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Interview

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「北大は本道のために何をするのか」
敷居は高くない民間からの協力要請も大歓迎
掲載号:2009年1月

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佐伯浩 北海道大学総長

旧7帝大の1つでもある北大は、北海道開発に大きな役割を果たした。そしていままた北大は、企業にとって“ビジネスの種”の宝庫になっている。ところが、道内企業からのアクセスは少ないという。佐伯浩総長に産学連携の秘訣を聞いた。

研究成果をもっと活用してほしい

--------北海道大学は130年以上にわたり有為の人材を輩出してきたわけですが、北大は北海道に対してどのような形で地域貢献をしているのか、あらためてお聞きしたい。
佐伯  大学の1番の役割は教育・研究を通しての人材養成です。北海道で、そして日本中、あるいは世界で活躍する人材を送り出すのが第1義の目的です。また、同 時に学生や卒業生が地域のために頑張ってほしいと思いますし、大学の研究成果ができるだけ地域で役に立つようにしたいと考えています。
文部科学省からは、国立大学法人評価の次期中期目標計画に、「おたくの大学は何を目指すのかを書き込め」と言われています。私たちは人材育成、特に教育・研究面で国際的な拠点を目指しています。
研究の面でも、純粋の研究がある一方、ある先生方はそれを応用に結びつけるという研究をする。その結果が地域に役に立つ。北海道のことを考えますと、北 大は地域に対する連携などをいろいろやっているのですが、それができるのも、大学の財政や人材養成など、根っこにあるものがきちっとしていればこそです。
 北海道の経済状況は全国の中でもあまり良くないので、私たちが役に立てればいいなと思っています。ただ、大学から自らの研究等をアピールすることも大事ですが、地域の方からもより積極的に協力要請していただきたい。
地域の経済界の方々とお話しする中で、「北大は敷居が高い」と言われるのですが、大学自身も個々の研究者もそういう意識はありません。研究成果をできるだけ地域のみなさんに活用していただきたいと思っていますので、いろんな要求を私たちにどんどん出していただきたい。
北大では、産業界のニーズを大学のシーズに結びつける新たな情報システム「NeedsSeeds(NS)ハイウェイシステム」を約5000万円かけてつ くりました。北大の研究者がいま何を研究しているのかが一目で分かるデータベースです。民間の方々がいま考えていることのキーワードを入れると、「北大の ○○先生がこういうのをやっている」とパッと出るんですよ。ところが、地域の方のアクセス数があまり多くありません。
また、リエゾンオフィス(企業ニーズと大学の研究テーマ・技術シーズのマッチングを行い、産学連携による共同研究、技術移転などを実現させるための支援 機能をもつ組織)も設けてきました。しかし、東京の大手企業からはたくさん要請が来ますが、地元からはなかなか上がってきません。
私たちも反省しなければならないことがあります。ワンストップサービスといいますか、組織を外から見て分かりやすくするということが必要だと考え、いま までは産学官連携や知財の部門がバラバラにあったものを、「北海道大学 知財・産学連携本部」に変えました。09年春にはもっと名称を単純化し「産学連携本部」にします。ここに連絡してもらえれば、民間の要望がワンストップ サービスで研究者に流れるようになります。
こういったものを道内の企業、自治体の皆さんにうまく活用してもらいたいなと思います。そのために北大は約2億円の予算を組み、人も新たに雇用しまし た。その目玉になっているのが「北大リサーチ&ビジネスパーク(R&BP)構想」です。スーパーCOE(文部科学省が03年度から開始した研究助 成事業。科学技術振興調整費課題「戦略的研究拠点育成プログラム」)という大きなプロジェクトが終わり、R&BP構想は実際に動きだす状況になっ ています。これと産学連携本部が一体となりやっていきます。
すでに「北キャンパス」には北大の「低温科学研究所」「電子科学研究所」「創成科学共同研究機構」「電子科学研究所附属ナノテクノロジー研究センター」 「先端生命科学研究院次世代ポストゲノム研究センター」「触媒化学研究センター」「人獣共通感染症リサーチセンター」が設置されており、民間施設としては 国立大学の敷地内に初めてできたシオノギの「創薬イノベーションセンター」があります。近くには道の各種研究施設も集まっています。09年春には「産学連 携本部」も移ります。
北キャンパスが地域の経済界、産業界との結節点になりますし、先端とか融合といった研究分野もそちらにある。一方、教育関係は南のキャンパスにあります。そういう意味では、一般の方々、行政、民間の方々も分かりやすくなったのではないかと思います。
本学には民間にはない大きな研究施設・設備、特殊な設備が数多くあります。オープンファシリティ(施設・設備や、それによって得られる便宜を公開)とい う形で、北大と共同研究等を行っている民間の方々に積極的に使っていただいています。具体的には、創成科学共同研究機構、触媒化学研究センター、電子科学 研究所附属ナノテクノロジー研究センターの共同利用研究施設で、学内外の研究者も利用できるシステムを05年から導入しています。

