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Interview

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「“産消協働”で釧路の経済構造を変える!」掲載号:2009年10月号

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蝦名大也 釧路市長

昨年11月に市長に就任。生まれも育ちも釧路の「一般的な釧路人」を自認する。市政でもっとも力を注ぐのが、疲弊する地域経済の立て直し。地元資源を愛用・活用する“産消協働”による経済活性化をめざし奮闘中だ。

1500事業すべてを点検・見直し

――就任から現在までを振り返って感想を。
蝦名  これまでも釧路市議、道議として市政を見てきましたが、役所の中に入ってみると財政が本当に厳しく、改めて大変さを実感したというのが偽らざる本音です。
――中川一郎、鈴木宗男両代議士の秘書を経て、釧路市議になったのが1993年。2期務めた後、99年に道議に初当選し、3期目の途中で市長選に立候補しました。議員になった当時といまとでは、自治体行政のあり方もずいぶん変化したのでは…
蝦名  まず、経常収支比率の異常な高さに驚きました。私の市議時代には85%程度でしたが、97・ 8%まで悪化しておりました。経常収支比率は、家庭における家賃とかローンのようにして考えると分かりやすいですね。支払わなければならないお金の割合は 97・8%で、可処分所得は2・2%です。  給与が20万円の家に例えると、家族で食事をしたりする自由なお金はわずか4400円しかないことになり、財政の硬直化は顕著です。全国的に厳しい財政 状況の中、新たな財政基準が登場しましたが、過去との比較も重要だと思います。
釧路市では行財政改革を進めていますが、2006年度から2010年度までの5年間を実施期間とする「活力創生釧路市集中改革プラン」に取り組んでいま す。ちなみに、昨年度の行財政の見直し効果額は、一般会計の予算規模950億円に対し、全部局を合わせると約20億円にのぼっています。
現在は来年度の予算編成に向け、約1500ある事業をもう一度見直すという総点検を進めている最中です。これまでの見直しでは一つひとつの事業予算を抑 制してきましたが、この手法では事業効果に疑問を持たざるを得なくなってしまいます。そこで、事業をまとめることはできないかを検討しています。
また、事務事業の見直しは不断のことながら、いつまで、どれだけ行革を進めるとよいのかという中長期の目標もありませんので、何とか目標を示していきたいと考えています。
いま盛んに言っているのが、「予算の配分」という言い方をやめましょうということ。おカネを「配る」という言葉には、額面以上の波及効果が得られないかのような響きがある。
そうではなく、おカネは「使うもの」です。使うことによって、どれだけプラスの利益を生み出すかということが大事。釧路の産業構造を踏まえながら事業の優先度を議論し、その使い方を考えていく。それは「配分」じゃないと言い続けています。
例えば、耐震強度不足を理由に1月末で利用を中止した「釧路市交流プラザさいわい」は、建て替えにするか、耐震改修にするかで意見が分かれました。
それぞれの場合の市の持ち出し額を算出し、市民のみなさんにオープンにしました。結果的に持ち出し額が少なく、早期に再開できる耐震改修を行うことで結論を出しました。

道央以外で唯一、外から稼ぐ根釧

――人口が19万人を切り、今年7月の釧路市の有効求人倍率は0・29。人口1000人あたりの生活保護人員数は46・1人(08年度)で、過去最高かつ全道ワースト1位です。この現状をどう打開しますか。
蝦名  06年には阿寒町、音別町と合併しましたが、それを入れても減少傾向が続いていて、まち全体 に閉そく感があります。しかし、あまり知られていないことですが、道央、道南、道北、根釧、十勝、オホーツクの道内6圏域の中で、道央圏を除けば「圏域の 外」から稼ぐ力を持っているのは根釧地域だけです。
道内経済の半分以上を占める道央圏は、道内の他地域に対する貿易収支は8000億円の黒字ですが、本州との間では2兆円以上の赤字になる。根釧地域は、 対道内では1000億円の赤字ですが、本州や海外との間では250億円の黒字。残りの4圏域は対道内、対道外ともに赤字です。
根釧地域の経済を支えているのは、酪農や水産、食品加工産業。また、ホーマック、コーチャンフォー(リラィアブル)など、全国に通用する企業も生まれています。この地域は非常に可能性を秘めているということです。

地産地消を進化させた「産消協働」

――7月に釧路市役所で「地域経済円卓会議」が開かれました。
蝦名  今年4月に施行された釧路市中小企業基本条例に基づくもので、学識経験者や経済界トップが知恵をしぼり、厳しい経済情勢を打開することを目的につくられました。
一口で言うと、政府の「経済財政諮問会議」の釧路版。基本的な考え方は、地産地消をさらにグレードアップさせた、ありとあらゆるものに道産品や地元のものを使いましょうという「産消協働」です。北海道も05年に「産消協働道民宣言」をしています。
その道民宣言のベースをつくった釧路公立大の小磯修二学長が、円卓会議の座長を務めています。
そのほかのメンバーは、山本壽福釧路商工会議所会頭、岩淵純一日本銀行釧路支店長、亀岡孝北海道中小企業家同友会釧路支部長、小笠原和子釧路消費者協会長、日置真世NPO法人地域生活支援ネットワークサロン元代表、それに私を含めた全部で7人です。
実は、釧路は構造的に地元でおカネが使われにくいという特徴があります。日銀などの調査をみると、大体6割くらいしか地元に戻ってきていない。
あとの4割は東京、札幌などで使われ、06年8月に丸井今井の釧路店がなくなってからは、さらにその傾向に拍車がかかっています。最近は、インターネットなどを使った通信販売の影響も大きいと思います。
残りの4割のおカネを地元の中で回転させることができれば、地域経済の活性化につながる。その中心的な役割を担うのが、今回の円卓会議です。
――開催は年に数回という話ですが、実効性は。
蝦名  われわれだけではなく、市民のみなさんもいろんなところで話し合いに参加できるようにしていきたいと思っています。
例えば、テーマ別にいろんなところで議論を進めてもらう。商業は商業の円卓会議を開く、観光については阿寒の若手などに話し合ってもらう、NPOなどが 集まって市民活動についてアイデアを出してもらう、など。それらを市役所で開かれる中枢の円卓会議が集約するというようなイメージです。
いままでは行政サイドでいろんな物事を考えていましたが、現場で活動している人たちの視点や切り口を取り入れれば、新しいアイデアも生まれるし、市民のみなさんへの啓蒙啓発にもつながります。経済活性化のため、何か明るい話題をつくっていければと思っています。

