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Interview

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信頼回復の先頭に立つ掲載号:2012年3月

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小池明夫 JR北海道社長

 石勝線で発生したまさかの特急脱線・火災事故。その後も相次いだ列車トラブルで、JR北海道の安全に対する信頼は完全に失墜した。現職社長の突然の死を受け、昨年11月、異例の再登板となった小池明夫氏は、この難局をどう乗り切るのか。

中島さんの書き置きに後を押された

――昨年11月25日、4年5カ月ぶりに社長に復帰されました。ある意味、混乱した組織のトップを引き受けるということですから、相当な決意が必要だったと思います。その背景、経緯をあらためて振り返っていただけますか。
小池 当社は昨年の5月27日に石勝線で重大な事故を起こしました。それに対し国土交通省は6月18日、鉄道事業法に基づく行政処分の「安全輸送の確保に関する事業改善命令」「保安監査の結果等による改善指示」を出しました。当社はそれを真摯に受け止め、国に提出する改善報告書の作成に追われました。というのも、提出期限が9月17日と定められ、3カ月の猶予しかなかったからです。
その期限が近くなって、新たに策定した「安全性向上のための行動計画」も含め、中身的にはほぼ整理ができていた最終段階の9月12日、中島尚俊社長が失踪。6日後に最悪の結果が伝えられました。私自身も非常に責任を感じています。彼の気持ちがそこまで重いものになっていたということを、周囲にいる人間が全く気づかなかった。悔やんでも悔やみきれません。
組織としてトップ不在という状況は早急に解消しなければならない。現実問題として後任社長をどうするかということです。しかし、社内は相当動揺している。後任をすぐ決めるということではなく、会長の私と副社長の柿沼博彦の2人で、まず社内を落ち着かせながら安全対策等を推進していきました。
10月28日、中島前社長の「お別れ会」を終え、一応の区切りがつきました。そこからです、後任の社長人事について具体的な話が進み始めたのは。ある意味、異常事態が起きているわけで、通常の社長人事とは全く違います。前社長は事故後の対応を重荷に感じていたわけですから、それを引き継ぐということになると初めての社長では荷が重過ぎるのではないか。1度社長を務めた経験のある私もそう思いました。いずれにせよ、今回は緊急事態。私が復帰するということで社内はまとまりました。
――やはりこうした不測の事態には、最善の手当てでしょうね。
小池 社内からはとくに異論も出なかったようです。
――会長職との兼務は考えられなかった。
小池 兼務というのはなかなか大変です。そこで柿沼副社長に会長になってもらい、とくに技術面・安全面をしっかりやっていただくということで決まりました。ただJRの人事は政府の承認をいただかなければならない。手続きに時間が必要なことから、最終的に11月25日発足ということになりました。
――国から今回の人事について何か注文などは。
小池 ありません。
i2――何が社長復帰を決意させたのでしょう。
小池 私も相当考えました。非常に厳しい話ですからね。ご承知のことと思いますが、中島前社長は書き置きを残しています。私宛てのものもありました。そこには、中島前社長の思いが詰まった「安全性向上のための行動計画」を推進するために、先頭に立ってお願いしたい旨のことが書かれていました。私は会長ですから当然といえば当然です。でも「先頭に立って」ということをよくよく考えてみると、社員の先頭に立つのはやはり社長です。後任人事については一切触れられていないので、私に社長をやってほしいという気持ちがあったのかもしれないとも思えました。そこに後押しされたということはあります。
――前回、社長を務められたのは4年でした。そのとき、やり残したことはありませんでしたか。
小池 それはありません。
――今回の任期は6月までです。引き続きやられる。
小池 これは私どもの判断だけでは決められません。先の通り国の承認が必要な話ですので、いまのところ何とも言えません。

