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Interview

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「新千歳周辺を世界的エンターテインメント集積地に」掲載号:2011年2月

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藤田博章 慶應OB <苫小牧商工会議所会頭>
吉田勝己 慶應OB <ノーザンファーム代表>
手嶋龍一 慶應OB <作家・外交ジャーナリスト> 

 外交ジャーナリストの手嶋龍一氏、世界的なホースマンである吉田勝己氏、苫小牧商工会議所会頭の藤田博章氏は、ともに慶應義塾大学のOBだ。北海道の現状に喝を入れ、新たな未来を大胆に提言してもらった。北海道を舞台に親交が深い3氏による“奔放”鼎談をお届けする。

官僚機構の保守体質がボトルネック

i2――北海道は“元気がない”と言われて久しい。どこに問題点があるのだろうか。北の大地を愛する3氏に存分に論じていただきたい。
手嶋 北海道は実に可能性に満ちたフロンティアです。にもかかわらず、その舵取りを長らく保守的な官僚組織に委ねてしまいました。そうした組織に属している人々は“北海道で一番”というお山の大将でした。厳しい競争にさらされていない。それでは、北東アジアへの新たな航海は無理でしょう。北海道を発展させるボトルネックを破砕して前進するには、吉田勝己さんや藤田博章さんのような野性的なリーダーが必要とされています。
吉田 僕はいわれているほど過激じゃないですよ。でも、手嶋さんがズバリと指摘したように、北海道で仕事をしていると“お役所仕事”に随所でぶつかりますね。
手嶋 “官”に寄りかかっても、もう北の大地に将来がないことは皆わかっているはずです。これからは“民”の力で未来を切り開くほかない。官僚組織にできることは、せいぜい民の邪魔をしないことなのです。
私は藤田社長の人柄とリーダーシップに全幅の信を置いているのですが、商工会議所の会頭として、お役所に「陳情」することを思い切ってやめてはどうでしょう。
藤田 えっ、なぜでしょうか?
手嶋 「陳情」ではなく、首長や国会議員に「いまチャレンジしなければ、再選はないですよ」という姿勢で臨むべきです。「改革の同志として共に頑張りましょう」というべきだと思います。
吉田 競走馬の育成分野では「われら民間の牧場について来てほしい」と、専ら相談を持ちかけるにすぎません。
――北海道の主力産業の1つは観光ですが、その観光客がなかなか増えません。頭打ちの状況が続いています。
吉田 北海道すべてに人を呼び込もうという発想が間違いなのです。ある地域に的を絞って、その拠点に人をひきつけることが肝心だと思います。私が運営する「ノーザンホースパーク」(苫小牧市)は、空港へのアクセスの良さを生かして、馬のテーマパークとしてすっかり定着しています。
2011年5月には、「ノーザンホースパーク 牧場大会」と銘打って、マラソン大会開催を予定しています。サラブレッドのふるさとでマラソン大会をやれば、参加者は1万人規模になるでしょう。大会前から多くのランナーが北海道に来て、周辺のホテルに宿泊し、食事をします。地域興しには、それぞれが知恵を絞って取り組むことが大切です。
手嶋 ツーリズムという産業は、巨大な人の動きをつくりだし、地域経済に波及効果を及ぼします。そのためには、他にない魅力的なイベントを次々に打っていかなければ。
吉田 存廃が常に議論されている道営競馬も、強い馬が出走して、レースが面白くなれば、ファンは必ず競馬場に足を運び、馬券を買うようになります。

役人主導では道営競馬の飛躍はない

――吉田さんは、これまで数多くの名馬を世に送り出してきました。最近は馬券の売り上げが低迷しているといわれますが、どこに原因があるのでしょうか。
吉田 結論を先に言えば、道営競馬は役人主導だから赤字なんです。余計なこまごまとしたことに気を使いすぎ、思い切ったことができていない。だからファンがついてこないのです。道営競馬を運営している人たちは、はなから中央競馬(JRA)に勝てないと思っている。そんなマイナス思考では未来はありません。「売れない」「赤字でどうしよう」と騒ぐだけでは、事態を打開する妙策など生まれてくるはずがありません。
――地方競馬が衰退する一方、日本の競馬界は、JRAの1人勝ちです。
吉田 JRAといえども、すべての面で勝つことなどあり得ないことです。道営競馬にディープインパクトやブエナビスタのような強い馬が出走してくれば、全国のファンから注目を集め、観客も詰めかけます。
かつては地方競馬からハイセイコー(大井)やオグリキャップ(笠松)などのスターホースも生まれています。そういうクラスの優駿が誕生すれば、中央競馬にとって代わることだってできるはずです。
競馬自体が面白くなければ誰も興味を持たない―理屈は単純にして明快です。誰が運営しているかではない。主役はあくまで馬なんです。それを踏まえて、新たな改革案を打ち出していけばいい。少しも難しくないはずです。赤字を理由に道営競馬を廃止するなら、吉田勝己にやらせてほしい。必ず競馬場をお客さんでいっぱいにしてみせます(笑)。
藤田 いまもJRAが賞金を出し、中央所属の馬やジョッキーを招いて、地方競馬で交流重賞競走を開催していますね。
吉田 それなのにJRAでは、交流レースの馬券をなぜか販売していない。ようやくNRA(地方競馬全国協会)とJRAが、相互に馬券を販売をすることになりました。これはJRAだってプラスになります。双方に利益があるのですから、こうした改革はもっと早くやるべきでした。

