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Interview

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公契約条例は地元企業・経済の発展に資する掲載号:2013年1月

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上田文雄 札幌市長

 上田文雄札幌市長は、常に市民目線でものを考えている。だから、原発の安全性にも厳しい姿勢で臨むし、TPPにも反対する。その一方で、地場企業の活性化と雇用の拡大に熱心だ。そこから公契約条例の発想が生まれた。

PPA対象地域を速やかに示すべき

――泊原発のUPZ(緊急防護措置区域)に札幌市は入っていません。上田市長は以前から「これはおかしい」と主張していますね。
上田 UPZの範囲は半径30キロ以内となっていますが、このような距離的な制限を付けること自体に意味はないことが、福島第1原発の事故によってはっきりしています。50キロ以上離れた福島市が、今なお被害を受け続けている例を見てもわかるとおり、UPZ区域だけが放射性物質の被害を受けるわけではありません。これでは原発事故が起きた際の対応にほとんどなっていないと思います。
私はUPZよりも、気候と地理条件をしっかり勘案してPPA(プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域)の対象地域を策定することが大切だと思います。10月のシミュレーションの基礎データがあるわけですから、国(原子力規制委員会)は泊原発のPPAの検討結果を速やかに示していただきたいと思うのです。
そのシミュレーションも後になって間違いだらけだったことが明らかになっていますが、そのずさんさには開いた口がふさがりません。どういう真剣度でやっているのか、深い疑いを抱かざるを得ません。
原子力規制委員会というものができ、それに対して「今までとは違うはずだ」という私たちの思いが、期待外れになりそうです。事務局が今までと変わっていないのですからね。
大飯原発の断層調査に関する議論をみても、危険なものを扱う場合の心得として「疑いがあるものはやめる」というのが大前提でなければならないのに、そうなっていません。少なくとも最先端の知見をすべて集めて、一点の曇りもないということが確認されなければ、やっちゃいけないことなんです。
それなのに「もっと調べてみないと疑いが晴れないから、今のまま原発を稼働させてもいいんだ」という理屈になぜなるのか、私にはまったく理解できません。
――断層のボーリング調査の場所も、本来やるべき地点からずれているそうですから、意図的なものを感じますね。
上田 しかも、大飯原発を動かすときには「夏場の電力が持たないからだ」とさんざん言っていたのに、夏が過ぎても動かしているのはどういうことなのか。こういう目前のごまかし、大衆操作に私はいら立ちを覚えます。
――UPZに関する道の姿勢に対しては、どう思いますか。
上田 PPAには札幌市も含まれることが想定されるので、平常時であっても事の大小を問わず、情報が札幌市にも伝達されるシステムを作るという考えに、道も一歩進んだと聞いています。
札幌市は大通2丁目に空中放射線量を測る機械を設置し、市民がいつでも見られるようにしています。そういうことをやらなければならない状況なんだということを感じ取っていただき、道も札幌市民のことをご理解いただきたい。

フード特区で北海道版機能性表示

――冬の節電対策への考えもお聞かせください。
――TPP交渉参加についてはどのように考えていますか。
上田 札幌市以外の道内178市町村の活性化は、札幌市の繁栄に直結している問題です。北海道が基盤としている農業が「TPPによって壊滅的な打撃を受ける可能性がある」という心配は払拭しきれていません。政治が国民を説得し切れていないのに、政府が「これがいいからやる」というわけにはいきません。
ある政党の方は「(TPPに)賛成。ただし、国益に反しない限りは」などと言ってますが、国益がなんなのかについてなにも語らずに言うことじゃありませんよ。
日本の農業をどうするのかというスタンスが定まっていない段階で、交渉に参加するというのは、理解できません。
――フード・コンプレックス特区に期待が寄せられていますが、北海道ブランドの農水産物をどう育成し、売り込んでいきますか。また、札幌市はどのようにかかわっていきますか。
上田 食の札幌ブランド、北海道ブランドは、オール日本的には確立したものがあると思います。外国からも、北海道の食べ物はおいしい、安心安全だと思われています。
しかし、「生で食べておいしいよ」だけじゃダメです。フード特区では、これまで北海道に優位性があると言われながらも、それを十分に生かしきれていなかった1次産業をさらに高度化し、農水産物に付加価値をつける食品製造業も盛んにするなど、食材・食品の生産から加工、流通、販売など、消費者に届くまでの一連のプロセスを「バリューチェーン」として構築し、その最終成果として、北海道から国内外に向けた売上高を増やすことを目指しています。  札幌市内には多くの研究機関、試験場があるわけですから、産学官の連携による研究開発や、道内の1次産業者と市内の2次・3次産業者が連携しておこなう商品開発に対する支援を通じて、「食」の高付加価値化を図るとともに、札幌のブランド力を活用し、国内・海外への販路拡大の支援策なども展開しています。
これからはサプリメントや創薬に向けた取り組みを本格的に開始していくことになります。とくに、特定保健用食品に対して、北海道版の「機能性表示」ができるようになったのも、フード特区があるがゆえです。
また、卸売企業とメーカーとの事前マッチング式商談会「キラリ品☆卸隊商談会」をおこなっています。普通の見本市は売りたいものを生産者が展示して、バイヤーが買い付けに行くというものですが、これは逆なんです。「消費者はこういうものを求めているが、生産しているところはありませんか」と卸売業者が事前に希望を出し、該当する商品・技術を持っているメーカーがそれに応じるというものです。「北のアメ横」や「さっぽろオータムフェスト」もそうですが、北海道中の事業者が自分たちのまちで作ったものを売り出すため、札幌を活用する場を、これからも積極的に提供していきたいと考えています。

