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Interview

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「われわれが先頭に立って北海道に人を呼ぶ」掲載号:2011年7月

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高橋はるみ知事×上田文雄札幌市長 

 統一地方選では敵味方に分かれ戦った高橋はるみ知事と上田文雄札幌市長だが、選挙が終わればノーサイド。震災で外国人観光客などが激減したいま、2人が手を携えて観光客呼び込み、企業誘致などの先頭に立つことを誓った。

まず台湾にアプローチ

――3月11日に発生した東日本大震災は、北海道にも大きなつめ跡を残しています。函館や太平洋沿岸地域に津波被害をもたらしたのみならず、観光客が激減するなどの深刻な経済的打撃をこうむっています。そこで今日は高橋はるみ知事と上田文雄札幌市長に、どのような対策をとっていくべきかを話し合ってほしいと思います。まず、入り込み数が激減した外国人観光客を呼び寄せるための方策をうかがいます。
i2高橋 いろいろな調査結果があるのですが、実感としては「震災後、外国人観光客が半減した」とまでは言いませんが、それに近いところまで落ち込んでいる地域があるように思います。ただ、(それをカバーする形で)道内のお客さまが回帰していることを含めて、国内客が戻っているという実感を持っていますので、外国人だけを区切って数字を出すことは難しい。しかし、相当落ち込んでいることは事実です。
外国人観光客を復活させるためにはまず、外国人の中で来道者が一番多かった台湾のみなさんを呼び寄せることが大事だと思います。私はこれまで交流のあった方に自らレターを書きました。4月には、台湾立法院の王金平院長と東京でお会いしました。
日本への渡航制限解除の直後だったのですが、王院長はその場で、北海道の安全安心をアピールするため、自ら200?300人連れて北海道へ行くことを約束してくれました。王院長一行は5月12日に来道し、札幌、釧路、小樽を訪れ、タンチョウヅルなどを見て回りました。
その後、台湾からのチャーター便が函館に来るなど、確実にいい方向に進んでいると思います。
加えて急激に観光客が増えている中国のお客さまに対するアプローチということで、観光庁長官からも「中国の担当大臣も北海道はどうなっているのか気にしているので、まず一緒に中国へ行こうよ」というお話をいただき、5月22日から駆け足で上海と北京で開かれたセミナーに行ってきました。感触はすごくよかったですね。良いこと悪いことを含め、北海道に関心を持っていただきました。われわれが測定している道内の放射線測定値を記した中国語資料も提示し、説明しました。
いい感じで中国人観光客が戻ってくる感触があったのですが、その矢先に福島原発をめぐる論議が向こうで大きく報道され、気勢をそがれる形になった。しかし、明日(5月31日)に東京で開かれる日中観光交流の集いで邵
また、韓国などに対してもいま、ソウルとの姉妹提携1周年ですので、これを機としてアピールを考えて行きます。
ただ、中国、韓国とも放射能に対する大変な懸念、心配を持っていますので、そういったことに対するきめ細かな情報提供が必要だと考えています。
ぜひ札幌市長の協力をいただけたらと思っています。
i3上田 正直なところ知事がおっしゃるように正確なデータはよくわからないんですよ。ただ、四十数%減ったという話をきいていますが、ぼくの感覚だとゼロになったような気がします。
いままではテレビ塔や時計台、市役所の前に外国人の方がたくさんいらっしゃいました。ずっと中国語が聞こえてましたでしょう、それがパタッとなくなりましたからね。
北京の札幌事務所がアレンジして、北京の旅行会社3社の職員35人に5月18日から3泊4日の日程できていただきました。3・11以降、中国本土から初めての団体観光客と言われましたが、札幌、洞爺に泊まっていただいて、自ら北海道が安全安心なことを体感してもらいました。中国でお客さまを勧誘する人たちが不安感を持っていてはどうしようもありませんからね。これでひとつカギを開けたと思います。
おいでになった方の話を聞くと、「北海道に行かないか」と言われたとき、家族から止められたそうです。それを団長さんが「大丈夫だから保証する」と言って連れてきたそうです。中国では日本の被災状況を根拠のない情報に基づいて懸念しています。
高橋 「函館が津波で流された」というとんでもない情報が流れていますよ。
i4上田 そういった誤った情報を打ち消すためにも、私は5月21日に札幌市内の留学生約100人と道産食材を使ったランチミーティングをおこないました。留学生のみなさんにはTwitterやFacebookなどを活用して本国の家族や友人に札幌の安全性をPRしてもらっています。
北海道、札幌の事業者も困っているけど、向こうの旅行会社も困っています。
北海道、札幌は人気がありますからね。それを橋渡しするためには、なにかのきっかけがないとね。その意味で知事が中国に行ってPRしてきたというのは、素晴らしいことですよ。
高橋 上海も北京でも、立ち見ができました。メディアとエージェントに集まっていただいたセミナーで。
上田 私も6月1日から4日まで中国を訪問し、杭州、瀋陽、大連を回ってきます。各地で共産党の書記、市長が快く会っていただける予定ですし、メディアや旅行業者の方も20社ぐらいずつ集まってくれます。
――夏あたりに外国人旅行者数は回復しませんか。
高橋 楽観的シナリオとしては、夏からV字回復ということになっています。ただ、中国の温家宝首相の発言についても、これからその発言が具体的制度としてしっかりしたものとなり、現場の末端までいくまでには若干の時間がかかると思います。また、その間に福島原発でいろいろなことがでてくると、中国の方々も不安に思う要素がないわけではない。今年の秋なり、冬のシーズンまでには、以前の勢いのところまで盛り返すぐらいの気持ちで準備をしなければならないと、私は思っています。
これは農産物、海産物の輸出についても同じことです。中国などへの輸出は水際で止まっています。一部解除と温首相はおっしゃったけれども、末端まで浸透するまでにはまだ時間がかかると思います。
上田 日中韓の首脳会議が5月22日、東京でありました。昨日(5月29日)、一昨日は担当大臣会議があり、その帰りに邵
韓国の大田と札幌市は姉妹提携を結んでおり、向こうの市長さんから電話で力強いメッセージをいただいています。
――アジアの航空会社の北海道発着便は増える見込みですか。
高橋 私が中国に行った際に、東方航空が震災後、減便されている上海―新千歳の定期便を夏には通常スケジュールに戻したいと言ってくれました。また、韓国のLCC(格安航空会社)のイースター航空は5月5日、国際定期便を仁川―新千歳間に就航しました。7月には同じ韓国のジンエアーが同路線に就航予定です。  LCCをもっと誘致していきたいと考えています。そのためには空港のグランド業務をサポートする地元企業の存在が必要です。
――地元客を含む国内観光客をどう呼び込むかという視点も重要ですね。