巨大エンタメ施設でMICE誘致

手嶋 北海道を再生させるには、こぢんまりした構想では成功しません。お役人の発想を超えたスケールの大きな計画を練り、北の大地の魅力を存分に引き出すべきです。藤田さんは、北海道にカジノを含めた巨大エンターテインメント施設を持ってくる構想をお持ちとうかがっています。“フジタ構想”は海外のツーリストを誘致する起爆剤になると思います。
藤田 私はいま、新たなビジネス・ツーリズムであるMICE(マイス)を誘致しようと呼びかけています。MICEとは、「Meeting(会議・研修・セミナー)」「Incentive(招待・優待・視察)」「Convention(国際会議・大学・学会)」「Exhibition(展示)」の頭文字をとった造語です。
MICE誘致のためには、アフターコンベンションの機能、つまりイベントの後も参加者に楽しんでもらえる工夫が重要です。宿泊と娯楽を一体化させた巨大なエンターテインメント複合施設が鍵になります。
吉田 僕が参加者なら会議の後はカジノに繰り出したいなあ。
藤田 そうですよね。MICE構想で大きな役割を果たすのはやはりカジノでしょう。新千歳空港の周辺にはまだ広大な土地があります。ここを国際的な一大エンターテインメント施設にしてはどうかと考えています。
――観光庁も2010年を「JAPAN MICE YEAR」と定めて、遅まきながら誘致に乗り出しました。日本ではまだカジノ関連法は整備されていませんが、国はカジノ付きリゾート施設を国内では2カ所に限って設ける意向のようです。
藤田 当初、北海道と沖縄県が最有力と言われていました。ところが、大阪府の橋下徹知事が10年10月、「カジノは沖縄と大阪で決まりだ」と記者会見で発言して波紋を呼びました。翌月、高橋はるみ知事が、自身の苫小牧後援会に来た際、私は橋下発言を示して「知事も動かなければダメですよ」と話しました。これに対して高橋知事は「MICE誘致を前向きに考えたい」と言ってくれました。
手嶋 10年10月の沖縄県知事選のとき、現地で仲井真弘多陣営の有力者に会いましたが、沖縄の誘致はやや後退しているという印象を受けました。仲井真知事はもともと沖縄へカジノを誘致することに積極的だったのですが、知事選を通じて地元の説得には時間がかかりそうだと判断したようです。沖縄には競馬、競輪、競艇が全くないこともあって、地元住民の拒否反応は依然として強いのです。地元の有力紙には、「2期目の仲井真知事、カジノ構想断念へ」という見出しが躍っていました。
藤田 そうすると、北海道は大阪府、神奈川県と競い合う構図になりそうですね。
手嶋 カジノそしてギャンブルというネガティブな印象を地元に植え付けてしまった―これが沖縄の教訓です。MICE誘致に成功しているシンガポールをみても明らかなように、カジノ施設というより総合的な「エンターテインメント・コンプレックス(施設)」なのです。カジノにとどまらず、ホテルやショッピングモールなどを併設するエンターテインメント施設を誘致することでなければいけません。沖縄は知事も含めて発想が貧弱で、住民との対話が十分にできていません。

空港は地域活性化の“命”そのもの

吉田 アメリカのラスベガス、モナコなどの世界的なカジノは、空港からのアクセスが抜群です。北海道には国際線もある新千歳空港がある。東アジアからの旅行者の玄関口には格好です。カジノを含む総合エンターテインメント施設立地場所としては、日本の中でも絶好の条件を備えています。
藤田 飛行機だけではなく、豪華客船も苫小牧港に来航しますので、空と海のアクセスは最高です。
手嶋 お2人が指摘するように、空港と港があり、それに加えて、広大な未利用の土地がそろっている。そんな場所などそうざらにあるものではない。いま東京でMICEのためのエンターテインメント・コンプレックスをつくろうとしても、広大な土地の造成には10年以上かかりますが、確かに苫小牧周辺ならすぐにとりかかれますね。
藤田 新千歳空港から半径10キロメートル以内には、高い医療技術を持った病院もあります。中国の富裕層は、みんな高度な医療を受けたいと思っています。医療ツーリズムという売り出し方もできるでしょう。
手嶋 病院の検査では待ち時間もあります。中国の富裕層にとって、時は金なりです。その間に、温泉でくつろぎ、カジノもやり、場外馬券場を設置して道営競馬も楽しむ。さらにオークションを開催して、会社の売りものがあれば出展する。
吉田 道営競馬が難しければ、新たな競馬場をつくってもいいですよね。土地は空港周辺にたくさんあるわけですから。
藤田 勝己さんが運営するノーザンホースパーク周辺でもいいじゃないですか。
――苫東には広大な土地が売れ残っています。
吉田 土地の値段は世の中の水準に合わせないといけません。土地の価値は、周辺の環境によって決まる。周囲が栄えなければ、価値なんて上がるわけがない。まずは、苫東の土地の価格を下げてでも、入ってもらうしかない。それで埋まってくれば苫東の価値が高まっていくはずです。
藤田 勝己さん、地元としては、苫東の話をするのは困るな(笑)。08年秋のリーマンショック以降、企業誘致がさっぱりなのですから…
手嶋 地域社会の振興にとって空港がいかに大切か―このことを身をもって示したのが、勝己さんの父、偉大なホースマンだった善哉さんでした。この天才経営者は、空港の近くにしか牧場をつくらなかった。この経営哲学こそ、世界的な牧場となったノーザンファーム躍進の礎になっています。
吉田 確かに父は「空港周辺の土地なら、黙ってなんでも買っておけ」と言っていました。お客さんが飛行機で簡単にやってくるところでなければ、ビジネスはできないと考えていたのです。
手嶋 ノーザンファームが身をもって成功例を示しているのに、苫東を開発したお役人はなにを学習したのでしょう。空港が近くにありながら―という気がします。空港周辺は地域の“命”なのですから。