中小企業を元気にするための方策

――公契約条例の意義、制定に向けた意気込みをお聞かせください。
上田 「企業経営の裁量の自由に市が手を突っ込むのは、経済原則に反している」との理由で反対している方がいらっしゃいますが、それは誤解されていると思います。
現在の長引く不況などを背景に、売上高や利益の減少による企業体力の低下や雇用環境の悪化など、企業を取り巻く環境は大変厳しい状況であることは、私も十分承知しています。
建設業、ビルメンテナンス業、警備業など、札幌市のまちづくりに貢献いただいている業界は、社会インフラの整備・維持や地域社会の安全安心を守る担い手として、地域にとって大きな役割を果たしており、今後も地域の多様なニーズや役割への対応が期待されています。
地方自治法には、最小経費で最大効果を上げろと書いてあります。いいものを安く買うというのは、行政の基本原則ではあると思いますが、それだけでは地元企業、そこで働いている人々、地域の活性化につながっていないということを、私たち行政の側も認識するに至ったのです。
そこで、札幌市は、行政として、安ければよいという状況を改めることにより、税金を使う仕事において、地元企業の経営安定化やそこで働く方々の就労環境の改善を図り、関係業界の魅力の向上や地域を支える地元企業の健全な発展につなげていきたいと考え、公契約条例を提案させていただいているのです。
また、公契約条例により、札幌市の事業を通じ、税金がそこで働く人々に行き渡り消費に回ることで、地域内で循環することとなり、地域経済の発展にも資するものと考えています。
関係業界の方々とは、条例に係る協議の場において、条例について幅広く意見交換をおこなってきたところであり、条例に対するさまざまな懸念や不安を解消し、理解が得られるよう努力しています。これまで議論させていただいた成果を共有し、合意を得られる状況にしていくことで、条例を制定し、市民が安心して暮らし、働くことができる地域社会の実現及び市民の福祉の増進を図ってまいりたいと考えています。
――これは、ある意味で景気対策でもありますね。企業経営者の方はなぜ反対するんでしょうか。
上田 市の事業は、税金でおこなわれているものですから、市の入札の発注者は市民なんです。社会全体を潤すためには、適正価格で落札していただき、企業の存続を図り、適正な賃金を保障することによって消費者を育て、きちんと消費活動に向かわせるようにすることも大事なことです。今までのように建物ができればそれでいいということではなく、こういうシステムでおカネが回るというのも、公共事業の新しいあり方だと思います。
――経済・雇用対策、とくに中小企業への支援はどうおこないますか。
上田 札幌・北海道の経済を活性化させていくためには、地域経済を支えていただいている中小企業に元気になってもらうことが不可欠です。
公共事業については今年度、当初予算において、全会計で前年度比6・6%増となる建設事業費を計上したほか、適宜、補正予算を組んできましたが、今後も引き続き、経済情勢や企業の経営環境の変化に応じて、適切な予算措置を講じていきます。
また、大企業に蓄積されている開放特許等を市内中小企業に移転する「開放特許活用型モデル事業」を開始しています。これによって、大企業と中小企業が技術移転を通じて連携するという新しいビジネスの形が作られており、今後、企業がその技術力と創造性を発揮し、新たな製品開発を進める手法として定着させ、「ものづくり産業」の競争力強化につなげていきたいと考えています。
中小企業向けの融資制度では今年度、融資期間が1年以内の低利な短期資金の要望が高かったことから、もっとも一般的な事業資金である「産業振興資金」より利率を0・3%優遇(年1・7%)する「短期サポート特別枠」を創設し、中小企業の資金繰りを支援しているところです。
また、金融円滑化法が今年度末で終了することから、資金繰りの悪化した中小企業の経営力強化を図るため、資金繰り支援と経営改善支援の一体的な取り組みを推進していきます。
(11月21日取材)

=ききて/酒井雅広=