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Interview

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今日を大切に生きる
それが明日につながっていく
掲載号:2013年1月

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藤重貞慶 ライオン会長

 歯磨き、石鹸、食器や洗濯用洗剤……。おそらく、日本でライオン製品のない世帯は皆無だろう。そんな暮らしに欠かせない製品をつくり続けてきたライオンは2011年、創業120周年を迎えている。藤重貞慶会長に、暮らしと心の新たな価値について聞いた。

革新が企業に新鮮な命を与えている

――2011年が創業120周年でした。
藤重 1891年(明治24年)10月の創業です。初代小林富次郎が、東京神田柳原河岸に石鹸およびマッチの原料を取り次ぐ「小林富次郎店」を開設したのが始まりです。その後、石鹸と歯磨きの製造を手がけて、メーカーの道を歩み始めました。
5年後の1896年、粉歯磨き「獅子印ライオン歯磨」を発売。ヒット商品となり、現在の社名の由来となっています。
――いまや歯磨き、歯ブラシ、石鹸、洗剤、ヘアケア・スキンケア製品、クッキング用品、薬品など、おそらく日本においてライオン製品のない家庭は皆無だと思います。それくらい身近な企業。逆に言えば責任も非常に重い。
藤重 ご指摘の通り、一番配慮しているのは安全性です。使って安全・安心だというのが大前提です。弊社研究所で、安全性の評価や環境への評価などをきっちりやっていますが、われわれが想定もしない使い方をするお客さまもいらっしゃいます。それでも安全だという基準で商品づくりをしています。
そうした厳しいお客さまとの約束がある中で、ライオンが120年を迎えられたポイントは3つあると思っています。1つは、われわれの商品が人間の根源的なニーズに根ざしていること。それが企業に長い命を与えてくれた。2つめは、伝統的に挑戦と創造の心を大事にして、経営の革新を継続してきたこと。企業は学習する生命体という認識で、継続的に知識を蓄積し、革新を続けていく。この「革新」というのがキーワードで、これがライオンに新鮮な命を与えているのだと思います。3つめは、取引先や社会との共存共栄を大切にしていることです。これは企業に強い命を与えてくれたと思います。
――確かに企業は革新がなければ生き残れませんね。
藤重 歯磨き事業を例に取ると、1948年、日本で初めての虫歯予防のためのフッ素歯磨きを発売しました。現在、日本の小中学生の虫歯率は1・7%くらい。30年前は4・8%でした。急激に虫歯は減っていて、フッ素歯磨きの影響は大きいと思っています。
1961年には、これも日本初の美白効果の高いリン酸カルシウムを配合した歯磨き「ホワイトライオン」、81年には世界で初めてデキトラナーゼという歯垢分解酵素を配合した「クリニカライオン」、82年これも世界初トラネキサム酸を配合した歯周病予防歯磨き「デンターTライオン」、2004年にはこれも世界初IPMPという歯周ポケットに浸透して殺菌する成分を配合した「デンターシステマ」を出しています。
洗剤事業では1920年、世界初で植物性油脂を原料とした洗濯石鹸を発売。1956年は、これも世界で初めて、野菜果物・食器洗い専用の洗剤「ライポンF」を日本食品衛生協会の推奨品第1号として販売しています。
当時、アメリカの文化が入ってきて、野菜を生で食べる人が非常に増えた。ところが日本の野菜は人糞で育てられていたものだから、回虫で年間6000人以上が亡くなっていました。当時の厚生省から、野菜から回虫の卵を取り除く商品をつくってほしいという要請を受け、ライオンが初めてつくったのです。
1972年にイタリアのシンクタンク「ローマクラブ」が「成長の限界」というレポートを出しました。このままでいくと、世界は石油資源の枯渇とともに成長が止まってしまうという内容です。そこでライオンは72年から植物原料を商品に使えないかという研究をはじめました。
それから20年後の91年、パームからつくるMESという原料で、これを配合した洗剤を世界で初めて発売しました。2010年にはヤシからMEEという原料をつくり、液体洗剤に活用しました。
このように、石油ベースの合成洗剤から、植物油脂原料を使った洗剤への転換というのがライオンの大きな特徴です。

