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Interview

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「市民と共に考え行動する市政を推進」掲載号:2009年1月

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上田文雄 札幌市長

職員の不祥事、バス路線問題、官製談合の発覚、女性の監禁見過ごしなど、08年の札幌市政は多難だった。上田文雄市長に対するマスコミの批判的な論調も目立った。そこでこの難局にどう立ち向かうのか、また上田市政の基本姿勢とは何かを聞いた。

不祥事続発に大きなショック

--------08年はさまざまな問題が噴出し、上田市長にとって大変な1年だったと思います。弊誌もですが、新聞にも手厳しく書かれましたね。
上田1年ほど前のいまごろにも福祉関係でいろいろな問題がまとまって出ました。あのときも私は非常にショックだったんです。 過去に起きたこととはいえ、今回の女性の監禁問題も、情報が一元化されていなかったことから対応の遅れが生じたと思うので、ショックを受けました。
--------市役所一家によって運営されてきた札幌市政の三十数年間のウミがいま出ているのではありません か。問題が表ざたになるということは、良い方に考えれば、隠ぺいされてないとも言えるわけで、市役所の体質が改善に向かう過程にある証左と見ることもでき ます。しかし、問題の顕在化の仕方というか、市の対応はひどい。
上田事象は起こるとしても、情報の伝わりかた、その後の対処などが稚拙で、いかがなものかと言われても仕方がない。行政的に考えても、納得いかないと思います。
ただ、新聞に連載で「上田市政は変質したのではないか」「上田市長はいまや裸の王様だ」「市民不在の札幌市政が現実化しつつある」「身内を重視」「福祉に厳しい」などと書かれましたが、その指摘は違うと思います。
私が登場する以前、市役所ではそういう問題がクリアになっていたかといえば、そんなことはなかった。私の「やろうとしていることが浸透していない」とか、 「だからもっと頑張れ」、「組織はもっとこうした方が良い」と言うのでなければ、時代検証としていかがなものかと思います。
--------新聞の指摘は、そうなってはいけないというエールだと思えばいいんじゃないですか。
上田最近は貴重なご意見だと思えるようになってきましたが、市民と私の間や職員と私の間にくさびを打ち込むような論調だとしたら、当事者としては傷つきますよ。

市役所改革はまだ発展途上

ueda_2--------5年半前になりますが、再選挙まで持ち込まれた市長選で、新人の上田さんはビールビンの箱の上に立って、つじ説法をしていました。あのときはどんな思いだったのですか。
上田25年間弁護士として、社会的弱者といわれる方々に寄り添って社会的救済の手助けをするという仕事をしてきました。その延長線上でできたたくさんの友人たちから、 「札幌は官僚出身者というか、市役所内部から市長になるケースが続き、市政が停滞している。お前が市長になって改善しろ」という話をいただきました。 市長という多くの事柄に影響を及ぼすことができる職に、私のような発想を持つ人間が就けば、より多くの仕事ができるのではないかと思いました。
つじ説法をしていたときも、私に期待してくれる多くの人たちの思いが伝わってきました。私の言っていることの方向だとか理念を市民のみなさんに共有していただいたと思います。
ただ、市長になってから非常に残念なことがあります。私が一番大事にしている福祉で、障害を持っている方々、貧しい方々、格差社会で苦しんでいる方々をフォローするための費用が計画的に国から減らされ、 しかも格差が拡大しています。そのことが私の任期中に顕在化しています。国は社会保障費を減らす一方で、格差がますます開くように誘導する政策をとっている。まるで往復ビンタです。
国の施策が変わらないのであれば、地域が力を付け、市民同士が助け合っていくしかない。自助共助が原点である民主主義はまさに実践的手法だということに気 づかされました。ですから市民参加、地域の福祉力の向上が必要だと考え、87カ所の連絡所をまちづくりセンターに衣替えしました。
--------いろいろとやりたいことはあるでしょうが、どこかを削らなければ市財政はパンクしてしまう。当然、行財政改革・市役所改革が必要になってくる。そのために上田さんはたった1人で市役所に乗り込んできたのでは…
上田市役所改革が必要だと思ったのは、市民が市役所に対してどういうイメージを持っているのかを考えたからです。一番大事なのは、市民が市役所を“自分たちの政府だ”と信頼しているか、否かです。 信頼感が欠けていると、いくら濃密な住民サービスを行ってもちっともありがたくないと思います。
そこで最初にやらなければならないと思ったことは、まず窓口業務での接遇を良くすることでした。来る度に市民が嫌な思いをするようではいけない。 それでは市役所も自ら仕事をやりにくくしているのと同じです。
そこで市役所改革の市民会議を開いて、提言を受け、実際に実践しているかチェックまでしてもらいました。来訪者へのアンケート結果を見ても、相当改善されたと思います。 それが市役所改革の第一関門です。
本当の改革は、縦割り行政の解消です。市民の生活は縦割りになっていないわけですから、「丸ごと市民のためになるような仕事をしようではないか」と提唱しましたが、これはまだまだ発展途上です。 意識を切り替えて仕事をしようといっても、目の前の予算システムなどに気を取られてなかなかうまくいっていない。
--------今日の最初の話に立ち戻ります。女性が19歳になるまで、母親によって自宅に監禁され、学校にも 行かせてもらえなかった。そのことを学校も福祉関係者も気づく機会は何度もあったのに見過ごした。官製談合も発覚した。職員の不祥事も起きた。バスの路線 問題もあった。どれも市役所の対応の稚拙さ、連携不足、組織内の情報伝達不足が原因で批判を浴びています。市職員の意識改革・市役所改革が発展途上だから ではないでしょうか。
上田その通りです。

