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Interview

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「理念なき企業はつぶれる」掲載号:2009年3月

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真柄秀明 東京商工リサーチ社長

日本経済は「100年に1度の危機」に襲われているという。こんな時期だからこそ、社長の力量が問われている。信用調査など各種企業情報 を提供する東京商工リサーチの真柄秀明社長に、良い会社の見分け方、社長の心得などを聞いた。

生活に密着したインフラ整備を

--------現在の経済状況をどうとらえるべきだとお考えですか。
真柄 悪い。だが、なぜこのように悪くなったのかが、きちんと分析されていないと思います。株価が何割 下がった。為替はどうだ。自動車の輸出台数がどうであるか。そういう数字で悪い状況を表現しています。しかし、もう少し深く考えて見ると、いままでの経済 はすごくアンバランスな状況だったと思います。国民経済を考えた時に、外需と内需とのバランスが非常に悪い。国際的にも金融経済と実体経済のボリュームが アンバランスです。金融経済が7割も占めてしまう状況になっているのですから。
当社調べでは、07年11月ぐらいから公共事業が減少し、建設業の倒産が増えてきています。少子高齢化の影響もあり、個人の収入が減っており、個人消費 が低迷し、各地の小売店の倒産が増えています。こういう状況はリーマンショック以前からあった。ですから日本経済の実体は、ずっと悪かった。しかし、外需 のウエートが高く、金融経済のウエートが高いので、全体の数字としては「悪くないのでは…」という感じをみんなが抱いていたのです。
magara_2  --------どうすれば景気を上向かせることができますか。
真柄 まさに政治の出番であると思います。社会構造をどのように組み立て直していくかが現在、一番求め られています。政治家がいま、国家の戦略というものを明確に出し、その戦略に基づいて「全体のバランス、産業構造はこうあるべきだ」というものを明確に し、みんなでそこへ向かって進んでいくということになっていけば、この環境を変えることができる。
内需主導の経済のベースをしっかりとつくり、その上で海外との取引も行う。そして活気づけていく。そうしないと、いまのこの環境は変えられない。米国な どの景気が回復するのを待って、回復に乗じて物を売って「もうかった、もうかった」というのでは、同じことの繰り返しです。
--------ただ単に公共事業を増やすだけでは、国や地方自治体の財政赤字を拡大するだけです。
真柄 昔と同じことはできない。以前は内需拡大というよりもおカネを回すことが目的だったと思います。 これからの内需拡大策は、どこにおカネをつぎ込むか、その選択をしっかりやっていかなければならない。投資した後で、それに付随して新しい産業がついてこ られるようなものに投資する必要がある。となると、やはりインフラ系である。
人間の生活に関する基本的なインフラというのは、常時メンテナンスをしていかなければなりません。おカネは回せば何でも良いというものではない。国の環 境が良くなって、そこから派生していろいろな産業を助けて行けるようなインフラに投資すべきだと思います。そうすれば地方の産業にも継続して仕事が回るよ うになり、その結果、おカネも回るようになります。
あとは、そのおカネの回し方です。いまのような国家財政のやり方でやって行くのか。または地方分権をしっかり進め、地方に財源を渡して、そこで本当に必要なものに投資するやり方をするのか。そのやり方も考える必要があります。

企業は次へのつなぎが大事

--------良い会社の見分け方とは…
真柄 良い会社になるための必要な要素はあります。?耳障りの良い言葉の羅列ではない企業理念というも のを明確に持っている?論理的に整合性の取れた企業戦略を持っている?その戦略が社員全員に理解され、浸透している?社員がその戦略に沿った行動をしてい る?、これらをクリアしている会社は、良い会社になれる資格を持っていると思います。
良い会社というのは、営業担当社員が実際に行き、見れば分かる。事務所内に企業理念が掲げてある。それについて質問をする。そうすると「これはこういう 意味です」とそこの社員がちゃんと答えられるかどうか。それが理論的に構造がしっかりしているか、社員に浸透しているかの判断材料です。それに気をつけて いると、取引のときの雑談の中からも、その会社がしっかり考えている会社であるかどうか分かってきます。
--------取引先企業が傾く際に予兆はありますか。
真柄 例えば、材料の仕入先が急に変わった。その場合はいままで払っていたものが払えなくなり、材料が 入らなくなって違う企業から仕入れたとか、いろいろなことが考えられる。また、いままで止まっていたことのない車が会社の前に止まっているとか。女子社員 の顔色とか、事務所の雰囲気とか、社長がどっしり構えていたのがあたふたしているとか。毎月100万円の取引だったのが急に300万円になる。または急に 50万円になる。そのように何か変化があります。
--------企業を永続的に発展させるためには、なにが必要ですか。
真柄 企業の「永続的」な発展に重きを置いて考えると、地味ではあるが、安定的な発展が、永久に存続す るためには必要である。しかし、「発展」に重きを置いてしまうと、一気に伸びようということにもなる。目標を達成するためにM&Aや敵対的買収など、強引 な手法になっていく。そうすると、ビジネス、仕事などは続くかもしれないが、企業の永続というのは、あまり想定できません。
人生と企業は一緒です。人生も自分は何者であるのか、自分は将来どうなりたい、ああなりたいと思って生きているのと、行き当たりばったりで生きているのでは、人間が全然違う。会社も同じです。
ここ数年で多かったのは創業20年から30年の会社の倒産です。創業者が30歳、40歳で起業して、30年経過して70歳となったが、後継者をつくれな い。創業者は自分で経営してきたという自信があるから、なかなか人を育てるのが難しい。永続するために一番大事なことは、いかにつなぐかということです。 だから社長になったら、人には言えないが、次にどうするかを常に考える必要がある。
技術もつないでいかねばならない。ITベンチャーなどは1人優秀な社員がいて、素晴らしいアイデアがあれば伸びるが、その人がいなくなったらダメにな る。技術をどのように伝承させるか、文化をいかに伝承させるか。跡取りをどのように見つけるか。事業としてつないでいけるお客さまを選んで取引をしてい く。常につなぐ、つなぐということを前提にして経営していることが大事です。

