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Interview

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「道民はもっと怒れ、エセ龍馬たちの言いなりになるな!」掲載号:2011年3月

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中野剛志 TPP反対の急先鋒京大助教

 最近、幕末・明治にタイムスリップしたかのように、「開国か鎖国か」というフレーズが世間をにぎわせている。北海道にも甚大な影響を及ぼすと言われるTPP問題だ。加盟反対を訴える中野剛志京都大学助教を直撃した。

日本はネギを背負った太ったカモ

――菅直人首相はTPP(環太平洋パートナーシップ協定)参加を「平成の開国」と位置づけています。
i2中野 菅首相が昨年10月、所信表明演説でTPP参加の検討を表明しました。誰もそんな話を聞いたことがなかった。あまりに唐突で、民主主義として異常です。
さらに11月のAPECでは、各国首脳を前に開国宣言をおこなった。坂本龍馬気取りで「これから国を開きます」と。いい年したオジサンではなく、福山雅治さんが龍馬を演じたから許されたのです。日本のリーダーとして本気で国益を考えているのか。心中を疑わざるを得ません。
――TPPは、関税自主権を回復した明治時代の開国とは、まったく逆ですね。
中野 関税自主権が回復したのは1911年で、今年でちょうど100年です。それを記念して回復まで約50年もかかった関税自主権を放棄する。もう一度、関税自主権を取り戻すため、鹿鳴館をつくってコスプレ外交や戦争をするつもりですか(笑)。富国強兵政策をとり、独立国家になるために戦い抜いた過去の開国とは、意味合いが違います。
外交はイメージ戦略が大切で、普通は「自分の国は開かれています」と主張します。外交でネガティブキャンペーンを張れば、自国の利益を損ねてでも、妥協せざるを得なくなる。
ところが、菅総理は自虐的に「閉鎖的で鎖国している」とイメージを悪くした。ある意味“売国奴”のような行為です。太ったカモがネギを背負って、手足を縛り上げられて寝転んでいる。外国からみれば、いまの日本はそんなカモのような存在です。
確かに北朝鮮のように国際世論を気にしない外交戦略もあります。あんな小さい国が大国の鼻面を引きずりまわしているのですから。少しは日本も見習ってはどうかと思いますが…。
――米倉弘昌日本経団連会長などは「TPPに参加しなければ、世界の孤児になる」と発言しています。
中野 まず、日本の平均関税率は、アメリカやEU、韓国などと比較しても低い部類に入ります。農業に限っても決して突出して高いわけではない。さらにWTO(世界貿易機関)加盟国で、FTA(自由貿易協定)を11の国や地域と締結しています。世界第3位のGDPも持っているわけです。
このように日本は十分に開国しているのです。すでに参入規制と呼ばれる障壁は、取りすぎたくらい取っ払ってしまった。もうネタがないんですよ。仮に鎖国しているのならば、穀物の国内自給率がこんなに低いわけがないでしょう。
――TPPは事実上、日米間のFTAと指摘しています。その根拠は。
中野 交渉参加9カ国に日本を足したGDPのシェア率を見ると、アメリカが約70%、日本が約20%、オーストラリアが約5%、残り7カ国で約5%となります。日米以外は外需依存度が高いので、日本の輸出先はアメリカしかない。世界の孤児になるというのは統計上、全くのデタラメです。財界の方々はGDPの構成比もわからず、よく企業経営ができると思います。私が株主だったら総会で文句を言っちゃいますよね。
――アメリカはTPPに参加して、貿易黒字を拡大する方針を掲げています。
中野 菅総理が開国宣言をしたAPECで、アメリカのオバマ大統領は「わが国は輸出拡大戦略をとっていて、アジア地域に期待しています。なぜなら、輸出を伸ばすとアメリカの雇用が増えるからです」と明言しました。あわせて「貿易黒字国はこれ以上、輸出を拡大すべきではない。とりわけ、アメリカに依存すべきではない」と言ってのけた。つまり、「輸出は増やすが、輸入はしない」という意味です。そんな国にどうやって輸出を拡大するのですか。
アメリカは“自由の守護神”として、互恵的な貿易ルールをつくる気はさらさらないのです。アメリカが主導でやるならば、今年1月の一般教書演説にTPPの話が盛り込まれるはずです。だが、TPPという文言はなく、自由貿易という言葉すら登場しない。
――オバマ大統領が打ち出した政策は次々に失敗しています。それも輸出拡大の背景にあるのでは。
中野 そうです。オバマ政権は中間選挙で負けて支持基盤が崩壊した。失業率が10%に迫り、にっちもさっちもいかなくなった。内需拡大をあきらめ外にも目を向けざるを得なかった。
今後、アメリカは輸出を拡大するために関税に頼らず、ドル安を誘導する戦略をとります。そのためアメリカとのTPP交渉は、すべての国が難航します。
その際、私がアメリカの役人だったらこうします。まず、わざとごねて困らせる。疲れた交渉国は「アメリカ以外に日本もあるぞ」となる。すると私が「アメリカも日本市場に参入したいと思っている。一緒にやろう」とふっかける。8カ国を味方につけ、日本に襲いかかるわけです。
そもそも、TPPに入らなくても日米は十分に自由貿易ですから。日本に来ているのはアメリカの“黒船”ではなく“泥舟”です。

