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Interview

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「専業農家が多いからこそ 展望と希望がある」掲載号:2009年6月

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飛田 稔章 JA北海道中央会会長

数々の農畜産物の出荷量で全国トップを誇る北海道農業。本道の食料自給率は200%に達し、日本の食料の安全保障にも大きく貢献している。道内の基幹産業である農業の現状と重要性について、JA北海道中央会会長の飛田稔章氏に聞いた。

都府県より低い耕作放棄地の割合

――――まず北海道農業の位置づけについてあらためてお聞きしたい。
飛田 耕地面積は116万2000ヘクタールで全国シェアで25%を超えています。食料自給率(カロ リーベース)では、日本全体としてはご存じのように約40%ですが、都道府県単位で本道は全国トップの200%。日本の食料自給率への本道の寄与率は 22%に達しています。出荷量が全国一の農畜産物もたくさんありますね。
最も強調したいのは1戸当たりの耕地面積が19・3ヘクタールあり、他県の14倍である点です。専業農家が主体の本道は食料の安定供給という大切な役割を担っているということです。
――――全国的に耕作放棄地が増えています。
飛田 北海道の場合、農地に占める耕作放棄地の割合は微々たるもので2%しかありません。農家戸数は減っていますが、先ほどお話したように戸数当たりの耕作面積が非常に大きく、北海道は農地を有効活用していると言っていいでしょう。
――――農家の高齢化が心配されています。
飛田 高齢化が進んでいる原因は、一概に若者が就農を希望しないからだとは言い切れません。部
海外農産物との競争激化などのいろいろな要因があり、ややもすると日本の農業は経営として成り立たない部分も一面ではありました。若者が農業を継ぎたくても継げない背景があったという点を考えなければならないと思います。
産業として魅力ある農業にするための努力を十分に重ねてきたのか、われわれJAグループも反省をしなければなりません。
特に北海道は専業農家と第1種兼業農家を合わせた主業農家の比率が90%という“専業地帯”です。“専業地帯”ということは、裏を返せば農業がダメな ら家計が成り立たないということ。今はどの業界も厳しいなか、「儲かる農業」とまで言うつもりはないですが、少なくとも「経営が成り立つ農業」にしなけれ ば誰も農業に従事しなくなってしまう。
――――「経営が成り立つ農業」になるかどうかの外的な要因になると思いますが、WTO(世界貿易機関)農業交渉、日豪EPA(経済連携協定)交渉がまとまった場合、北海道農業にもたらす影響は大きいと言われています。
飛田 全国的にはWTO農業交渉の影響はコメを中心に語られていますが、北海道農業にとっては関税引き下げ幅を抑えることができる重要品目の枠が、どれぐらい確保できるのかも大きな焦点になっています。
重要品目の枠が小さくなると、関税引き下げ割合が大きくなってしまう農畜産物が出てくる可能性があります。もし海外農産物が大量に入ってきた場合、北海道の農家が甚大な影響を受ける品目が多いのです。
日豪EPA交渉が妥結した場合も、北海道経済に与える影響が懸念されています。砂糖、デンプン、乳製品…、こういったものが関税撤廃されると農業だけでなく関連業界も含め、道内経済は1・4兆円の打撃を受けるという試算があるほどです。
――――WTO農業交渉の状況はどうなっていますか。
飛田 昨年7月のジュネーブ閣僚級会合が決裂してから、こう着状態が続いていると見ています。農業輸出国のアメリカがオバマ政権に代わりました。今年6月にはインドで総選挙があります。こういったことが今後、どのように影響するのか。交渉の行方を注視しています。
ただ、WTO農業交渉はこれまでとは流れが変わってくると考えています。
新興国が経済発展し、食料を大量に消費するようになっています。そして一方では地球温暖化の影響があります。今は持ち直しましたが、オーストラリアでは 3、4年続いて干ばつに見舞われました。今度はブラジル、アルゼンチンが大干ばつです。穀物事情は世界的にひっ迫しています。
国連の人権理事会でも食料問題が提起され、経済至上主義だけで議論すべきではないとされています。

