ほっかいどうデータベース

安藤 保彦 ◎経済産業省 北海道経済産業局長

(あんどう・やすひこ)1964年12月30日生まれ。神奈川大学法学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。人事交流として2008年から4年間、高知市副市長を経験した。中小企業庁事業環境部取引課長、経済産業政策局地域経済産業政策課長などを歴任。昨年7月から現職。

中小企業のテレワーク導入やオンライン事業を積極的に支援

コロナ不況の谷は深い。本道は感染拡大の第1波が他地域よりも早く、全国の中でもっとも長い間、自粛経済を強いられた。その傷の大きさは各種経済指標にも現れている。

有効求人倍率が4月に1倍割れ 

——まず新型コロナウイルス(COVID­‐19)の感染が拡大する前の本道経済についてうかがいたい。

安藤 昨年12月、本年1月の道内経済概況としては「一部に持ち直しの動きがみられるものの、足踏み状態となっている」との判断でした。

マイナス要素としては、生産活動や住宅建設で弱い動きがあり、個人消費や観光でも一部に弱い動きがみられました。観光については、日韓関係の悪化に伴う韓国人旅行客の減少などが背景として考えられます。

しかし、その一方で民間設備投資は高い水準が維持されていました。雇用動向も改善傾向でした。

——各種指標について教えてください。

安藤 1月の各種指標について紹介すると、鉱工業生産指数は前月比0・2%減と2ヵ月連続の低下。新設住宅着工戸数は前年同月比15・3%減で、7カ月連続で前年を下回りました。

個人消費についてコンビニ、ドラッグストア、家電量販の販売額は前年を上回ったものの、百貨店、ホームセンターは前年割れでした。

来道客数は5カ月連続で前年実績を超えていましたが、道内外国人入国者数は9・8%減と4カ月連続のダウンでした。

——民間設備投資は。

安藤 4月1日に発表された日銀短観によると、2019年度は全体(製造業と非製造業)で前年度比8・6%増となっています。非常に高い水準でした。

また、雇用動向の指標である有効求人倍率は昨年の11月と12月は1・28倍です。直近5、6年の間でもっとも高い水準です。1月に0・1ポイント下がりましたが、人手不足が道内経済界でも大きな課題であったことが、数字からもうかがえました。

当時、北海道経済産業局としても、ロボットやAIの活用による生産性向上を支援する施策を打ち出していました。

ところが、新型コロナによって、本道経済の景色は一変してしまいました。

——安藤局長はいつ頃から危機感を抱かれていましたか。

安藤 1月にさまざまな団体や組織の新年交礼会が開かれ、私も出席していました。当初は各会場で「今年はオリ・パライヤーです」とか「札幌で日露地域交流年の開会式が開かれます」、あるいは「春にはウポポイが開業します」といった明るい話題を中心に挨拶をしていました。

しかし、1月下旬に出席した新年交礼会では、おめでたい席ではあるものの、挨拶の中で新型コロナに触れざるを得なくなりました。「人命最優先で感染拡大防止に務める一方、経済的なダメージを最小限に抑える必要もある」といった内容を急きょ、挨拶文に入れたことを覚えています。

その頃すでに本省とのやり取りの中でも「経済的にも大変なことになるぞ」という話になっていました。

各地方の経済産業局、商工会・商工会議所などでは1月29日から、経営相談窓口を設置しています。

——おそらく1月下旬の時点では、宿泊施設などの観光関連企業からのご相談が中心だったのでは。

安藤 そうですね。ただ、北海道は新型コロナの感染拡大が他地域よりも早く、2月に始まりました。3月中旬にいったんは感染者数が減少傾向になったものの、4月に第2波が来て、国の「緊急事態宣言」の解除も東京都と一緒のタイミングで全国でもっとも遅かった。現時点では、他地域よりも長い期間、経済的な影響を受けてしまったという認識です。

——発売日(7月15日)頃に5月の道内経済概況が発表されますが、直近の判断について教えてください。

安藤 4月の道内経済概況は「新型コロナウイルス感染症の影響により、厳しい状況となっている」という判断になりました。

鉱工業生産指数が前月比8・2%減で3カ月ぶりに低下し、84・1となりました。胆振東部地震の影響があった2018年9月の89・5を下回っています。

個人消費については巣ごもり需要に加え、マスクや消毒液などの需要でスーパー、ドラッグストア、ホームセンターの販売額は前年同月を上回りました。しかし、他業態は前年割れを強いられています。

特に百貨店は臨時休業やインバウンド需要の減少によって大変厳しく、前年同月比60%以上の落ち込みになりました。コンビニも6・5%のダウン。百貨店とコンビニの下げ幅は過去最大です。

