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Interview

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クラウドファンディングで
北海道をオモシロく!
掲載号:2015年6月

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伊藤博之 クリプトン・フューチャー・メディア社長
高橋はるみ 知事
杉山央 アクトナウ社長 

 新たな商品やサービスの実現のために、インターネットを通じて不特定多数の人から資金を募るクラウドファンディング。北海道発の運営会社が4月にできた。そこで「北海道をオモシロくしよう」と異色の3人が初顔合わせ。クラウドファンディングの可能性を大いに語り合った。

「思い立ったら吉日」という会社

――4月10日に北海道発のクラウドファンディング運営会社「ACT NOW(アクトナウ)」がサービスを開始しました。高橋さんも知事選の公約の中でクラウドファンディングを活用した女性起業家のための資金調達支援などを訴えていました。
高橋 従来、金融機関の融資などを受けるしかなかった小規模事業主は、資金調達ができない場合も多々ありました。景気回復の波を全道隅々にまで押し広げていくためには、地域の中小企業が有する事業資源を発掘し、磨き上げることが重要です。クラウドファンディングは、群衆を意味する「クラウド」と資金調達を意味する「ファンディング」を組み合わせた造語で、インターネットを活用した新たな資金調達方法です。私は、道内の事案でも、道外あるいは海外も含めて関心のある人たちが寄り添えるすばらしい考え方だと思っていました。そんなことから道も2014年度、多数の投資家から小額ずつ資金を集めるクラウドファンディングの仕組みを活用したモデル事業を展開しているところです。
――アクトナウは「初音ミク」で有名なシステム開発のクリプトン・フューチャー・メディアと、赤れんが法律事務所の弁護士・杉山央さんで立ち上げられました。どのような経緯があったのですか。
杉山 伊藤さんは標茶町生まれの道産子で、北海道を活性化したいと思っている。僕は札幌生まれ札幌育ちで北海道が大好き。そんな2人が、ある弁理士の紹介で知り合いました。
北海道を何とかしたいと思っている人はたくさんいます。でも、どうやるかといったときに、これといった手を持っていない人が多い。世の中にはクラウドファンディングという仕組みがある。伊藤さんはコンテンツとシステム開発の知識が豊富で、私には法律の専門知識がありました。そこで、伊藤さんがよくおっしゃるんですけど〝掛け算〟をしたんです。
伊藤 さまざまなアイデアとアイデアを掛け合わせることによって、新しい価値を創造していく。それがわれわれのやるべきことですし、そこにビジネスチャンスがあると思います。杉山さんは会社法や金融商品取引法などを得意とする弁護士で、これまで上場やM&Aを専門にやってきた実績があります。北海道にこういう弁護士がいること自体がラッキー。杉山さんなくしてアクトナウは成立しなかったでしょう。
会社自体は、まだヨチヨチ歩きもしていないところですが、道民や企業や自治体などが持っているアイデアを、みんなの力で形にしていければと思っています。ちなみに、アクトナウを和訳すると「思い立ったら吉日」です。
――クラウドファンディングは小額の資金を集めるのに適していますね。
伊藤 個人や学生が持っているアイデアは、なかなか形にするのが難しい。まずは資金の問題、さらにはピーアール。でも、それらはクラウドファンディングを用いることで解決できる部分は大きいと思います。
――いままで最も苦労していた部分が解決できると。
高橋 本当に北海道に一番向いているシステムかもしれません。ところでアクトナウの収益構造は。
杉山 正直言って儲かりません。規模の経済なので、たくさんの人がアクトナウを使っていただいて、初めて収益が生まれてきます。具体的には、アクトナウのサイトにアップするプロジェクトの掲載料と、そのプロジェクトの資金調達が達成した場合の手数料収入。それは調達額の10%です。そのほかプロジェクトライティングの代行などもありますが、まずはアクトナウの認知度を上げること。そして、北海道をオモシロくするためにアクトナウのプラットフォームをどんどん活用してもらえればと思っています。
高橋 アクトナウ自体がベンチャーですよね。
杉山 〝アドベンチャー〟にならないように気をつけます(笑)
伊藤 もはやインターネットは電話やFAXと同じくらい社会に浸透しているものだと思います。それを使って仕事をしたり情報発信をしたりと、当たり前のインフラになっている。この先、インターネットがない時代に戻るとは誰も思っていないでしょう。少し前までは、たとえば個人にすばらしいアイデアがあったとしても、それを多くの人に知らしめるためにはマスメディアに取り上げてもらわなければなりませんでした。いまはポケットに入るスマートフォンで、いつでも自分の思いや考えを写真やテキストで伝えることができる。これは北海道にとってものすごい福音です。
高橋 そうですね。たとえば農家が絶対に自信のあるおいしい農産物をつくった。それをソーシャルメディアを通じて生産者自身が発信し、販路をつくれる時代になったのですから。
伊藤 ピーアールは自分たちでできるようになりました。次のネックが資金の調達です。ここを解決するのがクラウドファンディングの考え方です。その時に、何だかわからないけどお金を出してくださいではなくて、私はこんな人間です、こんなふうに愛情込めて作物をつくっています――そういった思いやストーリー、共感をインターネットを通じて伝えていく。

