「情報を先取り、タブーに挑戦」を編集方針とし、生活者・企業経営者に
最新かつ有益な情報価値をご提供する、北海道の地域政治・経済誌

ロゴ

トップページ > インタビュー

Interview

このエントリーをはてなブックマークに追加

「鳩山内閣よ、“見せかけの政治主導”で国民を失望させてはならない」掲載号:2009年12月号

photo

田中秀征 福山大学客員教授

 政権交代を果たしてから2カ月半。依然60%台の高い支持率を誇る鳩山由紀夫内閣。しかし、支持の中身を見れば決して楽観はできない。「支持は広いが強くない。ちょっとしたミスで失速する」と政界きっての論客田中秀征氏は指摘する。

鳩山内閣は“小沢肩車内閣”でいい

――ようやく臨時国会も始まりました。ここまでの鳩山新政権の印象は。
田中  期待と不安が相半ばするという感じ。これは有権者の多くがそうだと思います。民主党の支持と いうのは、簡単にいうと広いけど弱い。支持率調査をするとそれなりの数字は出てくるけれども、たとえば1票を書くときに、思い入れの強い候補に対しては、 鉛筆が折れるほど強く書く。残念ながらいまの民主党にはそういう強さはない。
――確かに世論調査の数字には、有権者の思いの強さは表れませんね。
田中  政治というのは支持の「強さ」で動く。だから支持率の「高さ」や支持の「広さ」を錯覚したら、とんでもないことになる。弱い支持を強くしていくのはこれからです。
に比べると鳩山さんは、ふわっとしたもの。そこをきちんと認識していなければ本当に間違いを起こすことになる。
――「友愛」という漠然とした理念に違和感をもつ人も多くありませんか。
私は代議士時代、細川護煕さんと小泉純一郎さんの3人で政策勉強会「行革研究会」を立ち上げていましたが、たとえばこの2人の内閣と今の鳩山内閣を比べ ると支持の強さはまったく違う。とくに小泉さんは強かった。「人生いろいろ」なんてとぼけたこと言っても、びくともしないだけの強さがあった。それ  田中  それはよくわからないが、今回の選挙は自民党に「出直せ」という意味合いが強かったというこ とは言える。その後の世論調査でも明らかで、「再生してもらいたい」という声が異常なほど強い。一番高率な調査では確か80%近い人がそう答えている。必 ずしも「引っ込め」「退場しろ」ということではない。これは裏返せば民主党に対する不安。だから自民党に過度に期待しているわけではないけれど、健全な対 抗勢力が出てきてほしいというのが国民の願いでしょう。
i16 ――ただ自民党の再生は短期間ではむずかしい。
田中  いまのままでは再生しないですよ。骨と皮だけ残って、もう一度肉を詰めるという話ではない。民主党の失点待ちで再生できるかというと、そんな甘いものでもない。昔、福田赳夫さんが「解党的出直し」という言葉を使った。いまの自民党は実際にそうしないといけない。
――鳩山政権では、閣内不一致とまでは言わないまでも、大臣の勇み足的なところが随所に見えます。
田中  たとえば普天間のことにしても、どうしてこういう重要問題について、今まで意見のすり合わせ がなかったのか不思議でなりません。県外だ、国外だという場合には、きちんとした構想が頭の中にあって言うべきこと。さらには、それなりの水面下での検 討、交渉があって然るべき事柄です。だからちょっと信じられない。それを政治主導だからいろんな意見が出るんだというような発言は、政治主導の履き違いと いわざるを得ない。
――日本郵政の社長人事も鳩山総理は前日まで知らなかったと言っています。
田中  少なくともそれ以前に、亀井静香金融・郵政改革担当相と小沢一郎幹事長の間では話はついていたはずです。
――鳩山内閣では、どうしても小沢幹事長の影響力が取りざたされる。
田中  実際、鳩山内閣は“小沢肩車内閣”です。それはそれでいい。ただ肩車されているほうが行き先 について明確な意思表示をすること。しかもそれは、みんなに聞こえるように言うべきです。耳元でささやく程度だと違う方向へ行ってしまうという恐れもあ る。だから鳩山さんが多くの国民・有権者に向かって、自分はこっちに行くんだと宣言すれば、肩車をしているほうもそっちに行かざるを得なくなる。