新車販売も外出自粛による来店客数の減少、納期の遅れなどによって前年同月比▲28・9%と大幅な減少です。

新設住宅着工戸数は前年4月が前年同月比で16・5%減と落ち込んでいた上、今年4月も10・9%減です。

——コロナ前は良かった道内の雇用動向は。

安藤 4月に有効求人倍率が3年10カ月振りに1倍を割り、0・97倍に。5月はさらに悪化して0・93倍です。

また、雇用保険の被保険者の中で事業主都合で離職した人の数は、4月が3353人、5月が2003人。前年同月比はそれぞれ32・7%増、80%増です(いずれも北海道労働局発表データより)

支給対象が幅広い家賃支援給付金

——各種データからコロナ不況の谷の深さを感じます。

安藤 7月1日に日銀札幌支店が発表した6月の短観では、企業の景況感を示す業況判断指数がマイナス26となりました。この値は、東日本大震災直後の2011年6月調査のマイナス24よりもひどい。

先行きについては新型コロナの影響の拡大、国際経済の動向などを十分に注視する必要があります。

——現在、どのような施策がおこなわれていますか。

安藤 先ほど申し上げた経営相談窓口では当局の窓口だけで、これまで2000件超のご相談、お問い合わせが寄せられました。開設当初は資金繰りのご相談が大半を占め、その後は持続化給付金に関するお問い合わせが増えていきました。

持続化給付金は第2次補正予算の成立を受け、対象が拡大されました。「今年1月以降に新規開業された方」や、フリーランスも含む「主たる収入を雑所得、給与所得で申告している個人事業主」も申請が可能になり、受付も開始されています。

道内では申請サポートセンターが38カ所に設置されました。現場を視察しましたが、事前予約制になっており、ソーシャルデイスタンスなどの感染防止策もしっかりとられています。

また本日(7月3日)、家賃支援給付金の制度概要が公表されました。国の「緊急事態宣言」の延長などによって売上高が減少したテナントが対象で、地代・家賃の負担を軽減するのが狙いです。

制度や手続きの詳細、申請開始日などは今後、公表されますが、法人に最大600万円、個人事業者に最大300万円を一括支給するという内容です。 

——V字回復に向けた支援策も教えてください。

安藤 一連の「GO TOキャンペーン」では、国内旅行の事業がよく知られていますが、経産省関連ではイベント、商店街を対象にした「GO TOキャンペーン」を実施します。例えば、チケット会社経由でイベントの券を購入した消費者に対し、割引やクーポン発行をおこなっていく予定です。

また、コロナ禍でテレワークやオンライン事業のニーズが一気に高まっています。

従来から中小・小規模事業者向けのIT導入補助金がありましたが、今回、補助率がアップされています。サプライチェーンの毀損への対応、非対面型ビジネスモデルへの転換、テレワーク環境の整備のいずれかに合致する場合、最大で補助率が4分の3になります。

北海道版ワーケーションの促進を検討

——北海道経済産業局として独自の取り組みも実施していると聞きました。

安藤 民間の人材派遣会社に委託し、コロナ禍の産業間人材マッチング事業をおこなっています。この事業はもともとは高度人材のマッチングを想定していましたが、コロナ対応でも生かせると判断し、シフトチェンジしました。

飲食や宿泊事業者は企業活動が大幅に低下・縮小し、雇用維持に苦慮する企業もあります。一方、農業や水産業、食品加工業などの分野では、入国制限によって技能実習生のメドが立たないなど、人手を求める声があります。

こうした企業間の橋渡しをおこない、課題の同時解決を図るわけです。兼業や副業の壁はありますが、引き続きしっかり取り組んでいきたい。

観光分野について申し上げると、北海道運輸局、道、札幌市、釧路市、北海道観光振興機構と連携して今後、アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)の準備を進めていく方針です。

ATWSの本道開催はコロナ前に決定し、現時点では来年9月の予定でアジア圏初開催となります。各国との行き来の制約が解かれた時、インバウンド回復の起爆剤になり得るでしょう。

——コロナ不況から本道経済が脱却していく道筋についてうかがいたい。

安藤 新型コロナを契機に在宅勤務が推進されました。テレワークができる環境があればどこでも業務ができ、ライフスタイルに合わせた多様な働き方が可能となることへの社会の理解が進みました。

このことは北海道にとって大きなチャンスになり得ます。職場と大自然・観光地が近接し、低人口密度で三密回避に適した地域ですから。ワーケーションや若手人材の移住などによって、道内での新ビジネスの創出が期待できるのではないでしょうか。

北海道経済産業局では、新たな経済活性化策や働き方改革として道外から道内へ、あるいは札幌から道内他地域への人口移動を見据えた北海道版ワーケーションの促進を検討しているところです。

「仕事」と「遊び」が隣り合う環境を生かし、「働き続けたい北海道、住み続けたい北海道」を目指していく。