世界の大富豪が来道できない理由

吉田 新千歳空港はヨーロッパやアメリカからも一番近い。これを大いに利用しない手はない。なぜ24時間運用にしないのでしょう。いまだに高額な離発着料もとっています。空港はものすごい潜在力を持っているのです。にもかかわらずフルに活用していません。
――24時間運用化といえば、新千歳空港の深夜・早朝時間帯(午後10時?午前7時)の発着枠拡大も先送りになりました。
藤田 これまで地元自治体や経済界は、新千歳空港の24時間運用を求めてきました。現行の1日6回の発着枠を拡大することで、住民との合意までもう少しのところでした。道庁も発着枠拡大に前向きでした。ところが、突然、13年度まで3年間凍結すると方針転換してしまいました。道は現在、HAC問題を抱えています。経営再建中のJALに配慮したのではという話まで聞こえてきます。
吉田 新千歳空港はプライベートジェットもなかなか着陸できません。数日前に予約をしなければいけないなどの制限がある。
手嶋 毎年7月に行なわれる競走馬のセレクトセールは、世界のサラブレッドのプライス・リーダー(価格先導者)にさえなっているのです。世界中から多くの競馬のオーナーや競馬ジャーナリストが詰めかけます。オーストラリアの炭鉱王、ネイサン・ティンクラー氏や、ドバイからシェイク・モハメド殿下の意を受けた関係者、さらには香港の富豪も訪れるようになっています。彼らは超多忙ですからプライベートジェットでやってくることが多いのですが、新千歳にはなかなか着陸できないのです。 世界屈指の大富豪を追いやってしまう結果になっている。何億という売り上げをみすみす逃し、馬産地に大きなダメージを与えています。
吉田 一番の問題は、低価格輸送が可能な以遠権(自国から相手国を経由して、その先にある別の国へ営業運航を行なう権利)を、日本のカーゴ(貨物)に認めていない。以遠権がないので、カーゴに荷物を積みながら台湾、上海、インドなどをグルグル回り、日本に来られないわけです。
そのため、日本の場合、どうしても世界各国と比べてカーゴの価格が高くなってしまっている。外国の馬主も日本の競走馬に興味を持っていますが、輸送費の関係で消極的にならざるを得ません。

新幹線札幌延伸は南回りルートで

――空港や港とならび、新幹線も重要な大量交通機関の1つです。しかし、民主党政権に代わり、北海道新幹線の札幌延伸に黄色信号がともっています。
藤田 財源不足で札幌延伸が難しいならば、南回りで在来線を使えばいい。われわれはずっと、洞爺湖、登別、白老、苫小牧などを通る、「南回りルート」を主張してきました。
――しかし、南回りルートは火山帯や地震が多いことなどが理由で、認められなかった。
藤田 現ルートでは、函館から札幌までほとんどトンネルを通ることになります。新幹線は北海道の雄大な景色を見ながら走った方がいいと思いませんか。秋田新幹線も在来線を利用していますし、「ミニ新幹線」という形も検討してはどうか。今の状態では、いつ札幌まで新幹線が来るのかまったくわかりません。
手嶋 新幹線建設で多くのトンネルを通すのは、土建屋をもうけさせる旧来の発想です。MICE構想が札幌延伸のルートをもう一度考えるきっかけになればと思います。
藤田 日本で新幹線と空港が隣接している場所はありません。実現すれば北海道が初めてとなります。
吉田 空港、港、新幹線と同時に組み合わせていけば、スケールの大きな北海道が出現し、東アジアから多くの人が訪れると思います。
手嶋 北海道が日本のMICE誘致の中核になれば、“MICE経済特区”も検討されるでしょう。北海道がその先陣を切るには、従来の発想を変えて、藤田さんや吉田さんのような破天荒な民間人がリーダー役を務めるべきでしょう。大いに期待しています。

=ききて/進行前田圭祐=