アスリートインタビュー

北海道コンサドーレ札幌

【砂川誠のコンサの深層】四方田修平監督

選手が結果を出しながら成長

砂川 チームは20試合を終えて暫定首位(7月3日時点)と非常に好調です。

四方田 これ以上ないポジションにはいると思います。でもシーズンが半分終わっただけで、まだ何も手にしていない。ここまでの結果は受け止めつつ、残り半分をしっかり戦おうという気持ちが強いです。

砂川 開幕前に、この状況は想像できましたか?

四方田 正直、首位に立っているとは思っていなかったね。昨シーズンの後半は伸二(小野伸二選手)やイナ(稲本潤一選手)が中心になって、チームを引っ張ってくれた。今シーズンも最初は彼らの起用を考えた戦いかたを想定していて。だけど伸二はコンディションがなかなか上がらず、イナも大きなケガ(6月に右膝の前十字靱帯を断裂)をしてしまった。でも、代わりに出た選手が試合で結果を出しながら成長していった。開幕前には考えていなかったことだけど、結果としてチームの総合力は上がってきたと感じています。

砂川 3バックのフォーメーションを採用されています。最近は自分たちで最終ラインを低くしたり、前から守備をしたりと、戦術が浸透してきているのでは。

四方田 開幕戦(2月28日・東京ヴェルディ戦)で負けたころは、不安もありました。それまでキャンプの雰囲気や内容、練習試合の成績もよかった。誰もが期待して臨んだのに、残念な内容と結果だったから。

砂川 そこからどう立て直していったんですか?

四方田 第2節の岐阜戦(3月6日)は4対0で勝ったし、自分たちのサッカーができたと思うんです。その後、実力上位の相手と試合が続く中、押し込まれながら何とか星を拾っていくようなゲームができた。結果がついてきたことで自信をつけて、自分たちから攻撃も守備も仕掛けていけるようになっていきました。

砂川 今シーズン序盤はコンサの強みや良さを消そうとしたり、人数をかけて守備をするチームとの戦いはうまくいかないこともあったと思います。

四方田 今は選手たちが、いろいろな状況ごとに対応できるようになってきています。試合を重ねる中で、相手のフォーメーションが自分たちと違うとか、さまざまな問題があっても想定内に収まるようになっているので。

砂川 これから守備的に戦ってくるチームはさらに増えるでしょうね。

四方田 相手の守備をどう崩すかはもちろん課題の1つ。今のところはそこを崩して結果が出ているので、継続して気を抜かずにやっていきたいと思います。

砂川 メンバーは対戦相手に応じて選ぶことが多い。

四方田 「自分たちはこう戦いたい」という軸があって、そこに調子の善しあしを加えて選ぶというのがあります。その上で、たとえば相手の左サイドの守備がもろいという分析があれば、サイドの前貴之と石井謙伍を比べて石井を右に、とかは考えます。

砂川 選手にはどのくらい分析した情報を出しているんですか。

四方田 まずコーチの竹内清弥が、僕たちより先に相手チームの試合をたくさん見て、分析してくれます。その後、僕とコーチ陣でビデオを数試合見て話し合っています。選手には、前の試合を振り返る映像を見せます。それと試合の2日前に、相手の分析に関するミーティングをしています。

砂川 攻撃的な選手って、自分たちが持ち味を発揮すればいいという感覚の選手が比較的多いですよね。

四方田 確かに、相手チームの映像を見せて戦いかたを説明しても、きちんと話を聞いている選手は、恐らく2~3割。半分くらい聞いているのが4割、残りはほとんど聞いていないね。でもそういう選手にも、ここだけは覚えていてほしい、という部分が頭の片隅に残るよう、映像のインパクトや表現方法を工夫しています。時間にすると10~12分ほど。それ以上は選手が見てくれない(笑)

砂川 寝ますね、絶対に(笑)

四方田 映像とパワーポイントでの説明も含めて合計20分以内で終わるようにしています。それも竹内が担当していて、最近はだいぶ上手になったと思います。
砂川 練習でもスカウティングを取り入れたものがありますよね。そういう部分は、今のコンサのいいところだと思います。スタッフを信頼して任せる部分がちゃんとあるから。好調の理由には、ヨモさん以下、周囲のスタッフが〝機能〟しているからというのもあると思います。

-----ここから“延長戦”本誌未掲載-----
カズキは得点につながるプレーを

砂川 カズキ(深井一希選手)についてはどうですか。俺の背番号8を受け継いでくれた選手です。

四方田 僕がユース監督の時代に、トップ昇格後の彼についてはものすごく期待をしていたんです。ただこの3年間は大ケガが続いて、思い描いていたような飛躍はできていなかった。でも今年はコンスタントに試合に出られていて、徐々にほかの選手との差を見せられるようになってきたと思います。

