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Interview

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がれきを生かし”命の森”をつくれ掲載号:2012年6月

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宮脇昭 地球環境戦略研究機関国際生態学センター長

 東日本大震災で発生したがれきは、岩手・宮城・福島3県で約2250トン。政府は全国にその受け入れを要請している。横浜国立大学名誉教授で、これまで国内外で4000万本以上の木を植えてきた宮脇昭国際生態学センター長は、まったく新しい視点のがれき処理を提案する。

自然植生の森は高い防災能力を持つ

――東日本大震災から1年以上経過しましたが、がれき処理は進んでいません。
宮脇 がれきはゴミではありません。貴重な地球資源です。政府は、がれきを全国にばらまいて、焼いて処理しようと考えているようですが、ムダの極みです。
――北海道も政府に対し、がれき受け入れに前向きの回答をしています。
宮脇 冷静に考えてください。燃料を使って被災地外までがれきを運び、燃料を使って焼却する。当然、二酸化炭素も有害物質もたくさん出ます。地球温暖化が叫ばれているのに、莫大なお金を使ってそんなことをやる必要がどこにあるのでしょうか。がれきは焼かずに資源として有効利用すればいいのです。
第2次世界大戦後のドイツでは、戦災がれきを使って各地に都市林を造成しました。ミュンヘンオリンピックの会場もその1つです。
がれきと土を混ぜたマウンド(土塁)は、緑地づくりに最高の土壌となります。そこに土地本来の樹木を植えれば、地中深く張った根が、がれきを抱き込んで強固な森ができます。そして、生態系も豊かになる。ドイツでは木質性の廃棄物は焼いてはいけない決まりになっています。
――そこで宮脇さんは、がれきを生かして〝森の防波堤〟をつくることを提案しているのですね。
宮脇 昨年の3月11日、東北・東関東を襲った巨大地震と大津波の一報を、私は出張先のインドネシアで知りました。荒廃したジャワ島の森づくりのための植生調査をしていたのです。山から下りたときに、現地のローカルテレビで襲いくる津波の映像を目にしました。濁流によって家や車が瞬く間に流されていく。その惨状に私は強い衝撃と深い悲しみを覚えました。
これまで、その土地本来の樹木による〝本物の森〟は高い防災能力を持ち、防潮林としても役立つことを確信していた私は、震災から約3週間後、やっと数名の知人たちとともに被災地に入り、現地調査をすることができました。
――何がわかりましたか。
宮脇 仙台市域などの被災地跡を調べると、アカマツやクロマツなどはそのほとんどが防潮林としての機能を果たすことなく、根こそぎ倒れていました。その一方で、タブノキやシラカシ、その土地本来の常緑広葉樹林の構成種であるマサキ、ネズミモチなどの中低木は見事に生き残っていた。私がいままで各地の自然災害跡地を調査した結果と同じでした。
i2――同じというのは、どの災害地にも耐えられた木と耐えられなかった木があったということですか。
宮脇 そうです。ではその違いは何か。今回の津波では、マツのような根の浅い木は根こそぎ倒されてしまい、防潮林としての機能を十分に果たしていませんでした。巨大な津波のエネルギーに耐えられる木、波破砕効果の高い木は、現代人の記憶に刻み込まれているよりはるか昔の先史時代から何回も襲ったであろう自然の大災害に耐えて生き残ってきた、その土地本来の樹木で、地中深くにしっかりと根を張る深根性、直根性の樹種です。
そのような潜在自然植生の主な構成種群、すなわち土地本来の樹種を主木として、できるだけ多くの樹木を自然の森のシステムにそって混植・密植すれば、本物の命の森となって、必ず襲ってくる自然災害から私たちの生命や財産、伝統や文化を守ってくれます。
――その命の森こそが〝森の防波堤〟だと。
宮脇 東北3県には大量のがれきが発生しました。その中の毒と分解不能なもの以外は、有効な地球資源として活用すべきです。