TPPは国民全体を不幸にする愚策

――TPP推進派は「TPPがアジア・太平洋地域における経済枠組みの基礎となる。先進的、実質的なルールになる」と言っています。しかし、韓国や中国が入る気配はありません。
中野 韓国は日本と同様に製品輸出国です。TPP交渉国のほとんどは農業製品をはじめとする1次産品、低賃金労働者輸出国です。加盟してもメリットがない。それだったら、アメリカとFTAを結び、タイマンを張った方がマシだと考えた。
また中国はアメリカから為替操作国と名指しで批判されているので、自由貿易、TPP参加以前の問題です。
ある外務省OBは「日米同盟と自由貿易体制が戦後の日本の繁栄・平和の基礎となった。TPPが飛び乗るべきバスであることは、自明の理である。それは歴史の教訓で、反米主義になってはいけない」と話しています。
「バスに乗り遅れるな」というのは、日本が第2次世界大戦中にイタリア、ドイツと結んだ3国軍事同盟のスローガンです。本当に歴史の教訓を得ようとしているのか。こんな人が外務官僚をやっていたのかと思うと、恐ろしくなります。
日米安保と自由貿易は無関係です。TPPに入れば日本の安全が担保される保障はどこにもない。日米安保にはアメリカにとって軍事戦略上、固有の意義があります。日本市場を搾取するために番犬をやっているわけではない。
アメリカ政府が軍隊に「日本の農業市場をとりたいので、その見返りに命をかけて日本を守ってくれ」と言っても説得できないでしょう。TPPにかかわらず日本を死ぬ気で守ってくれないのです。まったく勘違いしています。
――北海道は農業が主力産業です。道庁は年間2兆1000億円の損出がでると試算しています。
中野 TPPに入れば素人考えですが、日本の農業は壊滅するでしょう。関税撤廃、大規模農業の効率性、ドル安、デフレによる賃金下落―などで、アメリカの農業には4重、5重の競争力がつくからです。
――6次産業化などの農業構造改革で、影響を食い止められますか。
中野 その手段を思いつくのは、私が知る限り諸葛孔明くらいじゃないですか(笑)。偽物の諸葛孔明が「構造改革をすると農業は生き残れます」と、こざかしい知恵をたくさんだしている。どれも小手先な手法ばかりで、解決策になりません。
ただ、何もせず無抵抗というわけにはいきません。今後、日本もアメリカに対抗して生産性をあげていく。安い製品が入ってくるので、コストカットをして安価な農産品を輸出する。だが、この政策は国内のデフレを促進させます。デフレが悪化すると農業、外食産業などで競争が激化し失業者が増える。労働市場が供給過剰になり賃金が下がります。
私は農家がかわいそうだと思いますが、そういう論陣をはりません。TPPには農業だけでなく、金融や人の移動も含まれています。いま、製造業従事者の中には、農業だけが苦しんで、自分たちは得をするとの不道徳な損得勘定を持っている人もいるようです。
人の自由化がはじまれば、低賃金労働者が日本に来る。次は製造業がターゲットになります。ある財界人は「アジアから高技能の移民を入れろ」と主張しています。製造業にも必ずTPPの悪影響が押し寄せてきます。つまり、TPPに入れば国民全体が不幸になるのです。

“エセ龍馬”たちと感情論で戦え!

――北海道は経済界、党派に関係なく、TPP反対の大合唱です。
中野 北海道の方々には申し訳ないですが、TPPはすでに負け戦で、多勢に無勢です。政府が推進していることを財界がバックアップして、大手新聞・テレビも賛成の論調です。
前原誠司外相が先日、「TPPは日米同盟推進の一環」と発言してしまった。TPPに加盟しなければ、日米同盟を軽視しているとアメリカは言ってくる。アメリカに期待値を上げて、どんどん外堀を埋めている。国民的な議論をするつもりはまったくなく、黙らせるにはどうしたらいいのかを考えているだけです。
数年前から政府は、公共事業が減り建設業界は厳しくなるので、農業をやりなさいと勧めた。多角化した農業がようやく軌道に乗ってきたと思ったら、今度は農業をつぶすTPPです。いいかげんにしろっていう話です。北海道がなぜこんなに痛めつけられなければいけないのか。これ以上、地方がなめられるのは耐え難い。TPPは完全に地方・弱者切り捨て政策です。
――北海道はもう打つ手がないということですか…
中野 地方で地域に密着して頑張っている人たちは、直感とか地頭が違いますよ。「これは危ない」とすぐに感じる。推進派の学者や経営者のように、きれいごとを並べ「開国するぜよ」と叫ぶ“エセ龍馬”たちとは違います。
よく、TPPは「感情論を廃して冷静な議論で」と言いますが、その必要はまったくありません。
TPPは感情論で戦うだけの価値があります。例えば「TPPはよくわからないけどムカツク」という感じでも構いません。数秒で破綻(はたん)するようなTPPの賛成理論は、私がすべて粉砕しますから。
今年4月に統一地方選があります。地方の声を届ける最後のチャンスで、まさに「皇国の興廃この一戦にあり」です。
北海道だけでも選挙期間中、TPPを口に出したら危ないという雰囲気をつくる。私はTPPを「徹底的にパッパラパー」の略だと呼んでいます。「あの政治家はちょっとTPPじゃない」というような使い方です。“KY”(空気が読めない)と同じですよ。
講演会などで私の話を聞いている時間があれば、地方議会や地元国会議員、マスコミにどんどんTPP反対の投書を送ってほしい。地方はおとなしすぎます。とにかく北海道のみなさんはもっと怒ってください。ケンカだからナメられちゃいけない。地方から本当の民主主義の力を見せようじゃないですか。仮にTPPに加盟しても、次からこんなふざけたマネはできないはずです。

=ききて/前田圭祐=