観光の地産地消も推進

上田 4月の段階から札幌商工会議所と札幌市がタッグを組んで、「元気!活気!勇気!食べよう、旅しよう。札幌・北海道」のキャッチコピーでキャンペーンやっています。過度の自粛は日本全体をダメにしてしまいます。被災地の一日も早い復興を祈念しつつ、地域経済の萎縮状態からの脱却を図るため、まずは札幌市民、北海道民による道内観光、地産地消の推進を目的としています。
高橋 道内観光のお客さまの8割は道民です。海外からのお客とは1人あたりの消費単価は違いますよ。しかし、にぎわいという点からも、道内観光の地産地消キャンペーンを張っていきます。まずは、修学旅行を「道内再発見の旅にしたら」という提案をしています。道東や函館でも道内の学校の修学旅行客が増えています。これらのことを各地の振興局や教育庁と連携しながら進めていきます。
6月1日から9月30日まで、北海道観光振興機構の協力で「おでかけラリー北海道」をおこないます。観光施設やイベント、宿泊施設などで「おでかけスタンプ」や「泊まってスタンプ」を集めて応募すると、素敵な商品があたるスタンプラリー企画です。
――本州は電力事情が不安定です。しかも、今後、暑い夏を迎えます。人もそうですが、企業も涼しい北海道に拠点を移すといいのではないか。そういった意味で、いままで以上に行政は企業誘致に力を注ぐべきではないでしょうか。
高橋 道経連とは東京電力や原発依存度が高い関西電力の送電地域にあるデータセンターなどの誘致で力を貸していただいています。
また、選挙公約に入れさせていただいた「21世紀バックアップ拠点構想」を推進します。基本的には苫東をまず念頭に置いていますが、官民のデータのバックアップセンターの誘致、食料・資材の備蓄、運輸・流通拠点の整備、また被災者の方の仮設住宅の設置など、いろんな意味を含めた北海道のバックアップ機能を高めようというものです。
――被災者の方の道内移住も考えていかなければなりませんよね。
上田 緊急的な避難民というレベルの方たちに対して札幌市は、市営住宅250戸を提供させていただいていますが、まだ余裕があります。彼らの生活をサポートするため10万円ほど生活支援一時金を支給していますが、それでは済まないわけですね。そこで仕事をしていただくことが必要です。コミュニティーをきっちりつくっていくことも大事なことです。
企業誘致は市の産業振興部が担当しており、いい条件でおいでいただくスペースを確保しているのですが、なかなか決まりません。
高橋 北海道にはいま1369人の被災者の方がいらっしゃっています。やはり原発のことがあって福島の人が多いですね。北海道は県人会がしっかりしているので、知人や親戚を頼って来やすいということもあります。
i6――被災地の漁業関係者が、北海道に来ているケースもあるようですね。
高橋 水産業の方の連携は進んでいて、東北の太平洋の漁場を北海道と東北の方が共有しているんですよ。東北沖で水揚げされた魚も東北の港の機能が停止していたら、北海道に揚げる。北海道と東北の水産業の関係者は、相互に助け合っていきたいという強い思いを持っていると感じましたね。今回も東北の漁船が被害に遭ったというので、北海道の中古の船が東北に送られるそうです。
――農業で北海道の生産枠を増やしたり、農業従事者に移住していただくことはできないのですか。
高橋 農業関係者も北海道と東北の連帯感は強い。東北から多く開拓に入って来てるでしょう。ちょっと言い方はよくないけど、「人の弱みにつけ込むようなことはしたくない」「東北の人が困っているいまは、それを支えるのが重要だ」という意識なんですね。「東北でへこんでいる生産の分を自分たちが儲けよう」という意識は、北海道の農業者にはないようですね。ただ、コメでも野菜類でも酪農でもそうですが、「北海道の役割をしっかりと果たしていきましょう」ということです。
――東北と北海道の一体感をますます高めていこうということですね。
高橋 新幹線は札幌までが大前提ですが、その前に道南まで来ます。新幹線で青函トンネルを通じてつながると、函館と青森を1つのエリアと考えると、すごい人口規模のエリアができます。ここの地域活性化が相当活発化すると思います。
――先ほど市長が企業誘致は難しいとおっしゃってましたが、知事はどう考えていますか。
高橋 難しいですね。データセンターも首都圏に6、7割あります。誰が考えたって冷房コストが高くつくのだから、暑い首都圏にある必要がない。空気冷涼で電力のピークが夏ではなく冬である北海道に来るのが合理的です。道東京事務所の職員が各企業にあたっていますが、多くの企業は東京がダメなら関西だという。われわれのアピール不足もあるのですが、北海道は市町村は179あるんですが県としたら1つです。だから、道の職員が企業に日参しても、例えば関西連合が1県1社行っただけで、訪問数で関西に負けてしまうんですよ。
私は札幌市と連携しながら足繁く行く態勢をとらなければならないと考えます。 そういった中で大阪のさくらインターネットのデータセンターが石狩に開設することは本当に喜ばしい。また、食クラスター関係で「北海道いいな」という企業も少しずつ出てきています。1つでも2つでも、ものにしていきたい。
上田 石狩市と札幌市は一緒に企業誘致をしています。札幌市内への企業進出でなくとも、札幌近郊であるならばいいわけです。ただ、雇用がたくさん創出できるものが何とかきてほしいなと思います。