中国の道東人気で入り込み客14倍

――具体的なアイデアはありますか。
蝦名  例えばですけど、釧路管内でとれるいろんな食材を使って、弁当をつくったら面白いと思っているんですよ。
この地域はコメはとれないのでそれは仕方がないですが、白糠のタコ、音別のフキ、標茶や白糠のサフォーク(羊の一種)、厚岸のシングルシードかき、釧路 町の大根、ハーゲンダッツ・ジャパンで使っている浜中町の牛乳でつくったバターを使ったり、デザートに弟子屈の摩周メロンを使ったり、ソバ粉のガレットと かも。根室まで含めたら、さらにいろいろなものが使えますよね。
いまは食の安心・安全が言われる時代ですから、地元でとれるトレーサビリティー(生産履歴)のしっかりした製品を積極的に売っていくことができれば、非常に強みになるんじゃないかと思います。
――中国人観光客の間で道東地域の人気が高まっていますね。
蝦名  昨年公開された中国映画「非誠勿擾(フェイチェンウーラオ)」のヒットで、道東地域にもかなりの数の中国人が入ってくるようになりました。道東への入り込み客数の伸び率は、対前年比で14倍にものぼっています。
映画には、港や阿寒湖畔など、釧路市内で撮影されたシーンが数多く登場します。これを受け、道と一緒にいち早く中国で北海道観光のプロモーションを行い ました。非常によい宣伝になり、ありがたく感じています。いまは新型インフルエンザの影響で客足が少し落ち込んでいるのが残念ですが、今後に期待が持てる と思います。
映画を見ていて意外に感じるのは、われわれ地元人から見たらなんでもない風景でも、海外の観光客には非常に喜ばれるという点ですね。例えば、向こうの人 がこちらに来て空港から伸びるまっすぐの道で歓声を上げたり、トドワラを見て感動したりするそうです。今回の映画はそういうものの価値に、われわれが気づ くいいきっかけになったと思います。  中国からの個人旅行が7月に解禁になって、今後受け入れ態勢の強化がますます重要になります。釧路空港では国際空港化を目指してきましたが、フライト時 間の延長の問題などを含め、整備を進めていきたいと思います。
また、市民レベルでのホスピタリティの向上も大事です。例えば、小さいことですが、市の広報誌に「すぐに使える中国語」のコーナーをつくって、市民みんなで歓迎ムードをつくりあげていきたいですね。

ラッコ、トラ…動物もPRに一役

――ラッコのクーちゃん、双子のアムールトラのタイガとココアなど、ここ最近、動物にまつわる話題が多いですね。
蝦名  クーちゃんは釧路川の河口付近に年明けに現れ、88日間滞在していました。観光客にも大変な人気になっていたため、4月に市から特別住民票を授与して「釧路市民」になってもらいました。
その後はしばらく姿を見せなくなってしまいました
が、専門家によると納沙布岬に仲間のラッコと2、3頭で一緒にいるのが確認され、「婚活中ではないか」ということでした。
また、タイガとココアのおかげで、ゴールデンウイーク期間中の釧路動物園の入場者数は、前年度の2倍近い4万人が訪れました。3万人を超えるのは12年ぶりとのことです。
この人気を今後にしっかりとつなげていきたいですね。(編集部注・タイガは取材後の8月25日、のどに肉片をつまらせ死亡した)
性別がメスであることが判明し、一躍話題となったホッキョクグマのツヨシも人気の一端を担ってくれているようです。
――先ごろ行われた総選挙で、北海道7区は自民党候補と民主党候補が激突しました。少しお聞きしにくい質問ですが、 蝦名市長にとって自民はもともとの所属政党であり、民主は秘書を務めた鈴木宗男氏の新党大地と連携している。どちらもつながりが深い。両党とは今後どうい う姿勢でつき合っていきますか。
蝦名  国政は政党の方針で物事を進めますが、地方行政の現場は党の都合とは別であることが多い。市 長選に立候補するときに「市民党」を掲げた通り、地方自治に政党色があることは本来なじまないと思っています。ただ、今回の選挙では、それぞれのお立場で 地域のために頑張ってほしい、という思いで伊東良孝さんと仲野博子さんの陣営にはエールを送りました。
私は釧路生まれの釧路育ち。きわめて一般的な釧路人だと自分では思っています。自らをはぐくんでくれたまちと、そこに暮らす人々のために最大限の努力をしていきます。

=ききて/安藤由起=