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Interview

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「知事も道民も権益を突破する気概をもて」掲載号:2009年6月

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吉見 宏 北海道大学経済学部教授

2009年度補正予算案が国会に提出され、可決されれば単年度の一般会計予算は100兆円を超える額になる。公共事業に頼る北海道にどんな影響をもたらすのか。そして、停滞し続ける北海道経済の打開策は何なのか。吉見宏北海道大学教授に聞いた。

選挙と不況が重なった経済対策

――――現状の北海道経済をどう認識されていますか。
吉見 停滞でしょうね。2002年2月から69カ月間続いたといわれる、いわゆる“いざなみ景気”の 中でも、道内の景気は数字の上でもよくなっていません。北海道の経済というのは道外の景気が上向いて、それに引っ張られた形で上向いていくというのがパ ターン。しかし、そこにいく前に不況が来てしまった。
――――そこに昨年秋の“リーマンショック”。
吉見 確かに影響がなかったとはいえませんが、いままで悪かった分、あるいは経済の中心が輸出産業ではないということで、最低の影響で済みました。愛知などと比べると体感するショックの度合いはかなり少なかったと思います。
――――そういう中で政府は一般会計100兆円を超えるような予算を立ててきた。これで北海道はよくなると思いますか。
吉見 難しいところではあるけれども、たとえばいま話題になっている環境対策車への補助とかエコ家電 のポイントなどは、これまでなかったタイプの経済政策なのかなという気はします。これまでの日本の景気対策は、公共事業のような形で需要を創出するという やり方でしたから。一方で公共事業に依存した形でやってきた北海道にとっては、今回の景気対策が必ずしも公共事業中心になっていないということを考える と、過度な期待は避けたほうがいいのかなと思います。
――――北海道にとってあまりプラスの効果はないと。
吉見 いままでの北海道の経済行動を前提とすれば、もちろん効果がないとはいいませんが、限定的かなとは思います。高速道路の割引制度にしても、北海道の場合はすべての道路がつながっているわけでもない。劇的にプラスの効果があるとも思えません。
――――期待はしないほうがいいとは言っても、やはり公共事業はそれなりに出てくるでしょう。
吉見 今年は選挙と経済対策をしなければならない不況が重なっている。その意味では有権者に受け入れ やすいというのか、あるいは支持母体に受け入れられやすいような政策が出やすい環境です。ですから公共事業の拡大策もないとは限らない。しかし、景気浮揚 に公共事業の拡大は必ずしも効いていない。経済の理屈からいけばよくなるはずですが、いまはケインズ以来の景気刺激策とか、積極的な財政出動による景気の 浮揚というのが非常に効きにくくなっている時代です。
――――なぜですか。
吉見 おそらく豊かになったからでしょう。全般的に生活レベルは上がっているわけで、いまは最低レベ ルでもそれなりに豊か。そこでさまざまな公共事業を増やしたとしても、国の支出に見合うような消費は生まれない。それはよくいえば成熟した、あるいは老化 しつつある先進国型経済の姿かなとは思います。
――――効果がなくてもやってしまう。
吉見 ほかに策がないんだと思います。国にとって具体的な経済政策とは何かというと、予算を組むこと。それしかないんです。そうすると予算をどう組むかといったときに、一番わかりやすいのは何かに使うこと。
――――これまでの国の景気対策を見てくると、何の戦略性もなく単にばらまかれているという印象です。
吉見 そういう中で先の環境対策車補助などは割とわかりやすい。自動車は基本的に価格が高いものです。そこで環境対策車に補助をすることで買う余裕のある人たちに買わせる。一方で自動車は国の基幹となっている産業の1つですから、そこを支えることにもなる。