現場社員との「膝詰め対話」98カ所

――社長復帰から2カ月半、どんな日々でしたか。
小池 昨年の重大事故を受け、社員全員にお客さまの安全を最優先するという意識を再度徹底させるために、中島前社長が残した「安全性向上のための行動計画」を現場のみなさんに説明していくことが必要です。その説明会を道内各地でおこなってきました。それを踏まえ、社員が安全に対してどういう思いでいるのか、どういう提案、意見が会社に対してあるのか。こういったものをくみ取っていくことも必要なので、昨年内は現場との「膝詰め対話」を実行しました。
――何回くらい。
小池 98カ所で、参加した社員数は約1400人です。すべて幹部社員が現場に赴いておこなっています。全道各地、各職場。それを昨年内に一巡し、年明けからは本社内、いわゆる計画部門でも社員との膝詰め対話を始めています。
――昨年、小池社長自らが出席した膝詰め対話は。
小池 6カ所出席しました。
――こうした取り組みは初めてのことですか。
小池 数年前から毎年2回、現場社員との対話はやっていました。でも今回は局面が違っています。
――実際、現場社員と直接話をして、どんな感想を持ちましたか。
小池 やはりみなさんから安全というものを積極的に考えるスタンスが見えました。また会社に対し、いろいろものを言っていきたいという感じもあった。言わされるのではなく、自ら言うと。建設的な提案も多数ありました。
――対話の時間は。
小池 だいたい1時間半くらい。人数的にいうと20人程度です。もちろん、出席者全員が発言するというところまでやればもっと時間はかかりますが、少なくとも過半数の人は意見を言う。発言しなかった人も、他者の意見を聞いてもらうことにもまた意味がある。会社側も社員の発言に対して答えられるところはその場で答えますから。
――昨年末までに「安全基本計画」の骨子をつくると言われていましたが、状況のほうは。
小池 「安全性向上のための行動計画」は安全についての1つの基本方針を述べたもので、それをするために何をやるのか。その具体化した計画をつくらなければなりません。これをわれわれは「安全基本計画」と呼んでいます。それをつくる作業も膝詰め対話と同時並行的におこなっています。このチームのヘッドは柿沼会長。ご指摘の通り、骨子の策定は昨年内に終わらせる予定でした。ただ膝詰め対話の中から非常に有意義な意見も出てきている。それらを加味させるということで、ちょっと遅れています。いずれにせよ、安全基本計画は実行性のあるものにしっかり仕上げていきたいと思っています。
――北海道新幹線の札幌延伸が決定しそうです。
小池 9合目くらいのところまできているでしょうか。最後に国交省でいろいろ計算されたB/C、あるいは採算性といったことについて、第三者の意見を聴取して確認をするという話を聞いています。われわれとしては、それが終わらないとすべての条件が整ったことにはならないという理解です。

すでに新幹線乗り入れ可能な札幌駅

――JR札幌駅には、すでに新幹線を引き込むようなホームがあるとか。
小池 高架工事、札幌駅周辺の再開発の中でいまの駅ビル等ができているわけですが、それをつくる際に新幹線延伸を念頭において設計されています。新幹線が入ってきても一部改築をすれば引き込みに支障がないような形になっています。
――まだ正式決定ではないといいながらも、すでに札幌市内では波及効果が出始めています。
小池 そうですね。工事がストップしていた駅前通の三井ビルは、新聞報道によると新幹線延伸が見えてきたので再開の意思決定がされたと書いてありました。
――エスタビルは。
小池 確かに老朽化していて、そう遠くない将来、新幹線が入ってくることを前提に改築ということになると思いますが、まだ具体的な計画はありません。
――いま札幌市が所有するJRタワー東側の土地は、何か活用するような話はされていますか。
小池 まだ何も話をしていません。
――札幌延伸には1兆5000億円くらいかかると試算されています。JR北海道に負担はあるのですか。
小池 新幹線の構造物については鉄道・運輸機構がつくるので、その負担はありません。われわれは同機構に借料を支払う。新幹線車両は私どもが用意するので、その投資は出てきます。
――借料の額は。
小池 まだ決まっていません。これは開業の直前くらいに決まる話です。基本的な考え方は、新幹線延伸に関係ある線区の収支状況をまず押さえ、今度は新幹線が開通すると並行在来線が経営分離するわけですから、それでJR北海道の収支がどう変わるのかというところを見ます。当然、プラスの差額が出てくる。その差額が借料になります。こういう仕組みで、いまの整備新幹線はやっています。
もっともその前に2015年度の新函館開業が迫っています。こちらの計画をきちんとこなすことが、いまは何より重要です。
――いまJR北海道の鉄道事業の赤字は単年度でどれくらいでしたか。
小池 200億円を超えています。それを経営安定基金の運用益で埋めています。JR北海道発足時は赤字が約500億円ありました。でも当時は運用益も500億円くらいあった。しかし、バブル崩壊後、低金利になって運用益も以前のようには出なくなりました。それに対してわれわれは、収入を増やす努力はもちろんですが、コスト削減をどんどんやって、赤字幅を縮めてきたわけです。その結果、赤字の額は半分以下になりましたが、金利も半分以下になってしまったというのが現状です。
――そのために経営の多角化を進めてこられた。
小池 そうです。私も開発事業本部長を6年やっていますから。
――今後も経営の多角化ということでは何か考えていますか。
小池 分割民営化から24年、この間いろいろな事業をやってきました。やはり柱になるのは駅ビルです。最近ビジネスホテルを展開し始めましたが、これが非常に順調。これも1つの分野だなと手応えを感じています。そのほかにも、いろいろ展開していかなければならないと思っている。
グループ会社の中には環境関連のビジネスをやっていたりするところがあって、このへんは少し有望だと思います。
また最近ではJR札幌病院の敷地の中に、高齢者向けのマンションを建設したんですが、これも大変引き合いが多い。こういった分野も新しいビジネスとして考えられるかなと思います。

=ききて/鈴木正紀=