アスリートインタビュー

北海道コンサドーレ札幌

【砂川誠のコンサの深層】小野伸二選手

サッカー教室は毎回が試行錯誤

砂川 俺と伸二とで始めた「Suna×Shinjiサッカースクール」は、6月で丸一年を迎えるね。

小野 子どもたちから僕や砂さんに「教えてもらえるのがうれしい、楽しい」と言ってもらえていて。自分たちも、それがすごくうれしい。

砂川 僕は引退したけど、Jリーグという日本の最高峰でプレーする現役選手が直接子どもたちと触れ合って、言葉をかけて、プレーで見せるところに意義があると思っているんです。

小野 それと北海道はこんなに広くて人口も多いのに、日本代表でコンスタントに活躍する選手が出てきていない。それには何か理由があるはずで、たとえばしっかりとした指導が足りないのかもしれないと感じていて。現役選手の指導なら、受け手側の気持ちも違うと思います。

砂川 北海道の人はどこか引っ込み思案というか、〝良い子〟が多い。

小野 練習でも試合でも、ただ教えられたことを守るだけではなくて、自分で考える力も養ってほしい。言われたことを100%やりながら、でもこういう方法もあるのかなと考えてやっているかそうでないかでは、明らかに差が出ますよね。

砂川 自分たちのスクールでは、まず楽しい場をつくることが大切だと思っていて。子どもたちがイヤイヤ通うのではなく「早くまたスクール行きたい」って思ってくれる。そういう環境を頑張ってつくりたい。

小野 僕自身、子どものころから、ただ毎日サッカーが好きだからという理由でボールを蹴っていた。今の子たちにもそういう気持ちを持ってもらえればと思います。毎回の練習メニューもそれを踏まえて考えていますが、試行錯誤してますよね。

砂川 考えた内容でも、いざやってみると子どもたちの反応が悪いことがあって。

小野 練習中の様子に応じて、その場で臨機応変に対応していますよね。砂さんと食事していても、スクールの話になることは多いです。

-----ここから“延長戦”本誌未掲載-----
世界から見たコンサの“立ち位置”

砂川 伸二は若いころからオランダやオーストラリア、それに代表でも長い間プレーをしていたけど、その自分の目で見て、コンサドーレの“立ち位置”はどう見えているの?

小野 サポーターがアウェーでもたくさん来てくれますけど、自分がいたチームは海外でもアウェーまで来てくれるチームが多かったので、似ているところがあると思います。

砂川 そういうサポーターがいるのは、やりがいがあるのでは。

小野 そうですね。でももっともっとサポーターの数が増えてくれたら、さらにプロらしいチームに変わっていくと思います。現状はJ2でも明らかに多いほうですが、でも多ければ多いほど選手側に「これだけ見に来てるんだぞ」というプレッシャーを与えられます。選手たちがもっと頑張ろう、という気持ちになっていくというか。現時点(6月15日現在)で首位で、メディアの露出が増えてサポーターもスタジアムに足を運んでくれていますから、この順位をキープしなきゃいけないと思います。勝つことがコンサにとって今一番必要なことかなと。

砂川 石崎(信弘監督)さんの時、シーズン最終戦で勝てば昇格が決まるという時に4万人近くが見に来てくれたことがあったんだよね。あの時はすごくいい雰囲気だった。それをプレッシャーに感じる選手も当然いるけど、でもプレッシャーを感じながらプレーすることって、選手にとってすごく楽しいことだと思うんだよね。

小野 僕自身は浦和レッズも含めて、毎試合3、4万人超えのサポーターの中で試合をするのが当たり前の世界でいました。僕が札幌に来て最初の試合で2万人を超えたくらいだったんですけど、周囲はすごい喜んでいて「あ、そんなもんなんだな」とは正直思いました。もちろん、J2全体で言えば相当な来客数ですけどね。

砂川 4万人の中で毎試合やるのが当たり前なチームと、1万人くらいのチームでは、選手のメンタルも正直違うからね。俺はコンサにも、早くそれだけたくさんの人数の前でプレーするのが当たり前になってほしいと思っていて。そのためにはまず、勝たなきゃいけないよね。

小野 J1に上がってメディアに出れば出るほど、北海道の人たちは見に来てくれる。勝てば勝つだけね。当たり前だけど負ける試合より勝つ試合を見たいし。北海道の人は温かいんですけど、そういう所は結構シビア。だから勝つことで人を呼ぶしかない。でも僕はそれだけじゃなくて、ピッチ上で楽しいプレーを見せていきたい。勝つだけではなく、いいプレー、いい試合を見せないと熱心なサッカーファンはついてこないんじゃないかな。自分自身がピッチに立ったときには、周りが「また見に行きたいな」って思えるようなプレーをしていきたいと思っています。

