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Interview

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今こそフロンティアスピリットを呼び起こせ掲載号:2011年10月

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高田恭介 日本銀行札幌支店長

 宇平直史氏の後任として6月13日付で日本銀行札幌支店長に就任した高田恭介氏。一向に景気は上向かず、閉塞感すら漂う北海道経済に、大胆な提案・提言をする。さらに、震災後の北海道の果たすべき役割は何か、どんな地域を目指すべきなのかを聞いた。

リーディング産業に乏しい北海道

――北海道勤務は初めて。
高田 そうです。私も一度は北海道に勤務してみたいと思っていました。長年の希望がようやくかなって、非常にうれしいです。
――単身赴任ですか。
高田 はい。暑い東京を脱出して6月21日に着任しました。家族も喜んでいます。この間、3カ月弱ですが、間に夏休みもありました。そのときは家内も北海道に来て、一緒にいろいろなところへ行きました。
――ご出身は。
高田 神奈川県川崎市で生まれ育ちました。ただ実家というか、両親の出身は大阪。ですから大阪がルーツです。
――一橋大学卒業ですね。
高田 同窓の高橋はるみ知事は6年先輩になります。こちらに来るまでお会いする機会はありませんでしたが、先般、小樽商科大学の創立100周年のときに一橋の学長がいらしたので、「如水会」というOB会を札幌で開いて、そのときに知事とお会いしました。
――何か話は。
高田 挨拶程度で、込み入った話はしませんでした。
――赴任前から北海道の状況は聞かれていたと思いますが、実際に来てどういう印象をもたれましたか。
i2高田 風光明媚で、食材が豊富で、非常にポテンシャルの高い地域。さらには北海道を開拓したフロンティアスピリットあふれた地域なのだろうと思っていました。北海道に来て、いま言った前半部分はやはり素晴らしいと思ったのですが、多少違うかなと感じたのはフロンティアスピリットのところです。確かに明治の開拓時はそうだったようですが、それがだんだん政府依存、外部依存になってきた。長く公共事業が北海道の経済を支えてきたということなのかもしれませんが、それも2000年以降“小泉構造改革”の中で削減されてきて、非常に厳しい状況になっています。
われわれは短観をやっていますが、業況判断DIを見ると、1990年代までは全国と比べて北海道がいい時期もありました。とくに公共事業が景気対策として上積みされた時期は、北海道はよかった。しかし、2000年以降ずっと全国を下回っている状況が恒常化しています。
――なぜでしょう。
高田 北海道経済全体を引っ張っていく大型エンジンがありません。この間、日本経済を引っ張ってきたのは自動車産業、電機産業などです。そういった産業の集積が北海道にはあまりない。やはりリーディング産業に乏しいと言わざるを得ません。
――震災もありました。
高田 北海道の場合、短期的にみれば、直接的な影響はそれほど大きくはなかったわけですが、震災後、海外を含めた観光客が大幅に減ったということがあります。ここにきて少しずつ戻り始めているとはいっても、インバウンドは震災前に比べると5割くらいの水準でしょう。
また今後、東北に復興事業がいろいろ出てくると思いますが、北海道に振り向けられる予算が縮小される可能性が高い。震災の2次的な影響は比較的長く引きずるのではないかと危惧しています。
自動車産業は震災後かなり落ちましたが、その後、急速に生産が回復しています。まさにV字型回復です。しかし、北海道にはそういう大型エンジンがない。落ち方も緩やかだけれども、その後の上がり方もL字型のかなり緩やかなものになるのではないでしょうか。
――そういう北海道に対して、日銀としてどういう情報発信をしていくつもりですか。
高田 北海道経済の活性化については、多くの人がいろいろなことを考えて、さまざまな提言をされていると思います。
そこにないようなものを探していくのは難しいと思いますが、少しでも北海道が元気になるように、どういう取り組みをするべきなのかを常に考えながら発信していきたい。その形はペーパーかもしれないし、講演活動かもしれない。記者会見も定例的にやっています。そういう中で、少しでも北海道経済にプラスになるような方向を示唆していけるよう頑張ります。

