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Interview

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研究、教育、地域貢献でミッションを果たす掲載号:2013年6月

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山口佳三 北海道大学総長

 大改革と言われた法人化から9年。国際化に向けた動きも本格化する中、国立大学を取り巻く環境は大きく変化し、厳しさを増している。まさに激動期。4月に第18代北海道大学総長となった山口佳三氏に話を聞いた。

新渡戸カレッジを4月からスタート

――京都大学理学研究科の博士課程を修了後、北海道大学に来たそうですね。
山口 指導教官が北大に移るということで、一緒に助手として赴任しました。いわば〝付属品〟ですよ。当時は、こうしてずっと北大にいるとは思ってもいませんでした。
――北大の第一印象は。
山口 理学部で開いていただいた歓迎会で、出席者のみなさんが歌った「都ぞ弥生」が印象的でした。北大関係者に、この寮歌がどれほど愛されているかを実感しましたね。
昨年は都ぞ弥生が誕生してからちょうど100年。恵迪寮OBらが発案の中心となり、記念ドラマが製作されました。私もつい先日、拝見しました。
――第18代の北大総長に就任された経緯について教えてください。
山口 次期総長の選考について周りのみなさんと話し合っていく中で、私が候補として手を上げることになり、学内意向投票、学外委員も参加した選考会議を経て決まりました。大学を取り巻く環境は厳しい。重責を感じています。
――理学部長を経験された後、2011年から副学長を務めていました。主にどのような仕事を。
山口 「総合入試」をスタートさせました。学部や学科を決めて受験するのではなく、理系か文系かを選び、入学1年後に学科などを選択する仕組みです。
いわゆる「ゆとり教育」導入後、例えば高校の理系科目では物理、化学、数学、生物、地学のいくつかだけ履修して大学に入ってくる学生が増えました。
北大は伝統的に生命系の学問が充実していますが、研究するには生物だけでなく、物理や化学など他の基礎知識も必要です。文系についても同様で、多分野の知識がつながっています。
基礎的な勉強が不十分なまま、学生が学科などを選ぶのは難しい。「総合入試」導入の背景には、そうした理由があります。
受験生にも受け入れられていると思います。他大学も関心を寄せており、実際、視察に来られたところもあります。
i2――少子化が進むなか、受験者数の推移は。
山口 ここ数年は1万人を上回っています。毎年10月ごろ、東京、名古屋、大阪で説明会を実施しており、受験者数の約60%が道外出身者です。これだけ全国から学生が集まる大学はまれでしょう。
また、約40%が道内といっても各地から来ますから、新入生の約70%が自宅外通学で、初めて親元を離れて生活する学生は多い。説明会で保護者にも申し上げているのですが、家から飛び出す経験は、若者にとって貴重だと思います。
――最近の若者は内向き志向と言われ、留学する学生も減少していると言われています。
山口 なにも構わないでいると、すぐにはチャンレジ精神を発揮しないきらいはあるかもしれません。どちらかというと冷めている感じです。
北大の基本理念の中には「フロンティア精神」、「国際性の涵養」があります。ぜひ海外留学に挑戦してほしいと学生たちに訴えていますし、4月からは、文部科学省のグローバル人材育成推進事業に採択された、「新渡戸カレッジ」というプログラムもスタートしました。
――どんなプログラムなのですか。
山口 初年度は120人でしたが、毎年、全学部の新入生2500人から最大200人を試験で選抜します。選抜者は留学支援英語、異文化理解促進科目などの特別なカリキュラムを受講し、卒業までに半年間の海外留学を義務づけます。

