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Interview

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リーダーは批判を受けてもリスクを取れ掲載号:2011年4月

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宮脇淳 北海道大学教授

 グローバル化の中でこれまでの経済構造、行政システムが機能しなくなったいまこそ北海道のチャンス。しかし、今後の指針を示すべきリーダーを決める4月の統一地方選は盛り上がりに欠ける。重要な選挙であるはずなのになぜ道民は興味を示さないのか。

正念場であると同時にチャンス

――各地で地域政党が台頭してきていますが、最近名古屋市に行かれたことは。
宮脇 昨年の12月に行きました。市の職員は、仕事はやりやすいと言っていた。要は河村たかし市長が見ているのは非常に限定的。それ以外のところはあまり見ていないので、役所が中心になって仕事ができると。
――面白いですね。
宮脇 いまの民主党政権もそうだと思います。自分自身で混乱しているのと、見ている範囲がすごく狭い。そこさえ売り物で与えておけば、役所としてはほかのことは自由にできる。やりやすいと思いますよ。
――名古屋市ほど盛り上がらなくてもいいのでしょうが、知事選をはじめとする4年に1度の統一地方選が迫っています。その割に道民の関心は薄いのでは。
i2宮脇 いいことではありませんが、政治に対する無関心ではなく、あきらめ感というのでしょうか、そういうものが全体的にあるんだと思います。
――一方で、名古屋市や阿久根市の動きを見ていると、地域で何かが変わり始めていると感じます。
宮脇 それは確かです。議会とは何か、首長とは何なのかということに対して、住民は疑問を持ち始めている。もちろん、名古屋市のやり方がベストだとは思いません。ただ、河村さんや阿久根市の竹原信一さんの言動によって“揺れ”が起こっているわけです。議会は正直言って、政策議論などほとんどされず、人の批判ばかり。それであれだけのコストをかける必要があるのかと。それはその通りでしょう。だからといって一方的に専決で全部やってしまうというのも、民主主義をまったく度外視していますけどね。
そういう意味では道議会、札幌市議会といったところも、本当に道民、市民からの負託に応えた議論をしてきたのか。本来、議会は政策の製造ラインで、非常に重要なところです。行政のトップとしても議会改革は避けて通れない。答弁調整のレベルではないはずです。道はそれすらもできなかったわけですが。
――北海道にとって、これからの4年間はどんな意味を持つと思いますか。
宮脇 北海道にとってみると、いまが正念場であると同時に、すごくチャンスなんだと思います。なぜかといえば、これまでの構造が大きく変わってきているからです。それは見方を変えると、いままでのやり方を続けたいという考えだと、どんどん苦しくなるということ。グローバル化が進む中で、たとえばアジアとの関係をどう戦略立ててアプローチしていくかを考えていくと、東京に依存しなくてもやっていける北海道の姿が見えてきます。ところが、いままでの発想と同じように東京ないしは霞が関から何かを引っ張ってくる、あるいは製造業の工場を誘致するということでは、もはや北海道は立ち行かないということです。
――どうなれば有権者はこの大事な選挙に関心を持つようになるでしょう。
宮脇 全国の経済成長率は2003年から07年まで、だいたい2%。ところがその間、北海道はずっと右肩下がりでした。これまで言われていた北海道経済は日本経済の遅効形という相関関係は失われているということです。これにはいい面と悪い面がある。07年まで北海道が悪かったのは製造業がほとんどないからですが、逆に言うとこの構造は本州にない経済体力があるということです。
この10年間を産業の付加価値ベースで見てみると製造業、建設、小売、卸などは軒並み下がっている。農業はほとんど変わらず、サービス業は上がっています。まさに観光などはサービス業に入ります。単に中国の人を呼べばいいというだけではなく、高付加価値化をどう組み合わせるか。そうしないと、忙しくなったが所得は落ちていくということになりかねません。
知事選でも、札幌市長選でも、サービスを中心とした高付加価値化の地域戦略をどう考えているのかということを、候補者各人が示すということでしょうね。 「北海道を元気にさせます」とか「経済を活性化させます」とか、これは誰も否定しません。誰も道民をいじめるために当選したいなんて言う人はいないわけで、こういうものは選挙のスローガンであっても政策ではありません。

