲げている沖縄県と比較すると相当な差があります。

端境期のある本道と通年型観光の沖縄を単純には比較できないものの、道内観光産業は付加価値をもっと高めていく必要があるでしょう。

第1次産業では、道産品を、購買力が上昇している地域や国に積極的に出していくなども考えられます。

いずれにせよ、人口減少という構造的な課題に対し、経済界だけではなく、産学官が問題意識を共有して一緒に取り組んでいかなければなりません。

=ききて/野口晋一=