砂川 カズキはすでにJ2の中ではボールを動かす、奪うというプレーについては、高いレベルにあると思っていて。それにプラスして、ゴール前のミドルシュートとか、得点に直結するプレーができれば、さらにすごい選手になるんじゃないかと見ています。

四方田 今のフォーメーションがボランチ2人で、片方が前に出て、もう片方が後ろで守備をというバランスを考えると、深井の場合は後ろの選手なんだろうなと思っていて。

砂川 今後、守備のスペシャリストになるか、攻撃も両方できる選手になるかという部分ですよね。

四方田 選手としてさらに成長するなら、確かにゴールにつながるようなプレーをというのはあると思います。実際、最近はこちらもハッとするような得点のアシストをしているんで、それも武器にできるのかもしれない。でも今季、僕やスタッフが彼について考えていることは、ケガ無くシーズンを終えること。まず安定して試合出られないと、プロの選手としてやっていけないんで。1年通じてパフォーマンスを落とさず過ごす1年にしていくというのが、彼の課題だと思います。

砂川 カズキは自分が十分な体勢ではなくてもボールを怖がらずに奪いにいけるのが彼のプレースタイルだし、強みですよね。

四方田 ただ、体自体は強いんだけど、部分的にはもろさがある。体勢が悪いまま激しくボールを奪いにいくことでケガをしてしまう、ということはあるんです。奪いにいくのはいいけど、加減がわからないところがまだある。彼には自分の十分な体勢で守備をする、体を相手にぶつけるということを練習で意識させています。

監督である前に指導者として社会に貢献したい

砂川 これまでずっと、育成畑で仕事をされてきました。でもトップチームは勝つことが第一。そういう意味での難しさはありますか。僕も札幌大学のコーチをしてみて初めて思ったんですけど、選手たちって、違うようで同じで、同じのようで違う。ユースとトップチームでもそれはありますよね。

四方田 勝つことに対するウェートが全然違いますね。ユース監督のころは、選手を育てるということを最大の目的として試合に出るメンバーを選ぶこともありましたから。もちろん試合をする以上は絶対勝ちたいんだけど、伸びる選手や一生懸命やっている選手を使ってあげたいという気持ちもあった。試合中でも、たとえばトップチームならうまくいかなければすぐフォーメーションや選手を替えるわけです。一瞬でも遅れると手遅れになりますから。でもユースは、選手は同じままで、どうしたらチームがよくなるかを選手自身に考えさせることも大事だと思う。大学はトップとユースの間くらいの感覚だと思うけどね。

砂川 信念や信条は。

四方田 トップチームの監督として、勝負ごとの世界にはいるけど、人としてそれよりも大事なことは絶対に捨てちゃいけないと思っていて。自分の中で一番最初にあるものは、トップチームの監督ではなくてサッカーの指導者をしたいということ。そして、それを通して社会に貢献したい、人のためになりたいということなんです。今後もそれは忘れずにやっていきたいと思います。

砂川 そういうヨモさんの思いはユースの子にも伝わっているのでは。

四方田 これまでユースの子たちを指導してきて、反省はたくさんあります。「もっとこうしてあげられたら」とか「この子にとって良かったのか」とか、そういうことを思います。

砂川 毎年14~15人は送り出しているんですよね。

四方田 ユースの監督1年目に送り出したのが石井ちゃん(石井謙伍選手)なんです。コーチになった時の高校3年生が鈴木智樹(現チームスタッフ)。もう43歳ですからね。早いです。

砂川 俺自身は選手目線でコーチをしようと思って指導者を始めたんですが、そればかりでは難しいというのを、最近はとくに感じています。少し強引でも彼らの舵取りをしてあげないと、チームって成り立たないと思う。選手の気持ちを尊重ばかりしていてもなと。

四方田 それにしても、クラブ功労者の砂川誠がこういうことをいう時代になったんだね(笑)。スナのような名選手や経験を積んだ選手が、アカデミーやアマチュアの指導者をするというのは大事なことだと思います。(構成・清水)

……本誌財界さっぽろ2016年8月号(7月15日発売)にはここに未掲載の内容も満載ですので、ぜひお買い求めください。


→Webでの購入はコチラ
→デジタル版の購入はコチラ

1973年3月14日、千葉県生まれ。習志野高校、順天堂大学を経て筑波大学大学院に進学。96~98年まで日本代表スタッフを務め、98年フランスワールドカップに岡田武史監督の下で代表に同行。99年、岡田氏のコンサドーレ札幌監督就任とともに札幌へ。02年からコンサユース・U-18コーチ、04年から同監督。15年7月からコンサドーレ札幌監督に就任