ゼロサム社会からプラスサム社会へ

――ちょっとお話を聞いただけで「日本初」「世界初」という言葉がぞろぞろ出てきますね。
藤重 情報発信も革新的です。日本で初めてコマーシャルソングをつくっていたのはライオンです(笑)。まだ明治時代で、歯磨きを使っている人は、ほとんどいなかった。粉歯磨きを紹介するために、楽隊を組んで北海道から九州まで商品を配りながら練り歩いたそうです。
また、今から100年近く前の1913年(大正2年)、一般市民を対象に歯磨き・歯ブラシによる口腔衛生の普及啓発活動をはじめています。
日本で初めてプロ野球のスポンサーになったのも弊社です。現在の横浜DeNAベイスターズのルーツになるライオン軍です。
いまは「日立」になっていますが、大阪の通天閣にも1920年に広告看板を出しました。
ビートルズは日本に1966年の1回しか来ていません。そのときの単独のスポンサーがライオンでした。
――びっくりですね。その時代、その時代、まさに革新的な情報発信をおこなっている。
藤重 企業文化も革新的です。もともと、従業員は協同者という考え方で、人事労務制度の歴史を見ると1906年(明治39年)、正月から年末まで働いているのが一般的な労働条件だった時代に、1日8時間労働を実施しています。その後も、純利益の50%を従業員に還元、日曜の全休、ライオン健保として結核病棟の新設、社員だけではなくその家族の健康診断も始めています。
――北海道はライオンのシェアが高いと聞いたことがあります。
藤重 北海道はライオンファンが非常に多くて、全国のシェアより商品によって2?4%、平均すると3%くらいシェアが高い。その要因の1つには、ダイカ様、大丸藤井様、粧連様をはじめ〝ライオン党〟の卸店様が多くあって、非常に一生懸命、頑張っていただいたということがあると思います。
ライオンは結構、北海道とのかかわり合いが強いです。過去、札幌の真駒内屋外競技場に2万人を招待して花火大会を開催したり、さっぽろ雪まつりやYOSAKOIソーラン祭りの協賛も10年以上継続しています。また道内の有力販売店の社長様とビッグストアゴルフ大会を開催し、これは30年以上続いています。こんなに長くやっているのは他にありません。
――先におっしゃられていた共存共栄の視点ですね。
藤重 自分だけいいのではなく取引先もいいし、社会もいいという考え方です。限られたパイを奪い合い、自分だけ勝てばいいというような〝ゼロサムの競争型社会〟から、全体価値の創出・拡大を志向する〝プラスサムの協創型社会〟へと転じていく。いまのアメリカは、ほんの一握りの層が、富の9割を占めているという社会です。日本もだんだんそうなってきている。大きな格差のある社会はもたないと思います。
――ライオンが創業120周年を機に設定した企業スローガン「今日を愛する。」はとても印象的です。
藤重 私たちは120年以上もの間、暮らしとともに歩んできました。そこで学んだことは一日一日を前向きに、充実して生きることこそ、幸せの本質だということです。「今日を愛する。」とは、今日という日をいとおしみながら、ていねいに生きるということ。それは明日をよりよく生きるための礎でもあります。
今日の積み重ねが、その人の一生であり、人生の一部が今日でもあります。ですから、一人ひとりの今日を大切にすることは、一生を大切にすることだと考えます。このように「今日を愛する。」には、未来の意味も込めています。そこに役立つことが、私たちの仕事です。

健康寿命と平均寿命の差を縮める

――今後のビジョンは。
藤重 健康・快適・環境の分野で貢献していくことは変わりませんが、人々のニーズが「ものの豊かさ」から「心の豊かさ」に変化してきている近年、ライオンも商品だけではなく、商品を含めた生活習慣づくりを提案することで、いっそうの幸せな暮らしに貢献していきたいと思います。
1つの考え方として健康寿命があります。健康寿命とは、自分のことが自分でできる年齢のことです。日本の男性の健康寿命は73歳。一方で、平均寿命は79歳です。ここに6年の差があります。女性は同様に8年の差があって、この6年とか8年は、人間の尊厳を傷つけられて生きざるを得ない。私たちは健康寿命を延ばし、平均寿命との差をできる限り縮めていくことを大きな目標にしています。
いままでの幸せは、たくさん食べられるとか、いい家に住むとか、量的な満足感でした。ところが最近はそうではなくて、たくさん食べるということより、いいものを少量食べる。質的な満足感が重要視される時代になってきたと思います。そうなるとものの豊かさよりも心の豊かさ。心の豊かさというのは、端的にいえば、将来に対する不安感がないことです。いま心が豊かでないというのは、将来に対する不安感が大きいからだと思います。だから物質的なものをどんどん求めていく。そうではなく、心の豊かさにつながるようなビジネスなり、エリアをつくっていかなければならないと考えています。
――北海道に可能性は感じませんか。
藤重 日本の国土面積は約38万平方キロメートルで、世界で60番目くらい。でも海洋を入れると6番目の広さになります。そこにはメタンハイドレードなど、さまざまな海洋の資源がある。とりわけ北海道の海域には豊富なメタンハイドレードがあって、これからの新しいエネルギー源として注目されているし、それが商業ベースで採掘される日が、それほど遠くない将来やってくると思います。
もう1つは、日本の気候が温暖なモンスーン型から、非常に変化の激しい亜熱帯型になってきていること。おコメもいまは「ゆめぴりか」が一番おいしいし、果物も北海道がおいしい。昔は寒くて農業に適していない地域だったのに、温暖化の影響で北海道が最適地になってきている。その意味で農業も非常に可能性があるし、しかも日本の農業は付加価値が非常に高いので、輸出して儲けられる可能性も高いと思います。
こうした地政学的な優位性のほか、北海道の人はオープンな人が多いと感じます。開拓者精神に富んでいるというのか、そうした気質は今後、極東ロシアや中国などとのかかわりが増えてくる中で、いい作用を及ぼすと思います。

=ききて/鈴木正紀=