エコノミーな生活に慣れた日本人

――――どちらかというと後者、輸出産業救済の側面が強いように思います。
吉見 産業の救済といってもGMやクライスラーといったレベルの話ではありません。いまの時代、ある 特定の人たち、特定の産業に政策を絞ってお金を投下するというやり方はあっていいと思います。むしろ日本ではそういうことが不得意で、どうしてもばらまき になってしまっていた。平等といいながら薄く広くまいてしまうものだから、結果として使ったお金のわりに効果が低い。定額給付金はそのことをよくわかった 上でみなさん批判されていたと思います。
――――消費を控えるのは将来不安があるからです。そういう中でまた40兆円も国債を出すという。いよいよ増税は不可避と国民が思えば、なおさら消費は冷えるでしょう。
吉見 根本的に経済が低迷している中で不安感があるのは間違いありません。また国民全体が節約志向に なっていることも間違いない。この十数年で日本人全体がエコノミーな生活に慣れてきたともいえます。とはいえ、経済がこのまま悪いままでいいわけはなく て、やはり売れるものを売れるところに、これから売れるものは何なのか、つくるべきものは何なのかということを考えていかないといけない。日本の場合、今 後も製造業を中心として生きていくのだと思いますが、いままでのような形で自動車や電化製品が海外で買われることにはならないと思います。ですから次の産 業や、極端な話、産業がなくなったときに何で食べていくかということを真剣に考えておかないといけない。
――――北海道は拓銀破たん以降、ずっと景気が低迷している状況です。構造的な問題だとは思いますが、どこに最大の原因があるんでしょう。
吉見 先ほど北海道の景気は日本の景気のあとにやってくると言いました。まさに北海道の冬みたいなも ので、一番最初に寒くなって、一番あとに暖かくなる。それはどうしても道内の産業構造が製造業に依っていないというところに原因があると思います。日本全 体の経済構造が製造業に依拠しているのに対して北海道は必ずしもそうではない。では、そこを脱却するにはどうするか。
1つは製造業にシフトすること。いろんな方法でそれを目指すのは可能かとも思いますが、かなり大変です。方法の1つとしては国内に限らず国外の企業を含 めて積極的な資本投資を受け入れること。もちろん難点はあります。国内的に見ると、いま北海道は他の地域と比べ労働費用が安いからメリットはある。しか し、諸外国から見たときにコスト高になる日本をなぜ選ばなければならないか。それを説得させるものがないと、簡単に外国資本を誘致できません。
――――かなりハードルが高そうです。
吉見 国としても抵抗感があるでしょうから、今のような話は特区とか道州制をからめながらやっていかないといけない。
もう1つは自前でつくること。ただしこれは偶然の要素も大きく、一生懸命やったから必ず素晴らしい製造業が生まれてくる保証はありません。
――――これまでも工場誘致とか産業振興にお金を使ってきています。
吉見 そうですね。製造業を中心とした産業構造は理想形なのかもしれませんが、そういう方向に舵をきったとしても、結局何もならなかったということも覚悟の上でもやらなければならないことでしょうね。
ただ北海道の将来を長い目で見たとき、農業とか漁業にどんどん人を入れて産業化していくのが望ましいのかなと思います。かつて北海道には炭鉱がありまし た。相次ぐ閉山で、その労働力を公共事業という形で吸収していった。これはある意味でわかりやすい。いままで体を使って働いていた人たちが、同じく体を使 う仕事に就けた。とくに大きなスキルを要求したり、産業上の再教育をしたりすることなく就業させることができたという点でメリットはあったでしょう。

腹をくくってピンポイントで攻める

吉見 そういうことを考えると、いま公共事業関連に従事する人たちを、仮に農業や漁業に就業させるこ とができれば、地元で仕事に就けるというメリットがある。ただこれにもいくつかのハードルがあります。農業の場合、農業生産法人という仕組みもあります が、会社化するような形で従業員を雇用し、大規模で農業が行える仕組みを北海道でつくっていかないといけない。加えて1次産品のブランド化を図ることもや るべきです。行政はそういうことに注力し、野放図に農家にやらせるというよりは、戦略的にここではこれをつくるというようなことをやるべきなのかなと思い ます。
――――かなり巨大な権益を突破しないといけない。
吉見 長くいろんなしがらみの仕組みの中でできているものだから、それを突破するのは非常にむずかし い。やはり道州制の論議の中などで打ち出していくしかない。あれもこれもと総花的にするのではなく、こういう規制緩和をしたい、こういう権利をよこせと、 腹をくくってピンポイントで攻めていくしかないでしょう。国の抵抗はもちろん、道内の中でも抵抗がある。まさに知事には指導力を発揮してもらわないといけ ない。同時に道民も北海道のために権益の壁を突破する気概が必要だと思います。
――――現状ではそういう未来に対するプランを示したり、それを実現しようとする行動力を持ったリーダーがいないと。
吉見 そこに尽きるのかもしれません。とくにいまの北海道は劇的に切り替えていかなければならない時 期。少なくとも方向性を見せなければなりません。道州制が進めば道が主体的に政策をやれるのでしょうが、予算の仕組みがいまの国と地方の関係でいくのであ れば、やはりできるだけプランを示して、それを認めさせるしかない。お金は、場合によっては国からとってくることもできるし、政策を絞ればその予算が別途 出てくることもあります。そういう意味でのリーダーシップというのは、多少抵抗があろうと絶対必要です。

=ききて/鈴木=