道と札幌市が手を携えて

――北海道のエコ関連技術を売り込みたいですね。
高橋 北海道洞爺湖サミットのメディアセンターで注目された雪氷冷房を苫小牧の北海道トヨタが導入しています。
上田 今回の震災であらゆる機能が東京一極集中している危険性は、誰の目にも明らかになったと思う。国の要所要所に、バランスを考えて機能を分散していくべきなんです。
高橋 市長も東北に行きましたよね。私も震災1カ月後に行って思いました。もし札幌で直下型の大地震が起きたら、道と札幌市は連携というより統合体のようになって対処しなければならない。
想定外の大地震が現に起きたんですから、われわれはそういうことも頭の整理をしておかなければならないと思うんです。190万人が住んでいる札幌と近隣の人々が広域で、想定外の災害を想定してどう対処するか、ぜひ早めに協議していきたいですね。
その流れの上に大阪都構想、中京都構想などの統合という議論がある中で、私は推進派ではありませんが、都道府県と政令指定都市の二重行政についても考えていきたい。メリット、デメリットを整理をして議論を深め、災害対応は一緒にやらざるを得ないと思います。
今回の大震災をきっかけとして、札幌市と道庁がそういったことを話し合っていきたい。
上田 基礎自治体と広域自治体の役割はそれぞれあると思います。特に北海道と札幌の関係はまさに北海道は1つで、突出した大都市である札幌を北海道はいかに使いこなすかという関係にあるのではないでしょうか。札幌に集中したさまざまな機能、ノウハウ、経済的なものを、ほかの178の市町村がどうやって使いこなすかです。
高橋 札幌の機能を北海道中に広められるかですね。
上田 近郊にだけ広げるんじゃなく、遠くに飛んだっていいんです。北海道がリーダーシップをとって、178市町村のために札幌を活用してください。北海道の底上げが図られなければ、札幌も発達しません。
そのために私は知事と腹を割って話し合っていき、いい関係をつくっていきたい。災害対策は抽象論ではなく、非常にわかりやすい議論です。市民、道民も発想しやすい、提案しやすい、納得しやすいテーマだと思います。
高橋 賛成です。
(対談=5月30日)

=ききて/進行酒井雅広=