どんどん内向きになっている北海道

――いまのところ各候補者からは、具体的なものが伝わってきませんが。
宮脇 オムニバス的に並べることはできます。ただいまの財政を見れば、すべてできるわけではないのですから、積極的にやる部分、最優先は何なんだということを掲げないと、どれも中途半端になってしまう。
いま北海道がなぜチャンスかというと、グローバル社会の中で民間が直接いろんな工夫を出せるときだからです。そのときに経営をやっていない役所がこうしなさいというのは無理な話で、民間企業が動けるような環境を行政側が積極的につくっていく。韓国なんかがよくやる戦略です。
道が中国で展示会を開くのもいいでしょう。ただ次の展開がありません。民間がマーケティングとしてダイレクトに結びつける物流ルートを、道がいかにサポートするのか、あるいはどう構築していくのか。そういう戦略が待ったなしで必要なときに、どうも北海道はどんどん内向きになっている印象があります。内向きになっていることで、逆に自分たちの資源をどんどん“地盤沈下”させ、将来の可能性を潰している。アジアはいま、北海道をどれだけ高く評価しているか。このブランドを育てるには積極的に出て行かないと。その戦略というのが見えてこないのです。
――いろんな仕組みが変わろうとしているタイミングでの統一地方選。ここでうまく転身できなければ、北海道は永遠に“試される大地”で終わってしまうかもしれませんね。そうした重大な局面にもかかわらず、活発な議論が起こらない。そもそも候補予定者には戦略的な発想がないのでしょうか。
宮脇 閉塞感が非常に強くて、内向きの中で満足感を得てしまう。そこが非常に残念ですね。いまの政治全体の風潮として、事業仕分けなどが典型ですが、政治が行政レベルの細かいところにまで口を挟む。そんなところは行政に任せるべきで、やはり政治というのは大きな方向性とか、分岐点がきたときに自らのリスクを背負いながら政治家として判断していくというのが役割です。むしろ自治体のトップというのは経営者であって、単にコスト削減だけでは民間だって潰れてしまいます。そうするとこれからの戦略領域はどこなんだということになる。いくつか案があったにしても、すべてやるなんてことは民間だってできない。戦略領域をきちんと見極めて、そこにリーダーシップを発揮する。それはある意味、地域の夢ですよね。
――それがないから道民も関心を持てないと。
宮脇 そうですね。だから投票の基準が、候補者の人柄とか、わざわざ家に来てくれたとか、そんな話になってしまいます。
――候補者のほうで政策論議を避けているのでは。
宮脇 故意に避けているかどうかはわかりませんが、あえて触れなくてもいいという感じはありますね。大阪の橋下徹知事のすごいところは、政策的に大阪にとどまらないで、自分たちの中にも問題点を投げ込みながら、近畿という地域をどう考えるかを言い出そうとしている。そういうバイタリティーが北海道にはない。

リーダーシップは周りを巻き込む力

――有権者もそういうものを求めていないのかも。
宮脇 それもあると思います。厳しい厳しいとは言いながら、いまは経済がそれなりに回っていますから。  昨年、NHKの討論番組に出たときのことです。視聴者に「北海道はこれから何をやるべきか」というアンケートをしました。結果は「北海道らしさを重視していく」という答えが圧倒的に多くて、「アジアと連携を組んでいく」というのは微々たるもの。
もちろん北海道らしさをつくるというのは重要なんですが、そこで思考が止まったら所得には結びつかない。北海道の人口は100年たったら札幌市並みになってしまうという予測の中で地産地消だけで食べていけるのか。恐らく食べていけないでしょう。そうなるとアジアに目を向けないとおかしい。ところが道民全体も内向きになっていて、外へのチャレンジに距離をもち始めている。だから政治家のほうもそれに呼応するという話かもしれません。
よくこういう議論をしていると、政治が十分機能しないのは有権者の責任だというふうに言われる。そうすると、日本は民主主義が根づいていないからだと哲学論争的になるわけですが、政治家には地域の民主主義を先頭に立って育んでいくという役割もあります。民主主義の基本は議論ですから、批判ではなく議論をするための政策なり、その対案なりをきちんと提示する。それがないのは政治家自身に問題があるわけで、すべて有権者側の責任、問題だと転嫁してしまうのは間違い。政治家はそういう提案をどんどん住民に投げ込んでいかなければならない。
――確かに、大阪にしろ名古屋にしろ、どんどん住民に投げ込んでいますね。
宮脇 内容としては未成熟だし、大したことないものもありますが、やはり投げかけることで議論が起きる。北海道でも大阪でそうした議論がおこなわれていると認識している人は多いですよね。では、大阪ではどうでしょう。北海道で何が議論されているか、ほとんどの人は知らないのではないでしょうか。北海道の政治が、いかに発信力がないか。そこも問題です。
――考えがないから発信できないのか、単に資質の問題なのか。
宮脇 発信するということはリスクを取らないといけないわけです。1億3000万人国民みんな賛成するのは、鳩山由紀夫さんが言ったような「命を大切にする政治」ですよね。一人として反対する人はいない。そうではなくて、半分は賛成するかもしれないけど、半分は批判されるかもしれない。だけども自分は政治家としてこれは言うんだという投げかけをすると、批判があったとしても注目を浴びるわけです。リスクを受け止める姿勢がないと、チャンスも失っていきます。
――とくに知事の資質についてはどう考えますか。
宮脇 当たり前ですけれども政治家であると同時にいい意味で地域の経営者でないといけないと思います。管理者であってはいけません。限られた資源をどこに配分するのかを自ら決断し、それを着実に実行せざるを得ないようにできる人。資質という意味でいうと政治家の決断力と経営者としてのリーダーシップ力は欠かせないと思います。リーダーシップ力というのは周りを巻き込む力です。とくにこの巻き込む力が重要だと思います。

=ききて/鈴木正紀=