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Interview

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「観光復活の第一歩は道民が愉しむことだ」掲載号:2011年7月

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坂本眞一 北海道観光振興機構会長

 東日本大震災と原発事故が観光業界に深刻なダメージを与えている。海外、道外からの観光客が激減。青息吐息の業者も出始めている。この危機を乗り越えるためには何が必要なのか。坂本眞一北海道観光振興機構会長に聞いた。

放射線濃度に関し正確な情報発信を

――地震発生のときはどこに。
坂本 会社にいました。すぐにテレビのスイッチを入れ、私の部屋から線路が見えるので、列車が動いているかを確認しました。帰宅後、家族がいる東京の自宅に電話を入れましたが、つながらなくて…。結局、2日後にようやく連絡がとれ、安心しましたよ。
――東日本大震災によって道内観光も大きな影響を受けています。
坂本 3月の入り込み客数は前年比7割以上の減少でした。地震発生直後から、宿泊予約のキャンセルがどんどん増えていると観光振興機構に連絡が入り、国際観光旅館連盟が調査したところ、3月末時点で6月までの予約の取り消しは26万人でした。ものすごい数です。その後もキャンセルは増えていったと思います。
――震災発生後、観光振興機構では観光関連産業の被害を試算しました。
坂本 昨年の4、5、6月を基準に、キャンセルの状況から「外国人観光客ゼロ、道外客5割減、道内客3割減」と想定してはじき出しました。あくまで試算ですが、発表した時点で約800億円ぐらいの被害額と予想しました。
しかし、実際はどうかというと、海外の観光客の姿は最近になってちらほら見え始めましたが、道外客は前年比5割も来ていません。やはり福島第1原発の事故で、なんとなく西日本の方が安全だという雰囲気があるのではないでしょうか。東北の被災地の上を飛び越え、北海道に遊びにいくというのには、心理的な抵抗感が働くのかもしれませんね。
――現時点での被害予想は。
坂本 現在、新たな調査をまとめている最中です。ただ、今はこのピンチをどうやって乗り越えていくか、その施策を実行していくことに力を注いでいます。
また、今回のピンチで、観光産業の裾野の広さ、影響力の大きさを、他業界のみなさんも認識したのではないでしょうか。観光関連産業以外の方も今は、観光客のありがたさを心底実感していると思います。
――海外からの観光客を以前の水準に戻すにはどうすればいいと思いますか。
坂本 外国のみなさんが一番心配しているのは地震ではなく、原発事故による放射能です。「風向きによっては北海道にも放射性物質が降ってくる」「北海道の魚も危ない」とか、そういった風評が海外では流れているんですよ。
道は数カ所で空気中の放射線濃度を調査し、その結果をインターネットを通じて公表しています。それから水道水、土壌、回遊性の魚であるサケでも定期的に調査を実施しています。こうした調査による正確な情報をオープンに、しっかり発信していくこと。海外観光客を取り戻すためには、こうした情報発信がまず重要だと考えています。

ありがたかった台湾の大訪問団

――「北海道は安全ですよ」と海外に積極的にアピールするということですね。
坂本 科学的データを示すことは重要ですが、われわれが直接外国に向かって「北海道は大丈夫ですよ」と言うと「では他の地域は危険なのか」と思われてしまう場合もあります。その辺は注意しなければなりません。一番効果的なのは、各国の旅行関係、マスコミに「北海道は安全だ」という情報を自国内で発信していただくことでしょう。
そういった意味では5月中旬、台湾の王金平立法院院長が国会議員、メディア、旅行関係者を多数引き連れ、来道されたのは本当にありがたかったです。王院長は札幌到着後の記者会見で「身をもって北海道の安全性をピーアールしにきた」と話されていました。
――台湾では多額の義援金が集まったそうですね。
坂本 震災発生翌日から、募金活動が始まったと聞きました。もともと親日派が多いうえ、かつて災害に見舞われたとき、日本が支援の手を差し伸べたことを覚えている方も少なくない。それで自然発生的に募金の呼びかけが始まり、今もまだ募金活動が続いているそうです。義援金の額は160億円を超え、170億円とも聞いています。
台湾の大卒初任給は8万円ぐらい。それを考えると、価値は日本の倍。つまり日本の感覚で言うと、340億円以上の募金です。台湾の方の熱い思いと友情を感じます。
――台湾からの300人を超える大訪問団が来ることになったいきさつは。
坂本 4月下旬、義援金を届けに王院長が経済人、国会議員らを連れて東京にお見えになられた。そのとき、高橋はるみ知事が王院長にお会いしました。王院長は北海道が大好きで、震災による影響をとても心配されていたそうです。
それで答礼の意味もあり、すぐに台湾に行きました。そのとき1時間近く、王院長と話をする機会に恵まれ、「近いうちに北海道に行きます」と言っていただき、すぐに実行に移してくれたわけです。
この台湾の大訪問団に関しては、とてもいいエピソードも聞きました。