自分を知らない社長はダメだ

--------オーナー経営者へのアドバイスはありませんか。
真柄 人間力を持ってもらいたい。
創業者の方々というのは、非常に良いところをたくさん持っています。修羅場の中でいろいろなことを経験し、良いことをやってきた。ただ、ビジネスという のは、似たようなケースがあっても、まったく同じということはない。だから自分が経験してやってきたことが、そのままいつまでも続くと思ったら大きな間違 いです。世の中はいろいろ変わっていきます。同じものはない。それと同じようにマネジメントにも正解はありません。
社員を育て、いろいろな個性を利用することを考えるべきです。経営者にとって必要なのは人間を見る目、人間力です。世の中にはいろいろな人がいる。そういう人たちが集まって物事を構成している。自分たちの会社もそうなのだということを肯定することが一番大事です。
創業者でカリスマ性のある人が経営している間は、先ほど言った企業の理念とか、戦略などがなくてもよかった。その人間の個性で引っ張っていけますから。 ただ、いろいろな人間が経営していくと、先ほど言った経営理念とか、ビジョン、戦略を明確にする必要が出てくる。そうでないとベクトルを合わせることが難 しくなります。
カリスマとはたまに出てくるからカリスマなのです。次から次へとカリスマが出てきたのでは、それはカリスマではない。
それに1人の人間が掌握できるのは30人ぐらいまでです。
そのとき、そのときの会社の状況で、経営に必要な要素はいくつかある。その中でこの時期はこの要素を強く出すべきだというのがある。また、ある時期にな るとそれは違う要素になる。その強く出すべき要素を出せる人を、その時のトップにする。で、それ以外の能力を持っている人たちは支援に回る。ある時期が過 ぎ、別の能力が重要となってきたら、その能力の持った人を社長にし、ほかの人たちが支援する。そういうこともあり得ると思いますね。
--------ダメな社長とは。
真柄 自分を知らない社長です。自分の能力と自分のタイプというものがあるじゃないですか。自分はこう いう能力がある。自分はこれが得意だ。これは苦手だというように。それを分かっていれば「自分はこれが得意だが、この部分は不得意だからその部分を誰かサ ポートしてくれ」とか、「これを一緒にやっていこう」となります。あるいは「うちの会社はいま、こういう能力なのだから、その中でいかにやっていけるか」 と考えるべきです。
ところが、自分のことをよく知らず、できるのではないかと思い、背伸びをする。そうすると、会社が本来持っている能力、あるいは本来向かって行くべき方 向性から逸脱し、会社が結果的にダメになります。それはその社長の願望であって、自分自身を分かって分析した上で行うべき方向ではなかったからです。
自分を知らず、身のほど知らずの社長はダメだということです。また、それを批判されても知ろうとしない、客観的に物事を見られない、本質を把握できない、本や雑誌を読んでも、自分に都合の良いように解釈する人はダメ。
成功例を見ると自分もできそうだと簡単に思ってしまう人。ここはもうかっているようだからうちもやるぞと言う人。そういう人もダメですね。
--------サラリーマン上がりの社長はどうすべきですか。
真柄 肩書ができたときに「能力がついて来ている」と錯覚しないことです。社長になると、むしろ周りの方がガラリと変わる。そのときに錯覚が生まれます。
企業が永遠に存続していくためには、バランス、コミュニケーション、チームワークが大事です。難しいことではあるが、そのためには経営していくための手法を自分で見つけることです。

=ききて/酒井雅広=