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サスティナビリティ(63)
「風・林・水・菜」-9菜の巻-1
更新日:2009年08月10日

    

 村上春樹著「1Q84」がベストセラーになっている。上下巻で200万部をすでに突破し、さらに部数を伸ばしているとのことだ。上下で1,000ページを超える大作だが、その中で興味を引く部分があったので以下、紹介する。
「グループ(宗教で結ばれた共同生活体)は山梨県の山中に過疎の村を見つけた。農業の後継者が見つからず、後に残された老人だけでは畑仕事ができなくて、ほとんど廃村になりかけている村だ」「彼らは完全な有機農法に切り替えた。防虫のための化学薬品を使わず、有機肥料だけで野菜を栽培するようにした。そして都会の富裕層を対象にして食材の通信販売を始めた。その方が単価が高く取れるからだ。いわゆるエコロジー農業の走りだった。汚染のない、新鮮でうまい野菜のためなら、都会人は進んで高い金を払う。彼らは配送業者と契約を結び流通を簡略化し、都会に迅速に食品を送る独自のシステムを作り上げた」
 今、世界的に有機栽培の食品が脚光を浴びている。米国では毎年20%の勢いでオーガニック食品の売り上げが伸びているとのことだ(ただし、昨年は景気の低迷で5%台)。ヨーロッパも同様である。以前本ブログでも紹介したが、スペインからの流通視察団を東京周辺のスーパーにご案内したとき、参加者から「日本では安全・安心でおいしい青果物が多いとき聞いているが、オーガニック食品の扱いがなぜこんなに少ないのですか」という感想を多く聞かれた。ヨーロッパでは医療費の高騰で、健康は自分で管理しなければならないということで、安心・安全な有機食品を高くても買っているとのこと。
 日本のそして北海道の有機食品はどうなっているのだろうか。有機農産物の規格は、国際基準に則って平成13年4月に施行された「有機農産物の日本農林規格」で定められている。有機農産物は、「科学的に合成された肥料および農薬の使用を避けることを基本として、播種または植え付け前2年以上(果物は4年目から、米や野菜は3年目から)、堆肥(たいひ)などによる土作りを行った圃場に置いて生産された農産物」と規定されている。有機栽培と認定された作物には有機JASの認定書が与えられる。
北海道では、平成3年のクリーン農業で減農薬の研究・指導が開始され、特別栽培農産物(農薬・化学肥料を半減)の活動を経てJAS法制定後「北海道有機農業協議会」が設立された。同協会は有機栽培の指導と普及にあたっている。平成17年12月時点、道内で331軒が「有機JAS認定」を受けている。これは道内5万軒の農家総数の1%以下。上川・空知・石狩地方に多く、主な生産物としては人参、馬鈴薯、カボチャ、大豆などがあるとのことだ(北海道有機農研)。
 有機JAS認定を受けた農家の方々は意識も高く積極的に有機栽培をおこなっており、有機農研の四季報には体験記、技術改善、働く歓びが生き生きと述べられている。ただ、有機農業を実施するにあたって、多くの課題があるのも確かである。いみじくも「1Q84」で書かれているように、共同生活体が有機農業に成功したのは、富裕層を対象とした通信販売、配送業者と契約を結んだ流通の簡略化、さらには廃村になりかけた村から農地の借り受けという要素があったからだろう。
 消費者の食の安心・安全に対する意識は中国産農産物の問題以降急速に高まっているが、有機農産物にどれほどのプレミアム(価格の上乗せ)をつけるかについては曖昧になったままである。本当に「汚染のない、新鮮でうまい野菜のためなら、都会人は進んで高い金を払う」のだろうか。一方、慣行農業では通常10アールあたり18-20時間の労働を必要とするが、有機の場合は除草だけで同様の時間がかかる。慣行農業から有機栽培に移るには土づくりに5年から10年の時間がかかり、その間収穫はできない。鮮度を保ちながらの輸送も大きな課題である。技術的な支援はあるがEUで制度化されているような直接的(金 銭的)支援は設定されていない。
 最近、「農業が日本を救う」を出版した経済ジャーナリストの財部誠一氏は、著書の中で「消費者は有機栽培に誤ったイメージを持っている。農薬=危険という集団的思い込みがある」と指摘している。彼は、「そもそも野菜は無農薬でなければだめなのだろうか?大量生産をするとなれば、農薬を必要とする場面は必ず出てくる。かつての農薬と比べ現在の農薬は身体に与えるダメージが劇的に減っており、農薬を必要最小限ピンポイントで使用することまで否定するようになったら、農業は存立できなくなってしまう」と、書いている。
 幸い、北海道は本州各地に比べ冷涼な地であり、また豊かで清涼な水が流れており害虫に対する抵抗力は他の地域と比べ高いのではないだろうか。厳選された少量の農薬で虫害を防ぐことが充分に可能であると思われる。減農薬農法で「安全・安心でおいしい野菜」の北海道ブランド力を高めることがより重要なのではないだろうか。
 虫害に強い種子を開発するのも同時に大切なことであり、「F1:数百種類の種子から実験を繰り返して開発された病害に強い新種子」が、農業系大学や農業試験場で引き続き研究されることを期待したい。「農薬=危険」という消費者の思い込みを変えていく必要もあろう。海外大手グレーン産業は無農薬でも栽培可能という遺伝子組み換えのバイオ技術を使った種子を開発している。この種子は病害に強いものの、極めて高価で大量の水を必要とするとのことである。また遺伝子組み換えの是非も議論の最中である。「無農薬」ということで消費者が飛びついたなら、投機資金による農産物の価格高騰と、一層深刻化する農産物の海外依存で日本の農業は、さらに厳しい状況に追い込まれるのではないだろうか。