バス問題は市民と一緒に考えるべき

--------バス問題についてお聞きします。何がまずかったのですか。
上田バス路線がなくなるという心配をおかけしたことも問題ですが、「なぜこんな大事なことがいまごろ突然出てくるんだ」という不安感を市民の皆さんに抱かせ、混乱を招いた責任は大きいと思います。
市民の足を守るということでバス会社と市が交渉するのは分かりますが、本当は最初からどうすべきか市民ともっと一緒に考えるべきだったのです。
ueda_4中央バスも赤字路線を維持するのが大変で、東・新川営業所の賃料問題を解決するため、白石・厚別の路線から撤退するという主張をしたのだと思います。 このような市民の生活に直接かかわる大事な協議の内容・経過は本来、市民の前にあからさまにすべきことです。
私が第1回目の選挙で訴えたように、困難なことに直面したときこそ「市民とともに考え、ともに悩み、ともに行動する」ことが大事だと思います。 それが市民自治なのです。バス路線問題ではそれをやれてなかったから、市民の大きな怒りを買ったのだと反省しています。
今後は市内のバスネットワークを安定的に維持していくために、地域住民、バス事業者、札幌市の3者が協議する場を設置していきたいと考えています。
市役所の職員も一生懸命やっているんです。でも、それの方向が内向きの一生懸命さなんです。本当は市民と市役所は一体でなければならないのに、市役所だけの論理で問題を処理しようとするから、対応を間違う。 そのようなことは「おれたちはプロ集団なんだから、市民を守ってやろう」というパターナリズムの変形ではないでしょうか。市役所はそういった意識を排していかなければならないと思います。
--------官製談合については、今後どのようにして根絶を図りますか。
上田官製談合は決してあってはならないものです。今回の事態は極めて遺憾で、市民の皆さまの市政への信頼を大きく損ねたことを深くおわびします。 今後は弁護士3人からなる調査委員会で、公取から提供された資料の分析、関係者の事情聴取、入札・契約制度全般にわたる分析などを行い、徹底した調査を進めます。

子どもを大切にする社会を目指す

--------子どもの権利条例が議会で可決され、公約の3条例すべてが成立しました。
上田「自治基本条例」は、市民と議会と行政が協働して札幌のまちづくりを進めていくことを明確にしました。 「自分たちの地域のことは、自分たちで考え、決め、そして行動する」という市民自治による「市民が主役のまちづくり」を進めるために制定した札幌市の「まちづくりの最高規範」です。
市民の皆さんに市民自治を実感していただくためには、市役所の仕事の仕方を徹底的に変えていく必要があります。条例はそのための重要なツールになると考えています。
「市民まちづくり活動促進条例」は市民の皆さんのまちづくり活動を、市民、企業、市がともに支え、札幌を住みやすいまちにしていくための、基本的なルールや方策を定めるために制定しました。 「情報」「人材」「活動の場」「財政面」の4つの支援を定めていますが、1番大きな柱になるのは「さぽーとほっと基金」(市民まちづくり活動促進基金)の設置です。
本年度の寄付額は目標の3000万円をすでに達成しました。「長年、札幌に住み、お世話になった」という理由で寄付していただいた方もいらっしゃいます。寄付を通じてまちづくりに参加するという“寄付文化”を札幌に根付かせたいと思います。 また現在、条例の内容を効果的に進めるため「市民まちづくり活動促進基本計画」を策定中です。
札幌市の「子どもの最善の利益を実現するための権利条例」のもととなる子どもの権利条約は、1989年に国連総会において全会一致で採択され、わが国も94年に批准しました。 それから14年が経過している今日においても、いじめ、虐待、不登校などで苦しむ子どもは少なくありません。
子どもが自ら考え判断し、自立した社会性のある大人へと育つための環境や、権利侵害に悩み苦しんでいる子どもに対し、迅速で適切な解決を図るための環境を整えることは、極めて意義のあることだと思います。
この条例では、子どもにとって大切な権利、これを保障するための大人の役割、権利侵害から救済するための機関の設置など、子どもの権利の保障に関する理念や仕組みを具体的かつ総合的に定めています。 市民と市が一体となって、子どもを大切にする社会の実現を目指していきます。

=ききて/08年11月28日取材 酒井雅広=