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長ブログ

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サスティナビリティ(88)
地球を激変させるティッピングポイント(6)北極の氷山・南極の氷床の融解
更新日:2010年05月30日

    

 もう1年以上前になるだろうか、ある環境関係の会合に参加したとき、有名大学の教授で産業界の環境対策のバックボーンになっている「先生」の話を聞いたことがある。「ホッキョクグマが絶滅の危機に瀕していると環境推進派は力説するが、それは温暖化によるものではなく人が殺したからですよ」。何か論点を意識的にずらしたようで違和感を感じたものだ。狩りの足場となる氷山と流氷がなくなることで、北極圏で暮らすホッキョクグマ、アザラシ、セイウチなどの野生動物がその生存を脅かされているのは、よく知られた事実である。
 日本の海洋研究開発機構と宇宙航空研究開発機構は北極海の海氷面積を1887年から調査しており、世界的にも先進的な研究活動を行っている。毎年調査報告を出しているが、それによると北極海の海氷面積は2005年に過去最少を記録し、2007年にはそれをさらに下回っている。2008年の調査では前年に比べ拡大しているがそれでも史上二番目に狭い面積である。昨年(2009年)はわずかながらの回復を示しているものの史上第3位の少なさで、以前と比べると大幅に海氷の少ない状態が続いている。海氷域の縮小はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書予測よりも早いペースで進んでいるようだ。
 北極海の海氷面積減少は次のステップで起こると言われている。まず、CO2増加による地球温暖化で北極圏の気温が上昇し海氷が減少、一部海面が現れてくる。現れた海面は夏の太陽光をより多く吸収し、海水温度が上がる。それによりさらに海氷が減少するといわれている(フィードバック現象)。過去100年間で北極では平均気温が約5度も上昇したという説もあり、近年気温の上昇が加速されている。
 北極圏の海氷がなくなることで夏に北極航路ができるとか、天然ガスや石油の採掘が容易になるとかの利点はあるものの、恐ろしいのは北極の温度上昇で溶けた氷が北半球に流れ込み、海流のパターンを変えてしまうことである。多くの科学者がこの点について懸念を表明している。北極の氷は海に浮かんでいるので溶けることによって海面上昇をもたらすことはないが、問題は溶けた海氷が淡水であることだ。
 前回はメキシコ湾流について海流の気候に及ぼす影響を取り上げたが、メキシコ湾流を含む太平洋・大西洋を循環している「海洋大循環」に北極やグリーンランドの氷山や氷床の融解が影響を与えることがわかってきている。通常、赤道付近で暖められた海流が北の海に流れ込み、欧州や北米の海岸沿いに温暖な気候をもたらしている。この暖かい海流がグリーンランドや北極海まで流れ込んでくると、海流は寒気で冷やされ海水の密度が濃くなり海底に沈み込む。北の海で海底に沈み込む海流の力は強力だ。ベルトコンベヤーの役割を果たし、南からの暖かい海流を北に呼び込む。このように「海洋大循環」は太平洋・大西洋を巡り、地球の気候を和らげる役割をもっている。
 しかし、北極の氷やグリーンランドの氷床がとけて北大西洋に流れ込むと、これらの溶解氷は淡水であるため海水の濃度を薄め、表層水は水温が下がっても海底に沈み込まなくなる。そうすると、海洋大循環の速度が遅くなったり停止したりする事態が発生する。今、世界で発生している干ばつ、乾燥、豪雨、ハリケーン、竜巻などの異常気象は、深層海流の流れが弱まっていることで「海洋大循環」が変貌しているせいだと見る研究者が多い。
 さて、深層海への沈み込みが完全に止まってしまうと、「海洋大循環」も止まってしまい、暖かい表層水が低緯度のヨーロッパやアメリカ大陸の空気をあたためることができなくなってしまう。その結果、突如として寒冷化が始まり、地球は一転して氷河期に向かうことも予測される。アイスランドや予想されるグリーンランドの火山爆発で生じた噴煙が北極域に粉塵をまき散らし、それが氷山や氷床の融解を進めることも危惧される。

 気象学者のノッツ博士は「北極海の氷は夏の間そのほとんどが消滅するかもしれないが、地球温暖化が収束し冷涼になったら再現する可能性は高い」と指摘している。一方で「南極海の氷床については楽観的に判断することはできないだろう」と見ている。南極の西側にある氷床は南氷洋の渦が入りやすく、氷床の下部が暖められている。2007年に発表されたIPCC第4次報告書では、南極氷床融解による海面上昇を最低限の予測に止めているが、実際には融解速度が急速に進んでおり、最大6メートルの海面上昇を招く可能性も指摘されている。すでにツバル諸島は水没の危機に瀕しており、島民(国民)のオーストラリアへの移住も準備されている。タイやバングラディッシュなど東南アジアの沿岸部の人口密集地にも、ひたひたと海面上昇が押し寄せてきているとのことだ。バングラディッシュでは海面が1メートル上昇するだけで国土の18%が水没する危険がある。いわゆる海抜ゼロメートル地帯に多くの都市を抱える日本への影響も今後出てくると思わなければならない。海面上昇に加え、高波や潮位上昇、さらに台風などが重なると甚大な被害がもたらされることになる。
 人為起源による地球温暖化で北極の氷山と南極の氷床はじわじわと溶解しており、今後その速度を速めようとしている。ある時点で、それが一挙に地球環境に激変をもたらすティッピングポイントになることも予測しなければならないだろう。