がれきを焼却するのは最低の下策

――その方法は。
宮脇 まず穴を掘って、そこで発生した土とがれきをしっかり混ぜながらマウンドをつくります。マウンドの幅は30メートル以上、できれば50?100メートル。高さは20メートル以上。マウンドの幅が広いほど、高さも高いほど防災機能は倍加します。
ここで大事なことは、根は呼吸しているということです。深根性の樹種群の根は、土中に十分な酸素があれば、われわれの実験でも土中深く4?6メートルまで伸びる。コンクリートのがれきなども人の頭くらいに割れば、根群が抱くので強風や津波などでも容易には抜けません。逆に土が固くしまっていたり、地中に水がたまると根が入れないのです。がれきと土を混ぜることで隙間ができます。それによって酸素が維持でき、森の成長を確実にします。
――総延長はどれくらいを想定しているのですか。
宮脇 まず三陸海岸沿いに南北300キロです。
――そこにマツだけではなく、その土地に昔から生殖していた樹木を植えると。
宮脇 北海道だとカシワ、ミズナラなど、三陸地方だと、タブノキ、シラカシ、ウラジロガシ、アカガシ、仙台平野以南ではスダジイ、などを主木とした苗木を混植・密植します。その苗木は15?20年で多層群落の森に成長し、最終的には高さ20メートル、条件がよければ30メートル近くも伸びて、安定度の高い多層群落の柔構造で堅固な森の防波堤になります。
コンクリートの防波堤に津波が当たると、衝撃のエネルギーは倍増してしまいます。一方、森の防波堤は津波エネルギーを和らげる。森が津波の衝撃を吸収しているうちに逃げる時間を稼ぐことができますし、引き波に対してはフェンスの役割を果たしますから、人が海に流されるのを防ぎます。もし、今回の津波のときに森の防波堤があれば2万人もの命を失わずに済んだかもしれません。
――巨大な森ですからCO2の吸収も期待できる。
宮脇 植樹当初30センチの苗木は、乾燥重量が300
必要な苗木は約9000万本ですが、苗を買って育ててくれるボランティアを世界中で募集し、東北に植えに来てもらえば大きな観光資源にもなるでしょう。1本当たりの苗木を300円と見積もっても、かかる費用は270億円程度。何千億円もの税金を使い、膨大なCO2を排出しながらがれきを焼いてしまうのは最低の下策だと思います。
――完成しても観光資源になるでしょうね。
宮脇 森の防波堤を築くには、中国の「万里の長城」のように政府、自治体、企業、各種団体、市民、ボランティアが一致協力して、国民的プロジェクトとしておこなうべきです。こうしてできた〝緑の長城〟は環境保全林や観光資源となり、さらに80年から100年で超高木に成長したタブノキ、シイ、カシ類などをていねいに択伐して家具や建築材として活用すれば、経済効果も十分見込めます。
林内には後継樹がひしめいているので、ただちに生育してその空間をうめる。したがって、スギ、ヒノキの客員樹種の単植林と異なり、防災・環境保全機能は皆伐、破壊しない限り、次の氷河期までの9000年は地域経済と共生した命の森として持続します。
危機をチャンスにつくった命の森は災害復興特別国立公園に指定し、世界の人が訪れ、学び、癒やし、そのノウハウを日本から世界に発信する場とすべきです。

がれき使って世界遺産になる森を

――宮脇さんは震災後の昨年4月28日に、復興構想会議でこの提案をしていますね。
宮脇 震災後、現地で調査したのち、当時の民主党幹事長の岡田克也さんのところへ行って、森の防波堤構想を話しました。岡田さんは、素晴らしい、こういうふうにやらなければならないとおっしゃっていただき、当時の復興会議の座長に電話をしてくれました。座長にもすぐに会いましたが、計画をつくるのに時間がかかる、防衛大学校卒業の宮城県知事ならやるだろうということで、村井嘉浩知事にも会いました。彼も熱心に聞いてくれました。ただ当時、環境省もがれきは産業廃棄物だと考えていた節があって、法に触れるからちょっと待ってくれと。その後、環境省はがれきは一般廃棄物との認識を示したのですが、そこまでいってもなかなか進まない。  国もいまのところ〝ぜひがれきを使ってくれとは言わないけれど、ノーとは言いません〟というところまではきています。災害がれきは一般廃棄物。家庭から出すものと同じものです。だから環境省も地域の人がよく相談して前向きに使ってくださいと言っています。
ところが役所は、とくに現場を知らない役人は古い条例にこだわって何もやらない。担当の課長なんか、条例が変わらなければイエスと言えないと。結局、中央政府が煮え切らないから、市町村に丸投げしているのです。そんなこんなで、結局1年たちました。
ところが役所は、とくに現場を知らない役人は古い条例にこだわって何もやらない。担当の課長なんか、条例が変わらなければイエスと言えないと。結局、中央政府が煮え切らないから、市町村に丸投げしているのです。そんなこんなで、結局1年たちました。
――先般は野田佳彦総理とも会われたそうですね。
宮脇 3月20日です。熊本県知事時代から森づくりを一緒にやってきた元総理の細川護煕さんと一緒に野田総理と面談しました。その際、野田総理は「前向きに進めたい」とおっしゃっていました。
――こういうことこそが、まさに政治主導、政治判断だと思いますけどね。
宮脇 コンクリート片なんかは全部使っていいという。ただ木質がれきは腐敗してメタンガスが発生したり、発熱による自然発火の恐れもあるから認められないと。でもそんな古い条例、法律で2万人の人が亡くなっているのですよ。
これは国土交通省のみなさんにも協力してもらって出した計算ですが、たとえば南北300キロ、幅100メートル、高さ22メートルのマウンドをつくったとすれば、いま大騒ぎしているがれきすべて使っても全体の体積の4・8%にしかなりません。仮にその規模を半分にしたところで10%以下です。もちろん、木質がれきを全部同じところに埋めれば、熱を出したり、あるいは多少ガスを出したりするかもしれません。しかし、5%や10%に拡散すれば、環境省が危惧するようなことは起こりません。むしろ隙間があるので根がしっかり成長する。木質のものはゆっくり分解しながら窒素、リン酸、カリを生み出します。それは森の栄養になるから、あらゆる面でプラスです。
――法律はその時々で変えるものです。
宮脇 法律を変えるのに2年かかるというのなら、政治判断で超法規でやればいいことです。そこまでの腹がないのであれば、いまある法律を拡大解釈すればいい。でもいまの政府はそんなこともできないのです。私は野田総理に言いました。いまこそチャンスだと。被災地に実のない札束をばらまいても10年たったら忘れられてしまう。しかし、がれきを使って世界遺産にもなる命の森をつくったとしたら、あなたの名前は永久に残ると。

=ききて/鈴木正紀=