小さく始めて大きく育つ北海道モデルを

――北海道には伝えるべきストーリーも、伝えるべき共感もたくさんある。
高橋 道のモデル事業の事例の中に、純米酒にもってこいの無添加おつまみをつくりたいので520万円をファンドレイジングしたいという案件があります。従来であれば地元の信用金庫とか信用組合、あるいは道内銀行に頭を下げて融資をお願いするところでしょう。でもアイデアがよくても融資が通ったかどうかはわかりません。その点、クラウドファンディングは、関心のある人たちが投資家にもなる。アクトナウに寄せられたプロジェクトを見ると、アイヌ紋様デザインを世界に売りたいとか、道内の食の素材を活用した冷凍食品をつくりたいなど、北海道らしいものがたくさんありますね。
杉山 これは金銭以外の作品・商品などのリターンを提供する購入型のクラウドファンディングです。
高橋 車椅子ソフトボールを始めたい子どもたちのために競技用車椅子を購入するプロジェクトというのも興味深い。
杉山 こちらは、商品やサービスの提供は一切ない寄付型のクラウドファンディングです。
高橋 ビジネスとしては採算がどうかというものでも、その趣旨に賛同する人たちは母数も多い。地方創生が叫ばれる昨今ですが、地域の中の資源を活用してコミュニティビジネス、たとえば高齢者の方々が地域のにぎわいの場をつくりたいとか、そうしたアイデアにも資金がつくかもしれない。クラウドファンディングは本当に多様なビジネス展開が可能になるシステムだと思います。
知事2

――アクトナウではプロジェクトの精査をどのようにおこなっているのですか。
杉山 おかしな案件がのぼらないように伊藤さんと僕、もう1人財務関係の人も入って審査しています。視点は3つ。そもそもこのビジネスは成り立つのか、財務的に回るのか、資金を募るために書いてある内容が法律的に問題ないか。これは上場時の企業の見方と同じです。怪しげなものがあがってしまうとプラットフォーム自体が腐ってしまうので、そこは細心の注意を払っています。
高橋 アクトナウの試みは、全国的にも先進的なものなのですか。
杉山 面白いとは言われます。地方に本部がきちんとあって、動いているというのはなかなかないようです。本当にないかというと、統計を取っていないのでわかりませんが……。ただ、多くの会社は東京です。支店を置いているところはありますが、常駐して地域に深く入り込んでやるというのは難しいようです。そんな中でアクトナウを札幌で立ち上げたので、九州などから反響があります。
――どんな反響ですか。
杉山 福岡の知人から電話がきて、うちでもアクトナウを使いたいが北海道限定なのと聞かれたり、九州のベンチャー育成は福岡と北九州で頑張っていますが、その両方からどういう仕組みでやればいいのかわからないから相談したいという話もきています。地方で創業支援をしていたり、何とか地方を盛り立てていこうという人からすると、地方発のクラウドファンディング運営会社が最初に札幌にできて、かなり悔しいとも言われました。そんな意味でもクラウドファンディングを活用して〝小さく始めて大きく育つ〟という「北海道モデル」ができればいいと思います。
――そうなれば、まさに地方創生のモデルになるでしょう。
伊藤 地方創生ということでいえば、僕は北海道に住む人間だけが道民ではないと思っています。住んでいる人だけが道民なら2030年には100万人減ってみたいな話にしかなりません。でも北海道に住んではいないけど、北海道の情報がほしい、いつも気にしているという人たちは大勢います。そういう人たちも、ある種の道民として取り入れる。インターネットでつながる〝バーチャル道民〟です。それならば道民を倍にも3倍にもできるかもしれない。

北海道民倍増計画も不可能ではない

――面白い発想ですね。
伊藤 どこかの町ですごくおいしいスイーツができた。それをピーアールするとき、バーチャル道民にいつでも情報発信できるきっかけをつくっておく。そうすると北海道の潜在能力というのは、ものすごく大きくなると思います。
〝われわれはインターネットでつながる人々も道民として受け入れる〟と。そんな姿勢を示すことが求められているのではないでしょうか。恐らくそういうことが北海道はできます。ブランド力があるのですから。そういう人々にピーアールしてビジネスはもちろん、アート、ファッション、農業、観光、さまざまな掛け算で新しい価値を一緒につくっていく。それが北海道の未来に大きな役割を果たしていくと思います。
――そうした発想はどこから出てきたのですか。
伊藤 昨年、初音ミクのコンサートをアメリカのニューヨークとロサンゼルスの2カ所でおこないました。おかげさまで大成功をおさめました。なぜそんなことができたかというと、初音ミクのフェイスブックの会員が250万人いるからです。インターネットで情報を出してファンを獲得する。ですから〝北海道民倍増計画〟も、あながち不可能ではないと思っています。
――いずれにせよ、クラウドファンディングの持つ可能性は大きいと思います。道民の手で北海道の魅力を発信し、雇用創出や自立経済の確立を促進するための有力なツールです。何か道とコラボレーションはできないのでしょうか。
高橋 そもそもクラウドファンディングが広く認知されているとは言い難い状況だと思います。道としては、地方にこそ視野を世界に広げて資金調達できるシステムだということを啓発する役割があると思います。それに各プロジェクトに関するマッチングのお手伝いもしていきたい。
杉山 まずは市民権を得ないと「いいね」といってもらえません。われわれも自治体におじゃまして話をさせていただいていますが、実際は「クラウドファンディングって食べられるの?」という反応です。

=ききて/鈴木正紀=