ガゴメコンブ活用でも産学連携

saeki_3--------問題は北海道の企業・団体の利用率がいまだ低いということですね。
佐伯そうなんです。先ほど言いました「NSハイウェイ」へのアクセス数は分かりますけれど、それが どこまで進展しているかはなかなか読めないんです。「産学連携本部」ができ北キャンパスに移れば、具体的にどのような相談がどれだけ来たかつかめるのでは ないかと思います。とにかく地元の方にもアクセスしていただけるよう、われわれもPRしていかなければならないと考え、道経連や商工会議所には「北大はこ ういうことをやっているので、関係する企業の方に是非伝えてくださいよ」と言っています。
--------中小、零細企業だと北大に何を頼めばいいのか、どうすればいいのか分からないんだと思いますね。
佐伯そうなんでしょうね。それで「敷居が高い」という言葉が出てくるのでしょう。でも、われわれは常にウエルカムです。
また、本学は道、札幌市、道経連、道経産局と地域連携協定を結んでいます。定期的に集まって協議をしており、こういうテーマが大事だということになったら、例えば道と北大の間で具体的な事業を検討する、ということもやっています。
--------地元との産学連携の具体例をいくつか挙げていただけますか。
佐伯07年度に創成科学共同研究機構の「移植医療・組織工学」グループが、地元企業と組んで機能性 ハニカム膜を製作し、大手企業がテスト販売を行いました。これが「北海道の地の利と人材を生かしたバイオとナノの連携プロジェクト?自己組織化ハニカム膜 の製造技術と医療応用?」として、日刊工業新聞社主催「第2回モノづくり連携大賞」で大賞を受賞しました。
都市エリア産学官連携促進事業「マリン・イノベーションによる地域産業網の形成」においては、フコキサンチン等高機能性成分を豊富に含有する海藻種の探 索を行い、ウガノモク、アカモクには特に多く含有することを明らかにしました。ガゴメの海中培養研究でフコイダン量が、天然藻体の2倍になる短期栽培法を 実用化し、これに由来する多数の製品化に至ったのです。ガゴメの優良種苗形成と海藻と他の魚介類との連鎖循環型陸上栽培の検討がなされました。このことに より文部科学大臣賞を受賞しました。
saeki_4--------講演やセミナーなども北大で頻繁に開かれており、一般の人も参加しやすくなっています。
佐伯いろんなタイプの公開講座も行っています。年間に40くらいありまして、1つの講座が15時間 くらいやっています。大学というのはもともと知を創造したり、知をストックしたりする場所ですから、それをできるだけ地元の人に還元したいと思い行ってい ます。水産学部は函館中心にやってますし、研究林でも地域の方々に大いに開放して勉強会を開いたり、子供たちに科学の楽しさを伝えたりしています。それも かなりの数を年間で行っています。

域際収支、地元雇用でも役立っている

佐伯また、このことは札幌の皆さんは当たり前のことと思ってあまり意識していないと思うのですが、北大 くらいオープン化している大学はないんですよ。不動産や建物をビジネス上でうまく使うという意味でファシリティマネジメントという言葉をよく用いますが、 北大は持っている財産をできるだけ地域の人たちに使っていただこうと考えています。ですから、車は別ですが、徒歩なら誰でもいつでも24時間キャンパスに 入れるようになっています。博物館も無料です。
--------24時間ですか?
佐伯ええ、そうですよ。門はいつでも開いています。観光客も市民の方々も自由に入れます。本学の キャンパスは広域避難所にもなっていますから。芝生にも予算をかけているのは、本学の学生や職員のためでもありますが、札幌市民の散策の場や観光客の憩い の場所にしてもらいたいと思い、整備しているのです。街灯もたくさんつけ、電気代も相当なものになりますが、何かあってはいけませんので、夜でも安全な環 境づくりをしています。
--------確かに北大は一般の大学に比べて、いろいろな役割を果たさざるを得ないのですね。
佐伯うちは国立大学法人としての収入は約930億円です。この内、運営費として40数%、約400億円が国からきています。
学生からくる収入は約100億円です。大学院を含め1万8000人の学生がいますが、道外と道内出身者の比率はだいたい6対4です。学部は半々です が…。そう考えますと学生納付金収入の6割、約60億円近くが道外から入ってくるわけです。しかも、札幌以外の学生の割合は8割近いのですから、札幌市へ 経済面で、とても貢献していることになります。学生1人が住んでいるだけでも年間100万円以上を札幌市で消費することになりますから。外部資金は200 億円ちょっとです。研究費補助金や受託研究費などですが、これはほとんどが道外からくる予算です。
そうすると930億円のうち、9割近くが道内の人が利用する病院の経費を除くと、約700億円が道外から入ってくるのです。
--------域際収支を考えると、単純に北大が存在するだけで、札幌市や道は潤っているわけですね。
佐伯研究林も道内と和歌山県に計6カ所あります。臨海実験所が3つ。臨湖実験所が洞爺湖にありま す。それから河川の実験所があるとか、考古学関係が斜里にあるだとか、札幌以外にも多くの施設を持っています。そういうところで地元の方を雇用していま す。特に研究林ではたくさん雇用しています。

=ききて/酒井雅広=