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サスティナビリティ(68)
「風・林・水・菜」-14菜の巻-6
更新日:2009年09月30日

    

  前回も触れたが十勝・網走地方を訪れたとき、馬鈴薯・ビート・トウモロコシなどの畑が美しく整備され広がっており、それを感動にも似た思いで見ることができた。一方において、パンフレットでよく目にする広大な牧場で草をはむ牛の姿が意外に少ないなという感じを抱いた。北海道の農業・酪農を長く研究され、現状を憂い、各種提言をなさっておられるF氏(ご本人の意向でお名前は控えさせて頂く)にお考えを聞く機会があった。F氏によると、世界の酪農は低投入型(飼料などのコストを低く抑える方式)の放牧が主体なのに対し、日本は土地が狭いことから高投入で、畜舎に牛を飼い大量の飼料を与える方式を採用しているそうである。このため日本は1頭あたりの乳量は多いが、飼料のコストが高額で経営を圧迫しているのが現状である。特に、近年米国などではバイオエタノールの生産に大量のトウモロコシを原料に使用しており、輸入飼料の価格をさらに上昇させている。また、世界的な食料不足への懸念から、投機マネーの要素を含め穀物価格が上昇しているのはご承知の通りだ。また、農産物の輸出を制限する国も出てきている。日本は飼料の90%を輸入に依存しており、酪農経営に大きな打撃を与えている。F氏は、他の都府県と違い北海道は牧草地が多く、放牧に向いているので低投入型に移行すべきと訴えている。この方向に向けた国や道の支援が不可欠であろう。北海道は生乳生産で全国の半分を占めており、このまま北海道の酪農が立ちゆかなくなったら、日本の食生活に多大な影響を及ぼすことになる。全国一律の酪農経営指導ではなく、地域に合った経営を支援すべきだ。特に北海道は豊かな牧草地に恵まれているので、低投入型経営移行に対する資金的支援は積極的に進めるべきだろう。酪農家の多くは飼料代などで多額の負債を抱えており、その上での資金借入は難しい面もあるだろう。しかし、日本の酪農存続の観点から国や金融機関には特別の対応が望まれる。
 話は変わるが、先般知床に行った際エゾシカと何度も遭遇した。最初の頃は、バンビを連れた鹿一家はほほえましく、勇壮な角を貯えた雄鹿はたくましいという好意的な印象を持ったものだ。しかし数時間の内に、あきれるほどの数に出会い辟易してきた。ガイドさんによると、斜里町の人口は1,300人だが、知床に寄生しているエゾシカはその10倍の1万3千頭になるとのことだ。知床半島は国立公園と共に世界遺産に登録されており、自然のままにしておかなければならず、人の手による介入は厳しく制限されている。エゾシカも然りだ。天敵のヒグマも350頭足らず。温暖化で積雪量も少なく、狩猟も厳禁。エゾシカは増えるにまかせられている。半島の遊歩道を散策したが、自然林はそこら中に食い荒らされ、若木の成長は全く見られず、枯れ木となったニレなどの広葉樹が寂しげに白い肌を出して立っている。人が歩く限られた場所でさえも食い荒らされているので、半島全体では見る影もないだろう。ガイドによると、半島中のニレ科広葉樹などは絶滅の寸前だそうである。近い将来、世界遺産知床半島の生態系に深刻な被害をもたらすのではないだろうか。世界遺産の自然林を食い荒らした後、エゾシカは斜里や羅臼をはじめ、根室・網走の畑作地に大挙して押しかけ、農産物に甚大な被害を及ぼすのは目に見えている。エゾシカの生息数は平成6年の調査では道東4支庁で12万頭といわれ、平成8年の被害額は50億円と推測されている。エゾシカは18カ月で子供を産み始め、15年にわたって繁殖活動を続ける多産系。現在は30万から40万頭になっているといわれている。平成20年に法律が制定されたが、その題目は「エゾシカ保護管理計画」である。絶滅の回避および個体数の存続が主要テーマで、一定数の狩猟は認めているものの、現状とは著しく遊離したものに感じる。
 さて、前述したF氏からエゾシカ養鹿牧場の話をうかがった。エゾシカの肉はミネラルが多い反面、脂肪分が少なく高タンパク質の食材だそうである。ヨーロッパでは高級肉として認められており、ノーベル賞の晩餐会でもメーンディッシュとして鹿肉料理が出される。ニュージーランドでは鹿による被害が増え、最初は駆除していたがとても鹿の繁殖力には追いつかず、農業被害は減ることはなかった。それで、政府は国を挙げて「養鹿産業」に取り組み、牧場の柵に囲い込んで飼育し高級肉として積極的な販売を開始した。現在、その生産額はニュージーランドGDPの3%に達しているとのことである。F氏は北海道で養鹿産業を立ち上げられないだろうかと提唱している。養鹿は、柵で囲んだ牧草地に鹿を飼うだけなので労働負荷が少ない。ニュージーランドの例では老夫婦で200-300頭の鹿を扱うことができて、年間1,000万円以上の実収入が得られるとのことである。道北の中山間地は自由放牧が可能で養鹿に最適だと話しておられた。問題は、食肉検査とその結果としての肉への焼き印である。その処理は屠殺場で行われなければならないが、現在は牛・豚・馬などに限られている。一部の自前施設で鹿肉の検査や処理が行われているのみで、広く普及するまでに至っていないのが現状である。
 鹿による甚大な被害を抑える一方、鹿肉で新たな産業が起こせるとしたならば、マイナスがプラスに逆転することになる。また日本の食料自給率の向上にも寄与するのではないだろうか。