秋学期制導入を前向きに検討

――新渡戸カレッジの希望者はどれくらいいましたか。
山口 定員の3倍ちかくの応募がありました。留学費用については、さまざまな奨学金制度に申請することができ、留学先が北大の提携校なら基本的に新たな授業料は発生しません。
――北大は外国人留学生の受け入れも積極的だそうですね。
山口 10年ぐらい前は1000人未満でしたが、今は約1500人。さらに増やしていき、あと3年で1800人規模にするのが目標です。
留学生の割合としては大学院生が多いのですが、実は、文系学部の留学生を対象とした、「現代日本学プログラム」という新たなプログラムの準備を進めています。20人ぐらいの枠で、対象者は各分野について英語で授業を受ける一方、日本語も集中的に勉強してもらう。来年10月から準備教育を開始し、2015年4月から正規課程をスタートする予定です。
このプログラムは新渡戸カレッジと関連しており、共通の授業を英語で受講する機会があります。新渡戸カレッジの日本人学生と外国人留学生が、同じ教室で机を並べ、異文化コミュニケーションを体験できるわけです。2つのプログラムは対になっていると言ってもいいでしょう。
――他大学でも、外国人留学生を対象にした同様の制度はあるのですか。
山口 5年前から文科省が「グローバル30」と称し、いくつかの大学において、留学生の受け入れ環境を整備する事業がおこなわれています。
――国際化という観点から、欧米で一般的な秋入学の検討が、一部の大学で話題になっています。北大の対応は。
山口 4月入学を維持したまま、本格的な授業を9月から始める「秋学期制」について、前向きに検討を始めている段階です。
ただ、現行の仕組みを維持したままでも可能な工夫を、すでに実施しています。昨年から6コマ目を積極的に活用する時間割りで、8月の第1週に1学期が終わるようにしました。夏休み開始を1週間早めた結果、アメリカの大学のサマースクールに間に合うようになりました。
――経営面についてうかがいたい。国からの運営費交付金は全般的に減らされており、北大も財政的には決して潤沢ではないと聞きます。
山口 そうですね。法人化以降、国からの運営費交付金は毎年1%ずつ削減されています。現在、北大では、運営費交付金の収入に占める割合は約40%です。
北大だけでなく国立大学全体にとって、競争的資金の確保は大きな課題でしょう。民間企業などからの外部資金獲得も、今まで以上に重要です。
また、北大の場合、大学病院の体質改善がうまく進んでいます。
――財政状況が厳しい中、どのような方針で経営にあたりますか。
山口 就任の挨拶でも書きましたが、国の施策などをつぶさに見ていると、3年後に迫った第3期中期計画で、大学の差異化が本格的に始まるでしょう。北大としても特色を出し、これまで以上に経営的な戦略を練り、実行していかなければなりません。

地域との連携をいっそう深める

――具体的には。
山口 例えば産学連携のあり方も変えていかなければならない。以前は外部資金についても、産学連携についても、個々の研究者が企業に働きかけ、協力関係を結ぶ傾向がありました。しかし、それでは優秀で忙しい研究者は負担が増すばかりです。
北大では2年ほど前から、リサーチ・アドミニストレーターという専門職を、創成研究機構を中心に配置しています。この役職は研究者と職員の中間のような存在で、研究者に代わって外部資金獲得などに必要な作業を引き受けます。今後、そういう専門的な人の活用も含め、いろんな工夫で産学連携のあり方を変えていくつもりです。
さらに、地域との連携もいっそう深めていかなければなりません。その象徴的な事例が、2012年度補正予算で採択された「フード&メディカルイノベーション国際拠点(仮称)」の整備です。道などと共同提案させていただきました。
――どういうものなのですか。
山口 この事業は北海道が優位性を持つ食に関連し、北大の研究シーズを活用して、健康・医療の分野で成長産業を育成していこうというものです。もともと北大は、医薬でかなり大きな事業を推進してきました。それを拡大した形とも言えるでしょう。施設は、北キャンパスのエリアに建設します。研究内容については、今年度の文科省予算にある「センターオブイノベーションプログラム」に採択されるよう、アプローチも進めています。
――地域連携の事例について、他にはどのようなものがありますか。
山口 道内の国立大学7校による取り組みもあります。一昨年ぐらいから連携事業を考えていきましょうという流れがありました。事務処理の共通化を進めているほか、学部・大学院入学前の留学生教育や、教養教育の連携について検討をしているところです。
教養科目担当の教員確保は、単科大学では課題となっています。そこで北大を中心にネットワークをつくり、寄与できる方法はないか、検討をしています。
――飛躍しているかもしれませんが、そうした連携から大学同士の合併につながっていく、ということはありますか。
山口 いいえ。今のところ、合併は視野に入れずに連携を進めていこうということです。国の最近の動きとしては、大学改革プランと連動し、各大学のミッションの再定義・再確認があります。
――総長としては、北大のミッションは何だと考えますか。
山口 総合大学として、そして北海道の大学として、という2つの視点があると思います。1つは大学も本格的な国際競争の時代に突入する中、世界の大学に伍する研究、教育を推進する基幹大学としての役割を果たすこと。もう一方で、先ほども話しましたが、地域への貢献です。
――今、北大は世界の大学に伍していると考えていますか。
山口 もちろん、そうです。ただ、さらに北大としての強みをどう形成していくか、考えていかなければいけない時期に来ているとも考えています。

=ききて/野口晋一=