食料の安全保障を国民的な議論に

――――日豪EPA交渉も進展していないようですね。
飛田 そうですね。ただ、予断は許しません。問題は、世界的な食料需給バランスが崩れ、心配な状況に飛び込んでいるなか、日本政府が国民の食料確保についてどれだけ強い意志を持って交渉に臨むか、だと思いますよ。WTO農業交渉においても同様です。
今の日本はカロリーベースで60%を海外に頼っていますが、もっと外国に依存していいのでしょうか。 アメリカ、EU、オーストラリアといった輸出国は 今はとにかく農畜産物を買ってくれ、という姿勢ですが、ひとたび自国の生産量が落ち供給量が足りなくなったら、日本は勝手に調達してください、という姿勢 になりますよ。国内農業をきちんと維持していかなければ、いざというときに国民の命を守れなくなってしまう。
――――そうした食料の安全保障の議論は重要ですね。
飛田 われわれ農業者サイドも国民のみなさまに向け、食料の大切さや自国農業の重要性について分かりやすく発信し、国民的な議論に広げていかなければなりません。
――――導入3年目に入る水田・畑作経営所得安定対策について、農業現場の受けとめ方はどうなのですか。
飛田 従前の農作物別の価格調整支援策がWTOのルールのなかで削減対象となる「黄色の政策」とされ、水田・畑作経営所得安定対策が導入されました。
WTO農業交渉の場で日本政府は、品目横断的経営安定対策を導入して改善をしましたからこれ以上の関税削減要求はのめません、というぐらいの強い姿勢を 示して交渉に臨んでいただきたい。それでなければ、なんのために品目横断的経営安定政策を導入したのか、という話ですよ。
――――農地法改正案が成立する見通しです。今回の改正では、企業が農地を賃借する際の要件緩和を盛り込んでいます。お考えを。
飛田 改正の狙いは農地をいかに活用していくか、ということです。国内に440万ヘクタールある農地のうち、38万ヘクタールが利用されていない。食料自給率を上げるためにも農地の有効活用は当然のことです。
しかし、農業者以外の方が簡単に農地を賃借なり所有できる仕組みにするのは、大きな問題があると考えています。
特に北海道のように広い農地がある地域は、企業の関心が高いかもしれない。
ただ、私も40年以上農家をやっていますが、農業は自然が相手なので努力を重ねてもいい結果がでないときがあります。
安易に企業が農地を賃借・取得し、いい結果がでないからといって10年もたたないうちに撤退をするようだと、農地活用どころではない。ややもすると農地 が宅地造成されたり、工場になったりした例もあると聞きます。また、農業は地域とのつながりが大切であり、協力体制がどれだけとれるのかも気がかりです ね。

企業と連携して付加価値向上を

――――地域活性化の面からも農商工連携が注目されていますね。
飛田 北海道は第1次産業が主体です。基幹産業である第1次産業がもっと北海道に根を下ろした経済構造を作りあげなければならないと思います。そうしなければ、いつになっても北海道経済はよくならない。
そのためには多くの分野の企業のみなさんと連携を取っていかないといけない。さしあたり、われわれが生産した農畜産物の付加価値向上が大きなテーマで す。 北海道の自給率はカロリーベースでは200%ですが、金額ベースでは180%ぐらいです。つまり、原料で道外に出している部分が多いということで す。企業の持つノウハウを生かして農畜産物の付加価値を高め、消費地に製品として送り届ける仕組みを構築していきたい。
もう1つ、企業と一緒に取り組むべき課題は需給調整機能です。昨年、本州でバターが足りなくなりましたが、どうしても生産と需要のバランスが崩れるとき があります。消費者にご迷惑をかけないようにするため、特に乳製品について備蓄機能の充実にトライする必要があるでしょう。
すでに野菜では備蓄の動きが盛んで各農協がすぐ出荷せずに一定の日数、保管をし、うまく調整弁の役割を果たしています。
水の問題についても、各業界の企業と共に対策を講じていくべき時期に来ていると思っています。実は、九州では耐熱性の品種改良をしなければならないほど水不足が深刻化しており、北海道でもだんだん利用できる淡水の量が減ってきています。
さいわいまだ北海道は水が足りないという状況にはなっていませんが、今後に向けてしっかりとした対策を打っておく必要があるでしょう。
水を利用するのは農業だけではありません。各業界と協力して、節水・水の確保への取り組みを行っていきたい。
――――最後に北海道農業の将来についてお聞きしたい。
飛田 同じ農業でも、兼業農家が多い地域の農業と専業農家が主体の北海道農業は全く違います。専業農家が多い北海道だからこそ、農業を魅力ある産業として位置づけることができると思います。また、そうしなければならない。私は北海道農業は展望と希望があると考えています。
ただ、どうかすると、北海道農業が果たしている役割について過小評価されているのではないか、と感じることもあります。
しかし、“専業地帯”である北海道農業がもし衰退してしまえば、世界的な食料需給バランスが崩れる心配があるなか、将来、日本の食料事情が困難な状況になることが懸念されます。
道内の農家が意欲的に仕事に取り組める仕組みを、われわれJAグループだけでなく、行政も含めた“オール北海道”で作らなければならない。中国の“毒 ギョーザ問題”などもあり、国産食料品を大事にする機運が国民の間で高まっています。この機会を逃してはいけません。早急に取り組むべきです。
われわれ農業者も後ろ向きにならずに自信をもって、命の糧を作る農業の大切さを国民のみなさまに発信していきたい。

=ききて/野口=