いまだ見えてこない国家戦略局の姿

――鳩山政権の真価が問われるのは官僚主導からの脱却、いわゆる政治主導だと思いますが、ここまでの取り組みについて、田中さんはどう見ていますか。
i17  田中  最近の鳩山政権を見ていて、政治主導ということがわからなくなってしまった(苦笑)。選挙で 示された民意を政権が主導して実現していくことと理解すれば、バラまきと誤解された民主党の目玉政策というのは、必ずしも支持は高くない。そうすると財政 出動をして約束を100%果たしていくことが本当に民意なのかというと疑わしい。私の感覚では満額回答など誰も期待してないですよ。だから有権者のマニ フェストに対する許容範囲はかなり広い。しかし、政治主導という基本的なところの妥協は許さないですよ。  北海道では波は起きませんでしたが「みんなの党」の躍進がそれを物語っている。細川さんとも話したが、もっと時間があって、もっと多くの優れた候補を立 てれば日本新党を上回ったと。みんなの党は官僚改革、行政改革一本で戦った。みんなの党の候補者がいない選挙区は民主に入れたわけですよ。不安を伴いなが らも鳩山さん自身が歴史を変えると啖呵を切った政治主導体制への期待。そこへの共鳴であって、必ずしも目玉政策といわれているものに対しているものではな いということです。ここを譲ったら有権者は許さない。その認識が甘いのではないか。
――いまだ国家戦略局の位置づけが見えてきません。ここが機能しないと政治主導の本気度が見えてこない。
田中  国家戦略局の中身がいまだによくわからない。政権内で首相の意向を固める場所だとすれば、ど うしても必要なのは決定権限。あらゆる分野についての首相の意向を固める機関だから意味がある。しかし外務省が1抜けた、財務省が2抜けたとなれば、あと は何が残るのか。決定機能を持たなければ単なる諮問機関。経済財政諮問会議と同じか、それ以下のものになる。そんなものが必要なのかということになりかね ない。
――政治機能を強化するという意味では最大の装置をつくるという話なのに。
田中  国家戦略局については首相がきちんと説明する必要がある。国民は全然聞いていないのだから。
――一方で、国家戦略局に決定権を持たせるためには法整備が必要です。
田中  まずこの臨時国会で法制化をやるべきだった。やらないというのは本気度を疑われます。確かに 補正予算の見直しと概算要求で忙しかったといわれればその通りだけど、そういう基本的なところはやっておかないと。いままでの土台でやっていればそれに慣 れてしまって、変えていくことができないですよ。
――鳩山総理は10月29日の参院本会議で「マニフェストの変更は想定していない」と強調しました。
田中  これまで民主党は財布を持っていなかった。前政権があまりに財布を隠すもんだから、うんとあ るんだろうという誤解を生じても無理はない。ところがいざ財布を渡されて中身を見たら、とてもすべての公約は果たせない。それはいいんです。きちんと公開 すれば、みんな納得しますよ。にもかかわらず100%守るというのは他の理由があると思わざるを得ない。
――それは何ですか。
田中  霞が関が政権に恩を着せるということ。国民との約束を守ってやったと。だから俺たちの権益には手をつけるなと。
――国民は、財源が限られているのはわかっているし、赤字国債を増発してまでマニフェストをすべて守ってもらおうと も思っていない。ただ税金の使い道とか、優先順位とか、予算配分そのものを大胆に見直してくれるとは思っていたのではないでしょうか。しかし、そういうこ とにもなっていませんね。
田中  来年度予算に向けては2つの柱があって、1つはマニフェストの忠実な履行、もう1つは既得権 益化した不要不急のものを削っていくということ。そういう中で巨額な概算要求となりました。それを削れとなっていますが、これは財務省がやりたかったこ と。財務省としては、こんなありがたいことはない。
これまでは100億円削るのも大変だったのに、いまやあっという間に3兆円です。どこまでも削れる。
i18 ――なぜです。
田中  以前は、財務省が横綱だとしたら各省庁は小結か関脇くらいの位置を占めていた。そこには3つ の力があったから。1つは族議員、もう1つは業界団体、最後の1つは自分の財布、すなわち特別会計。この3つが各省に自主性と力を与えていて、かろうじて 財務省にものをいえた。ところがそのバランスはすっかり崩れました。族議員も業界団体も政権交代を機に著しく力を失った。さらに財布の中身を調べられる。 まったく抵抗できなくなって、いまや横綱と序二段くらいの力関係。だからどこまでも削れる。

行政刷新会議のはずが財政刷新会議

――各省庁の族議員がいなくなったかわりに、全部財務省の族議員になってしまったようですね。
田中  もちろん、ムダを排除するというのは一定の評価はできます。しかし、今やっている改革は財政 改革。同じ改革でも行政改革とはまったく異質なものです。財政改革は納税者に痛みがいく問題ですが、行政改革は政治や行政の内部に痛みがいく。いまのとこ ろ行政改革は手つかずです。
――行政改革を進めるには、財務省をどうすればいいんですか。
田中  財政改革をやるぶんには、政権と財務省は同志なんです。一緒にメスを握ってくれる医師団の一員といってもいい。一方、行政改革では財務省も患者。それもかなり重症者。果たして、一緒に医者をやってくれた人に「あんたは患者だ」と言えるかどうか。
――小沢幹事長は行政改革に対してどういうスタンスを取ると思いますか。
田中  昔から小沢さんは官僚をうまく使えという考え。そこは変わっていないという印象はあります。 小沢さんの場合、細川政権のときはまだ50歳そこそこで政治家としての通過点だった。今回は本人も言っているように最後の舞台。これまでの総決算として、 もちろん期待はするけど、不安も伴うね。
――行政のムダということで言えば、行政刷新会議がやろうとしているのでは。
田中  行政刷新会議も、いまは“財政”刷新会議なんですよ。行政サービスをカットしているだけで、内部を削っているわけではない。まさに財務省の別働隊に過ぎません。
――本当の行政改革に変えていくには。
田中  出発点としては2つ。1つは人事権を政治が掌握すること。もう1つは首相周辺を民間人で固め ること。これをやらない限りは進まない。要するに人事権がないということは、野球やサッカーの監督に選手交代の権限がないということですから、誰も言うこ とを聞くはずもない。そんなところに国家戦略局を設ける、行政刷新会議を設けるといっても、人事権のない社長室を拡充することにしかなりません。何の意味 もなく、それ自体が行政の肥大化や複雑化をもたらすだけです。いまのところ鳩山政権の政治主導に対するスタンスは、ある種の見せかけだけ。“政治主導の偽 装”に終わっているといわざるを得ません。国民を失望させてはならない。
鳩山政権には何としても参議院選まで期待をつないでもらわないといけません。60~70%という支持率でつないでいくと、自民党が再生する際、中途半端 な方法では再生できない。ますますハードルが高くなる。民主党以上の信頼感がないと政権の奪回はない。民主党に対抗する勢力の質がさらに高まるでしょう。

=ききて/鈴木正紀=