元気、笑顔がないと人は来てくれない

――どんな話ですか
坂本 来道された台湾の女性の国会議員が夜、ラーメンを食べにいったときの話です。店主に「どこから見えられたのか」と聞かれ、彼女は「台湾です」と答えたそうです。そうすると店主が「たくさんの義援金をいただき、ありがとうございます」と頭を下げられ、「お代はいりません」と。その国会議員は大変感動されていました。小樽のすし店でも、同様のことがあったらしいです。観光産業に絶対必要な、おもてなしの心と通じる話だと思いませんか。
――そうですね。台湾以外へ働きかけについては。
坂本 6月初旬には韓国の経済界中心に30人以上が北海道を訪れてくれました。これはさきごろ発足した、ソウル北海道友好親善協会のメンバーが中心です。
――坂本会長を始めとした経済人が動き、昨年10月、ソウルと北海道が友好協定を結びました。その後、友好親善協会が双方にできたのでしたね。
坂本 そうです。それが今回の来道に結びつき、うれしいですよ。ソウルと北海道の少年野球チーム同士の交流も、検討していただいているようです。
また、中国へのアプローチについては、5月下旬に高橋知事らと一緒に来訪しました。しっかり北海道観光をピーアールしてきましたよ。
――海外へのアピールも重要ですが、北海道の観光業界自体がこの危機をどう乗り越えていくかについてお聞きしたい。
坂本 大災害で多くの方が亡くなり、まだ9万人以上が避難生活を強いられています。日本人の気質なのでしょうか。被災地への思いもあり、どこか萎縮している雰囲気があります。
ところが、なんでも自粛、自粛だと道内経済そのものがへたばってしまい、東北の応援どころではなくなってしまいます。考えて見てください。元気、笑顔がない地域に旅行に行きたいと思う人がいるでしょうか。
ですから、われわれはまず道内を活性化しなければならないと思います。道民が被災地に気を配りながら、イベントやお祭りを平常通りおこなっていくことが大切です。その上で海外、道外の方に「北海道に楽しみに来て下さい」と。
そこで震災から1カ月たったとき、主要経済団体、農業、漁業団体などと協力して「がんばろう日本応援プロジェクト」を始めました。脱・自粛を訴えながら、通常の経済活動、イベントを通じて被災者支援をしていきたい。
今、私は手首に白いリストバンドをつけていますが、これをみなさんに300円で買ってもらい、240円を被災地支援にまわします。 被災地の復旧、復興はまだまだ時間がかかるでしょう。1回1万円、2万円の募金だと誰もが長く続けるのは難しい。わずかな額ですが一人一人が参加しやすく、息の長い活動にできる形にしました。いろんな団体・企業からも話があり、1ヵ月足らずで3万5000個以上ご購入をいただきました。少しずつ輪が広がっています。

道民旅行を促す「おでかけラリー」

――脱・自粛を促しつつ、観光振興機構ではどういった策を。
坂本 北海道では旅行客の8割が実は道民なんです。海外、道外客が回復するまでは時間がかかりそうです。まず道民が動き、旅行を楽しむことが本道の観光産業が立ち上がるきっかけになります。
そこで道とタッグを組み、6月1日から始めたのが「おでかけラリー北海道」です。これは道内を旅行すると抽選で旅行券や特産品などの商品があたるキャンペーンです。10%キャッシュバックなどの特典がついた限定宿泊プランも登場しますよ。
――道民が改めて北海道を知るいい機会にもなりそうですね。
坂本 ええ。今、道内の中学校が修学旅行先を道内に変更していますが、故郷を再発見するいい機会だと思います。
――首都圏では夏の電力不足がクローズアップされています。涼しい北海道に人を呼び込むことはできないでしょうか。
坂本 5月下旬からクールサマーキャンペーンを実施しています。東京の旅行会社、インターネットを活用しているエージェントに対して働きかけ、各社のサイトで特集コーナーを設けてもらい、4泊5日以上の滞在型プランを紹介してもらっています。
それからもう1つ。これはJRグループとしてですが、デスティネーションキャンペーンです。自治体などと協働して行う大型観光キャンペーンですが、来年は北海道が指定エリアです。そこでプレキャンペーンをこの秋から始めます。
――行政にはどんなサポートを望んでいますか。
坂本 すでに要望をしていることですが、ホテルや旅館の負担を軽減するため、固定資産税を一定期間減免してほしいと訴えています。また、入湯税の使い道を観光関連に限定し、いわゆる目的税のような扱いにしてほしいですね。
――震災による道内観光のダウンはいつまで続くと思いますか。
坂本 現時点でいつまでと言うのはとても難しいが、このピンチを北海道観光を磨き上げるチャンスととらえ、とにかく北海道観光のV字回復を目指したい。
ただ、あまり性急すぎる動きは他人の不幸を前にして自分たちさえよければいい、という誤解を与えかねないと思います。ハードとソフトの両面の受け入れ整備を、おもてなしの心を大事にしながら、一歩一歩着実に進めていきたい。今年秋ごろには、観光産業がひと息つけるようになればと考えています。

=ききて/野口晋一=