砂川 昨シーズン後半、伸二が出た時というのとそうでない時とでは、楽しさというか、見どころが少ない試合も多かったんじゃないかな。

小野 僕自身はプロになった時から、見に来てくれる人が楽しんで、また足を運びたいと思う試合をしたいとずっと考えてきました。お金を払って見に来てくれている以上、試合の結果は伴わなくても、1つでも2つでも楽しんでもらえるプレーの数を多くしないといけない。負けたら満足はしてもらえないだろうけど「来て良かったな」とは思ってもらえるかもしれませんから。

いろいろな場所に行きたい気持ちはいつもある

砂川 じゃあ日本と海外で、選手の側では意識の差って感じることはある?

小野 フェイエノールト(オランダ1部)でプレーをしていた時は「プロとして試合をしていることが当たり前じゃないんだ」「ここまできたらもっともっと上を目指そう」という雰囲気は感じました。プロ選手になるのはゴールではなくてスタート。プロ選手になることがゴールで、ひと呼吸置いてしまうことも日本の若い選手にはあるけど、海外はもっと貪欲なメンタリティーです。

砂川 練習中から激しい。

小野 本番の試合をしている感じです。「このボールは絶対奪ってやる」という気迫があるんで。

砂川 日本は部活サッカーとJリーグチームのユースとがあるよね。海外は学校って言う概念がないよね。

小野 すべてクラブが基本。クラブチームが無数にあるから。

砂川 伸二には一度スペインでプレーしてほしいな。

小野 今でもスペインでやりたい気持ちは持ってます。ああいうサッカーが一番自分に合っていて、楽しいと思う。攻撃重視で、パスをつないでという。

砂川 正直、コンサドーレにはこれからも長くいてほしいけど、海外移籍の話だって来ないとは限らないよね。

小野 いまコンサとの契約は3年目で、今年いっぱいで契約は切れます。でも入ったチームには当然愛着が沸くし、札幌では、これまでいたチームよりもずっと“濃い”生活をしています。ただ僕自身、いろいろなところに行きたいという気持ちはあります。

砂川 サッカー選手はそういう気持ちを持ってないといけない。

小野 日本だけではなくて、いろいろな国に行きたいんです。すぐそういう気持ちになってしまう。新しい発見をしたいんだと思います。さまざまな場所でさまざまな人に会って、自分の名前を広げていきたいんです。

砂川 俺自身としては、一緒にチームでプレーしていた伸二が、またどこかで活躍してる姿を見てみたいなって気持ちはある。北海道に縛り付けておくより、日本の代表として、もっと海外で伸二の技術を見せつけてほしい。でもその反面、コンサにずっといてくれという思いもやっぱりあるよ。

小野 日本は、若い時から僕を知っている人はたくさんいて、そういった意味ではどこに行ってもプレッシャーはあるんです。でも新しい場所にはそれがないから。

砂川 俺は2回しか移籍したことがないけど、新しいモチベーションというか、湧き出てくるものはあるよね。力むわけじゃないけど、自然と新しい力が沸いてくるような感じ。

小野 日本だとそこにプレッシャーも加わるんですよ。「何かしなきゃいけない」というね。海外だとそこまで期待されていないと思うから(笑)

砂川 そんなことないよ(笑)

小野 オーストラリアのチーム(ウェスタン・シドニー・ワンダラーズFC)は、設立間もないチームだったから、順位を気にする必要はなかった。でも監督が絶対チャンピオンになるんだ、という人。そういうのっていいと思うんです。「監督がこう思ってるんだから、信じてついていかなきゃ」と選手みんなが思いました。シーズン途中で10何連勝して、チーム内の雰囲気がよくなって、サポーターもどんどん集まった。ゼロからつくり上げてく良さ。自分はそういうことがしたい性格なんだと改めて思いました。

砂川 気が早いようだけど、セカンドキャリアもそういうことをしていきたいの?

小野 まだ何も考えてないんですが、指導者、監督にはいつかなってみたいと思います。別にプロの指導者でなくてもいい。本当は、海外で監督をやってみたいんです。海外でそれが叶ったら、人間としても監督としても、サッカー人生としても成功だと思うんです。本当に認められない限り、日本人を雇おうなんて思わないですから。(構成・清水)

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1979年9月27日、静岡県生まれ。浦和レッズ、フェイエノールト(オランダ)、ボーフム(ドイツ)、清水エスパルス、WSW(オーストラリア)で活躍。W杯98年フランス・02年日韓・06年ドイツ大会と3大会連続出場。175センチ・76キロ。背番号44、MF