次の産業の中心は自然エネルギー

――北海道への期待は。
高田 多くの人は食と観光とおっしゃいます。もちろん、それも重要でしょう。
私は1つの切り口として、過去に横路孝弘さんが知事の時代にやられていた一村一品的な取り組みは必要だと思います。北海道はとても広い。いろんな地域がある。そして各地域には、それぞれ特産品がある。地域が元気になるためには、それぞれの地域で何かを生み出していくという発想がまず必要だと思います。
先般、私は北見・網走方面に出張しました。農・水産物が豊富で、やはり豊かなところだなと思いました。そこで1つ感じたのは、あまり加工せずに出荷すること。素材の提供だけでも、かなりの所得があるということなのでしょう。加工して付加価値を高める必要がないというか、そもそもそういうニーズがないということかもしれない。しかし、地域経済全体を活性化させていくためには、そこに雇用がないといけない。雇用を生むためには地元の資源、すなわち農・水産物を使って、それを加工し、価値を高めていく。設備投資をして地元の人を雇用する場をつくることによって、地域経済が活性化していく。そういうことを各地域でやっていくというのが1つの視点だと思います。
しかし、それだけだと北海道全体を押し上げていくのは難しい。やはり北海道経済をリードしていくような産業をつくっていく必要があります。
――それは何だと思われますか。
高田 リーマンショック前は自動車産業が有力候補で、実際に苫小牧を中心にいくつかの工場が進出してきました。しかし、いまの状況で、自動車メーカーがこれ以上、国内に投資するかというと、それは難しい。
では違う産業という切り口で考えると、やはりエネルギー分野。時代は自然エネルギーに向かっていくでしょう。北海道は風力、太陽光、地熱など、自然エネルギーを供給する基地になれる可能性を秘めています。
また各産業界は「省エネ」「創エネ」「蓄エネ」に資本を投下しています。たとえば蓄電池の工場を北海道につくるとか、ソーラーパネルや風力発電にかかわる工場をつくるとか。ここは今後、間違いなく需要が高まる分野です。どこかに生産拠点が必要なわけですから、それを北海道に誘致し、次の産業の中心になるように成長させていく。
もう1つの切り口は、北海道をリスク分散拠点にするという発想です。震災後、企業経営者の考え方も変わってきています。それはリスク分散に対する認識です。今後、東海・南海・東南海地震が連動して起こるともいわれています。首都圏に日本の機能が集中しているわけですから、首都機能、本社機能、工場機能、あるいはデータセンターとかシステムセンターなどの機能分散は喫緊の課題です。
そこでクローズアップされるべきは北海道だと思います。機能分散の受け皿としてそれらを積極的に受け入れる。他の地域よりも北海道のほうが有利だと発信していく。そのためにも電力供給の安定性や優秀な人材の存在などをアピールしていくことが重要です。心情的には震災後の状況でアピールしにくいかもしれませんが、大きなチャンスであることに間違いはありません。
――これまでも北海道の発信力という部分では物足りなさを感じていましたか。
高田 たとえば観光で北海道に行く、あるいはおいしいものがあるという意味では、北海道ブランドは本州の人にとって大変魅力的です。百貨店が集客に困ったとき「北海道フェア」をやれば大勢の人が来る。そういう意味では、食とか観光の情報発信というのはそれなりにできていると思います。
一方で企業誘致や産業集積という面からすると、必ずしも情報発信は強くない。札幌商工会議所会頭の高向巖さんの著書にもありましたが、他の地域だったら近隣の県と共同して複数のトップが行動できる。ひるがえって北海道は知事が1人しかいないし、会頭も1人しかいない。そういう意味でのハンディキャップはあるのかもしれません。

農業のグローバル需要を視野に

――海外に出ようとする企業をいかに北海道に呼び込むかと考えたとき、そこにどんな筋書きをつくればいいと思いますか。
高田 昔から企業は、労働コストの安いところ、土地が豊富なところに進出しています。そうなると中国あるいは東南アジアに太刀打ちできない。あるいは需要も中国が大きいので、地産地消のようになるべく消費地に近い場所に出ていく。確かに北海道には広い土地はありますが、それだけではもう企業を呼べる状況ではありません。
ただし、生産拠点をいくら海外にシフトしたとしても、どうしても国内に残さざるを得ないような機能はあります。製品のコア部分の研究開発拠点、あるいはマザー工場みたいなところです。非常に最先端のものをつくっている部門。それは国内に残すでしょう。そこも海外に出してしまうと、企業の中心的なノウハウが海外に流出する危険性があります。だから、そういうコアの部分は北海道にもってこさせる。
そのためには人材や技術力、北海道には非常に優秀な人材がいる、あるいは技術があるということを、どれだけアピールしていけるかにかかっているといっても過言ではありません。
実際に北海道大学をはじめ、道内には立派な大学があるわけですし、そういうところで研究されている技術もある。それらをうまく使って道内で生産してもらう。せっかくの北海道発の技術も道外で生産されるのでは、北海道に残る付加価値がなくなってしまいます。今後はより産学連携が重要になってくるのではないでしょうか。
――かなり具体的な北海道の成長戦略というふうにうかがいました。
高田 食を中心とした加工を高めていくというような形で、一村一品的な部分をつくっていくということ、北海道全体をリードしていく力強い産業をつくっていくという2本柱で取り組んでいく。
後者のリーディング産業的なところには、自然エネルギーを中心とした産業群。さらにはさまざまなリスク分散拠点や海外移転できない分野の誘致。
そのために取り組んでいく課題は、技術力を高める人材育成。さらに地場の中小企業も育成し、しっかりとした産業基盤を構築していく。それは本州企業が進出しやすい受け皿づくりにもなります。今こそフロンティアスピリットを呼び起こし、これらのことを総合的におこなっていく必要があると思います。
――TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に関しては、どのような認識をお持ちですか。
高田 なかなか難しい問題だとは思いますが、農業団体や道の試算ですと大きな経済的な損失が発生する、雇用が大きく失われるというような発表がされています。一方で、長い目というか大きな視点で見ると、日本経済をリードしていく産業をさらに成長させていく必要があると思います。そういう視点からみれば、貿易自由化の推進は、やはり必要になってくるでしょう。
農業についても国内需要は今後どんどん減少していきます。グローバル需要、とくに中国・東南アジアをはじめとする東アジアを取り込んで、北海道の農業を成長・発展させていくという方向性は必要になってくると思います。

=ききて/鈴木正紀=